『協同の發見』2000.5 No.96 総目次

<特集> 挑戦 ケアワークドライバー

新たな仕事おこし メディスのとりくみ

河内 則夫(福岡県/メディス)
*メディスのHP(ホームページ)は以下のURLでご覧になれます。


○ケアタクシーを選択

 私のところは、福岡県の中でも田舎町です。JRで北九州へは40分、博多の方には50分のところです。人口は本社のある岡垣町が3万人、隣の遠賀町が2万人。高齢化率は20%位の地域です。その中で遠賀タクシーはタクシードライバー31台、メディスはケアードライバー14台と搬送車が1台で動いています。
 タクシー業界全体に言えますが、私のところもバブルがはじけてから毎年前年比5%〜10%運収が落ちております。会社も打開策を練ってきましたが落ち込みをくい止めることはできませんでした。我々は、需給調整など問題はいろいろあると思いますが、タクシーという乗り物の必要性、価値観が少なくなってきているのではないかとドライバーたちと4、5年前から話をしておりました。
 平成9年秋頃、社長の友人に福祉関係者がいて、「いま福祉行政で困っているのは、夜間にヘルパーさんが利用者のところに行き着けないことだ」という相談がありました。これがきっかけで地域に密着したタクシーになれるのではないかということで、福祉関係者の方や高齢者、障害者、家族の方々に相談し、今抱えている問題をいろいろ教えていただきました。
 もし我々がヘルパーの資格を取れば、タクシーの個別輸送と無線という機動性を含めて何とかなるのではないかと社内で検討しました。もちろん私のところも福祉バスや福祉車両も運行しています。福祉バスも利用者に聞くと家からバス停まで遠い。福祉車両は一週間前に予約が必要。目的地が公的機関や通院、通所に限られるということも聞きました。いろいろな制約があり、利用者が一番困っているのは行きたいところへいつでもどこへでも行けないということがはっきりしてきました。この点でタクシードライバーが介護の知識や移動の技術を身につければベッドから車、車からベッド、ベッド ツー ベッドでブリッジすれば連続性を持たせるサービスができるのではないかと社内で考えました。会社ではこれでやろうと決まりましたが、このサービスは従来のように、会社が指示してできるサービスではなくドライバー自身のハート、モラルが不可欠なことですので、社内の96名の乗務員に集まってもらって説明をしたら8名の希望者がいました。平成9年の10月頃の話です。

○導入準備

 福祉関係者に何が必要か聞くと、ベッドから車椅子というようにどうしても身体に触れるので2級のホームヘルパー資格が必要だということです。そこで、当時ニチイ学館の通信教育で6ヵ月コースを受けながら、社内では病院の先生、看護婦さん、障害者の方に来ていただいて勉強会をやりました。平成10年の4月、デスクワークだけではわからないと、2週間だけ地域の障害者や老人会の方にモニターを頼みました。その内容は、「福岡県内に限るけれど皆さんの行きたいところにどうぞ」ということで募集しました。50名の応募で、22名の方にお願いしましたが、4割が病院などへ、あとの6割は日帰り温泉や花見、昔住んでいたところとか日頃できない楽しみで利用されました。
 このモニターの中で、2級ホームヘルパーの研修は家の中の介助が主で、なるべく寝たきりの人を外へお連れしたいという我々が目的とする外出介助や砂利道、階段の車椅子の上げ方など基本的に一人で行うカリキュラムが、いろいろな機関に相談しましたが何もありませんでした。危ないからやめろとか家の中の方が安全だといわれる。しかし、始めたからにはみんなで作り上げようとあらゆることをしました。神社の階段を借りたり、利用者の方の庭先を使ったり、それと一番大事な心のふれあいを何回も繰り返しました。普通2級ヘルパー資格は135時間受講すればいいのですが、我々は170時間くらいやってきました。会社も勤務がばらばら、彼らも所得や勤務がばらばらになりました。そういう状況の中でスタートしたのが平成10年8月24日です。


○順番は客・社員・会社

 スタートするときには、明日から新しい職業なんだという認識が生まれていました。乗務員は作務衣を着ていますが、最初ネクタイもしないで失礼ではないかとも言われました。彼らには地域に役立つ新しい職業なんだという認識があるからそれを脱ぎませんでした。ドライバーを目指した最初の目的は不純でも何でもいい、それぞれ状況が違いますから。でも研修を受けることによって、自分たちは何を大切にするか、地域に役立つものは何かができてきます。会社が倒産してもタクシー会社はいっぱいあるからお客さんは困らない。しかし、彼らがいなくなったら即その日から困るといわれるドライバーになってほしいと話しました。順番も会社としてははっきりしています。まずお客さん、それから社員、そして会社。会社が潰れてもこの順番だけは間違えまいとやってきました。

○ケアドライバーが変える生活

 8月スタートした頃は1日3件、それも通院通所。現在、この3月で、1日15件あります。タクシードライバーは1人当たり平均収入が5%減収ですが、ケアドライバーはわずか1%ですが上がっています。利用される内容は大きく変わってきています。ここ2年間で、一番遠くで北海道旅行を男性が5泊6日、女性が3泊4日で行かれました。空港まではケアドライバーの車で、北海道へ着いてからはレンタカーで、地域の観光は車椅子です。女性の場合は女性ケアドライバーが7人います。もちろん大分とか1泊旅行もあります。7割は通院通所、3割が自分の目的のために利用されます。
 高齢者や障害者は閉じこもりの方が多いのですが、彼らが手助けすることで元気な姿で社会参加できることでおしゃれ心と繋がります。女性の方は旅行に行く前に美容院に行かれ、車椅子の男性の方は靴を買いに行かれます。ソフトな部分が大切です。移送の技術も大事です。でも一番大事なのはハートです。入浴依頼も来ていますが、入浴は30分であと2時間半は話相手。もちろんボランティアではありませんからそれなりの対価はいただきますが、今のタクシーメーターからはずれた付加価値というか、これから規制緩和などで料金の値下げなどいろいろふりかかってくるとき、彼らはメーター機を離れ、メーターの価値観を補おうとするだろうと思います。タクシードライバーの一回乗務の平均は900円で、ケアドライバーは回数は減りますが1回3,000円位です。当社は平均月15日、1日拘束時間は16時間、拘束時間のうちハンドル時間はだいたい6時間。後の時間は休憩やお客さん待ち、その時間をどのように利用するのか、1時間あたりの労働単価を4,000〜5,000円目標にがんばっています。


○モラルの高いケアドライバー

 みなさんに知っていただきたいのは、当社も旅客運送事業ですので、運輸規則等いろいろ法律があります。当然守らなければなりません。その中で新しい職業として取り組んでいますので抵触する部分があるかもしれませんが、一般の健常者も含め何を求めているかということです。
 いま遠賀タクシーとメディスは、ケアドライバーとして呼ばれたときは指定料をもらっていますが、これをはずした場合、構内で待っていても7割の方がケアドライバーに行くでしょう。でも私のところもタクシー乗務員の社員がいて、いろいろな事情があって資格を受けられない乗務員もいる。そういう乗務員のことを考えると安易にできないのです。乗務員も逆に言えばそういうことで健常者に対する心の痛みがケアドライバーには分かってきていると思います。その証拠に当初8名だったケアドライバーは今は26名(内女性7名)いて、それ以外に5名がヘルパーの2級を取りに行っていますが、過去2年間このケアドライバーたちは1回も自損事故がない。それと近距離、ワンメーターのお客さんとのトラブルが1件もない。会社としても事故がゼロというのは意外でした。彼らの話を聞くと一般の健常者の人も見かけは健常でも内臓疾患とか持たれている。それを思うとまずアクセルが踏めない、スピードが出せないと言います。彼らの地域における評価は、会社のマークのキントン雲や乗務員が着ている作務衣を見ると「安心する」と地域の方は言います。
 4月1日からは介護保険が施行されますが、ケアプランの中に入れられている方が7名います。輸送ではなくて家から車まで下ろす身体介護です。病院へも行きますから家事援助もメディスでやってくれという方が3名います。家事援助は女性ドライバーが行っています。これからもう少し利用者が増えれば効率良く、行って帰るだけでなく流れの中で連続性を持たせれば彼らの所得にもつながると思います。
 メディスはタクシー協会とはある面で逆方向を進んでいますので、迷惑をかけてはいけないと協会を脱退しました。メディスがこのサービスを全国の経営者の人たち、他産業でもいいから意を汲んでくれるところからネットワークできれば、先ほど北海道の話をしましたが、北海道にこういうケアドライバーがいれば、何日もの宿泊を利用者が負担しなくても済む、高齢者の人がいつでもどこでもと行動範囲が広がればいいと今後もやっていきますし、そのためには業務提携もします。
 ケアドライバーは3期生までいますが、2期生・3期生に対しては会社は指導も何も一切しません。1期生が全て希望者を募って彼らが教えています。ケアドライバーに望むことは、今の気持ちを謙虚に一人でも多くのケアドライバーを育てていただきたいということです。メディスがいつ潰れるか分かりません、このままいって通用するのか分かりません。メディスも今は実験の段階だと思っています。助成金もとっていません。民間企業が助成金なしでも事業として成り立つんだという実証を今からやります。できないかもしれません。でもメディスの会社としてはその姿勢を崩さず全国的にネットワークしていきたい。それとドライバーたちが謙虚な気持ちを持ち、メーターのスピードではなくてモラルが所得になるということを、ドライバーたち自身に示していただきたい。今後の課題だと思っています。


『協同の発見』5月号目次ケアワークドライバー研究会の企画と課題 | 河内則夫「新たな仕事おこし メディスのとりくみ」
高野修「自交総連大分のケアワークドライバー運動」

協同総合研究所(http://jicr.org)