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イタリア視察ツアー現地報告 その3

【2005年10月19日】
 前日に訪問したエミリア・ロマーニャ州庁舎と同じエリアにあるレガコープ・エミリア・ロマーニャ州本部を訪問しました。ちなみにレガコープの本部ビルは18階建てで、ボローニャのシンボルである塔をモチーフに丹下健三氏が設計したものということです。

legacoop.jpg まず、レガの州本部15階にある労働者協同組合の全国連合会ANCPL(Associazione Nazionale Cooperative di Produzione e Lavoro)でアントニオ・フィネッリ(Antonio Finelli)さんが出迎えてくれました。レガの州レベルの理事長、クラウディオ・タリアヴィーニ(Claudio Tagliavini)さんにも同席いただいて、エミリア・ロマーニャ州における協同組合の状況について、簡単なレクチャーを受けました。
finelli.jpg エミリア・ロマーニャ州では人口400万人のうち、約半数が何らかの形で協同組合の組合員になっており、イタリアでは最も企業的な面と同時に社会的な面でも発展しているところです。小売商の協同組合や生協は不況の中、価格を抑え国民の生活を守る役割を果たして組合員を増やしており、建築分野でも、最近話題になっているシチリアとメッシーナを結ぶ橋の入札にも建設労働者協同組合(CMC)が参加するなど、大きな役割を果たしています。同時に不安な世の中を反映して、協同組合による福祉のネットワークも広がり、大きな力になっています。
 一方で、農業・漁業・工業などの分野の協同組合は大変な状況になってきているということでした。

Alberani.jpg フィネッリさんと同僚で研究所の方と一緒に昼食をとった後、レガ州本部の社会的協同組合の責任者であるアルベルト・アルベラーニ(Alberto Alberani)さんから、エミリア・ロマーニャ州における社会的協同組合の状況をお聞きしました。アルベラーニさんは、8年前までは今回の調査でも訪問予定のCOpAPSという社会的協同組合で働いていたそうです。
 プレゼンテーションの資料も交え、お話をお聞きしました。
 ボローニャ県には現在113の社会的協同組合があり、そのうち40がレガに加盟しています。CONFCOOPERATIVEやAGCIといった他の連合会とは、かつては競合関係にあったが、現在は協力し合う関係になっているということで、3者共同のダイレクトリーをいただきました。
 ボローニャ県では、1971年まではすべての医療・福祉は公的に運営されており、非常に発展していました。しかし、74年以降、精神病院の廃止、麻薬患者の増加、高齢化、女性の社会進出など社会の大きな転換の中で、公的福祉だけでは住民への要求に応えられなくなり、その中で社会的協同組合が急速に生まれていきます。やがて91年に社会的協同組合の法制化されると、入札で社会サービスに社会的協同組合が導入されていくようになります。
 社会的協同組合が作り出すのは、人間と人間の関係であることが特徴で、特に給料を得て、資格を持ち、訓練され、組織されている従事組合員がその財を生み出しています。労働者であり経営者であることが成功の理由のひとつです。。
 今後ますます国の直営でなく社会的協同組合に税金が支払われていくような仕組みになっていくだろうと考えており、そのメリットとして・官僚的にならない・フレキシブルである・人材育成・コストの管理、が挙げられます。
 今後の問題としては、・公的財源への依存・労働者の給与が相対的に安い(公務員1,500ユーロ:社会的協同組合900ユーロ、労働協約で公務員は高く保障されている)・労働組合との関係(脅威と見なされる)・低い利益率(3%:投資のための内部留保ができない)などがあります。

 ボローニャでは、社会的協同組合によって福祉が充実しているため、豊かで安全と見なされ、投資の対象になります。新自由主義経済と社会的経済の考え方のちがいはまさにここになります。
 ボローニャ市では24の保育園を市が運営していますが、1人の子供当たり月に1,000ユーロのコストがかかります。ところが社会的協同組合では800ユーロで運営が可能で、園の開設時間も直営に比べ2時間も長く(16:30まで→18:30まで)することができます。それは、社会的協同組合の人件費が安い面もありますが、公的なサービスの非効率性の問題でもあります。
 また、社会的協同組合のCADIAIはこれから5箇所の保育園を一度に開設する計画ですが、この際、CADIAI(社会的協同組合)・MANUTENCOOP(メンテナンスの労働者協同組合)・CAMST(給食の労働者協同組合)・建設協同組合などが「カラバック」というコンソルツィオ(事業連合)をつくって協同組合の横の連携で効率的に進めています。これは重要な取り組みであるが、実際には珍しい例だそうです。

barberini.jpg 引き続き午後5時から、ANCPLと同じ建物の15階にあるICA会長イヴァノ・バルベリーニ(Ivano Barberini)氏のオフィスを訪ねました。
 バルベリーニ会長は多忙で海外を飛び回っており、今日も帰ってきたばかりとのことでした。2時間にわたり菅野理事長との会談という形でお話をいただきました。(詳しくは後日『日本労協新聞』に掲載される予定です。
 バルベリーニ会長が強調されていた点
●協同組合は社会の問題・必要・希望と歩調をあわせなければならない。
●そのために真実を理解する必要がある。グローバルの状況の中にローカルの問題があり、ローカルの次元を知るためにはグローバルの次元を理解しなければならない。
●社会的企業の挑戦課題は3つ、1)市場の中での経済力2)アイデンティティの維持3)組織の条件づくり
●グローバル化された資本主義の結果、何でもビジネスとして利益を重視し、コミュニティに責任を持たず、社会的責任から逃避する文化になってきている。
●今日の協同組合は、経済的競争力をつけていくのはもちろん、文化的な力をつけていく必要があり、そのためには地域‐国‐国際レベルで協同組合システムをつくり、価値を広げていくエネルギーを持つことが必要である。
●「協同組合の価値」というとき、抽象的な言葉に終わらせず、実践しなければならない。大企業の優位性と協同組合の優位性を分析し、具体的に対抗していかなければならない。
●「尊厳のある仕事」というのは、コストの問題である。社会的責任もコストの問題。
●巨大な多国籍企業と競合するとき、同じ次元で競争しても勝負にならない。地域にラディカルに根ざし、人との関係、倫理、健康、人々に必要なサービスを充足していくこと、そしてバランスが必要である。観念だけでなく実行力を持たなければならない。
●協同組合は歴史の中で、イデオロギー、宗教・思想の影響を受けながら、それぞれの形をとってきたが、10年ほど前にそれがひとつにまとめられた。そういう問題は。ひとつの価値として奉るものではなく、具体的に使われ、刷新されていかなければ意味がない。
●レガの協同組合は「連帯」を重視してきた。協同組合間の連帯、組合員間の連帯が協同組合を発展させた。
●10年ほど前、協同組合は汚職や入札の問題で大きな危機を迎えた。その際も組合員の連帯で乗り越えてきた。

会談後、秘書のソニアさんも一緒に、協同組合のレストランで、おいしいボローニャ料理をいただきました。