|
||
巻頭言
筑豊発:地域福祉構想と福祉工場 永戸祐三(日本労協連理事長)
今回、筑豊で作ろうと計画している「福祉工場」の構想の意義や意味を改めて考えなければならないと思います。
先ず、市民主体の福祉制度ということです。措置制度の中にあった日本の福祉は介護保険制度を頂点として、根本から変わろうとしています。市民・利用者主体への福祉の転換が図られ、障害者であれ、高齢の要介護者であれ尊厳ある生き方ができるような地域を作ることが求められています。その中にあって、この「福祉工場」がどういう意味を持つかを焦点に考えなければならないでしょう。 2点目は、それが現実に可能なのかということです。「福祉工場」は我々の企画の段階ですが、労働省が中心となった補助が認可されれば、工場そのものはできるでしょう。問題は、そこでつくられた椎茸やトマトが本当に販路に乗るのか、現実にこの工場を維持発展させ、障害者の自立を促し、市民・利用者主体の福祉への転換するという切り口を作れるようなものにこの福祉工場を作っていけるかということです。ここには、筑豊地域で新しい福祉を作り上げていくための工場であり、製品であるというメッセージが届けられるか。みんなが共有できるネットワークをどう作るかが問われるのではないかと思います。 3点目に大きな意味で展望はどうかということです。歴史や時代というものについてこの取り組みが適合性を持っているかを我々は客観的に問わなければいけないでしょう。公共事業の位置付けが変化してきています。終戦直後の荒廃から失業対策事業などの公共事業によって一人一人の収入に最低限の保障をし、その事業効果として道路や社会資本に類する基盤を作った公共事業が第1ステージでした。第2ステージは1960年代。高度経済成長政策で民間企業を通じて公共の金を投下し、様々な事業を育てていった。第2ステージは民活型の公共事業で、ここで民間営利企業をビッグビジネスとして国家が育てた。この時はどんどん生産が上がり貿易立国となって日本が豊かになっていった。そしてビッグビジネスが一人歩きを始め民活依存型の公共事業が破綻を来した。そこで出てきたのが第3ステージです。日本が一定の経済力をもち、一人一人の市民や労働者の自覚の程度が10年、20年前とは雲泥の差となっています。市民自身が市民自身の手でこの地域の主人公は自分たちだといえる事業や運動が本当に育つのかという問題が問われています。第3のステージの公共事業は市民主体であり、市民主導の福祉であり、公共事業であるということに転換できなければならいでしょう。そうした目でこの福祉工場をながめると、地域の人がほんとうにこの公共事業を必要とし、地域で生活する市民一人一人にとって福祉工場がどういう展望を持っているのかを吟味してみる必要があるだろうと思います。地域づくり、町づくりを自分たちがやる。その事業経営を自分たちがやるという市民が登場してくることに一番大きな展望と確信を見出すべきではないでしょうか。それは公共事業の大きな変遷の流れからいっても、時期を得ている取り組みであろうと確信しています。 4点目に、現実的な展望です。椎茸とトマトを生産して1億3000万円の事業規模にするという枠組みを作っています。実際にやり始めると就労形態にしろ、さらに付加しなければならない事業にしろ、工夫しなければ簡単にできるものではないでしょう。各省の制度を習熟しつつ、自分たちの報酬は自分たちの生産販売活動、事業活動で得るんだという基本の構えをもって制度を活用れば、現実的な展望ははっきりつかめると思います。しかも働いている人が主人公の経営や運営は、私たち労働者協同組合が20年の間、苦労に苦労を重ねて来ましたし、その集大成として、労働者協同組合法を現実に提案する段階に来ているわけですから、それは必ず成功すると思います。 最後に我々自身の構えということです。日本中に同じ様な環境・境遇にいる人がたくさんいらっしゃいます。全国観点をもって筑豊だけで良しとするのではなく、苦労してやってきたこの取り組みを全国にこういうことができるとメッセージを発信していかなければいけない。そして、他の地域でも市民がやろうとすればいつでもできるように、それを保障する市民事業を育てる協同労働の協同組合法を全体の力で通していこうと思います。 この筑豊の地域に福祉工場を作り、介護保険の運用を市民自身でやり、地域福祉事業所を作ることによって大きく地域の流れを変えていくことができる。このことが日本中へのメッセージとなり、10年、20年経った時に、ほんとうの意味でこの筑豊は市民が新たな発展の軌道をひき、我々が地域を充実させていったと言えるように、日本で先鞭を付けた地域だと言えるように是非なって頂きたいと思います。 国・自治体への提案、市民の訴え行うために、国から建設のゴーサインが出た段階でもう一度本格的な集会をやれないでしょうか。そのことを前提として以下のような行動提起をさせて頂きます。1点目は福祉工場構想を市民みんなに知らせて、市民の力でこの構想を実現しようと広く訴えかけること。2点目はこの構想を豊かに発展させ進めていくために、市民会議のような推進母体を作ること。3点目はヘルパー講座を自分たちの手で開催して、1中学校区に1カ所を合い言葉に福祉事業所を作ること。これが新しい福祉のネットワークになっていくでしょう。4点目は誰もが市民自身の手で事業を起こせるように協同労働の協同組合法を早期に成立させ、あらゆる分野で市民・労働者が地域のために仕事おこしをやる流れを作ろうと呼びかけることです。 この事業を成功させるためには、地に足の着いた具体的行動計画を持って、着実にその歩みを進めると同時に、我々の取り組みが全国民にとって大切な、しかも新しい流れを作る取り組みなのだという観点を持つことが重要だと思います。実は、この11月25、26日に一つの区切りとして「いま『協同』を拓く2000全国集会」が東京で行われます。この集会に「福祉工場」の構想を持ち込んで、この取組を全国で行うように呼びかけることを最後に訴えて、ご挨拶に代えたいと思います。(9月10日に行われた「筑豊復興シンポ」から) |