『協同の發見』1999.7 No.87 『協同の發見』目次

会員レポート・活動紹介


杉本時哉(協同総研前理事長/顧問)

◆理事の鈴木勉さん(広島女子大教授)から「ノーマライゼイションの理論と政策」(萌文社刊、1999.4、2400円+税)の贈呈を受けました。収録された全10章の論文は、いずれも過去に先生が発表されたものだそうですが、障害者の共同作業所運動に深く実践的に関わってこられた先生だけに、その折々の必要に迫られて執筆された各論文が説得力をもっていて、しかも理論的にも政策的にも大変読みごたえのある内容となっています。福祉に関わる課題を考える上で大変勉強させられました。1章 ノーマライゼイション思想と共同作業所運動。2章 福祉の民主的再生と主体形成、3章 福祉供給システムの転換と非営利・協同組織の役割、4章 住民協同による障害発達のまちづくり、5章 高齢時代の福祉課題、6章 公的扶助の目的と位置、7章 介護保険制度の導入と協同組合の課題、8章 障害(基礎)年金制度における障害認定の諸問題、9章 ナショナル・ミニマムと社会福祉運動、10章社会福祉運動の意義と課題、がその章題で、とかく当面の課題に追われがちな実践家にとっても実際例や歴史的経過も含めて、整理し考えさせられるところが多いと思います。福祉問題を専門領域としない会員の方々にもぜひお読みくださるようお勧めします。

◆会員の平石裕一さん(協同金融研究会事務局長・早大講師)からは「地域再生の協同金融・金融危機を超えて」(地域産業研究所刊、1999.6、2800税込)を戴きました。この本の後書きで「正直な話、『市場経済下の協同金融』発刊後。こんなに早く次の出版ができる程発表小論が多くなっているとは気が付かなかった」とあり、出典目録も示されてますが、この本も鈴木先生と同様、既発表論文を主に収録されたものです(X章のみ書き下ろし)。著者の精力的な活動の一端は本誌のこの欄でも紹介したことがありましたが、あらためて第T章 金融危機と協同金融・7節、第U章 ビッグバン進展と協同金融・5節、第V章 金融取引チャネルの再構築・2節、第W章 地域再生の協同金融・3節、第X章 生き残りを賭して・5節、第Y章 新時代の協同組織金融性について・4節、第Z章 銀行の社会的責任・4節、第[章 協同金融らしい融資の在り方・5節に構成されてみると、どうしても重複する部分があるとはいえ、結構体系的に、協同金融の現状、その問題と課題について整理されています。しかも著者の極めて実践的でかつ協同組織金融に対する期待、それ故の苦言も含む思い入れの深さが伝わってきて迫力に満ちています。協同金融研究会創設以来共にしている私ですが、あらためて教えられるところが多く、共感しました。内容的には専門的な用語もあり、金融分野以外の人に取りつき難いかもしれませんが、ビッグバン下の金融危機が庶民や中小企業者、地域や社会環境に及ぼしている問題の深刻さを考えると、この本をぜひ読んで戴きたいものだと思い、私からも多くの方々にお勧めします。

◆この他、最近は世界各国から会員の海外レポートを戴き、本誌にもその都度紹介してきていますが、イタリアからの田中夏子さんのレポート(本誌所掲)が、いかにも田中さんらしい実践的現場主義の意欲に満ち大変嬉しく思いました。今後のレポートが楽しみです。
                            


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