『協同の發見』2000.1No.93
『協同の發見』目次

 
 アウゼル(AUSER)
 
――連帯とサービスの自主管理アソシエーション
 

マリア・グィドッティ(イタリア・アウゼル理事長)
       翻訳:佐藤 三子(イタリア在住)
 ここ数年、ヨーロッパ政府機関およびその社会政策にとって、高齢者問題が中心的な課題となっています。高齢者が占める人口の割合が増加すれば、社会や国家が現在保障している保護を必然的に縮小せざるをえなくなり、また労働者や納税者にはより重い負担がかかることになるだろうというのが、一般的な見解です。しかし、このような警鐘の裏にはしばしば福祉社会の一般的な利益とは無関係な利益がひそんでいるように思われます。実際、この見解が疑う余地のない根拠のあるものであっても、また生産利益と分配利益の側面からみた雇用と非雇用の関係が不都合な発展をしているとしても、テクノロジーの発達によってさらに急速な進歩をとげている中では、生産性の向上がバランスをとる要素として働いているし、またどのような発展を望むかを選択し、労働分配や労働と生活時間の関係を統合的に再考察した社会政策の新たな方法によってもバランスをとることができるので、私に言わせれば、この不安は現実的な根拠に欠けています。
 それに対して、年金者の利害と労働者の利害が対立することは避けられないとみる現象があり、それがますます注目を浴びてきています。だからこそ強調するのですが、この現象には、社会政策を見直す可能性があるということに耳をかそうとしない、重大で切迫した危険性を感じるのです。
 近視眼的保守主義の枠内で社会組織を粉砕し崩壊しようとする圧力が、ヨーロッパのすべての国々で大変強くなっているのは事実です。民族・職業・社会のそれぞれに与えられた保護を廃止する傾向が強まり、そのことが他の社会的弱者――失業者、移民、高齢者など――と対立させるという効果をつくり出しています。また、教育・社交・健康保持・環境の質などに与えられた権利といった、社会一般の利害が対立するような作用をもたらしています。
 疎外という一般的な問題に応えてゆくために、その原因の典型ともいえる高齢者問題への対処方法をみると、この問題がおかれている背景の偶然ではない意図を見抜くことができます。この新たな傾向に対して、現状の社会および労働政策では担ってゆくのは大変にむずかしいでしょう。逆に、疎外に苦しんでいるからこそ、高齢者という条件が参加―所属の新たな要求の代弁者になることができるし、愛他主義の倫理を守ることへと再び導くし、積極的に人生の価値や意味付けをするという方向へ貢献するのです。この意味では、社会資源へと転換してゆくように寄与してゆきます。
 参加と所属への傾向に関しては、現実に多くの具体的な徴候がみられます。高齢者が核化する家族と続ける関係から始まって、シンボル的交流または具体的援助としての交流が中心にしばしば行われる関係などです。
 結婚したての息子たちへの経済的援助、孫の世話、家族への貸付など、高齢者が交流の受け手であるだけにとどまらずに、それを与える源泉としても存在しています。高齢者が自分の家族以外の人――親戚、隣人、友人など――へ提供する援助もまた大変に目を見張るものがあります。イタリア政府統計局によると、すでに1983年から、65歳以上の高齢者の5人に2人が何らかの援助をしており、その中でも78%が女性であり、これは女性の2人に1人以上に相当します。
 イタリアには数百のボランタリーのローカルグループが存在し、そのグループの一部または全員が60歳以上です。1983年の統計によると、410のボランタリーグループ全体のほぼ半分の会員が高齢者で、グループ員として参加したり、積極的にオペレーターとして活動しています。1998年6月の調査企業DOXA社のデータによると、ボランタリー活動に従事するイタリア人(成人)は約900万人で、これは5歳以上のイタリア人口の18.1%に値することを明らかにしています。このうちの10%は65歳以上の高齢者ボランティアで構成されています。すなわち、他の人々へ貢献することを決めた、活発で連帯意識をもった高齢の人たちです。イタリアの社会的役割を負ったボランタリーの世界では、ボランタリー団体の一部は主に65歳を超えた人々によって構成されているのが目立ちますが、これは興味深い現象です。
 健康への要求、自然や芸術等国家財産の積極的な活用および保護への要求など複雑化する中で、単なる数の増加傾向に対して社会関係に新たな質を与えてゆこうとする要求です。この種の期待は、財を多く生産したからといって満たされるのもではなく、“社会的再生産”(=社会利益)のためと言えるサービスの発展が要求されます。そして、これは生産プロセスの自己再生の要求の側面から矮小化して考えるのではなく、社会生活そのものに変化してゆくという意味です。“社会再生産”(=社会利益)の仕事はすべてが金銭的に報いられるとは限りません。個々の人が自分のため、自分の家族、親戚、友人のために行う行為の多くは、社会的再編成の幅広いプロセスで支えられ、特徴づけられています。また、緊急に発生した障害の場合でない限り、この行為は他人に変わってもらうことはできません。
 しかし、ここに金銭的に報いられる可能性のある領域があります。それどころか、より幅広い社会関係の背景の中で行われている、マルクス的に“具体的”と言うことができる仕事の領域がみえています。
 新旧の貧困の問題に対する要望は、答えのもらえない、あるいはまちがった答えしかもらえないというケースが増えています。そのような中で、新たな答えを捜す一方、人々へ差し伸べられた質の高いサービス社会および共同体という関係の新しい条件と環境、都市と環境再整備、教育および職業教育など、新たな発展のための目標と必要条件をつくり出すことが肝心です。この目的のために、自由な時間を提供し役割を直接担ってゆこうとする市民の寛容な力を充分に活用し、地方自治体や専門家といっしょに協力し、地域共同体または住人へ直接的なサービスや諸活動を行ってゆく、さまざまな中身と形態をもつアソシアツィオニズムと連帯ネットワークの早急な発展が決定的な要素となっています。私たちの団体が高齢者および高齢者以外の人々に社会参加を高める行動およびイニシアチブを通して活動的な市民であるように促すのは、この方向です。
 第三世代大学、「銀の糸」、世代間の連帯について、社会参加の具体例を添付します。

◆第三世代および自由大学
 (AUSER)

 AUSERの第三世代大学はイタリア全国に140あり、25,000人を超える登録者がこの大学へ参加し、1,000人を超す教師および文化オペレーターが仕事をしています。
 AUSERの大学では、参加者がアイデア、プログラムおよび教育について主体的に参加できることをうたっています。
 1994年からAUSERの大学はAUPTEL(第三世代および自由世代の市民大学連合)というアソシエシーョンに加盟しています。そして、AUPTELはボランタリー活動を支持する主体者が活発に参加し、国民の弱者層へ働きかけることを評価しています。
 大学の講座は幅広く、いかなる分野もおろそかにしません。イタリア文学から始まってさまざまな語学および外国文学などでは、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語が主体ですが、いまはポルトガル語やロシア語も始めています。古代史、近代史、美術史、民族伝統史、哲学、宗教史、心理学、社会学、高齢者心理学、予防医学、薬の正しい使い方、植物学、科学、動物学等々です。また、多くの講座は理論と実習の性格を有しています(料理、縫製および刺繍、ダンス、陶器、絵画、彫刻、体操、ヨーガ、音楽、朗読および発声法etc)。
 かなりの大学が、小旅行や観光として歴史的、美術的または理想的に興味深い自分の町、イタリア国内または外国の芸術の町への旅行を実施しています。また、文化的に深めるだけではなく、気晴らしや参加のよい機会にもなっています。また大学は、それぞれの地域の社会―文化的特徴や利用者の要求に応じて独自の講座を設けています。講座は、1年コース、3カ月コースおよび短期コースの5〜6回で修了するものとに分かれています。さらにテーマの専門性により専門家がカンファレンス、テーブルディスカッションなどを行い、地域の住民の誰もが参加できるようになっています。

◆連帯とサービスの自主管理
  アソシエーション

■「銀の糸」:高齢者のための友情電話も
 孤独と疎外にうちかつための、連帯と権利としての高齢者の電話局です。AUSERのボランティアの人々によって自主管理されているサービスで、年間休みなく続けています。優しい隣人として電話で話を聞いてあげたり、高齢者とのつながりをつくると共に、居心地の悪い状況にうちかとうとするものです。
 ボランテイアの人が問題を抱えている高齢者のところへ出かけて話し相手をつとめてあげたり、家事を手伝ったり、医院への付き添いをしたり、買い物や書類の手続きをしてあげます。必要な時、または誰かと話しをしたい時に、「銀の糸」へ電話ができるようになっています。「銀の糸」は、年間を通して夏休み中もボランティアの人々の出会いの場所であり、文化、レクレーションおよび観光に関するイニシアチブに参加する場所でもあります。
 現在イタリアの110の市町村に存在し(州、県、また小さい町にも)、緑の電話800-868116でそれぞれが連結しています。この番号を廻すとローマの「銀の糸」の事務所が応答し、ここが電話をかけた人の一番近い町の「銀の糸」の事務所と連絡をとってくれるのです。また、「銀の糸」は電話で対話するサービスも行っています。さらに24時間開いている外部の救急電話ともつながっており、まだ試験中ですが、(心臓病コントロールのような)電話医療サービスも試みています。
 
「銀の糸」に関するデータ
 毎年数千の電話コンタクトがあります。
・数千回の家庭訪問および介助
・電話の内容は:孤独、薬局や病院、公共施設の住所・電話番号etcの問い合わせ
・家庭内外での空き巣、悪用ペテン、虐待に対する援助の要求
・電話をくれる人の平均年齢は65歳以上で、特に女性が多い。
・「銀の糸」の事務所で活発に活動しているボランタリーは1,200人以上で、主に女性が多い。

AUSER:いくつかの重要な活動の具体例

■連帯の仕立屋
 AUSERの仕立屋は、もっともオリジナルな例の一つで、すべて女性のボランティアに自主管理されています。1990年、トスカーナ州の繊維工場の多いプラトとフィレンツェ県でスタートし、最初の仕事場はバイアの町にできました。現在ではプラト、バイア、ロロ、エンポリ、ポンタシエベ、ルフィーナ、ディコマーノ、アバディアサンサルバトーレ、ボルゴサン、ロレンツにあり、さらに2カ所バリに開かれたばかりです。
 このボランタリー活動に参加している女性は200人を超えています。この仕立屋に毎日集まるのはほとんどが女性年金者で、繊維企業が寄付してくれる布を利用して縫製をしています。特に子ども向けの洋服制作を専門にし、ここでつくられた洋服は世界の困難を抱えているあらゆる国の子どもたちに送られています。ボスニア、ボリビア、モザンビーク、マラウィ、ナイジェリア、ベネズエラ、アルメニア等の国々に、約80,000着の子ども服が送られました。
 
■暴力の犠牲になっている高齢者への 援助
 毎年、ここイタリアでは何百という高齢者が犯罪の被害者になっています。もっとも多いのは、詐欺・ひったくり・窃盗犯罪で、身体的暴力を伴うことが多く、直後の一定期間、暴力を受けた高齢者は多くの問題に直面します。高齢者は弱い立場にすでにおかれているのに、暴力を受けることによって生じるたくさんの問題を前に一人で立たされて、援助を必要としています。この問題に関しては、トリノとボローニャ市のAUSERがほかのアソシエーションや地方自治体と協力して二つの具体的な企画を立てているところです。
 1998年9月24日から、トリノでは電話011-8123131が活動を開始しました。これは“暴力を受けた高齢被害者への援助”と呼ばれています。このサービスは暴力を受けた高齢者に幅広い援助を保障するもので、ボランティア、オペレーター、コーディネイター、コンサルタントのグループを巻き込み、精神的援助から医療診察への同行、行政上の手続きから職人のすばやい介入が行われます。一方、1996年からボローニャ市のレーノ地区では、サンベルナルド社会ボランタリー・グループが活動しています。このグループは、軽犯罪(ひったくり・すり・アパートへの空き巣etc)および非文化的行為の被害者を支え援助するボランタリー小集団で、精神的援助、書類の処理および再発行のサービスをしています。このボランティアは、高齢者社会センターでビラ配布や講演をして犯罪の予防にも努めています。このグループのもっとも革新的な活動の一つは、損害賠償金を受け取るために市民へ必要な情報を提供することです。
 
■移民者を一人にしない
 アブルッツォ州、トスカーナ州、カラブリア州等では、移民者や非識字者へ向けて読み書き講座を行っており、成功しています。午後の遅い時間帯に週2回またはそれ以上、若い移民者と高齢者がいっしょに連帯と友情の環境の中でイタリア語を学ぶために集まります。この講座は、参加者に社会的および文化的に社会融合してゆくための手段を提供しています。また、講座はすべて無料で、AUSERの会員である先生がボランタリーで続けています。
 
■連帯の運び屋
 AUSERの「銀の糸」が特に夏休みの時期に大都市で実施しているもので、この時期には孤独や疎外が特に大きな問題になります。連帯の運び屋は若い学生で、薬、買い物、温かい食事などを、問題を抱える一人暮らしの高齢者へオートバイか自転車で家まで届けます。
 
■市民のおじさん
 イタリアの三つの大都市である、ミラノ、ジェノバ、ナポリで、市とほかのボランタリー組織との協力で、AUSERが“市民のおじさん”というイニシアチブのコーディネイトをしています。高齢者のボランティアの小集団が分散して、幼稚園や小・中学校の前で子どもたちの登校・下校時の安全を確保する活動です。
 
■交通安全
 フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州のウディネ県で、小学校の子どもたちに向けて交通安全のキャンペーンが繰り広げられています。このイニシアチブの主役はAUSERの高齢者ボランティアで、子どもたちに簡単な道路交通規則を指導しています。また、ビデオや小パンフレットもつくっています。このイニシアチブは、県行政、自動車学校協会と協同組合がつくった保険会社UNIPOLとの協力で実施しています。
 
■プロジェクト: 問題児と共に――世代間の連帯
 トスカーナ州、カラブリア州、カンパーニャ州では、未成年関係法(1997年法律285号)によって財政予算が組まれ、過去に複雑で困難を抱えた家族環境にあった若者や麻薬問題や受刑経験のある青年を労働界に加えてゆくプロジェクトを実施しています。この若者たちは未成年者や成人したばかり(18歳)の青年で、AUSERのボランタリー組織で職人だった高齢者の慎重な指示のもとに、一連の職業文化教育を受けています。この目的でつくられた作業所では、若者は、アンティークな家具修理、木や石細工などの職人技術を習得するように導かれます。
 AUSERのヴェヴント支部では“過去の中から未来を”というプロジェクトを始めました。これは若者と高齢者がいっしょに文化遺産を再評価し雇用促進につなげようとするもので、このイニシアチブは、ベネベント県のすべての子ども(学校)に地方の自然、歴史、芸術資源を知らせ、愛着をもたせるために30人の高齢指導者を育成してゆこうとするものです。このプロジェクトは閣議委員会の社会業務局から財政予算をかちとっています。
 トスカーナ州のバルダルノとベルシッラ町のAUSERは新たな二つのプロジェクトを進めています。一つは“衣装道具一式”と呼ばれるもので、地方の伝統刺繍を女性や女の子たちに教えてゆこうとするもので、女性会員の高齢者が講座を運営しています。二つ目は高齢者のボランタリー会員がハンディを負った子どもやその家族を移動時の運搬・活動・学童などを通じて助けてゆこうとするものです。この二つのプロジェクトも閣議委員会の社会業務局から予算が下り、同時に地方自治体との密着した協力のもとで行われています。

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