『協同の發見』2000.1No.93
『協同の發見』目次

編集後記
インターネットを活用することで、
研究所の活動はどうなったか
(3)
労協連専用サーバーの運用開始と「大改装作戦」の進展状況

手島 繁一(協同総研常任理事/法政大学)

 
■ミレニアムは「IT(情報技術)革命」で幕を開けた!?
 
 会員の皆さま、本誌読者の皆さま、あけましておめでとうございます。遅ればせながら、新年および新ミレニアムのご挨拶を申し上げます。
 さて2000年はどういう年になるのでしょうか?
 まだ正式の官庁統計は発表されていませんが、どうやらわが国のインターネット利用人口は、昨年末で、2,000万人の大台を超えたようです。世帯普及率も、普及が一気に加速するといわれる(ステッキング・ポイント)15%を超えると見られています(『読売新聞』1999年12月22日付)。驚くべきことにインターネット先進国のアメリカではもう一桁数が違っていて、インターネット利用者人口は、昨年末、ついに1億1千万人を超えました(米コンピューター産業年鑑社調べ)。
 新聞各紙を開くと、インターネット関係の記事が毎日でてくるのはもう当たり前なんですが、『日本経済新聞』などは記事の半分がインターネット関連記事になっています。同紙のWEB版である「NIKKEI NET」は99年12月から「ITニュース」という欄を新設しましたが(http://it.nikkei.co.jp/)、そこに配信されている記事の数は「政治」「経済」「社会」「スポーツ」などの伝統的な区分欄の記事量をはるかに凌駕するという有様です。
 ミレニアムをまたぐ、この年末・年始にも、ITに関するビッグニュースが次々と飛び込んできました。
 ざっと、ヘッドラインを拾ってみましょうか。
 ・「DDI、IDO、KDD 10月合併で、国内第2位の巨大通信会社が誕生」(『朝日新聞』1999年12月17日付)
 ・「DDI、56Kbpsの高速インターネット接続を可能にする携帯電話を1月7日から発売」
 ・「東京メタリック通信、ニューコアラ(大分)、長野県協同電算など、ADSLによる定額高速インターネット接続を提供」(『日経産業新聞』12月27日付など)
 ・「角川書店、講談社など出版大手8社、インターネットで文庫本のテキストデーターを販売」(『朝日新聞』12月17日付)
 ・「セブンーイレブンが電子商取引に本格参入」(『朝日新聞』1月7日付)
 ・「ファミリーマートなど5社連合も電子取引参入」(『朝日新聞』1月12日付)
 ・「サンクスなど5社、ネットスーパー始める」(『朝日新聞』1月13日付)
 電子商取引(Electronic Commerce、eコマース、EC)をめぐる動きには、次のような解説記事もありました。
「消費者に身近な小売りの現場で始まったIT革命は、コンビニ業界の再編を促すだけでなく、他の産業界の勢力地図をも塗り替える可能性を秘めている」。また高名な経営学者であるピーター・ドラッカーは、米誌アトランテック・マンスリーに寄せた最近の論文で、「eコマースは、消費者の行動を、貯蓄パターンを、産業構造をーつまりは経済全体を変える」と指摘しているそうです(『読売新聞』2000年1月15日付)。
 極めつけは年明け早々、アメリカから飛び込んできた二つのビッグニュースでした。
 その一つは、世界最大のプロバイダーであるAOL(アメリカ・オンライン)とアメリカを代表するメガメディアグループのタイム・ワーナーの合併発表です(1月10日)。
 それを追いかけるように1月13日には、ビル・ゲイツ=マイクロソフト会長兼CEOがCEOを辞任することが発表されました。
 二つのビッグニュースはインターネットの急成長とその社会的な影響を象徴する出来事でした。AOLタイム・ワーナーの出現は、インターネットが出版や放送などの従来のメディアを脅かす存在に成長したことを示しています。また、ビルゲイツの退任は「パソコン時代の終焉」を予感させるものでした。インターネット端末としてパソコンが保持していた地位は明らかに崩れ始めています。次世代ネット端末の開発をめぐる競争は一層激しさを増すことは確実です。
 こうしてみると、新しいミレニアムはインターネットの爆発的拡大を駆動力にした「IT(Information Technology、情報技術)革命」の最中に幕を開けたと言えるのではないでしょうか。
 
■労協連が専用のサーバーを確保しました
 
 さて「IT革命」とはいかないものの、研究所周りにも重要な意味を持つ変化がありました。
 日本労働者協同組合連合会(労協連)が、専用サーバーを立ち上げることになったのです。サーバーは個々のパソコンや端末、あるいは複数のパソコン端末を自己完結的に結んだイントラネット(LANとほぼ同意)を、インターネットという開放的なシステムに結びつける中継点(ノード)の役割を果たすものです。電話通信システムにおける電話局、郵便通信システムにおける郵便局みたいなものです。
 わたしも具体的なインターネットのシステムはよくわからないのですが、ともかくサーバーがわたしたちが端末上から発する要求を処理し、インターネットの世界に流れる膨大な情報から要求通りの情報をとってきてくれたり、また逆にわたしたちが発する情報をインターネット上に載っけて運んでくれたりするわけです。
 インターネットの運用は元々は、学術研究機関や政府機関から始まったこともあって、日本では大学や学術研究機関、政府・行政機関はそれぞれ独自にサーバーを持って運用しています。民間組織でも大きな企業では企業ごとにサーバーを運用しています。
 サーバーの運用には設備や機械、その保守管理に相当のコストがかかりますから、そのコストを負担できない個人、企業、団体などは、商用プロバイダー(ISP)を利用することになります。研究所は@niftyというISPを利用しています。
 ところで、労協連ではこれまで全国各地に展開する各事業団、事業所、高齢協などがそれぞれ独自の判断でISPと契約してインターネットを利用してきました。一貫した情報化戦略に欠ける点があったのです。
 ところが、介護保険事業に本格的に取り組むに当たって、例えば介護認定、介護計画の策定、ヘルパーの配置や仕事の管理、保険請求事務などの一連の作業を一元的に管理することが必要になりました。また、CC共済の立ち上げと運用という課題も差し迫ってきました。これまでのように、電話とFAXを通信主体としたシステムでは、とうてい処理できない事務量であることは明白です。各単位に端末を配置し、インターネットを介してそれを結ぶシステムが、より適合的であるとの結論に至ったのでした。
 もちろん、インターネットの活用によって外部への情報発信、内部的なコミュニケーションを強化し、根本的な業務改革(BPR、Business Process Reengineering)を進めるべきだとする認識も生まれてきました。
 そこで、労協連では研究所や高齢協も含めて、労協グループ全体が共同利用する専用のサーバーを立ち上げることにしたのです。とはいっても、機械や設備を自前で購入し、その保守管理のために専門の人員を配置するのは、コスト的にも、技術的にも手に余ります。「IT革命」の中で急速度に広がっている、サーバーをレンタルするサービス(ホスティング・サービスとも言います)を利用することにしました。
 ホスティング・サービスは、ネット上でハードディスクを貸し出すもので、インターネットへの接続サービスは行いません。ですからネット接続のためには、これとは別にISPを利用しなければなりません。二重手間のように思われますが、コスト的には従来のISP利用よりも安上がりになります。何よりも、大容量のハードデスクを自由に利用できる点で、これまでよりはるかに有利です。ちなみに、労協連が借りるハードディスクの容量は4.3GBですから、研究所が@niftyで使える容量の350〜400倍ということになります。もちろん、労協連、高齢協およびその傘下の事業所や関係組織と共同利用するわけですから、研究所が使える容量もその何分の一ということになりますが、それにしても現状よりははるかに大きなスペースがネット上で確保できることになりました。
 なお、労協連サーバーのドメイン名は、www.roukyou.gr.jp です。
 ただし、会員の皆さまの利用に不都合が生じないように、一定期間、従来のISPも併用することにします。また、国際ドメインはこれからも有効です。
 したがって、会員の皆さまの方で設定を変更する必要はありません。これまで通りのURLおよびメールアドレスをそのままお使い下さい。
 
■「HP大改装作戦」は着々と進展しています
 
 前号でお知らせした「HP大改装作戦」は、着々と進行しています。1月下旬を作戦完了の目途にしておりますので、本誌が皆さまのお手元に届く時には新しいHP(JICR.ORG)がネット上に姿を現しているかもしれません。ただ、このようなあやふやな物言いになっているのは、作戦指揮官(つまりわたしです)が、自分で言うのも何ですが「典型的文科系型人間」で能力、センス、意志3拍子揃っていささか怪しいところがあるからです。皆さまには「出来たらお慰み」という温かい目で見守っていただくようお願いする次第です。
 大作戦進展報告を兼ねて、本誌前号以降のHP(JICR.ORG)の大きな更新点を以下に記しておきます。各ページへ直接アクセスできるURLを付記しましたが、http://jicr.org/という簡便な呪文でトップページにアクセスしてから、各ページへ入ることもできます。

(1)「セン教授との会見、公式バージョン」を掲載しました。『日本労協新聞』2000年新年号掲載のものです。一応、「協同総研・日本労協連ミレニアム記念企画」と銘打ちました。

(2)12月23日開催の第3回理事会の議案書を掲載しました。
研究所の活動の風通しを良くするためには、この種の文書・情報を積極的に載せていくべきだと思います。

(3)「労働者協同組合法の部屋」の「諸外国の労働者協同組合法制」コーナーに、簡単な案内と解題を兼ねた堀越芳昭さんの論文=「欧米諸国の労働者協同組合法制」を掲載しました。堀越さんの論文は、これまで蓄積されてきた各国ごとの法制研究をベースに、それらを一定の視点から整理したものであり、法制度の国際比較研究の礎石をおいたものだと思います。このコーナーの冒頭にふさわしいものだと、判断しました。

(4)「海外ワーカーズコープ情報」という新しいディレクトリ(=部屋)を新設しました。
 主要なコンテンツは
・1999年3月の菅野主任研究員入手資料(CECOP,ICOM関係)
・1999年8月のICA大会関係資料
・石塚秀雄さんの「海外ワカーズコープ漫遊記」
・吉田省三さんの「ヨーロッパ協同組合運動リンク集」

(5)「ICOMビデオ販売開始のお知らせ」を掲載しました。
9月の労協法国際フォーラムで上映し、好評を博したものです。坂林専務、大谷副理事長、吉田省三会員のご尽力で、「副読本」付きの日本語版が完成しました。
また、WEB上で直接注文できるページ(フォーム)も掲載しました。
どうぞ、こぞってご注文下さい。わたしも見ましたが、20分ほどの良くできたvideoです。

(6)「書籍 BOOKS」に掲載されている著者や出版社をクリックすれば、その著者の著作一覧(書籍に限る)が出てくる仕組みを作りました。図書館流通センター(TRC)の協力を得ました。
 
 JICR.ORGへのアクセスは、本誌が発行される時点では1,400件を超えているはずです。1日平均20件ということになり、前月より倍増しています。昨年末には、日本最大の検索サイト「Yahoo」への登録も完了しました。さて、このアクセス数増加の波、今後どうなるのでしょうか?


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