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設立趣旨

人類的危機と協同の現代的な問い直し

働く者が金力や権力の支配に反対するだけでなく、自らが主人公となる強い決意と対案を明確にして、協同の力で企業と地域を変革し、ひいては社会と政治の変革のための基盤をつくること――このような意味での「協同」の思想と実践が、21世紀を目前にして、決定的に重要な意味をもって立ち現われているように思います。
 利潤増大と生存競争を極限にまで推し進めてきた資本主義は、核戦争の危機、環境や人間性の荒廃、南北問題などを深刻化させ、人類の生存そのものを危機にさらしています。民主主義を欠き、国有・国営偏重の指令的経済によって動かされてきたソ連・東欧型社会主義は、ほんとうの社会主義の建設に失敗し、深刻な危機の中にあります。私たちに迫ってきている人類的危機の問題は、現代の中心的問題であり、どんなに強調してもしすぎることはありません。
 このような中で、協同や協同組合、協同組合セクターの再評価が始まっています。  人類の危機を打開するために、私たちが企業と地域の、ひいては国と世界全体の主人公となる意志と責任と能力を持つことが、今ほど求められている時はありません。
 これに応えるように、世界的に労働者協同組合が力強く再生し、文化、教育、福祉など様々な分野で新しい協同の試みが生まれています。
 協同は、いま、大量生産・大量消費・大量廃棄の生産・生活様式からの転換、人間性回復のための経済・労働・文化のあり方の模索、地域社会の再生など、現代の変革にとって根底的な意味を帯びつつ、問い直されています。

日本における協同運動の進展

日本においても、協同の運動の新しい進展が確実に始まっています。
 試行錯誤の中にあるとは言え、生活協同組合運動の大きな発展は、日本における新しい協同運動のきっかけとなりました。
 全日自労の闘争の中から生まれた事業団は、80年代を通じて労働者協同組合としての基礎を築き、失業者の仕事確保にとどまらず、「労働者が企業の主人公になる」「徹底民主主義」「よい仕事」「自立と協同と愛の人づくり」の理念を掲げて、本格的な労働者協同組合づくりに挑戦しています。
 労働組合の倒産・合理化反対闘争から生まれた自主生産企業も、事業団とともに「労働者協同組合グループ」を形成し、運動と事業の連携を強めて、本格的な労働者協同組合連合組織をめざしています。
 文化、教育、福祉の協同組合づくりをはじめ、農業・農村における新しい形の生産協同組合も検討されています。
 民主的文化運動の協同的な再生をはじめとして、おやこ劇場や親子読書など、地域の子育て運動が大きく広がっており、今後はさらに、青年の人生選択の援助や民衆自身の生涯学習など、協同を軸とした人間性と労働と教育の全体的な再生の運動が、広がっていくことと思います。日本生協連も、90年代のビジョンの一つに「協同のある地域づくり」を掲げています。
 いま、日本の協同運動には次のことが問われているのではないでしょうか。協同組合を営利企業とあまり変わらないものに終わらせるのか、体制の下請け機関にするのか、それとも労働者・市民が主人公となって、変革の立場を明確にして、いっそう強力に発展させるのか。すべての協同組合にこのことが問われているように思います。
 生産、サービス、流通、消費、情報、文化、教育、信用など、あらゆる協同の運動が変革の立場に立って連携し、協同組合セクターを創り上げていくならば、産業や地域、生活のあり方に労働者・市民が大きな影響力を発揮することはまちがいありません。
 産業構造や雇用構造の激変の下で、労働組合の中からも、労働者協同組合に対する注目が広がっています。それは、労働組合の要求の実現のためにも、労働者が仕事と企業の主体となっていく運動路線、つまり民主的改革路線が求められているからではないでしょうか。 膨大な利潤を蓄積し、人類的危機の根源となっている大企業と、大企業中心の体制を変革するという見地なしには、労働組合運動は再生できないように思います。企業変革の一つの方向が「労働者が企業の主人公となる」運動であり、スペインのモンドラゴンではその実験が成功しています。
 さらに多国籍企業の民主的規制と外国人労働者問題の解決のためにも、労働運動や政策転換の闘いと合わせて、協同組合を一つの軸とする各国の「内発的発展」と、国際的な協同のネットワークづくりが求められているのではないでしょうか。

実践と研究の交流を進めて、協同の運動をいっそう強い流れに

協同に関わる様々な分野の人々の熱い思いを結集して、1987年の「いま『協同』を問うプレ集会」から、89年「五月集会」、90年「十一月集会」へと「協同を問う集会」が行われ、この取組は地域にも広がっています。
 この中で、廃棄物・再資源化問題、高齢者政策、地域農業の再生などの具体的な課題をめぐって、研究と交流が始まっています。それらはいずれも、労働者協同組合だけの課題にとどまらず、協同組合や自治体労働者、市民の知恵と力を結集して取り組む大きな課題として提起されています。
 このような実践と研究の交流をより恒常的に進めて、系統的に研究を発展させ、協同の運動をいっそう強い流れとするために、協同運動の実践家と、これと連帯して研究・活動を進めてきた研究者が中心となって、本年3月23日に、「協同総合研究所」を設立することを決めました。
 私たちは、本研究所を実践家と研究者が資金と労力を出し合って、労働者協同組合と協同運動を総合的に研究し、その運動の担い手を育て、青年・学生にこの運動への参加を呼びかける、日本で初めての本格的な文化・研究協同組合にしたいと考えています。
 これまでの協同組合運動や、労働組合運動、地域緒運動の蓄積が蓄積した成果の上に、労働者協同組合と協同組合セクターを加えることによって、地域と企業をどのようにつくりかえることがきでるか― 研究者と実践家が連帯してつくる本研究所は、協同運動の発展に必ずや重要な寄与をするものと信じます。
 とくに1992年に東京で開かれるICA=国際協同組合同盟大会に向けて、研究所として報告と提言をまとめ、その成功に貢献することは、当面の大きな課題であります。
 広く協同組合運動、労働組合運動、地域運動、文化・教育運動に関わる団体、個人、研究者が本研究所の意義にご賛同いただき、その主体として共に参加されることを心から呼びかけるものです。

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