『協同の發見』1999.11 No.91 目次

主催者挨拶
労働者協同組合法を本格的な社会運動に
――日本労働者協同組合20周年を迎えて
 

永戸 祐三(東京都/日本労働者協同組合連合会)
 

◆20周年を迎えた労働者協同 組合の運動

 私たちの運動がはじまってから20年を迎えます。私自身17年間関わってきまして、感慨ひとしおというところです。今の到達点がどうなのかということと同時に、今日のような研究会が開けるところまでこの取り組みが進んだことに、深い感慨を覚えます。

 20年の歴史の中で、1979年から1989年までの10年間は、「労働者が労働者のままで事業経営をすることに意義があるのか」ということと「それが成り立つのか」ということが、最大の焦点でした。この中で実践を通じながら、1989年の10回総会に、帆船が海上を行く姿になぞらえたポスターを今でもよく覚えていますが、「今私たち労働者協同組合」とコピーを書き、私たちは労働者協同組合という船出をしましたと訴えました。1989年から1999年の今日までは、「現場での実践の中に協同労働といえるような質があるのだろうか」「自分たちの事業経営が地域社会とどう結んでいるのだろうか」と、全体として否定的な見解もありながら、自分たちが事実をつくっていく中で20年を迎え、こういう研究集会ができることになってきたのだと思います。

 労働者協同組合法を提起した以上、これが成立するとすれば、すべての働く人や市民がこの法律を必要だという認識になるということでしょう。すなわち、そういう社会運動として労働者協同組合が成立するということにならなければ、当然法律の制定もあり得ないだろうと思います。また法律の制定によって、新しい社会運動が本格化するということにもなるでしょう。

◆21世紀の社会に、労協法は どのような意味をもつのか


 集会にあたって、海外からの代表の方々にわざわざ招きに応じていただいき感謝しております。この法案を最初に手がけたのが1995年、協同総研を中心にしてはじめて、約2年前から宮坂先生を中心に学者の方々にご努力をいただいて、法律案がうまれてきました。このことについても、連合会を代表して心よりお礼を申しあげたいと思います。ありがとうございました。
 私はこのフォーラムで、ないしはこの20年の歴史の上に立って、労協法を成立させるということについて、私自身四点ばかり焦点を持ちながら参加させていただいております。
 一点目は、企業がすでにかなり前から、だぶついた雇用を抱えている必然はもうない――雇用に責任を負うことが企業の使命ではない――とはっきり言いはじめ、一方では、待遇の問題がありながらも、雇用されない自立的に働く人が増大している現実と、労協法がどう関わるかという問題です。

 二点目は、労協法の成立によって協同労働がこの社会に位置付くならば、協同労働と雇用労働の相互関係は一体どうなっていくか、ということが探求されなければいけないと思っています。

 三点目は、失業の恒常化・増大に、働く者や市民はどう対抗戦略を描いていくのか、ということです。緊急雇用創出の政府案でも、ヨーロッパで言われている社会的経済という分野でしか雇用は創出できないのではないかという現実が示されている中で、失業問題の解決や新しく人間的に働く場をどう創出していくかという、働く側・市民の側からの対抗戦略をえがくとすれば、労協法がどう位置付くのだろうかという問題なのです。

 四点目に、協同労働の協同組合である労働者協同組合が法制化されていくことになった場合、既存の労働組合や協同組合との関係が一体どのようなものになっていくのであろうか、ということです。21世紀の労働組合運動や協同組合運動にとって、この労協法はどのような意味を持っているのであろうか――これらのことが私自身の関心事であります。

 全体として働く者・市民の自立と発展を保証し、地域ないし社会全体を人間らしいものに再生することにとって、労協法が意味を持つのかどうかという中心的テーマについて解きほぐしていただきたい、その点でも、この研究集会に強い期待をもっています。

◆労協法は人間性を求めて手 を繋ぐ人びとの後ろ盾に


 振り返ってみますと、物がまだ充分なかった頃、労働運動は総評でつとに有名になったように、一人ひとりが闘うのは恐ろしいけれど、闇夜に手を繋いで――といって春闘をやった。いま現実の社会は、高齢者の自殺が増え、また40代から55歳くらいの一番働き盛りの世代の自殺が40%以上もふえています(死因の第2位)。日本で31,734人もが自殺をするという社会にあって、抵抗して闘い、要求を実現する、主に企業の経営者に対してそれをやっているだけでは、いまの社会を変えていくことはできないのではないでしょうか。自殺が増大する社会、失業が当然のごとくされるような社会はまさに闇夜であります。労働者や市民が闇夜に人間性を求めて手を繋ぎ、自ら必要な運動とともに自ら仕事=事業をおこす――その保障となるものが労協法ではないかと、私自身は強く自覚して、これが本格的な社会運動になるように先頭に立ってがんばっていきたいと思っています。
 お忙しい中、こうして参加していただいた多くの方々にお礼を申し上げるとともに、海外代表からさまざまな経験を披露していただいて、学びきっていきたいと思います。

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