タイトル:『競争か連帯か 協同組合と労働組合の歴史と可能性』

著  者:高橋均

発  行:2020.6

解  説:

分断と孤立を蔓延させた市場万能経済を創りかえるために!
社会のありようを一変させたコロナ禍は、四半世紀にわたって過度に強調されてきた自己責任社会から人間どうしが支え合う連帯社会へ、
大きく転換させるチャンスでもある。 労働組合と協同組合の果たすべき役割はますます重くなってくる。

◆主な目次

はじめに 連帯・友愛・絆の意味を考える
第I部 労働運動と労働者自主福祉運動の歴史を紡ぐ
第II部 労働者自主福祉の形成と展開
第III部 労働運動と労働者自主福祉運動の未来に向かって
あとがき

◆「はじめに」より
連帯することを見失いがちな現代に生きる我々は、あるいは、鵜匠に操られる鵜の姿に似ているのかも知れない。
本来、鵜は群れで行動する。
採餌の時には隊列を組んで動くので、相互扶助が働きやすい。
しかし、鵜匠が12羽の鵜を個別に操るとき、それぞれの鵜はもともとの関係性を分断され、相互扶助の原理が働かなくなってしまう。
この4半世紀の間に急速に色あせてしまった人間どうしの関係性を作り直すところから始めない限り、連帯の回復は難しいのではなかろうか。
子どもたちの生活、遊び、豊かな関係性、ザリガニ獲りの労働と分配のありようをとらえたわずか五分の映像から、考えさせられることは多い。

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本書は江戸時代から今日までの日本の協同組合(消費生活協同組合、労働金庫、こくみん共済coop《全労済》)と労働組合の関係性を、具体的なエピソードを交えて綴ったものである。
歴史をたどれば、協同組合と労働組合は車の両輪、コインの表裏の関係として始まっているのが分かる。
明治時代に労働運動が台頭し始めて以来、労働組合と協同組合の協力関係は常に濃密で、戦後の労働組合も生協や労働金庫や全労済を「わが事」としてとらえていたのであった。
ところが、近年その関係が変化をきたすようになっている。
生協や労働金庫、全労済の事業が成長し発展するにつれて、労働組合との関係があたかも「業者」と「お客さま」のように変化してきたといえようか。
「歴史を忘れた民族は滅ぶ」という格言がある。
これは、過去5000年の世界の文明を、それぞれ発生・成長・衰退・解体の過程を詳細に分析したイギリスの歴史学者アーノルド・J・トインビーの膨大な歴史書から導き出した結論だという。
しかしこれは、民族・文明に限らず、あらゆる組織や団体にも当てはまる警句であると思う。
本書が、協同組合や労働運動に関わる方々の、自らの拠って立つ存在基盤を再確認するうえでの一助になれば幸いである。