『協同の發見』2000.6 No.97 総目次
労協法制定をいまこそ(4)
「広げよう働く人々と市民の仕事おこし」
「乗り越えよう大量失業時代」
労協法制定のための市民研究会の記録 2000.5.19 於 明治大学

【主催者あいさつ】
 大内 力(労協法推進本部 東京大学名誉教授)
討論第1部【協同労働の実際と労働者協同組合法への期待】
 荒木昭夫(児童青少年演劇劇団協議会)
 白川健作(日本大学・学生)
 田中羊子(生活協同組合・東京高齢協)
 都筑 建(ワーカーズコープ・エコテック)
 村山節子(企業組合ワーカーズコープ・キュービック)
 藤木千草(東京ワーカーズ・コレクティブ協同組合)
 永戸祐三(日本労働者協同組合連合会)
討論2部【市民事業促進の協同組合=労働者協同組合法制定の意義】
 石見 尚(日本ルネッサンス研究所)
 堀越芳昭(山梨学院大学)
 山極完治(東邦学園短期大学)
 山岸秀雄(NPOサポートセンター)
 河野道夫(社会民主主義政策研究センター)
 木村愛次(出版ネッツ)
 田中 学(全国大学生活協同組合連合会)
 菅野正純(協同総合研究所)
【閉会のあいさつ】
 鍛谷宗孝(日本労働者協同組合連合会)


【主催者あいさつ】
大内 力(労協法推進本部 東京大学名誉教授)

 多数の方にお集まりいただきありがとうございます。
 今日は、労協法推進のために皆さんのお知恵を拝借し、我々がやっていることにご理解をいただくことを中心として進めていきたいと思います。
 労協法の制定をということで前からいろいろな運動がございましたが、特に98年推進本部ができましてから、私もお手伝いをしております。労協法制定を役所なり、各政党なり、関係諸方面に働きかけをしており、少しずつ理解が進んでいると思いますが、我々が期待しているほど事は円滑に急速に進みそうにございません。もう少し世論の大きなバックアップを得ませんと事柄は進みそうにない感じを強く持っております。是非今後皆さんからのご支援をお願いしたいわけです。
 なぜ労協法を制定する必要があるかということですが、この運動の興りは戦後失業対策事業というのがありましたが、それを労働省が縮小し最後には廃止をするということが30年位前に行われました。ちょうどその頃私は労働省の中央職業安定審議会におりました。その後労働者協同組合運動が活発になり、働く人たちが自分たちで出資し、自分たちの力を出し合って仕事を作り、社会的な活動を続けるという動きとして展開してきました。次第に大きくなり今日では大きな組織になっておりますが、不思議なことに日本ではそういった活発な活動をしている労働者協同組合が法律的な根拠がなく法人格を持ち得ない。いろいろな事業をするとき法人格がないと不便ですから、高齢者協同組合は生活協同組合法によって法人化し、一部の事業は企業組合を利用するとか、いろいろな便法をとってきました。この組織の活動を社会的に公式に認められたものにし、政府、その他との正式な関係を持ち得るものにするためにはきちんとした労働者協同組合法なるものがあって、それに基づいて法人格を持つことが是非必要であると考えます。協同組合法を作って欲しいと長年努力をしてきましたが、いろいろな利害関係が錯雑しておりまして事は円滑に進みません。
 実は労働者協同組合法がない先進国はめずらしい、世界で日本は唯一だと言われる説もございます。日本の協同組合法制はたいへん混乱しておりまして、いろいろな協同組合、農協・漁協などからある意味で労金も労済もそれぞれ違った協同組合法制によって規定されております。しかも所管官庁があちらこちら分散していることから協同組合運動なるものが分断されており、協同組合が国民の力を結集して国民のために活動するという基盤ができない不思議な状態が続いております。労働者協同組合もそのあおりをくったといいますか、そういう風潮の中でなかなか法制化を認めてもらえません。
 考えてみますと労働者協同組合がきちんとした組織として確立され、今後21世紀に向かって活動を拡大していくというのはいろいろな意味でこれからの日本の市民の生活、あるいは社会活動にとってたいへん重要な意味を持っていると私は考えます。ぜひ法制化を達成して、21世紀を労働者協同組合の発展の時代にしたいと考えています。
 なぜ大切かはいろいろありますが時間がありませんので二つのことをお話ししたいと思います。一つは短期的なこととして今当面している日本の失業問題、景気は多少上向いたと言っていますが雇用問題はますます重大化し、政府もさすがに雇用の創出をスローガンに掲げましたがこれも到底達成できない状態です。失業問題は一つの手当ですべてが解決するということはあり得ないもので、様々な手を考えいろいろな方策を求められるのですが、今までと同じように企業や組織に雇用を拡大する、定年を延長する、解雇を少なくするというだけでは今日の問題は到底解決できません。特に中高年の方に失業のしわ寄せがいき、リストラに始まり中間管理職以上の相当の地位にあった方が目が覚めてみたら翌日職場を失っていたという状態です。中小企業は次から次へと潰れて経営者が夜逃げをし誰が責任を負うのかもわからない。こういう問題がたくさんおこっています。
 いろいろな形で雇用の創出を各方面に展開していく必要があると考えられますが、その中で一つの大きな手段として、職を求める人たちが自分たちの力、今まで蓄えてきた知識なり技能なりを出し合って、仕事場や仕事を作り自分たちが汗を流して働き生活を支えていくことです。それを社会に対する活動の場とするという仕組みができ、各方面の仕事、サービスや生産から社会的な活動に自分の持っている能力を生かすと同時に、意欲をもって社会的な参加をする場を整えていくのが大事です。ご承知のようにヨーロッパでは、労働者協同組合がいろいろな形で発展をしていまして、モンドラゴンを始めとして有力企業と言ってもいい成長を遂げているのもあります。日本はたいへん立ち遅れておりまして、失業問題に対処する有力な手段として労働者協同組合の発展を図るというのが必要です。
 もう一つは歴史的な長い目で見ますと21世紀に問われているのは、日本だけでなく資本主義体制をとっている国に共通の問題でしょうが、労働のあり方、あるいは労働を通じて社会的な活動に参加をするあり方について我々は基本的に考え直してみる必要がある時代に入っているように思われます。
 もともと資本主義は経済学的には労働の商品化を基礎にしているといわれますように、労働をするということが会社なり企業なり組織に雇われて賃金をもらう。労働力を商品として誰かに売り渡す。そのことを通じて労働をし、収入を得、社会的活動に参加していく仕組みが資本主義の基礎を為しています。資本主義が発達するにつれどんどん大きくなり、日本でも50年位前までは自営業とか、農民とか、自分で働いて生活をしていく人が人口の5割以上を占めている時代もありました。第2次大戦後は8〜9割の人が会社人間になってしまった。あるいはされてしまった。そのことが能率を上げる、生産性を高める、物的に豊かな社会を作るということではそれなりの価値があり貢献をしたというのは事実です。しかし、そこに人間の生き方の問題が出てきているというのは皆さんご承知の通りです。日本のように会社社会といわれ会社人間が次から次へ作られる、こういう社会状態、しかも従来はある程度一生が保障され安定しているという状態でしたが、最近はいつリストラされるかわからない。リストラされれば今までの仕事は無くなり経験は無駄になってしまい、路頭に迷うところまで行かざるを得ない状態に置かれるとなると、会社人間オンリーで世の中いいのか、人に雇われて働く場だけの社会でいいのかを真剣に考えなくてはならない時代に入っているということです。
 望むらくは、働きたいという人が自分のやりたいことを、自分の能力に従い、自分の創意工夫に従い、自発性に従って、自主的に仕事を作りその仕事に全人格をかけることによって社会に貢献するという仕組みが広くできてきますと、人に雇われていつ首になるか分からない、こき使われる生活で一生を送るよりは、はるかに豊かな生活を保障された社会になるだろう。もちろんそういうものを全社会的に一度に作るというのは空想で右から左に一度にできるとは思いませんが、労働者協同組合の運動はある意味で、今までの資本主義的賃金労働者体制に対する一つのアンチテーゼで、それぞれの働く人が自主性を持って仕事を作り、自分が望む仕事に能力を発揮することで社会人としての感性を求めるということです。そういう志を持つ人が力を合わせ協同労働という形で仕事を作っていくことで社会にいろいろな役割を果たしたい、こういう理想を掲げた運動であると考えます。
 21世紀の日本はそろそろ会社社会、会社人間から卒業して協同組合人間、協同労働によって社会を形成していく運動に参加しつつ、より豊かな生活ができる社会を作っていく必要がある時代に来ているだろうと思います。そういう二つの願いを込めました。私は21世紀にはもう生きていませんが、後に続く皆さんのために多少の残る力を使いたいと思っています。これから皆さんも勉強していただき、今申しましたことを多少お心に留めていただきまして、これからの労働者協同組合運動の発展のために是非お力を貸していただきたいとお願いをしてご挨拶に代えさせていただきます。


討論第1部【協同労働の実際と労働者協同組合法への期待】

荒木昭夫(児童青少年演劇劇団協議会)

 児演協の事務局長をしています。
 子どもたちのために劇をする、子どもたちのために仕事をしようとすると、子どもの発達と自分たちの仕事がどんな関係になっているか常に厳しく自分を見ていなければならないという職種です。ここでいい仕事ができたらそれはほんとうにいい仕事だと思えて目も輝いてきますが、社会的には子どもたちのために劇をするということを職業とするにはあまりにも収入が少ない。子どもからお金を取れません。子どもがバスに乗ると半額になる。お芝居も半額でいいでしょうという常識がありますから、料金を上げるということが社会的な常識からなかなかできません。
 しかし、生身の俳優が子どものためにお芝居をしようと大人のためにしようと、かかる費用は同じですし食べるご飯の量は一緒ですから、私たちの社会的地位が上がらない限り私たちのものも上がらない。国民の支援を得なければ上がらないとなると、水準の高い仕事をしないと国民からの支援が得られないというジレンマが長い間続いてきました。
 戦後50年私たちは頑張ってきましたが、このことを頑張っているのは昭和初年代の人間で、戦争の間にもうあんなひどいことはないと思うから生き残った私たちは、残る仕事は思いっきり社会のため役に立つ仕事をしようという迫力があるのですが、昭和30年代以降に生まれてきた人は世の中に対する向かい方が私たちから比べると柔い気がします。ですから当面のお金を得るための組織をどう作るかの議論になるのですが、私たちは協同で労働し、協同で暮らしているという意味で協同労働の協同組合という言葉を見いだしていただいて、私たちの前に教えていただいたとき「これや!」と思ったわけです。
 私たちは法人格を持っていなくて中小企業等協同組合でとりあえず法人格を取ろうとしていますが、中身は協同労働ですから協同労働の協同組合ができればすぐにでも移れるように設立趣意書に書き込んで進めています。
 一緒に頑張っていきたいと思います。



白川健作(日本大学・学生)

 自分たちの世代は人を避けたがる傾向があると思います。自分は田舎出身ですが、田舎出身の自分たちの世代は狭い世界をいやがる。新しい世界を知りたいから都会の大学へ行きたがる。では都会へ出てきてどうかというと、五木寛之が「遊べば遊ぶほど空しく、集まれば集まるほど孤独になる」と言っていましたがその通りだと思います。遊びに行ったり飲みに行ったりしますが何か満たされないものがあります。
 人から離れたいという欲求と人とつながりたいという欲求が相まっているのが自分たちの世代だと思います。充実したものをどうやって得られるかを思ったとき、やはり協同の行為が大切だと思うです。何かを一緒にやることで充実感が得られる、お金ではないと思う。
 聞いた話ですが、営業で月収300万稼いでいる人が「空しい」という、どうしてかというと恋人がいないとか人とのコミュニケーションがとれないという空しさです。
 自分はサークルを作って、お金は損をしたが人と一緒にイベントを盛り上げるという協同の行為をすることによって充実感を覚えた。お金じゃないと思う。人が協同できる雰囲気、場作りが大切だと思う。自分は協同組合がそれに近いのではないかと思ったのですが、今協同組合はどの程度活動しているのですか。自分のような若い人たちはどの程度入っているのか聞きたいと思っています。



田中羊子(生活協同組合・東京高齢協)

 この1、2年は、4月からスタートした介護保険制度と結んで、傍観者として批判するのではなくて、混乱も含めて民間企業の市場に握られるのではない市民が自分たちの地域や働きがいのある働き方と結んで、自ら福祉の受け手だけでなく担い手になっていこうということで地域福祉の拠点作りを続けてきています。
 実感しているのは介護保険のスタート前後に、人任せにしないで自らが担い手として立ち上がろうという動きがどの地域を回っても非常に熱く加速していて、4月以降本格的に事業になり始めてこれだったら相当いけるのではないかと思っています。今私たちと合流しているのは東京29カ所で開いたヘルパー講座の卒業生です。その区や市の市民が資格を取得してから民間に就職するのではなく、同じ苦労の中にあるのだったら出会った仲間の協同の力で事業を起こそうではないか、介護保険は危険もあるけれど市民が事業をやれる道を拓く制度でもあるのだということで、14の地域で福祉事業所が立ち上がり10カ所くらいで仕事おこしの準備会が立ち上がっています。
 民間企業で働くヘルパーさんたちが細切れや分断や低賃金の中にあって、同じ働いて同じ苦労をするのだったらそこに向かって文句や不満を言うだけでなく、自分たちで理想とするケアの仕事を立ち上げようじゃないかということでワーカーズコープの動きに合流してくる流れがあります。受講生や民間で働くヘルパーさんたちと出会って、いい仕事をしたいという気持ちは誰にも負けないけれど資金や財務の問題は初めてで、一緒に運営してくれるところがあればそこを選びたいという人が増えていて、協同組合としてはっきりしたメッセージを送りたいと強く思っています。
 最近地場産業とか町のポイントになっている団体や企業や組織の人たちからヘルパー講座を共催したいという申し入れが相次いでいます。商店街・浴場組合・タクシー会社・工務店・町の異業種交流会・ホテル・赤帽など、この人たちは福祉と結んで自分たちの働き方を変えていかないと町の人から信頼されて生き続けられない、早くそこに身柄を移したいということがあります。特に自営業者の方の話を聞いていると一生をそこで送る方が多く、どうせここで自分が高齢期を迎えるなら今から町の人からなくてはならない存在になるため福祉と結んでやっていきたい。そのためには何から手をつけていいか分からないが、ヘルパー講座をやりながらそこで育てた福祉事業所と自分たちの事業を結びつけ、町ぐるみ大事にできる事業所にしていきたいという人たちの出会いがものすごくおもしろいです。
 ケアの分野に留まらずにそこがポイントになっていろいろな町の生活を支えている人たちの出会いが広がり、その人たちと一緒に協同しながら町づくり・仕事おこしが考えられると、これはなかなか捨てたものではないというおもしろさがあると思っています。


都筑 建(ワーカーズコープ・エコテック)

 先日アメリカのカリフォルニアの電力事業公社SMUD(スマッド)を視察してきました。日本で言えば電力公社というと我々とは遠い外郭団体のような気がしますが、向こうの場合は市民が理事を選び、その理事が理事会を持ちその下に事務局的な事業体があり、そこには職員を統合するような組織がある、まさしくこれは協同労働の公的な在り方だと睨んでいます。SMUDというのはグリーン電力では世界的にも先駆的行いをしていますが、なぜそういうことができるかと言えば、市民が直接関わって自分たちのエネルギーを自分たちで生かしていくことが直接できる組織だということです。
 エコテックの場合は93年ワーカーズコープでスタートしましたが、事業的にワーカーズコープで継続させるということは自信がないということで株式会社形態をとっりました。今の時点でいえば株式会社はいらない。しかし、ワーカーズコープに特化するかといえばそうではない、ワーカーズコープは原点ですから捨てはしませんが、NPO法人化しようかというくらいの思いでいます。
 私たちが市民事業にしようとしたのは随分前ですが、よく考えてみると生産をするという我々と消費するという間の乖離が大きい、この間を埋めるということをしないと自由化の中で翻弄される地域経済も含めてなかなか回転しないであろうと、生産と消費の間を埋めることの作業を93年からやってきたんだなその時思いました。ある程度事業が回転している秘訣は、間を埋めるということを企業側の感覚から追いかけたのではなく市民の側の事業からそれを考えていったというところに秘訣があると思っています。
 NGO、NPOという市民側は多元的で多様です。その多様な内容をベースにして事業を起こすとすればそこに信頼感なりある共通のベースがあります。生産者と消費者という対立的な構造ではなく同じこの社会をどうしようかと一緒に考えられる人たち、その共通のベースがあることによって、環境の問題、エネルギーの問題を一緒にやるとき具体的に自分たちがCO2を削減しようという運動や事業の内容を我々のところに相談に来るという形になるというのが、今振り返ってみてあるのかなということです。
 多元性と多様性を維持して来られるのはネットワークの在り方だと思います。そのネットワークは多重で、単純にどこかと手をつないでというネットワークではなく自分たちの内部のネットワークもあります。さらに、自分たちと直接つながっているネットワークもある。間接と間接という多重なネットワークの作り方がこの事業の多様性とか市民の発意を初々しく回転再生産させながらやれるのではないかと思います。
 環境ビジネス、グリーンビジネスという言い方がされますが、私はビジネスというよりマイクロエンタープライズという括り方のほうがワーカーズコープでやる範囲のところには合うのではないかと思います。NGOの中でエコテックのメンバーも活動し、活動する中で政策提言をしていきます。その政策提言の中に自分たちの作るものの在り方が逆に問われてきます。有償ボランティアというところから発展させるとこんな形になるのかなという実践です。


村山節子(企業組合ワーカーズコープ・キュービック)

 企業組合ワーカーズコープ・キュービックは1990年に立ち上げて見なし法人でやってきましたが、最近企業組合を取りました。
 コープ神奈川の退任した理事が作りましたから、ほとんど生協の仕事を委託されてやっています。ここへ来て地域に役立つ市民事業の感覚でやれると思っています。食べ物関係では高齢者の給食配達、グリープリビングでの厨房の仕事、自閉症の方の通所施設の厨房の仕事、その他では神奈川県の経済連のアンテナショップ、麺工場の麺の販売など、地域のネットワークと住んでいる町での将来福祉としてやってほしいことを前提とした給食センターなど社会的市民事業として存在しているのかなと思います。
 30年間、ほとんどを生協の中で子育てをし関わってきて、生協があることによって市民の生活が豊かだと私自身考えているものですから、生協を伸ばしたい、生協の協力で強めていきたいとやっています。その中で喜ばれているのは、コープ神奈川で葬祭事業を始めましたが、その葬祭事業の学習会の講師陣や学習会を作っていく組織作りは全部キュービックがやっています。現場は提携している専門の葬儀屋さんがやってくれますが外側の営業活動はみんな組合員である私たちがやっています。
 なぜ10年前ワーカーズコープを作ったかと言いますと、その頃専業主婦が多くいて生協に関わった理事は4年で退任しますが、4年間の理事生活はたいへんなことでほとんど家を空けて頑張ってきて、任期が終わって家へ帰ってももう主婦ではないです。家に戻るのはもったいないということで働きたい人はパートに出ますが、生協で培った力を市民として地域で生かしたいと思いました。主婦の力を伸ばしたいのと、主婦に地域や社会や政治に関心を持って欲しいと始めました。10年前8人で始めたのが今150人ほどのメンバーがいて、事業高も最初は時給300円ほどでしたが、いま840円支払えて年間事業高1億5千万円ほどになりました。
 生協の中の仕事は、組合員がやって欲しいことで組合員やパートではできないことがあり、それを私たちはやりたいと提案する。すると生協は実験をするということで私たちの仕事になっていきます。市民や組合員の中で自分たちでやりたいことを提案するから、人にあれやれこれやれと言われないからとても元気がでます。今、夜10時まで共同購入の電話を受ける仕事をしていますがその時間帯に働きたい人もいます。私たちは30〜70歳代のメンバーですが、40歳代くらいのお母さんの子どもで女子大生が働きに来てくれています。若い人たちを将来生協の組合員にしたいと思っているのでそれが役立っています。
 私たちは自分たちで勝ち取った仕事ですからとても楽しくやっています。



藤木千草(東京ワーカーズ・コレクティブ協同組合)

 私は国分寺市でコミュニケーションデザイン、調査、編集、企画のワーカーズをやっています。東京ワーカーズコレクティブ協同組合は生活クラブの組合員が多く参加して作っているワーカーズです。キュービックのように退任理事ではなく、普通の組合員が作っています。
 ワーカーズコレクティブはW.N.Jという全国組織で法案を作っています。法律案を作っているのは労協とW.N.J.の二つだと思いますが、労協法の1次案を見たとき私たちがいくつか疑問に思う点を上げましたが、これが今回「市民事業協同組合に求められること(法案の各論)」の5つの項目の中に入れられているので「おう!」と思いましたが、自分たちが実際にワーカーズの中で働きながら法案も考えていく、さらにワーカーズの原点である皆が合意していくというところで法案作りを進めていますので、労協法の進み具合に比べますと遅いかとは思いますが、自分たちも法人格が欲しいと言うことで地道な活動をしております。
 今後も情報交換しながら、働く人の協同組合法という法人格が日本で早くできることを望んでいます。


永戸祐三(日本労働者協同組合連合会)

 時が来ているなと思います。労協法にとっては地方分権一括法と介護保険が、市民が自分たちの力で地域を経営するということに大きな追い風となるだろう。それをやるとなるとワーカーズコープ的なものでないと市民自身の事業ができない。
 介護保険を前にして4年間くらいヘルパー講座を開催し、労協・高齢協がどういうケアワーカーを望むのかという講座を2時間入れるものですから、稚内から沖縄まで走り回ってきました。200講座6000人以上に訴えたと思いますが、最近の例で言いますと、行きたかったわけではないが他に道がないと思ったからコムスンに登録しようと思ったという人たちが、新しい道を知ると自分たち自身で地域のケアの仕事をしたいと言います。介護の仕事でいいますと、自分たち自身で自立して仕事をする、つまり協同して仕事をする。これは我々の時代と違って学生の中にもよりよく雇われることの憧れが減ってきているのではないかと思われます。ケアーワーカーになろうとする女性たちの中には自立的な思考が強いと思います。そこに象徴されるように21世紀の社会の活力は、市民自身の自立的・自発的な活力をどう引き出すかに存在しているし、空洞化がいわれる地域の中でその活力が生かされることが結んで初めて本格的なものになるし、これを保証するものが労協法ではないかと思ってきました。
 その意味で時が来たというのは、人間をして人間らしくしていく道はどうしたら切り開くことができるのか。この点から協同労働とケアワークをどう結び地域の再生とケアワーク、人間の絆の再生をどう結んでいくかというテーマが、介護保険の中でクローズアップされ具体的に市民が知る流れに入ってきたと言えます。
 後ほど話される加藤課長がコミュニティビジネスが21世紀の有力な産業分野、事業分野として期待されると言われますが、コミュニティビジネスといい、生活総合産業といい、この主役は市民自身である。市民自身の自立的・自発的力を思いっきり発揮させる道を労協法によって切り開くという風に考えなければいけないのだろうと思いました。
 人間のケアというものを医療の分野はこれまで株式会社に道を開いてこなかった。これは市場経済が狂ったら事業はできませんと投げ出していいのかということがあるのだと思います。介護も同じ世界で市場原理の導入ということは、市民自身が自分で事業をする道がないことと、社会福祉協議会自身ができないことも睨んで選択の幅を広げることで市場原理を導入したのでしょうが、市民自身の力で押しとどめていかなければいけないし、いけると思います。今朝の朝日新聞に、グッドウィルグループのコムスンとニチイ学館が3年で1000〜1500カ所の拠点展開と3年間で1千億の事業計画を修正すると言っています。目標の4割程度しかいっていない。大々的な宣伝をして全国一本の企業でやるということを考えると誤算があるのだろうと思います。株の世界からお金を導入することが困難になっている。ニチイは400万株の増資を通告しておいて2日前に中止をしたとか、グッドウィルの大株主の光通信が危ういとかいうこともからんでいるだろうと思います。
 愛媛県・明浜の無茶々園ではヘルパー講座を2回開催しました。5000人の人口で50人、60人と応募がある。市民自身がケアの世界を通じて地域を再生していこう、給食もやろうと。子どもたちは地域を出ていってしまう、それを今の町長は全く問題にしてこなかった。こういうことが市民自身の話題として問われる。
 介護保険が良かったのは中学校区で考えるということですから、市民が親近感を持ってネットワークが作れることが見えてきた。東京1000万というけれど中学校区で考えると自分のところでやろうという、そのネットワーク全体を通じて東京全都に仕事も運動も我々の考え方を広げていけるという実感を皆が持ち始めていることだろうと思います。
 ワーカーズコープが追い風だというのは、地方分権法の中で自治体とともにケアの仕事を通して地域の再生につなげられることだとか、商店会のおかみさんが我々と手を組む、タクシードライバーが高齢協や労協と組んで地域をどうしようかとか、自分たちが自立はしているけれども相互に協同の輪を広げて地域再生のためにやっていこうという。それをリードするのが労協法だろうと思います。
 2000年4月から始まってワンクールが5年間。3年目に厚生省が介護保険の見直しをやります。2005年4月から第2クールが始まる。この第1クールの中で東京は介護保険の仕事だけでも100億を越え、全国的には第2クールでは1000億を越えていくだろう。これはNO.1を競う規模になる。その第1段階が厚生省の計画によればゴールドプラン21で、これまで10年間でヘルパーを17万人育成してきたが、ゴールドプラン21では18万人育成するとなっています。労協・高齢協が多分この半分を育成することになっていくだろうと思います。それがこうすれば自立的協同で働けるのだという道が見えた中で9万、10万を育成することですから迫力を持った取り組みができる。そこで高齢者自身の自立と協同である高齢者協同組合が活躍し、ワーカーズコープ法ができることになると、日本の社会そのもの文化状況そのものが変わっていくのではないか。大きな思いでみんなで協同してワーカーズコープ法を成立させていきたいと思います。


討論2部【市民事業促進の協同組合=労働者協同組合法制定の意義】
石見 尚(日本ルネッサンス研究所)

 私は第1次案に関わっておりましたが、第2次案は新しい提案が豊富に盛り込まれており一新された内容です。ただ私としてはまだ問題があるように思われますので若干ご説明いたします。
 3週間ほど前に出しました『仕事と職場を協同でつくろう』(社会評論社)は、主としてワーカーズコープとシニアコープを取り上げていますが、従来の労協連の見方とは違っています。2〜3年前、島原で労協連の総会がありオブザーバーで参加させていただきました。バスの中で病院の清掃事業をやっておられる方と隣り合わせになりました。病院で清掃をしていると患者さんと親しくなるが、数日会わないで行ってみるとベッドが空になっている。他界されたということです。「幽明境を異にする」といいますが、医者や僧侶ではない普通のおばさんがこういう職種、人の死に立ち会うというか絶えず側にいる仕事というのは何だろうとショックを受け考えさせられました。
 労働者協同組合の仕事は、世間的にいえばボーダーラインの仕事をしていて、「幽明境を異にする」ような限界状況の仕事をしているケースが日本では多いのではないかと思います。今回現場の方に書いていただいたり、インタビューに答えていただいたほとんどの方が市民生活に直結した仕事をされておりまして、労働者協同組合という鎧甲(よろい)をかぶって戦場に立ち向かうような堅苦しい仕事ではなく、もっと優しい市民の仕事をお手伝いしている仕事ではないか、どうして今まで鎧甲(よろい)をかぶっていたのかと思いました。協同総研を通じて見せていただいてだんだんわかってきたのですが、日本の特色だと思います。労働組合と協同組合の間に分裂があるということです。
 昭和30年代の集団就職列車で子どもたちが来る頃までは、労働組合と協同組合は何がしかの精神的つながりがりがありましたが、40年代以降になりますとその間には何も共通項がなくなっています。そこに労働者協同組合にいろいろな経過が発生していたということですが、労働者協同組合の宿命は労働組合と協同組合の谷間で孤児のような形で出発し、そのために裃(かみしも)を着て鎧甲(よろい)をかぶって自己存在を主張しなければならなかったのではないでしょうか。市民事業をしているのに、マルクスだレーニンだとイデオロギーののぼりを立てて人を威嚇していたような気がします。もう少し裃(かみしも)を脱いで市民事業と割り切っておやりになれば肩も凝らずいいのではないかと思います。
 ワーカーズコレクティブとの接点は、市民事業の協同組合ということでこれからはやれるのではないかと思いますし、これからのグロバリゼーションの21世紀の課題は地域と市民というキーワードではないかと思います。これをしっかり捕まえれば労働者協同組合の仕事が市民事業として伸びていくのではないかと確信しております。
 日本はめずらしいところで、ワーカーズコレクティブも労協連も倒産したところはありませんし、かれこれ20年近く倒産がないというのは奇跡です。カナダの場合は40%倒産だとマクファーソンさんが言っていましたし、アメリカやイギリスの場合も倒産件数が多いです。日本の場合はまだベンチャーになりきっていないのではと思いますが、これからはその境界線のところで新しい開拓をしていかなければなりません。そのためには支援組織をかなり強力に作っていかなければならないと思います。
 監査の話は出ました。それ以外に金融・経営のサポート・技術研修などが必要になってきますし、特に一般企業とはハード面よりソフト面での太刀打ちになってくると思います。そういうことの研究課題をしなければなりませんから、協同総研は外国研究では非常に優れた業績をあげましたが、国内分析ではまだまだ足りません。一人親方を入れていけるような幅の広いものにしなければなりませんし、連合会も都道府県単位の連合会では時代遅れだと思います。これからは県を越えた連携で2次組合を工夫して作らなくてはと思います。



堀越芳昭(山梨学院大学)

 第1次案改訂素案の労協法作業部会での経緯をお話いたします。この1〜2年、いろいろな方からのご意見・批判・問題点を考え、昨年暮れから今年始めにかけて、ワーカーズコレクティブ、ワーカーズコープ等のヒヤリングを積み重ねそこから改訂素案をまとめてきました。ワーカーズコレクティブの方の意見はほとんど入ったのではないかと思います。共同提案でいけるくらいの内容だと思っておりますのでよろしくご検討下さい。まだ不備な点があるとしたら、第2次案で完璧な提案ということでワーカーズコレクティブとも一緒に提案できれば良いと思っています。
 法律が成功するためには、労協法の必須要件としてどうしても欠かせないものは何かを明確にする必要があります。これまでのまとめになりますが、この法律の新しさがないとやっていけないかがはっきりしているかどうか。日本や世界の伝統が継承されているかどうか。実際に運動を反映したものかどうか。この三つを反映したものであれば可能性は十分あるだろうと思います。新しさについては現代の課題に即しているかどうか等示されておりますし、伝統の継承は協同組合にこだわるということもあります。そういう点で今回の労協法は具体化されておりますので、実現の可能性は揃っていると思います。


山際完治 (東邦学園短期大学)

 労協法のことを本格的に勉強しているわけではありませんが、コミュニティビジネスを市民事業としてという主張で、地域のコミュニティの再生に向けて、総合的な生活の場に有機的な機能を取り込んだビジネスが必要だとずっと思っていました。
 その点について生活総合産業という提案をさせていただいて、その意味合いが皆さんの事業の中に取り込まれていくということです。この間コミュニティビジネスという形で問題を立てたところ、通産省の加藤さんの議論と同じく、集約されるところが地域の経済を作り上げていく仕事おこしというところに焦点がいっています。先ほど時代の風ということがありましたが、まさに集約点は個々の地域に向いている、それが大きな企業自体もマイクロビジネス化して分社化してスモールサイズの事業形態に変わって行かざるを得ないという流れが企業の組織の中にもあるわけです。おそらく時代の流れを大きく受けて、我々自身が個の成熟をてこにして、身近な生活のビジネスの在り方を考えていくその流れが仕事という形、現在の働き方を見直すという形で生まれてくるだろうと思います。
 こうした動きが町づくりという大きな集約点のビジョンの中に生まれて来ているというのが特徴ですからそれと関連させながら、労協法の制定をてこにして仕事おこしを進められることを願っておりますし、私も協力できるところは協力していきたいと思っております。


山岸秀雄(NPOサポートセンター)

 NPO側から今日のテーマを考えるとどうなるのかと思いながらお話をうかがわせていただいています。NPO法は98年3月に法律として成り立ってきました。戦後市民が社会参加する道具としては生協と労働組合しかなかったところで、なかなかうまくいかないというのが長い間の疑問点でした。そこで88年にアメリカに行ってNPOを見つけ、これを輸入して日本に作ってしまおうとの企みで、10年かかってNPO法ができたという経緯です。石見先生と違って軟弱ですから労働者とは使わないで、いっきに市民社会をつくるとしゃあしゃあと言ってやっています。
 NPOはボランティアの労働という観点がまだ強いようですが、私は基本的には職員による労働によって行われ、そこにボランティアや寄付金といった社会的資源を取り込みながら公共サービスを行っていくというのがNPOの存在です。今まで言っていた市民事業・市民活動・市民運動を全て包含してNPOが表現されるものですから、なかなか形が市民の前に見えないという残念な面があります。
 私はもともとNPOで雇用を拡大するということ、多様な働き方を作っていくことが12年間の運動のスタートのところから持っていた念願です。しかし、今、やっと緊急雇用対策費用とかいろいろ批判のあるところですが、こういうものを使いながら個人が中心となってNPOという事業をおこしていくかというと、なかなかそうは行かないところがあります。今の日本の企業社会の動きから見ても、企業社会になれてしまい、それを支援するシステムができている社会の中で、個人が前に出てリスクを負いながら行くというのは難しいというのを身にしみてここ1〜2年思い知らされています。
 政府がときどき高齢者や女性が起業するとベンチャーの助成金を500万から800万出そうというのがあり、その審査員を二つ三つやっているのですが、55歳以上の人が起業するというのは全国皆無の状態です。新聞記事に載る程度にはあるがほとんどない。前に永戸さんと話していたら、「だから協同組合でやるんだよ、みんな一人でできないから協同組合があるじゃないか」というから「ああ、そうか」と。非営利セクターで雇用を拡大しようというときに労働者協同組合法について改めて注目し直しているところです。
 これからどうやって起業していくかというとき手をこまねいているわけにもいきませんから、我々は非営利・協同セクターでの情報プラットホームを作るということで、今約1億円かけて8月にソフトが完成しますが、非営利・協同セクターの様々な団体、労働組合・生協・NPO・大学などがプラットホームにのって協同で首都圏で活動していくことを具体的プランとして立てています。
 特にNPOは人材育成に重きを置いていこう考えています。人材育成をして働く意味や経営するということを支援していくとともに社会的資源をどう獲得するか、主にお金ですが、これをやってコンサルティング、どう相談活動にのっていくかをまさにワンドアシステムの形で運営していって、様々な非営利セクターを生み出していくNPO学校を具体的に進めていこうと先日の全国会議で決定し、いくつかの大学と話を始めているところです。
 市民セクターが大きくなるための道具としてNPOが発展するための課題は非常に多くて、この1〜2年で我々が歩みをうまくしていくことによって、我々の力で市民セクターを拡大していくことをしないとNPOの運動も止まるのではないかという危惧をもっています。行政と企業と市民とこの三つのセクターを同じように持っていこうというときに、市民の力は行政と比べたら低く、理念的には対等でも実態はかけ離れています。これを強めていかないと我々市民セクターが行政寄りのNPO、企業寄りのNPOを作っていく危険性があります。我々は非営利・協同セクターという概念によって市民によって市民セクターを強化していく、NPOや協同組合を強化していくことに協力関係を結んでいきたいと考えております。
 NPOの方もこの法律の制定を期待しております。是非、非営利・協同セクターで一緒にできればと思っています。
 社会的資源を得るという話をしましたが、NPOバンクを持たなければということで労働省と労働金庫に話をしてこの4月から一部融資が始まります。6月中にはたぶん全NPOに対する融資が開始されます。具体的にバンクをどう作るか、融資の制度、助成の制度をやっていくという、一番欠けているのがいかにして形態を作るということが大きな課題になっております。連合と労働省が一緒になって労働組合もNPOによって雇用を創出するための委員会があります。我々のセクターも基盤の整備に向かっています。私が座長をしており、2年目の研究会でもう少し具体的な方針を出そう思っています。そういう中でいかに非営利・協同セクターを強化していくかについて一緒に活動していきたいと思っております。



河野道夫 (社会民主主義政策研究センター)

 超党派的にこれを法律にしていくための、永田町における市民派のスタッフとして主催者の皆さんに二つだけお願い、指摘をさせていただきます。
 先ほど堀越先生が、「この法律がないとやっていけないかどうか」を三つの要件の中のトップにおしゃっていましたが、「中小企業協同組合法における企業組合や生活協同組合でどうしてもやっていけないかどうか」ということの体験交流のチャンスを作っていただけないか。こういう集いとしてできなくてもペーパーで結構です。現行法ではどうしてもやれないことは何なのかを抽出するということが我々裏方の作業が党派に関係なく必要になってきます。
 二つ目は、第1次法案改訂素案の43頁の冒頭、第1条に地域社会の発展に貢献するんだとあります。地域社会の発展に貢献するということは、何をどうするかということまでおそらく条文の上でどう表現するかは別として問われてくるのではないか。なぜかといいますとグロバリーゼーションのもとで、暴走する経済や技術を市民社会がどう制御するのか、できるのかということがまさに今日のお互いの問題です。ですから市民社会が経済主体に対して何を求めているのか、どういうニーズがあるか見定める必要があるだろう。もちろん協同組合やNPOというものがたくさん作りやすい条件を作るということ自体が、雇用創出のチャンスを増やすということでは確かに地域社会に貢献することになります。しかし、今市民社会が求めているものは果たして雇用機会をたくさん作ることだけかといいますともっと厳しいのです。
 例えば経済活動に対して環境貢献を求めている、人権軸で経済活動の善し悪しがはかられる。そこで雇用されている人たちの人権はどうか、消費者の人間の尊厳が守られているのか、その立地している地域住民の暮らしや人権はどうか、という人権軸のニーズもあります。
 もう一つは自己実現軸という形での評価がされるかもしれない。これは協同組合が当然出資し、管理し、労働するということが原則ですから協同組合という経済主体は自己実現という座標軸から見れば合格点がもともと与えられているかもしれない。しかし、その協同組合が人を雇用することを全面的に否定はしていない。となると、協同組合に雇用されている人の自己実現は果たしてどこまで合格点が与えられるのであろうか。それぞれの柱ごとに透明度、情報公開度を市民社会が求めてまいります。それらは株式会社であろうが協同組合であろうが、およそ経済活動を市民社会が制御しようというときには当然問題になる。そういうことに答えることが地域社会に答える貢献ではないかという視点で、今一度これを吟味される必要があるだろう。
 多々気がついた点がありますが、今日は二つだけ申し上げておきます。


木村愛次(出版ネッツ)

 出版労連の個人加盟組合ネッツの組合員です。いろいろな職能のフリーの方が200人くらいいるので、そこで新しい事業ができないかと提案をしている最中です。
 もう一つは民衆のメディア連絡会という運動があって350人ほどいますが、ビデオを作る人が多く、流通組織でビデオアクトを立ち上げ100ばかりの個人・プロダクションが一緒になって、CSの市民チャンネルを展望して運動をしています。
 法律は弱いものですから聞いていて感じたのは、お話の新しい展望が温故知新というか原点にもどることも必要だと思いました。私は日本テレビにいて民放労連の活動や千代田区労協の事務局長や地域運動をやってきました。そのころ地域運動に対して大単産や大政党は見下すような姿勢があって中央集権的な運動が続いていました。マルクス、レーニンといわれましたが労働者の運動はその以前からあり、特に感じたのはイギリスにトレイドユニオンという諸職業の共同が地域に始まり、その頃汽車も電車もなく地域的に協力するしかない。しかし、資本主義が発達してくると上から命令される運動となる。フランスの場合はフランス革命の頃ブルスブルトラバーユというのがあって労働の販売所というか職業斡旋までする運動です。詳しいことはわかりませんが、むしろその原点が今問われている。その後資本主義が発達して国家独占資本になり、それに伴って官庁の労働組合など中央集権型が多く、だんだん労働組合が社会党や共産党と手を組んで権力を握る方に向かった。しかし足元がお留守になっていたところがソ連の崩壊などで現れたのではないか。
 私は今物書きとしてインターネット雑誌編集長などやっていますが、非常におもしろい200年前の原点に遡った議論ではないかと感じました。



田中 学(全国大学生活協同組合連合会)

 大学生協連では先週の理事会で、労働者協同組合法の制定をできるだけご協力というか一緒にやっていきましょうという決議をしました。
 大学生協がどうしてこの問題に取り組むかということですが、生協連の統一した意見というより私自身の考えですが、一つはこれまでの協同組合運動は大部分は消費者生協で我々の大学生協も消費生協の一部です。暮らしを良くするとか生活というと消費者生活、消費という次元でもっぱら生活とか暮らしが考えられてきた。しかしこれだけ女性の就業率も高まってきまして、人生のかなりの部分が働くことに費やされるわけです。そこを切り離して消費だけで暮らしを考えるのではなく、従来暮らしがよくなるというのは所得が増えるということに置き換えられる傾向があったが、どうもそれはおかしい、働くということと消費するということを繋げる仕組みはないかという発想です。
 最近の学生でもかってのように大学を出て相当の企業に入れば一生大丈夫というようなことは誰も考えません。いろいろな企業が倒産するということもありますが、自分の一生を企業にゆだねるということは信用できないというのが強まってきています。自分の能力や気持ちにあった仕事はどういうものかを考えていて、若い層の失業率が高いというのは、不況もありますが何が自分に適した仕事か考え迷っているわけです。最近大学でインターンシップに取り組んでいますが、試験的にいろいろな仕事に入ってみて自分に合っているかどうかを体験的に掴んでいきたいという機運が強くなっていて、働くということの意味を考えたいというのがあります。
 もう一点は大学生協も大学のキャンパスに留まり、活動するのは4年間だけというのでなく、キャンパスの外へ出て地域の人々と協同して活動するという領域が広がってきている。それと学生は若いからエネルギーを持っていますから、地域社会や地域の生協と協同しながらやっていく領域を広げていきたいというのがあります。当然そのことを通して学生自身の自己啓発ということも進められるだろうと思っております。
 こういった方向に労働者協同組合があっているのではないかと思います。先週の理事会でこの制定の運動を我々も一緒に力を入れてやっていきましょうという申し合わせをしました。まだ具体的ではありませんが、これから大学生協の組合員がいろいろな形で地域社会に入っていくと思いますのでその時はご指導、ご支援をお願いいたします。


中川雄一郎(協同総合研究所 明治大学)

 私や菅野さんや何人かで90年代のはじめに、この明治大学の社会科学研究所に600万ほどお金をいただき労働者協同組合運動の研究を3年間続けました。その研究成果は『労働者協同組合の新地平』(日本経済評論社)にまとめました。
 イギリスでは70年代の中頃にコミュニティビジネスというのが起こってきました。私も最初は何かよく分からなかったのですが、コミュニティビジネスとかコミュニティエンタープライズという名前でコミュニティの再生運動をしていました。離れ島でスタートしてスコットランドに上陸し、それからイングランドそしてイギリス中に伝わっていきます。全盛は80年代の半ばで、それから倒産などで少しダウンします。90年代のはじめに再びワーカーズコープが勢いを増し、ワーカーズコープも名前をコミュニティビジネスとつけてICOMなどに加盟し、EUから基金をもらうということをする。
 このようにコミュニティビジネスはイギリスではかなり前から、しかも地方自治体の援助を得ながらやっていく。コミュニティに住んでいる人たちが1ポンドを出し合い、それに対し同額を地方自治体が援助し、その他に中央政府やEUが援助するということをしてきた。この時代はサッチャーの時代でがさすがのサッチャーも失業問題に手こずり、協同組合も含めて失業に対して雇用を作り出す政策を展開せざるを得なくなりました。通産省の加藤課長がイギリス型の第3の道と言われますが、私が考えるにイギリスの第3の道はいい意味でサッチャーが作ったのではないかと。雇用対策を一生懸命やってそこに協同組合とりわけワーカーズコープがポンと入れられるような道筋を作ったのではないかと思います。
 しかし、イギリスではコミュニティビジネスを作る、コミュニティ協同組合を創成していくには様々な法律を各地方自治体が用意し、法律に基づいてやっていくということがあり、協同組合やコミュニティビジネスを作っていく法律や条令がいかに大切かを本を書きながら思いました。コミュニティビジネスは住民が参加し、得られた利益を住民が分配するわけではありません。コミュニティの様々な条件を改善していくためにこれが使われるということです。従って、環境・教育・雇用・文化活動をやっていきます。イギリスが協同組合の先進国で、様々な領域で協同組合が展開していて、生協運動は少し下火になっていますが、それでも底力を生協はもっていますから、福祉活動に力を入れることもやっています。
 我々もこれから労働者協同組合法を、結果的にはどう位置付けられるかわかりませんが、コミュニティビジネスや少し大きなケア協同組合を設立するためにこういう法律が必要なんだと訴えて、とにかく少なくともイギリス並に協同組合が市民の中に浸透していくようにやっていきたいと思います。今日はそういう意味で、時期としてもあるいは市民事業という発想でも、たいへん有意義な時間を過ごせました。


菅野正純(協同総合研究所)

 短期間の取り組みでしたがこんなにも多くの方が集まっていただき、しかも一旦は出会ったもののその後よそよそしい関係になってしまった方たちと再び出会って繋がりができ、新しい出会いと繋がりが今日の場でいろいろな形でできたのではないかということで、法制定推進の方向は大きな流れになろうとしているのではないかということを実感しました。
 石見さんからは裃を取ったときに合流できると、山岸さんからはNPOと労働者協同組合と一緒にやっていこうという力強いメッセージをいただきました。また、河野さんは社会民主主義政策研究センターで裏方のはずですが、自ら手を挙げられて今後の進め方についても具体的な示唆をいただきました。出版ネッツの木村さん、私はもはや死に絶えていたのではないかと思っていた労働組合と協同組合の繋がりが新しい形でこれからまた生きていく時代なのではないかと激励をされました。
 大学生協連の決定の意味について文面では、労働者協同組合法制定の賛同を全国の大学生協の教職員を中心にとっていきましょうということで、そして地域で労働者協同組合と交流しながら地域からどういう協同の場・仕事おこしができていくのか共に考えましょうという二つの内容です。これは労働者協同組合といっていますが、ワーカーズコープやワーカーズコレクティブ、様々な市民事業含めて大きな問題提起になっていくと思います。つまり210の大学で先生方が市民事業の協同組合を真剣に検討して賛同して下さることは、世論を変えていく大きな力になると思います。学生の皆さんがほんとうに働きがいのある仕事を見いだしていく中で市民事業と様々な形で交流していくことが、次の担い手を大きく育てていくきっかけになるのではと思います。


【閉会のあいさつ】
鍛谷宗孝(日本労働者協同組合連合会)

 今日はたいへんありがとうございました。長時間に渡り新しい出発点を作る研究会になれたのではないかと思います。
 労協法は、今の時代を生きる覚悟を決める内容を持ったものではないか、それぞれの世代がそれぞれの世代なりに抱えている悩みや、全社会が抱えている悩み、その中で我々が今の時代を生きる覚悟を労協法が表現していると改めて感じました。自分の地域や生活でその覚悟は足元から実現されていくのだろうと思います。
 『協同の発見』5月号をご覧下さい。最初の2頁に書いてある「タクシードライバー・ホテルマン・保険会社の外交員がホームヘルパー養成講座を受ける時代、介護・福祉を一つの軸に生き方働き方が問い直され、実際の生活と仕事が再構築される時代が急速に進行している」こういう時代の認識だろうと思います。さらに20頁にタクシードライバーの話が載っています「タクシー会社をやっていて利用者が一番困っているのは行きたいところへいつでもどこへでも行けないということだ」事業をやっている人が利用者の要望から自分たちの仕事をもう一度見つめ直そうとしている姿、「ドライバー自身がハート・モラルが不可欠なこと」働く側の働き方も利用者の要望との関係で見直している姿があると思います。「新しいドライバー像を掲げて自己変革しょう」というのがケアーワークドライバーの今の姿だということです。
 今の時代に生きる覚悟は、地域・生活、足元のところで介護保険や福祉の問題を一つの焦点としながら生き方働き方を総合的に問い直して仕事を再構築することになっているのだろうと思います。今日はそれが様々な角度から議論されたと思いますし、参加された方はその思いを十分話し切れなかったと思います。継続して研究会を続けていくことと労協法制定に向けての市民会議の呼びかけがありました。一緒に一歩一歩地域・生活の段階から作り上げていくことを合わせて呼びかけまして、私の閉会の挨拶とさせていただきます。

6月号目次協同総合研究所(http://JICR.ORG)