イタリア視察ツアー現地報告 その6(おしまい)
【2005年10月24日】
土曜日はヴェネツィアに宿泊し、いったんボローニャに戻ってから再度列車で2時間のアドリア海側のマルケ州ペーザロ(Pesaro)という街に移動しました。
ここは、菅野理事長らが9月にICAのカルタヘナ総会(コロンビア)で知り合った、レガのマルケ州理事長、シモーネ・マッティオリ(Simone Mattioli)さんの地元で、ボローニャまで来るのならぜひ足を延ばせとのお誘いを受けての訪問です。
事前にメールでやり取りをして、時間を約束して夕方にペーザロ駅で待ち合わせ、ホテルまで案内してもらいました。夜、シモーネさんの奥さんで保育士ののシモーナ(Siomona)さんと、シモーネさんの弟のダヴィデ(Davide)さんと一緒に、海辺のレストランで会食しました。シモーネさんは、自身が社会的協同組合の活動を行っており、社会的協同組合の代表がレガの州理事長に選出されているのは全国でも2箇所だけとのことでした。先日お会いしたレガのA.アルベラーニさんなどと一緒に、全国的に社会的協同組合の普及活動も行っているそうです。社会的協同組合は、イタリアでも新しい協同組合の運動で、若いシモーネさん(40代半ば)が、耳にピアスをしていることなども、以前は伝統的な協同組合の人々から抵抗があったそうです。翌日の夜にはアドリア海を挟んで対岸にあるボスニアに理学療法の社会的協同組合を設立する支援に出張するそうで、非常に忙しい中、私たちのために時間を割いていただきました。
翌朝早くから車でホテルまで迎えに来ていただき、ペーザロの街にある「アルコバレーノ(arcobaleno:虹)」という社会的協同組合(A型)の運営する保育園を訪問しました。お話を伺ったのは、ドナテッラ・ガイア(Donattela Gaia)さん。保育園はペーザロ市の建物の中で運営を入札で3年前から委託されているということです。利用する子供たちは4ヶ月から3歳までで、(それ以上は幼稚園になるとのこと)57人の子供が入所していました。4ヶ月から預かるところは少ないので、希望者が多くかなりの待機者がいるとのことでした。
続いて10kmほど離れた隣町ファーノ(Fano)にある「ラビリント(labirinto:迷宮)」という保育園を訪れ、保育園全体の責任者ジーナ・ヤコムッチ(Gina Iacomcci)さんからお話を伺いました。ちょうど夏から秋への部屋の模様替えの時期であまり飾り付けをしていないということでしたが、さまざまな意匠を凝らして美しく部屋がディスプレイされていました。飾りつけは保護者とスタッフが協力して行うそうです。0~3歳の子供たちが対象なので、あまり走り回ったりするスペースが必要なわけではないようですが、かなり余裕のある部屋のつくり(基準があるそうです)になっており、ゆったりとした時間が流れていました。具体的な保育のプログラムまではゆっくり伺うことはできませんでしたが、このくらいの時期からさまざまな素材(鉄、布など)に触れさせて、将来の職業につながるように意識しているとの話は印象的でした。
いずれにしても、イタリアでは近年、幼児向けサービスの要望が増加しており、自治体から社会的協同組合への保育園の委託は拡大しているそうです。ジーナさんは、自治体ではフレキシブルさに欠け、営利企業が教育にお金を割かない現状の中で、協同組合が保育を担うメリットがあり、保護者の要求に応え、提案していく力が社会的協同組合にはあると語っていました。98年に開設した当初は、協同組合の保育園ということで敬遠する保護者もいたそうですが、1年後には殺到するようになった、とのことでした。
ギリギリまでお話を聞いて、ファーノの駅から列車に乗ってボローニャへ戻り、昼食もそこそこに社会的協同組合カディアイ(CADIAI)を訪ねました。
カディアイはこれまでも労協の関係者やさまざまな人が訪問している、ボローニャでは最も大きく1974年に設立されたA型の社会的協同組合です。就労者数は約800人で組合員は約半数とのことです。対応していただいたのは、教育とクォリティ部門のピエールルイージ・シニャロッディ(Pierluigi Signaroldi)さんです。シニャロッディさんは、学生時代に兵役拒否で4年間市民サービスに従事し、法学部だったのですがその後協同組合の活動に参加したとのことで、カディアイの現場で13年働き、その後管理部門に移ったとのことで、現在の理事長など同じ世代の人たちと一緒にやってきたと言います。
当初は人に対する社会サービスの協同組合として誕生し、70年代の終わりに福祉サービスの委託が始まって以降成長し、91年の法制化以降は社会的協同組合に転換して90年代半ば以降大きく発展してきました。当初はA型、B型の両方の分野で活動することを目指しましたが、B型の社会的協同組合は概して規模が小さく、カディアイのような大きなところがB型の活動に参入すると他の小さな協同組合の活動を阻害するとの判断から、A型のみになったとのことでした。カディアイは全国的に見ても大きな社会的協同組合ですが、他の大規模社会的協同組合が全国的な活動を展開しているのに対し、カディアイはほぼボローニャ県に限っての活動をしているところが特徴だそうです。
活動の分野としては大きく分けて1)障害者向けサービス2)教育サービス(幼児(~5歳)・年少者(6~17歳)・成人(18歳~))3)健康サービス(労働安全衛生など)4)高齢者向けサービス(ナーシングホーム、ケアホーム)5)福祉ケアサービス(訪問介護、デイケア)の5分野で、内容的には保健・福祉のほぼ全てのエリアをカバーしています。もともとは労働者の医療分野の活動も広げていきたかったそうですが、民間企業の力が強く、労働安全衛生の分野が94年に法改正(620条)され健康診断などと同時に労働環境の監査(労働時間・環境など)が義務付けられたこともあり、この分野に進出したそうです。
この他にも、外国人労働者が71人(20カ国!)働いていることや、組合員の最低出資金額(1050ユーロ)、各部門の連帯や経営上のお金の流れ、訪問介護の事業のあり方、事業の質の評価や維持・向上の具体的方法、他の協同組合との連携、コンソルツィオ(事業連合)での保育園の建設など、とても書ききれないほどさまざまなお話をうかがうことができました。後日、改めて何らかの形で報告します。
最後に、他の重要な会議を終えた理事長のリタ・ゲディーニ(Rita Ghedini)さんが挨拶に来られ、今後の福祉事業での交流を約束しました。
つい最近移転したばかりというボローニャ駅にも程近い事務所は、非常に洗練された印象で、組織的にも事業的にも非常に高い水準にあることが想像されました。社会的バランスシートの報告書等も含め、資料もたくさんいただきました。
今日もう1箇所、会談を残しています(レガのWebエディターの方)が、今日の夕方には帰国の途につくので、これが最後のレポートになります。長いようであっという間の日程でしたが、イタリアの協同組合人の情熱と連帯に触れ、調査団はみな元気に帰国できそうです。
お付き合いいただきありがとうございました。(菊地:10/25AM7:00ボローニャのホテルにて)
朝からタクシーでボローニャの北にあるサッソ・マルコーニ市の山の上にあるコーパップス(COpAPS)という社会的協同組合を訪問しました。
COpAPSは、精神障害者を中心に問題を抱える子供たちも対象としたB型社会的協同組合です。現在職員が40名ほどいて、B型の社会的協同組合としては、比較的大きい部類に入ります。1975年から活動を開始し、障害者の学校が廃止される中で、問題を抱える人々を社会に挿入していくのには農業分野が適しているということで、始まったとのことです。81年にサッソ・マルコーニの町に職業教育の学校を作り、88年にアグリツーリズムを中心に自活能力と経済的な力をを身につけるための施設として山の上の土地を借りて建物を改修し、ハーブなどの栽培を行う施設をつくりました。当時、失業率は今よりもっと高く、障害者にとってはより厳しかったそうですが、実際に仕事をつくり、仕事を通じて社会に参加していくことを目指してきました。
91年に社会的協同組合が法制化されましたが、それまでは「連帯協同組合」や「社会的目的を持った農業協同組合」と名乗って活動してきました。主な活動としては1)清掃事業2)緑化事業3)リサイクル事業の3分野で、仕事を起こしながら働く場を広げてきました。14年経って、自分たちの戦略は正しかったと感じており、社会的協同組合はかつてないほど発展してきているということです。
実際の仕事の作り方としては、自治体からの委託がありますが、入札にも1)一般競争入札2)法第381号による社会性を認める入札、があり、当然2)を活用しています。また、200,000ユーロまでの随意契約という方法もありますが、ボローニャでは少ないそうです。ボローニャ市はメンテナンスなどを「グローバル・サービス」として一括して委託する方針なので、コンソルツィオ(事業連合)に参加しています。また、グローバル・サービスの対象として除外されている分野(墓の清掃管理など)を受託しているということでした。
朝から雨模様の中、ボローニャ市内で失業者支援の活動をするピアッツァ・グランデ(Associazione Amici di Piazza Grande Onlus)を訪問しました。ピアッツァ・グランデは、ノンプロフィットのアソシエーション(NPO)で、94年にホームレスのグループによって設立されました。市のバスの倉庫を提供され活動してきましたが、2003年に火災になり、事務所を高架下の場所に移したため、手狭となり、現在一部の活動を制限しているということで、2年以内に新しい建物を建てて移転する予定だそうです。
活動の柱の一つは、ホームレス販売する月間新聞で、ホームレスの状況を伝える記事や、ホームレスに対する食事や宿泊の提供情報などが載っており、約6000部が発行されています。ホームレスが一部を0.5ユーロで買い取り最低1ユーロ以上で売ることになっています。
また、移動サービスとして、週に4日、街の中を車で回ってホームレスに飲み物や食べ物を配る活動を行っています。提供する食品の多くは、フードバンクのようなものがあり、食品点やスーパーが提供したもので、イモラにあるセンターまで取りに行っています。 その他に、市民から提供された古着のリサイクル(主にホームレスに配る)すると同時に市の職業訓練の一環として裁縫を学んでいる人たちもいます。放置自転車などを提供されリサイクルして市民に販売する事業なども行っています。移動サービスでは、たんにサービスを提供するだけでなく、職業訓練の情報など人々と社会をつなげる活動を重視しています。
2000年にはファーレ・モンデ(Fare Monde)という家具のリサイクルや家の内装を行う社会的協同組合がこのピアッツァ・グランデから生まれています。
ちなみに、このピアッツァ・グランデから生まれた社会的協同組合は前述のファーレ・モンデも含めて2つあるそうですが、いずれもレガなどの連合会には加盟していないそうです。
まず、レガの州本部15階にある労働者協同組合の全国連合会ANCPL(Associazione Nazionale Cooperative di Produzione e Lavoro)でアントニオ・フィネッリ(Antonio Finelli)さんが出迎えてくれました。レガの州レベルの理事長、クラウディオ・タリアヴィーニ(Claudio Tagliavini)さんにも同席いただいて、エミリア・ロマーニャ州における協同組合の状況について、簡単なレクチャーを受けました。
エミリア・ロマーニャ州では人口400万人のうち、約半数が何らかの形で協同組合の組合員になっており、イタリアでは最も企業的な面と同時に社会的な面でも発展しているところです。小売商の協同組合や生協は不況の中、価格を抑え国民の生活を守る役割を果たして組合員を増やしており、建築分野でも、最近話題になっているシチリアとメッシーナを結ぶ橋の入札にも建設労働者協同組合(CMC)が参加するなど、大きな役割を果たしています。同時に不安な世の中を反映して、協同組合による福祉のネットワークも広がり、大きな力になっています。
フィネッリさんと同僚で研究所の方と一緒に昼食をとった後、レガ州本部の社会的協同組合の責任者であるアルベルト・アルベラーニ(Alberto Alberani)さんから、エミリア・ロマーニャ州における社会的協同組合の状況をお聞きしました。アルベラーニさんは、8年前までは今回の調査でも訪問予定のCOpAPSという社会的協同組合で働いていたそうです。
引き続き午後5時から、ANCPLと同じ建物の15階にあるICA会長イヴァノ・バルベリーニ(Ivano Barberini)氏のオフィスを訪ねました。
午前中は、エミリア・ロマーニャ州保健・福祉参事局、社会サービス計画・社会/保健サービス開発部門の社会的経済と第3セクター部長のオリアンナ・モンティ(Orianna Monti)さんのお話を伺いました。
そのような行政と社会的協同組合の連携の中で、「91年の国法381号(社会的協同組合法)の制定の後、94年に州法7号によって規定を作って調整をしてきた。サービスの委託については、入札への参加資格を州に登録をするが、その際、サービスに必要な資格者や民主的な運営、労働協約などを審査する。また、入札に当たっては、コストとサービスの質を50:50の割合で評価することが州法で定められている。」と言います。
ボローニャ市は人口37万人で65歳以上の高齢者が人口の1/3を占め、世界的に見ても高い高齢化率となっています。99年以降、出生率が少しずつ上がっているが高齢化に歯止めがかかっていないなかで、東欧を中心に年間1万人の移民(外国人労働者?)が入ってきているそうです。そのため、市の福祉の対象としては、子供・高齢者・移民が中心になります。
委託に当たっては、基本的にすべて入札で行っているが、やはり労働協約を重視しており場合によっては質の部分を50%以上の割合で見ることもあるそうです。また福祉計画については、3年ごとに見直し、その際必ず市・社会的協同組合・労働組合の3者の協議(テーブル)を設けているそうです。
1日目は午後3時半からローマのレガコープ本部を訪問しました。
イエンゴさんは、①2003年に改正され2004年1月から施行している新しい企業法について、②EUレベルでの社会的協同組合法制の議論とその法律について、説明していただきました。
会談終了後、ローマ・テルミニ駅から列車でボローニャに移動しました。