「地域協働による多元的・多層的な就労支援・ 社会的居場所創出ネットワーク構築に関する調査研究」報告書 2015.03.16
平成26年度セーフティネット支援対策等補助金 社会福祉推進事業
一般社団法人 協同総合研究所 平成27(2015)年3月 作成
はじめに
2008年のリーマン・ショック以降、わが国において格差社会が表面化することによって社会的排除の問題が政策の焦点となっていった。実際に、不安定就労の拡大により若年層の就労問題や長期失業者の増大による労働の劣化と生活保護受給者の増加や社会的困難を抱えた人々の貧困問題による社会保障の問題が噴出している。こうした問題は、人々が社会の一員としての役割や居場所を剥奪される状況が広がっていると言える。
これまで社会のメンバーシップは、雇用・労働保険、社会保険としての第1のセーフティーネットと生活保護としての第2のセーフティーネットによって制度的に支えられてきた。しかしながら、社会的排除の問題に対応するために第3のセーフティーネットとして2014年12月に生活困窮者自立支援法が制定された。具体的には、2015年4月からの生活困窮者自立支援制度の施行にあたり2013年度から2014年度においては260以上の自治体・民間団体等がモデル事業に取り組んできた。
こうした制度施行を目前にして本研究所では「地域協働による多元的・多層的な就労支援・社会的居場所創出ネットワーク構築に関する調査研究」をテーマとし、調査研究をおこなった。とくに、本研究においては大分県臼杵市、京都府京丹後市、千葉県千葉市の先進自治体と協力してアクションリサーチをおこなった。これは自治体・事業者・研究者が共同研究を通して制度における就労支援・中間的就労の場の創出のあり方について検討するものであった。
本研究の中心課題である「就労」とは、人間は協同で働くことを通してお互いに社会を構築していると考えている。よって、働くことが単に市場経済にける価値を生み出すだけではなく、人と人の顔のみえる関係やお互い様の関係が同時に内在していることに着目する。こうした関係が内在していることによって人間は互いに支え合いながら生涯にわたって社会で生きていくことを可能にしている。
このように「就労」を考えると、就労支援・中間的就労は「共に働く」という実践の場を通して、仲間同士が助け合い、新しいモノ・価値を創り出す関係性の中でお互いを必要し、人とつながっているという安心感や自己肯定感を取り戻していくものではないだろうか。言い換えれば、人間としての当事者性を回復・取り戻すプロセスの方向として捉えることができる。
こうした実践に協同労働の協同組合は歴史的に取組んできた。1970年代から失業者の仕事おこしとして緑化事業、病院清掃や建物管理、物流センター、地域のケアの拠点として「地域福祉事業所」づくりにおいて「コミュニティの福祉力」を醸成してきた。また、「共に働く」ことを通して労働者の人格の形成を大切にしてきた。さらに、協同労働の協同組合に見られる多様な働き方や仕事おこしが地域の多様なネットワークを構築する地域づくりの方法論として確立することにより、生活困窮者自立支援制度の積極的な展開を可能とする展望を持っている。
最後に、本報告書が生活困窮者自立支援制度の施行にあたり、各地で活用され制度に携わる多くの人々の一助になれば幸いである。