去る3月16日(金)午後3時~5時、立教大学池袋キャンパス7号館にて、協同総研の研究会「韓国社会的企業育成法の成立と市民社会の動向」を開催しました。
研究会では、まず協同総合研究所の岡安専務理事が「韓国の社会的企業法をめぐって」と題して報告。欧州各国における近年の社会的企業・社会的協同組合に関わる法整備を概観した後、ここ数年の韓国労働者協同組合連合会や自活後見機関との交流から「社会的企業育成法」が昨年末に成立した経緯、法の内容(全訳はこちら)などを説明しました。
また、社会的企業が生まれてきた背景である失業・貧困克服運動について、97年のIMF危機を基点に、2000年の国民基礎生活保障法と自活後見機関制度における「自活勤労」「自活共同体」の拡大を数値等で示しました。
最後に社会的企業育成法の今後として、1)市民運動側の認識(大統領令の問題、就労創出より社会サービス提供主体として期待されているのでは?など)、2)失業克服運動の多様性と労働部、保健福祉部との関係、3)中間支援団体の広がり(三星など大企業も)、4)制度の中での労働の主体性をどう担保するか(協同労働は発展するか)、などを挙げてまとめました。
続いて、東京市政調査会主任研究員の五石敬路さんより、「社会的企業法の背景」として報告がありました。五石さんはまず、韓国の社会的企業育成法が低所得者層・貧困層の運動から生まれてきた点が、日本との比較で最も大きく異なる点とした上で、韓国における貧困層の運動の歴史を説明しました。
韓国では1970年代以降の都市再開発による立ち退きと、撤去への保障を求める民衆運動から、民主化以降の提案型の市民運動としてコミュニティづくりの運動へと発展してきました。例として挙げられた杏堂洞のコミュニティ運動では90年代以降、生産・消費・信用の協同組合づくりの運動が広がり、公共住宅への入居も実現。2000年には自活後見機関にも指定されました。しかし、運動にとっては「コミュニティ運動の発展」が本来の目標であり、自活後見事業への参加は一つの過程に過ぎないという声もあります。
IMF危機以降のワーキング・プア層の増加に対し、韓国では既存の生活保護制度を見直し、就労の場の提供と開発を位置づけた韓国版「ワークフェア」政策とも言うべき自活後見機関制度が制定されます。これは、福祉予算を抑えたい政府側とコミュニティ運動を福祉政策に参画させたい運動側の利害が一致し実現したと五石さんは指摘します。
自活支援事業をめぐる問題としては、生産性の向上や自立者の拡大など事業の成果が上がらないとの批判や、運動側としてもコミュニティ運動の文脈で発展させていきたいという思いがありながら、自活後見機関から脱して自立すると却って生活が苦しくなる「貧困の罠」の問題、また制度的によって参加者が決められるため、共同体の理念の維持が難しいことなど、いくつかの問題点を挙げられました。
そのような背景もあり、国民基礎生活保障法から自活支援事業を独立させる法制化が検討されてきましたが、その一つが労働部による昨年12月の「社会的企業育成法」であり、さらに保健福祉部により今年準備されている法律だそうです。
最後に、日本の生活保護法を中心とした自立支援事業についても触れ、日本でも要保護者の自立支援事業を行うことは法的に可能であるが行われていないこと、また、2005年の法改正により自立支援事業は自治体の自治事務になっているが、自治体の創意工夫は無く、また自立支援事業といえば資格を取得させたり「就労斡旋」が主で「就労創出」は行われていないことを述べられました。就労創出については韓国のコミュニティ運動のような受け皿が無いことも事実で、あるとすれば労働者協同組合しかないのでは、と労協運動への期待を示されて報告をまとめました。
その後、日本労協連などによる「コミュニティ就労支援条例」の紹介があり、参加者からの質疑・討議が行われ、研究会は終了しました。貧困・格差の問題は、今後日本でも大きな課題になることは間違いありません。就労を創出することは重要な社会政策であり、労働者協同組合の課題でもあります。韓国の実践に学びつつ、日本の貧困問題への積極的な関与が求められていると感じました。なお、研究会の内容については、所報「協同の發見」に後日掲載する予定です。(菊地)
関連エントリー:
研究会「韓国の代案 社会的企業」
韓国「社会的企業育成法」全訳
韓国・京畿広域自活支援センター来訪
韓国・社会的企業調査