6/26 MIL 精神的障害のある若者の協同組合病院 |
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今日は精神障害者の病院をやっている労協のお話。名前は、「HOSPITAL DE DIA MADRID」(昼間の病院という意味です)と言い、別名「MIL(スペイン語で千の意)」と言うそうである。名前のとおりベッドはなく通院患者、それもティーンエイジャーを対象にしている病院です。
話をしてくれたのは、精神科医?のリカルドさん。40代くらいの男性である。はじめは精神療法に関する研究会のようなものをやっていたのであるが、10年前、実践のための組織が必要と考え、協同組合を作った。以来10年間非常にゆっくりとしたテンポで発展してきた。現在5人の組合員と6人の非組合員労働者がいる。患者数は聞き忘れましたが、私が訪ねたときは20人くらいの若者がいました。
私が、精神治療についてではなく協同組合について知りたいのだということを良く理解してくれていて、主に協同組合をテーマに話をした。
10年前この病院をスタートする時に、他の組織形態にすることも考えた。しかし、資金面で当時政府から6百万ヘペセタを出してもらえたことと、メンバーの一人がマドリード労協連を知っており、サポートを受けられたことで労協にした。(スペインでは25歳以下の人が新しく労協を設立する際、一人当たり150万ペセタを出資してもらえる。但し、そのお金を実際に受け取れるのは2年後である。)
とにかくはじめの2年間は全く無給で働き、お金を残した。状況は非常に厳しかった。精神障害者やその家族にとって、私立病院での治療は高くて支払うことが出来ないので、リカルドさんたちは2つの方法を考えた。一つはサービスをなるべく安く提供すること。もう一つは保険の対象としてみとめてもらうこと。長い間の交渉の結果、現在1つの公的保険のみが支払いを認めてくれるようになった。その保険とは、若者を対象とした学資保険のようなもので、それが利用できるがゆえに、若者専門の病院となっているのだそうだ。現在ヨーロッパ各国では福祉国家の危機が問題となっており、リカルドさんはスペインの福祉が縮小し、保険の対象外になることを一番恐れているとのこと。
この病院では現在、より安い治療プログラムの開発や、医療部門と社会的部門の協同組合間提携事業を考えている。例えば、精神障害者の労協をつくる構想などもある。封筒詰めのような単純作業だけでなく、もっと複雑な仕事や、障害に合わせてフレキシブルに働くことが出来る仕組みを考えているとのこと。具体的には大企業がより社会的活動の援助をしやすいように様々なアプローチを考えている。
この後、労協におけるリーダーシップと責任が話題になり、ここの労協でも決定や結果に対する責任がしばしば曖昧になるのが問題である、というようなことを話してくれた。専門的な協同組合であるがゆえに、以前は専任の経営担当者を外部から呼ぼうかという話もあったが、多分それはうまくいかないだろうということで採用しなかったとのこと。それぞれの組合員がそれぞれの分野に責任を持つという今のやり方が一番良いと感じているそうである。私の所属する労協の現状も聞かれ、2,000人の組合員による運営を説明することは、一番困難な作業であるように感じた。
前述したように福祉行政の後退とともに、すぺいん政府はボランティアを活用にも力を入れてきているが、専門性と責任の点でうまくいかない、とリカルドさんは言う。現在は廃止されたが、徴兵制があった数年前までは、徴兵逃れのためにボランティアを志願する若者がこの病院にもたくさん来たそうである。やはり、社会サービス部門は協同組合が担うのが一番良いというのが彼の意見だった。
非営利という言葉が何度か出てきたので、こだわって質問してみたが、やはり、つまるところ利益の非分配というところが焦点らしい。より安い価格でより高い水準のサービスを提供する事は営利組織では不可能で、非営利組織でなければ出来ないということである。ついでに協同組合が解散した場合、資本はどうなるのか聞いてみたら、彼らの組合の場合、資本が無いので考えたことがないが、多分、財団等と同じで最終的には国家のものになるのでは、とのことだった。これは、後で誰か法律家にでも確かめてみる必要がある。
また、マドリード労協連で渡された私のスケジュールの中で、先日訪れた老人ホームなどの事業分野を「INICIATIBA SOCIAL」と呼んでいたので、気になって聞いてみた。彼自身も今まで訳したことがなかったが「SOCIAL ENTERPRISE」ということで、要するに社会的サービスの分野ということらしい。これは、一種の概念で、協同組合以外の財団やSALの事業も当然この概念には含まれるということである。
話が複雑になってくるとやはり英語の表現能力の乏しい私にはしんどい。日本の医療制度から現政府の政策、はてはミシマユキオ(とっても有名です)の思想まで問われると、思うことはあってもすぐに言葉にすることができない。
この後たまたま、昼食時になって、今日は庭でバーベキューをするからといって、招待してくれた。中にはきちんとした英語を話す若者(患者)が何人かおり、おしゃべりしたり卓球をしたりして楽しい時を過ごすことができた。リカルドさんも言うように、この病院は全く病院らしくなく、普通の家の中で若者がパーティーをしているような雰囲気である。強制的なことは何もなく自発性にまかされているということ。本当に病院だと言われなければ決して気づかないだろう。
労協は法律的な保護や政策の問題もあるが、やはり理想に燃える人たちの努力でつくられていくものなのだなと実感した。
][<>][<>][ 菊地 謙 ][<>][<>][