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編集後記
インターネットを活用することで、
研究所の活動はどうなったか(2) ホームページの効用と「大改装作戦」
手島 繁一(協同総研常任理事/法政大学)
■依然として続くアクセス数増加の波
前号でもお伝えしたように、協同総合研究所のホームページ(HP)へのアクセス件数急増の波はその後も続いています。前号原稿執筆時点で約600件であったものが、この原稿執筆時点で900件を超えています。1ヶ月で300件、一日平均10件ということになります。この数字はネットの専門家に言わせると、「常連客を獲得した初期段階」ということになるそうです。言い換えると、ネット上でHPを維持していくだけの効用は何とか認められたにすぎず、勝負はこれからということになるでしょう。
■世界に開かれた研究所の窓としてのHP
前号では触れませんでしたが、HPの効用とは一体なんでしょうか。大きく言って二つあります。
その第1は、情報を外に向かって発信するのに、HPは大変優れた効用を発揮するということです。研究所の存在そのものをPRするツールとしてこれほど有効なものはありません。
これまでのパブリッシング方法と比べてみましょう。例えば、パンフレットを制作して配布することなどに比べれば、ネット上にHPを立ち上げることがいかに優れた方法であるかがわかります。
まず、コスト面。印刷物とは比較にならないほど安上がりです。かかるコストは、プロバイダー利用基本料金、HP掲載利用料金、電話代などの通信維持コストで、1ヶ月約5000円以内。制作コストは今のところわたしがボランティアでやっているのでタダ。これだけです。しかも、この料金で10MBまで利用できますから、単純計算で日本語500万文字、400字詰め原稿用紙に換算すると1万2500枚。画像や写真によって提供する情報もありますから、文字情報はその半分以下というのが実際の姿ですが、それにしても新書15冊程度の文字情報がHPに掲載・蓄積できるということになります。
デジタル情報の一般的なメリットとして、情報の更新や変更がきわめて容易であることがあります。つまり最新の情報を即座に、あるいは柔軟に伝えることができるということです。印刷物の場合、最新の情報を追加したりあるいは変更するにはいちいち刷り直さなければならないので、大変な労力とコストを投入しなければなりません。当然、情報伝達の速度はその分遅くなります。
また、情報を伝える範囲という点を考えても、インターネットはそれこそ全世界を対象としていますし、対象者を限定していません。もちろん全世界を対象としているといっても、言葉の壁がありますから、英語版やその他の言語対応のための作成者側の努力は必要となりますが、わが研究所の人材を活用すれば、この壁を突破することはそれほど難しいことはないでしょう。
HPは不特定多数をコミュニケーションの相手としています。このことは実は私たち自身のコミュニケーション能力の改善と向上を強いることにもなります。これまでのいわば伝統的、アナログ的なコミュケーションツールは、ある特定の相手とのコミュニケーションであることを前提にしています。ところが、ネット上でHPを公開した途端、例えば労働者協同組合だとか、協同組合だとかについて全く知らない人々とのコミュニケーションが始まります。特定の仲間内でのジャーゴン(専門的術語)や言い回し、独りよがりの説明などは全く通用しない世界に乗り出すわけです。
研究所のHP=JICR.ORGは、世界に開かれた研究所の窓であり、本格的な他流試合の場であるいう位置づけができそうです。労働者協同組合法を世に問い、労働者協同組合と高齢者協同組合を21世紀の社会と経済にとって不可欠の組織・運動として認知させようという研究所の戦略に、まさにうってつけのツールがHPであるといえましょう。
■研究所内のコミュニケーションを活性化するツール
第2は、内部的な効用で、研究所内のコミュニケーションを活性化させ、同時に活動を効率化させる効用を発揮します。
インターネットの真価は「情報民主主義革命の推進」であるという議論があります。わたしもこの半年ほどインターネットを利用する中で、このテーゼをなるほどと実感するところがあります。皆さんも、「東芝インターネット事件」はご存知だと思います。東芝製のビデオを購入したある「消費者」が、ビデオの不調について東芝の「ユーザー・サポート・センター」に訴えたところ、その対応があまりに不誠実だったのに頭にきて、対応の逐一を自分のHP上で音声付きで流した。このHPに何と1週間で100万件近くのアクセスがあった。まさにメガサイトになってしまったのです。これにあわてた東芝側は、本社副社長がわざわざ出向いて謝罪する羽目になった。「事件」の顛末はこんなものなんですが、この事件から「弱い立場にある消費者が、一人でも巨大企業と対等に闘え、かつ勝てる時代がきた」と評価するのは行き過ぎだとしても、確かにインターネットというツールの可能性を示唆する衝撃的な事件ではありました。この事件に焦点を当てた雑誌『論座』最近号の座談会では、「『一人社会運動』の可能性」が論じられています。
それはともかく、インターネットはインタラクティブ(双方向的)な情報のやりとりに最適で、最も簡単なツールであることは確かなことだと言えましょう。この利点を研究所の活動に活かさない手はありません。
例えば、これまで理事会や事務局会議といった諸会議、あるいは研究会や国際フォーラムといった催し、研究所の基本的な活動については、事前にパンフレットや会議通知などを印刷して会員の皆さんに郵送してきました。また、会議や催し物の結果についても基本的には『協同の発見』誌でお伝えするようにしてきたわけです。
ですがこうした方法はある程度のタイムラグを覚悟しなければなりません。情報の鮮度が落ちることになります。情報そのものの価値も減退し、人々を引きつける魅力に乏しいものになりがちです。
もちろん、情報そのものを作り上げる手間は、インターネットを利用したからといってなくなるわけではありません。どのみち、会議通知文書を書いたり、研究会の報告レポートを作ったりする作業は必要です。問題は、そうして制作した情報を伝達・流通させる手間ヒマが劇的に軽減され、伝達・流通の範囲、精度、速度、柔軟性が格段に向上するということなのです。
情報の鮮度が保たれれば、それだけ情報価値が高まりますから、情報をほしがる人が増えます。つまり情報へのアクセスが増えることになります。そうすると、そこに新しいコミュニケーションの可能性が生まれることになります。
こういった循環、懐かしい言葉で言うと情報を通して、情報そのものとコミュニケーションの拡大再生産の軌道を作り出すことが必要ですし、また可能です。
ただ、こういった好循環あるいは拡大再生産を可能にするためには、それなりの主体的改革が必要です。情報化社会ではインターネットに限らず、「より情報を発信するところに、より情報が集まる」鉄則が働くからです。つまり、「より多くの情報を発信」できるシステムと「より多くの情報を集」めやすいシステムを同時開発することが求められているのです。
そこで、研究所は以下の二大プロジェクに取り組むことにしました。
その1:HP大改装作戦
その2:「協同ネット」立ち上げ作戦
■HP大改装作戦
現在のHPは1999年度の総会に間に合うように作られたものですが、時間的制約もあってか必ずしも、制作者側にとってもまたアクセス者側にとっても使い易いものではありません。最大の問題は、先に書いた「HPの2大効用」のいずれにしても中途半端になっていることです。コンセプトがはっきりしていないということです。
トップページは「研究所の世界に開かれた窓」の入口なんですから、わが研究所が何を社会に訴えようとしているのか、またわが研究所とは一体何を目的にした組織なのか、ということが書かれていて当然なのですが、それが全くないという欠陥があります。ちなみに、前回紹介した吉田さんに作っていただいたイタリア語紹介ページ表題「Chi siamo」とは英語では「Who are we」、つまり自己紹介なんです。
またHPの第2の効用、すなわち理事会・事務局と会員間、あるいは会員同士の間でのインタラクティブな交流を図る工夫がされておらず、研究所の外部むけ情報を一方的に発信するスタンスになっていました。
そこでこの点に検討を加えた上で、HPの改革に取り組むことにしました。名付けて「HP大改装作戦」です。
11月27日、「HP大改装作戦」の第一弾として、トップページの改装見本を制作しHP上に掲載しました。以下のURLでご覧ください。
http://village.infoweb.ne.jp/~kyodoken/newtoppage.html 簡明な国際ドメインを利用したい向きには、http://jicr.org でトップページにアクセスした後、リンク一発でたどり着きます。
上記のURLでアクセスしていただければ一目瞭然なのですが、新しいJICR.ORGは次のような構成になっています。こうしたHPの構成全体を表す言葉としてサイトという言葉がよく使われますが、文字通り「家」をイメージしてもらった方が分かり易いと思います。そうすると、以下の各構成部分は「部屋」ということになります。(1)のトップページだけはやや特殊で、「家」全体の見取り図もしくは案内図ということになります。
(1)トップページ
(2)研究所のご案内
(3)労働者協同組合法の部屋
(4)海外ワーカーズコープ情報
(5)協同ネット
(6)所報『協同の発見』
(7)研究所の諸会議・活動
(8)出版物のご案内
(9)更新履歴
(10)入会のご案内
こうした内容の新しいトップページの見本をネット上で公開してご意見を募ったわけですが、意外な人から反応がありました。法政大学大原社会問題研究所名誉研究員・元所長の二村一夫さんからでした。「わりあい軽いし、品よく、かつ適切な情報が表示されていると思います。・・・現在のホームページよりずっと良いと思います」。
法政大学大原社会問題研究所は、比較的早い時期からインターネットの活用に取り組んだこともあって、そのHP=サイトであるOISR.ORGは日本の社会科学系研究所の中では最も充実したサイトの一つであるとの評価を受けています。このサイトを開発したのが二村さんであることは、わたしもよく知っていただけに感動ひとしおでありました。
これに力をえてという訳でもないのですが、12月13日には「労働者協同組合法の部屋」の見本ページも作って、ネット上で公開しました。http://village.infoweb.ne.jp/~kyodoken/lawroom/lawroomtop.htm
もちろんこの場合も、http://jicr.org でトップページを開いた後、リンク一発でたどり着きます。
さて、「HP大改装作戦」の成否は会員の皆さんのご協力がいただけるかどうかにかかっています。とりあえず、上記の見本ページをご覧いただき、ご意見をお寄せくださるようお願いします。
■「協同ネット」の構想
「協同ネット」構想については、現在検討のさなかにあり、構想自身が固まっているわけではありません。字数の関係もあって、さらに煮詰めた構想を次回には皆さんに提起したいと思います。今回はラフなイメージを述べるにとどまることをお許しください。
発想はこういうことです。会員間の交流の活性化に研究所のサイト=JICR.ORGを利用できないものか?例えば、会員名簿みたいな形で、名前、性別、年齢、所属、専門分野、研究あるいは活動経歴などをデーターベースにしてサイトに掲載することは、よくあることですし、可能です。でもこれではありきたり!そこをもう一歩踏み出せば、会員自身が自分のHPを作った方がおもしろいということになります。ただし、My Homepageを立ち上げ、維持・運営するのは個人にとってはかなり難しいことでもあります。パソコンを買わなければならない、プロバイダーと契約しなければならない、メンテナンスが大変・・・などの困難を思っただけでも、たちまち意志が萎えてしまうというのが現実ではないでしょうか。
そこで「協同ネット」の登場です。JICR.ORGというサイトの一部を「協同ネット」という形で会員の自由な情報発信の場として開放します。これでとりあえず、自分の情報発信に場が確保できます。
次は、発信する情報をどうやって制作するのか、ということになります。案ずるより産むが安し。ここも私どもがお手伝いします。必要とあれば、コンピューターの購入、セットアップ、インターネットとの接続、My Homepageの作成まで万事やってあげましょう。子どもたちのインターネット接続環境を整備するためのお父さんたちのボランティア組織で巷で評判の「インターネットつなぎ隊」の協同総研版というわけです。
新しい技術には試行錯誤はつきものですから、次回までにはどういう有様になっているのかは、わたし自身も想像がつきません。次の報告をお待ちください。
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