ホーム :


  6/13 CPF Pablo Iglesias 家族計画の協同組合


前へ

次へ

 今日は、「CPF Pablo Iglesias」という協同組合を訪ねる。最近はマドリードの連合会も忙しいんだかなんだか、週のあたまに予定表だけ渡してくれて、後は自分で地図で場所を探して、勝手に行って話を聞くようになっている。前もって予備知識を持たずに行くため、行ってみて初めて何の協同組合かわかることも多い。まあ、事前に聞いていようがいまいが、あまり関係ないのだが…。

 それはともかく、今回のCPFは、英語で言うとFamily Planning Centreということで、日本語で言うと家族計画センターなのだそうである。はっきり言ってこの手の活動についての予備知識は、歯医者について以上に持ち合わせていないので、一瞬たじろいだけれど、気を取り直して話を聞いた。 応対してくれたのはこの協同組合の設立メンバーの一人であるイサベル・セビージャさん。女性に年齢を聞けないのでよくはわからないが、40代ぐらいか?

 正確には、家族計画についての相談カウンセリングや婦人科のクリニックが主な事業内容で、現在組合員は5人。社会学、化学、病理学の専門家と教師、ソーシャルワーカーからなる。医者はおらず、外部の医者と契約している。

 活動開始は1978年。その当時、フランコ体制後のスペイン社会では、中絶や堕胎は認められておらず(離婚も)、それは、強姦などの場合であっても同様であった(宗教的な理由だそうです)。そこで、イサベルさんらが、中絶を仲介したり、ピルを処方したりする活動を開始したが、当然違法であった。非合法的に中絶をする医者もいたが、金額が高かった。

 イサベルさんらは、相談に来た女性をイギリスまで連れていって中絶していた。他にそのようなところがなかったため、お金の無い人々に口コミで広がり有名になったが、新聞に取り上げられ、警察の手入れを受けたこともあった。その時は事前に知らせてくれる人がいて、逃げることが出来た。

 1981年に労協を設立、しかし、その当時も社会保険の対象外であり、経済的には非常に厳しかった。しかし、その後、状況は大きく変わり、現在は、活動自体は合法(中絶が合法かどうかはちゃんと聞かなかった)になった。また、公的医療機関でも同様の相談や治療を受けられる様になった。

 ここまで、話を聞いて、ようやくピンと来た。「要するに、あなた方の活動は、一種の女性解放運動の中から始まったんですね」と聞くと、「その通りだ」と言う。一番最初は、社会党が資金を出し、事務所を借りて、30〜40人のほとんど無給ボランティアの活動だったという。その後、社会党とは直接の関係を持たなくなり(資金も最初だけ)、活動の拡大につれ、数人の専従態勢となり、協同組合を設立したのだと言う。他の法人組織は考えなかったのか?と聞くと、考えないことはなかったが、労協が一番ふさわしいと思ったそうだ。

 「それで、女性解放運動の成果はあったと思いますか?」と尋ねると、「実際に状況は大きく改善された、しかしそのおかげで公的機関で安く誰でもピルが手に入れられるようになり、私たちの経営はより厳しくなった」ということだった。スペインの出生率は、現在1組の夫婦に対し1.5で(日本は1.4だったと思うけど)ヨーロッパで一番低く、女性の社会進出も大きく進んでいる。ただ、やはり小子化による社会の活力低下は心配しているとのこと。しかし、ここの活動は、この種の活動としてはスペインの中でも最も古く、名も知られており、ほとんど宣伝はしなくても口コミで相談に来るそうだ。今ではもっと生むように指導しなければならなくっているなんて言っていた。

 今後の活動の展望を聞くと、エコーの機械などを新しくする予定があるが、ここは資産が無く、人だけの組織なので融資が難しいとのこと。また、経済的な状況から、今のところ組合員は増やす予定はない。しかし、公的医療機関では、問題があって相談に行っても、手続きに時間がかかり、相談や診察の時間も短いため、ここの協同組合のように時間を取ってじっくり話を聞き対応してくれるところへの需要は大きい。多くの人にとって唯一の問題は金銭的なことだけだそうである。

 最後に、組合の名前の「パブロ・イグレシアス」って何ですか?と聞いたら、何と1880年代にスペイン社会党を創設した偉い人!の名前だった(知らなくてスミマセン)。以前は、名前を変えた方がよいのでは?という議論もあったが、今では歴史的な名前としてこのままにしておこうというようになっているそうだ。日本だったら協同組合に「賀川豊彦」とでも名づけたと言おうか…。最近の若い人はパブロ・イグレシアスなんて知らないので、「パブロ・イグレシアス先生に予約をお願いしたいのですが…」という電話がかかってくるんだと、イサベルさんは苦笑していた。

 感想としては、初めにも言った通り、予備知識、特に日本の家族計画の状況を全然知らないので、ああそうですかと聞くしかなかったわけである。しかし、今まで訪ねた協同組合の中では、初めて社会運動の中から生まれた協同組合であり、非合法下で活動していたこともさる事ながら、ほとんど経済的には成り立たない厳しい状況の中で、イサベルさんらの当時若かったメンバーが、理想と情熱に支えられてここまで継続してきたことは想像に難くない。その意味では、今の労協の状況と似ていなくもない。そこで、日本の労協の状況について説明しようと試みたのだが、(おそらく私の英語が分かりにくかったのか、興味をそそれなかったのか)あっさり、話題を変えられてしまった。トホホ…。

 ところで、今、日本ではピルは、許可されていないんですよね…。イサベルさんにそう言ったらどうしてだと聞くので、エイズのせいじゃないかなと言っておいたのだけど…。

 だんだん暑くなってきて、連日30度を超しています。でも、日陰は風が吹いてさわやか。日本とは全く違う感覚です。日差しはとても眩しい。サングラスがほしい!。

今日はこんなところで。(~o~)/~

]]]] 菊地 謙 [[[[


ホーム

次へ