『協同の發見』2000.5 No.96 総目次

<特集> 挑戦 ケアワークドライバー

自交総連大分のケアワークドライバー運動
〜仕事上でも「さすが自交総連さん」と言われるように〜

高野 修(大分県/自交総連大分地連)

 自交総連大分地連の書記長をしている高野です。私たちは大分で自主経営会社を三つ持っていますが、そのうちのセキタクシーと宇佐参宮タクシーの代表も兼ねております。

 私たちの「ケアワークドライバー運動」を協同総合研究所の研究素材に取り上げていただきありがとうございます。本日の研究会を経て運動を一層前進・発展させたいと願っております。


1.「ケアワークドライバー」構想と背景

 大分地連は政府の規制撤廃を攻撃と受けとめて、県下のタクシーやタクシー労働者をとりまく状況を分析し直し、同時にこれまでの私たちの運動を総括しました。大分県下のタクシーは、1社の平均保有台数が27台です。30台以下という小規模・零細の会社が全体の70%です。しかし、運輸省の流動調査によりますとタクシーの輸送分担率は34%を占めていて、JRの25%を上回り、バスの38%と共に大切な地域の足となっています。
 モータリゼーションの進行と過疎化が進み、大分県でも97年には、県下58市町村のうち、6つの町村でタクシー会社がなくなっていました。10年前に114社あったタクシー会社が、廃業とか身売り後の合併で99社になっています。規制撤廃が実施されれば客減りとも相まって経営悪化がさらに進行し、高齢者や通院患者の移動制約者にとって、もっとも必要なタクシーがバスに次いでなくなってしまう事態になってしまいます。
 住民の足として必要な役割を果たしているタクシーを住民利益にかなう方向で考えて、県下のタクシーを存続・発展させたいとの思いを込めた政策提言として『自交総連大分地連からの第1次提案』をつくり、97年11月に大分県下58市町村全てに郵送し検討と実現化を要請しました。私たちの考え方の基本は、住民や地域に絶対必要なタクシーを作り出し、地域と共に生きるタクシーにしていくこと、タクシーが必要不可欠な存在になれば絶対なくならないし、未来を作ることになると思ったのです。
 『第1次提案』の第2項をご覧ください。「2.タクシーと運転者の活用を」ということ
で、「養護学校・福祉施設への児童生徒の送迎、入浴サービス車両の運行、デイサービスの送迎業務等をタクシー会社に委託するなど、積極的にタクシーとタクシー運転者の活用を図るようご検討下さい。また、自治体が所有する公用車の管理・運転業務をタクシーに委託したり、公用車廃止の際はタクシー利用を推進するなど活用して下さい。」と要請しました。例えば臼杵市ではタクシーが市議会議長の公用車の管理と運行を委託されていて一部実現しているとはいえ、従来のタクシー労働者が担ってこなかった分野を担おうという決意を伴うものでした。
 大分県は大分市など一部の都市を除いて、多くの自治体が人口の減少地域で、しかも高齢化の進行も早く65歳以上の人口が20パーセントを越える自治体が、全自治体の9割を越えています。こうした地域でタクシー利用の圧倒的多数を占めるのが移動制約者と言われる高齢者や患者さんたちです。一方では医療行為だとか福祉活動ということで、ボランティアもありますが、旅客運送業者でない人たちによる移送業務が際限なく拡大され、タクシー利用者が確実に減少していました。私たちは二種免許を持ち、人を輸送するプロとして安全輸送を第一義的使命としながらも、移動制約者の方々にほんとうに安心してもらえるタクシーにならなければ地域のタクシーとしての将来はないと思いました。
 現在の利用者に安心して使ってもらえ、喜んでもらえるサービスとして、また、今後のタクシーとタクシー労働者を活用してもらえるための能力を備えたドライバーとして、「ケアワークドライバー」という考え方を生み出さざるを得なかったのです。私たちが自治体に提案した中身が実現して様々な仕事が持ち込まれた時、立派に役割を果たし得るためには、タクシーの輸送中のみならずその前後の対処が大きな課題になると思います。
 ケアワークドライバーとはケアワークができるタクシードライバーのことで、ケア(介護)の心と専門的知識や技術・能力を持って高齢者や障害者をはじめとする全ての利用客と接することができるプロドライバーのことです。タクシーやタクシー労働者に対して悪いイメージを持ったままでは私たちの提案は検討さえしてもらえません。我々自身が目的意識を持って変わらなければならないし、新しい能力を備えることが必要だと思いました。新しいドライバー像を掲げて自己変革をしようという取り組みを私たちは「ケアワークドライバー」運動と呼んだわけです。
 『自交労働者月報』2000年3月号の26頁の3を参照していただけるといいと思いますが、ちょうどメディスさんと同じ頃私どもも機関決定しています。私が個人的にそれまで構想してきたものを、97年12月3日の地連の三役会議で組織として確認し運動化が始まりました。98年の春闘の方針では大分地連の全組合員がケアワークドライバーになると宣言し組織決定としました。
 ケアワークドライバーとして初級・中級・上級を設定しました。初級課程の研修として高齢者・障害者の施設見学・理解、地域の福祉施策の知識、車椅子の取り扱いなど介護技術修得で合計4時間程度を規定し、組合員全員が受ける義務的講座としました。中級はヘルパーの3級資格取得と特別研修を修了、上級はヘルパー2級資格者で特別研修を修了としました。
 初級研修は98年7月の日田地区を皮切りに県下各地で労使共同で開催しました。今年の3月には中津市でも開かれほぼ全域で終わりました。修了者には一つ星の認定証を交付して乗務員証ケースに挟むようにして、乗客との対話の導入部になればということで交付しています。
 我々の使っているケアワークドライバーとはヘルパー資格を持つドライバーのことではありません。あくまでも介護の心と専門的知識や技能を持ってケアの気持ちで乗客と接することができるプロドライバーのことで、我々の研修を終了したドライバーの総称です。
「ケアタクシー」ということで別途料金を取れるのは中級・上級者(ヘルパー資格を持つ者)です。
 こうした講座の取り組みはマスコミに大きく報道され多くの市民から反響がありました。
労働組合が仕事の内容まで立ち入っていけるのはすばらしいとか、自分たちが変わろうとする姿勢がすばらしいとか賛同と期待の声が大きく広がりました。こうした声が私たちの誇りとなって取り組みは次の段階へと進んでいくことになります。


2.「職業への自覚、誇りと自信」の探求

 ケアワークドライバーの考え方は、今思えば突然出てきたものではなかったように思います。15年前、1985年4月号の『自交労働者』文章は、自交総連中央委員会(第8回幹部学校)で私が報告した内容です。当時もタクシードライバーのモラルの低下が言われていて、しかも自由時間に起こったことではなくて、仕事上の問題で指摘されていました。それに対して大分地連の取り組みを報告した内容です。
 労働者として仕事上の責任を全うしようではないかという問題意識とか、私たちの支援者からの遠慮がちな批判に対する取り組みとしてタクシーサービス研修会を1983年に開いたこと。当時プロとして技術の向上や研鑽に力を入れることが職業に対する自覚を高めて誇りと自信を持つことになること。こうした自覚や誇り・自信から労働者モラルは定着していくのではないかと考えていましたが、技術の向上や研鑽をどのような内容や目標を持ってやればいいのかはこの中には書かれていません。未解決でした。それ以来これへの回答探しというか、労組として仕事の内容にどう迫るか問い続けることになっていくわけです。人間誰でも自分の所属する組織を悪く言われるよりも良く言われた方が気持ちが良いのは当たり前です。労働者の権利擁護、労働条件向上を目指して数え上げればきりがないほど闘ってきました。「さすが自交総連さん」という声は何度も耳にしてきましたが、闘いを支援してくれる人からも遠慮がちに出される批判がありました。もう少し服装をなんとかできないか、ありがとうも言わない者がいる。車の中での会話をしゃべる者がいるが、これでは安心して乗れない、他の人に紹介できないという声が聞こえると、私には自交総連は仕事の面では駄目だなと言われているようで残念でした。私は「さすが自交総連さん」という評価を闘う場面だけではなくて仕事の面でも得たいものだと願ってきました。


3.ヘルパー資格とムーブケア

 ケアワークドライバー初級講座が開かれ、マスコミが大々的に報道してくれていたときに、ちょうどメディスさんが介護タクシーを準備していることが報道されました。組合員の中から是非自分たちもヘルパー講座の受講をするべきだという声が講座の中で広がりました。私たちも当初からヘルパー講座の受講を決めてはいましたが、当時受講すべき講座がありませんでした。介護保険を前にして今働いているヘルパーに2級を受けさせることが行政の大方針になっていましたから、一般の我々が地域で受講する機会はほとんどありません。そこで日本労協連の支援を受けて、市民と共に作る自交総連2級ヘルパー講座の準備を進め、大分県の指定を受けて昨年99年8月21日に日田市で開講しました。
 日田市のタクシー会社5社のうち、組合員のいる4社から上級ケアワークドライバーを目指すタクシードライバー10名を優先枠とし、残り30名を一般公募しました。3倍近い応募があり、結局総計47名で開講し、10月24日に全員終了しました。その後今年の1月15日から3月26日まで臼杵市で自交総連ヘルパー講座を開講してタクシードライバー5社8名を含む40名が全員修了しました。
 講座の開講は市役所などの関係者の協力とか福祉介護施設あるいは社会福祉協議会、医師会などの援助を受けて講師をお願いし、日程を調整し、会場を確保するというようなことが必要です。なかなか大変な作業だと思いますが、最初の日田市では行政が理解してくれて大きなバックアップをしてくれましたので成功することができました。次の臼杵市でも日田市以上の協力をしてくれることになりました。そのきっかけがケアワークドライバーの1枚のビラだったのです。私たちは98年に方針化しましたので、その後の規制緩和反対などのビラの裏にケアワークドライバーを宣言してこういう取り組みをしていると記載して市民に配布していました。そのビラを見た日田市の高齢者福祉係の係長がすぐにタクシー会社に問い合わせをしていたというのです。ヘルパー講座の協力要請に行った時に、ケアワークドライバーになろうとする団体であれば信用できると感じたのでしょう、全面的な支援をしてくれました。
 私たちのヘルパー講座開講が昨年9月5日号の労協新聞に載っていますが、市役所の課長と係長が写真入りで載っています。課長が「私も労働組合の一員でしたが労働組合は自分たちのことばかり考えているように見られがちです。それが地域のことを取り上げ地域の人と一緒にやろうというのはすばらしいことだと思います。それを自交総連が真っ先にしてくれるということでたいへん嬉しく思っています。」係長は「今社会の中でどんな仕事が求められているのか働く側が模索し始めている。ケアワークドライバーもその一つだと思うのです。いま日田の福祉行政の中で何がほしいかといえば、移動に関する手助けです。市営住宅のところのバスがいつの間にか廃止されていたりするし、高齢者夫婦のどちらかに障害があれば通院するにも介護タクシーがあったら助かります。費用をどこまで行政がカバーできるかの問題もありますが…」と期待の言葉を述べてくれました。
 ヘルパー講座の主催者として動いたことによって、多くの福祉関係者と知り合いになれ、
行政や市民の中に自交総連の名前が知られ定着し始めました。
 日田市では「ケア(介護)タクシー」を2月から開始しました。タクシー会社4社の共同事業として開始しましたが、宣伝が徹底せず勧誘が不十分なためあまり使われていないようです。まだ「ケアタクシー」それ自体としての申し込みがない、会員の申し込みも数件といったところです。今後の課題となっています。
 私たちが提唱したケアワークドライバー構想と運動は、業界内でメディスが開始した介護タクシーの反響と全国的な広がりも影響して、全国の仲間たちに広がっているというのが実感です。私自身も福岡地連・九州ブロック・石川地連・山形地連の学習会で話していますし、石川地連や福島地連では初級ケアーワークドライバー講座が開催されています。ヘルパー資格を得て、ケアタクシーを開始することはすばらしいと思いますが、お金と時間がかかり補助もあまりない状況です。講座自体も内容のすばらしい講座もあれば、金儲けのために一人の講師が全部やるというようなものも行われていますから、全てを推薦するわけにはいきません。ヘルパー資格を得た人たちがムーブケアー研修を深めていただいて、自交総連がケアワーク運動の実践、研修の中から得た心得集、事例集づくりの先頭に立たれることを祈念しています。
 労働組合の取り組みとしてヘルパー養成講座に通わせるというのも一つの方法ですが、重要と思われるのは初級研修の機会を作ることです。私たち大分の実践経験から、初級講座は全ての組合員を対象にできること、非番の4時間程度で基礎が学べること、施設見学で実態を知り、行政施策を学ぶことで地域に目を向け、自らが高齢者になった時のことを考えることで意識変革のきっかけになると思うからです。
 今後私自身も組織の中で訴えつづけていきたいと思います。


4.「タクシー運転免許」構想と 「ケアワークドライバー」

 現在道路運送法の改正案が国会に上程され緊迫した情勢になっていますが、現在でも非常事態になっているタクシー労働者の生活、タクシー事業の経営そものもをこれ以上悪化させないために、この法案の廃案を目指して運動しています。一方でタクシー運転免許を創設・導入してこれを持たなければタクシーを運転できないようにしようという構想を発表していて、需給調整の切り札になるのではないかと期待されています。
 この構想では現在の二種免許とは比較にならないタクシー運転者としての能力を要求されることになります。これは安全・安心のタクシーを担保する枠組みをつくることで、一定の労働の質を越えなければいけない。自ら選別することを自分たちで掲げています。労働組合として今以上の技能の必要性を提起したわけですから、法律ができない段階でも自ら一定の技能向上策を考えた方がいいと私は思っています。
 その一つになるのがケアワークドライバーだと思っています。タクシー運転免許構想を掲げて運動すると共に、現実のタクシーサービスの向上策としてあるいは運転手自身の技能向上の取り組みとして利用者・市民に情報公開しながら講習会・研修会を開いていくことが信頼を高めることにつながるのではないかと思っています。
 我々の仲間には高齢者・障害者を輸送することに意義を感じる人もいますし、地域によっては観光案内の分野に得意なドライバーもいます。全国の組合員にはそれぞれ様々な得意なサービスをもったドライバーがいます。そういう人たちを自交総連というブランドで結び、自交総連が責任を持って推薦できるシステムができたらいいと思っています。私はそれを「ATU(自交総連)ネットワーク」と考えています。その先駆けとしてケアワークドライバーで声を上げた人たちを一定の基準をクリアーするということで、そこに登録している人たちがお互いに紹介し合うということができれば、どんな事態が起ころうとも労働組合としても生き残っていけると考えています。
 サービスの内容に労働組合が責任を持ち、それを市民に推薦して喜ばれることになれば、
闘いも仕事も「さすが自交総連さん」と言われるようになるのではないか。全国どこでも「さすが自交総連さん」と言われるようになれば大きなブランドとなって他の組合にも影響を与えると思っています。そういう夢に近づくために私もさらに労働組合の中で奮闘していきたいと思っています。

『協同の発見』5月号目次ケアワークドライバー研究会の企画と課題 | 河内則夫「新たな仕事おこし メディスのとりくみ」
高野修「自交総連大分のケアワークドライバー運動」

協同総合研究所(http://jicr.org)