『協同の發見』2000.10 No.101 総目次
特集:労協法制定を今こそ(8)

地域を再生する「新しい公共事業」へ!
第一弾 筑豊からの発信

菅野正純(日本労協連副理事長・協同総研副理事長)

 9月9日、福岡県田川郡川崎町の川崎福祉センターで、「福祉・ケアの時代に筑豊復興の新たな進路を考える――公共の責任と市民主体の公共事業への転換:労協法の視点から」と題するシンポジウムが開かれました。
 これは、日本労協連、福岡県高齢協筑豊地区連絡会、川崎町中高年事業団の三者の共催によるもので、「福祉工場」という制度を活用して、第一号のシイタケ工場を皮切りに、障害者・健常者・農業者・地域住民が手をつないで、農業と福祉、筑豊の地域復興を結んで追求しようという提案を問う集いでした。当日は、鞍手地区中高年事業団の龍田光弘氏の司会で、入江喜代治、古谷直道両氏と菅野が報告し、永戸祐三氏が講演しました。
 集会を通じて、労働者協同組合をベースに@地域の多様な人びとを構成員とする日本版「コミュニティ協同組合」「社会的協同組合」が姿をあらわし、A働く人びと・市民による地域社会の総合的な再生の絵が描かれ、B障害者の就労を支援する新しい方向への期待が高まるとともに、C従来のゼネコン中心の公共事業に代わる「新しい公共事業」への提案と要求が打ち出されました。
 第一号の福祉工場計画は、通産省、労働省、厚生省、農水省からの熱い期待とアドバイスを受けて、福岡県から正式に承認され、来年スタートすることが決まりました。
 日本労協連では、地域の再生をめぐって悩み模索している人びととともに、今後、いくつかの地域で連続的に同様の共同企画と集会を開催していきたいと考えています。(菅野)



【資料:呼びかけ文】

 9・9集会「福祉・ケアの時代に筑豊復興の新たな進路を考える」
  ――公共の責任と市民主体の公共事業への転換:労協法の視点から――


      主催 日本労働者協同組合連合会
          福岡県高齢者福祉生協筑豊地区連絡会
          福岡県川崎町中高年事業団

 「公共事業」への風圧が強まっています。無駄な農道、ダム、堰、干拓が批判にさらされ、中止や撤回に追い込まれるものも現われてきました。東京の臨海副都心をはじめ、都市部も見直しの例外ではありえません。国と地方の借金を645兆円にまで膨らませ、政官財、さらには暴力団がからむ、公金の私物化と腐敗の構造に終止符が打たれなければならないことは確かです。
 【筑豊】は、今1968年の第4次石炭答申による全炭鉱の閉山によって失業の町と化し、そのための振興政策が取られてきましたが、その後遺症は、未だに癒えず、悩んでいます。そうした現況を踏まえて、『石炭六法』の政策的時限を間近に控えた【筑豊】の自治体は、総力を挙げて延長をたたかってきました。こうした闘いを反映して平成11年8月、「現行の石炭政策の円滑な完了に向けての進め方について」と題した石炭鉱業審議会の(答申)が出され、5年間の激減緩和の政策的延長がされることになりました。そして、【筑豊】は、今このたたかいの成果を活かしての新たな復興の道を選択する道標にさしかかっていると云えましょう。それは、炭鉱に代わる産業を起こし雇用と福祉の充実を図る地域社会づくりの道を選び、市民と自治体との連携で完成していく事に尽きると思います。
かつて筑豊の復興に取り組んできた私たちにとっても、土木工事中心の公共事業を誘致し、これを民間企業が請け負って、そこに住民を雇って働かせるという、従来型の公共事業は、早晩見直しを迫られることが十分予測できますし、それらがすでに就労創出という点でも限界を迎えていることは明らかです。
 そのようなあり方を超えて、働く人びと・市民が主体となって、協同して地域の中から就労の基盤をつくりだすことはできないものか、というのが私たちの問題意識でした。その最初の手がかりとして、「福祉工場」という法人格を活用した「シイタケ工場」の構想を練り上げてきました。
この構想は、@「福祉と農業の結合」を中心に、健常者と障害者、農業者が力を合わせて生きがいある仕事をおこし、地域を活気づけるとともに、A「福祉事業は黒字でなくともよい」というような従来の消極的な福祉に対する見方を超えて、生産的な事業を通じて、すべての働く人が生き生きと成長し、黒字も出す、新しい積極的な福祉像に立って、B第二、第三と福祉工場を広げ、将来的には風力発電や堆肥づくり、バイオマス発電などの「自然エネルギー協同組合」も併設して、地域の若者や農業高校、大学にも呼びかけて地域の就労をネットワーク的に創出しようというものです。そこではもちろん、自治体との連携と協働が重視されています。
 目を日本全体に向けると、福祉・ケアや環境、まちづくり、商店街や地場産業の再生などを焦点に、働く人びと・市民が主体となった仕事おこし・地域づくりが、「市民事業」「コミュニティ事業」として、各地で力強く成長し、自治体との連携も広げています。
自治と分権の時代に、こうした「市民事業」が、コミュニティのさまざまな問題をよりよく解決すると同時に、地域の就労創出と経済的自立の確かな基盤を準備していくに違いありません。だとするならば、市民事業の促進をこそ「新しい公共事業」として位置づけ支えることが、中央・地方の政府の課題であり責任であると言えるのではないでしょうか。
他方で、そうした「市民事業」を首尾一貫して進める形態として、日本労働者協同組合連合会では、「労働者協同組合」の法制化に取り組み、先の総選挙を機会に、法案に対する党派を超えた関心と共感を集め始めました。
9月9日の集会は、福祉工場の構想を手がかりに、筑豊復興の新たな進路を考えるとともに、労協法の視点から市民参加型の新たな公共事業のあり方について検討しようとするものです。多数の方々のご参加をお待ちしています。


10月号目次協同総合研究所(http://JICR.ORG)