『協同の發見』2000.2.3 No.94 総目次

労協法制定のためのヒアリング
 
東京ワーカーズ・コレクティブ協同組合
 

 
事業所の名称 東京ワーカーズ・コレクティブ協同組合
事業所の所在地 東京都渋谷区代々木2-23-1ニューステイト・メナー1129号室/電話03-5365-2044 FAX03-5351-6110
代  表  者 理事長 後藤尚美
設 立 年 月 日 1993年4月
法 人 形 態 事業協同組合
組  合  員 49団体 570人(1999年9月15日現在
 
 東京ワーカーズ・コレクティブの活動について後藤尚美理事長からお話を伺いました。

設立の経過

 1984年、生活クラブ生協の提唱により都内にワーカーズ・コレクティブが誕生します。最初は生活クラブ生協からの業務委託を受けるワーカーズがほとんどでしたが、その後、パン、仕出し弁当、農産加工などの食関連のワーカーズが設立され、食材の共同仕入が始まりました。1989年に、@ワーカーズ・コレクティブをつくって働く人たちの「働き方」をより豊かにする。Aワーカーズ・コレクティブの自立を促進する。B社会に対し、「もうひとつの働き方」を積極的にアピールする。この三点を目的にワーカーズ・コレクティブ連合会を設立しました。そして、連合会は、組合員向けの福利厚生事業、教育活動、共同仕入事業、ワーカーズ・コレクティブ運動を広げるための共同宣伝事業を進めました。このころの組織は26団体です。1993年にこの連合会は事業協同組合の法人格を取得し、現在の「東京ワーカーズ・コレクティブ協同組合」となります。組織変更は、事業的な必要性を感じて行ったものです。共同仕入の事業が大きくなったのとワーカーズ事業資金の転貸事業をする必要があったからです。つまり、加盟する団体が資金の必要、特に立上げですが、その融資をするために事業協同組合に組織変更しました。生活クラブ生協の協力で総額8,000万円の融資枠が設けられ、個別には上限は600万までが貸付けられます。これは生活クラブと私たちの協同組合の連帯保証で無担保で貸付けられます。この仕組みは立上げにとっては非常に有効なものだと思います。
この16年間で、11団体からはじまった東京の運動は、49団体となり、98年度の総事業高は10億5千万円、総出資金1億1千万円、メンバー数は570人となっています。

◆ワーカーズ・ コレクティブとは

 ワーカーズ・コレクティブは3つの特徴を持っています。第一は「雇われない働きかた」ということです。メンバー全員が事業をおこすために出資し、経営し、組織を運営し、労働もする。したがって、組織とメンバーに対し、全員が責任をもつ、これがワーカーズ・コレクティブの働き方です。第二は「非営利事業」であることです。組織を発展、継続させてゆく適正な経費は生み出しつつも、一般企業のように営利を第一目的にしないということです。第三の特徴は「自分の町で労働の場をつくる」ということです。私たちワーカーズ・コレクティブが自分の住む地域の住民として、必要と感じる仕事を事業化することを表しています。より社会性を帯びた事業体として地域に存在するということです。
 このワーカーズ・コレクティブ運動について感じている課題は少なくありません。一つはワーカーズという「新しい働き方」が選択肢の一つになることです。誰もがこのような働き方を理解しているという意味で一般的になることが必要です。特別なことではなく。そのためには、事業的な成功が何と言っても必要です。一般企業に比較して経営能力に劣るところがあります。労働環境も未整備です。法的問題もあります。雇われない働き方が現行の各種労働者保護制度に合わないからです。経済的な収入をパートナーに負っている主婦が中心といったワーカーズ・コレクティブでは、経営の困難を人件費にしわ寄せする傾向も見られます。これでは経営能力は高まりません。適正な労働収入を得るような経営能力が必要です。そういった問題を克服することを一緒に考えていないと、若い世代が入ってきません。世代交代もままならず、事業の継続的な発展はのぞめません。事業ですから赤字という年もあります。処理は、人件費の未払いとなる。結局人件費部分にしわ寄せするから経営が甘くなる。人を雇っていたらそうはゆきません。これまでに解散したワーカーズ・コレクティブはいくつかあります。しかし、経営的に行き詰まっての解散というのではなく、事業を継続していく意欲喪失といったような理由だったりしています。そういった点でも本格的な事業経営とは距離があるところが、事業に関してはこういった問題を抱えていると思っています。また、法制化問題もその一つですが、同時に社会システムへの問題提起として、これまで当たり前の制度と思われてきた「配偶者控除」や「国民年金第三号被保険者」の仕組みに対して、これは自立して働きたいとする女性、主に妻である女性たちの問題ですが、彼女らの多様な働き方をこの制度が阻害しており、改善を求めるアピールを行いました。

◆組織の概要

現在の加盟組織は49 団体、メンバーは570人になっています。法人格を取得しているのは14団体で、企業組合が13団体、有限会社が1団体です。
 
年間事業高  1 億円以上     1カ所
5 千万円以上  1 カ所
2 千万円以上  25カ所
1 千万円以上   9カ所
1千万円未満    13カ所
組合員     50人以上      1 カ所
20人以上     3 カ所
10人以上      20カ所
10人未満     25カ所
 (「全国ワーカーズ・コレクティブ一覧」より)
 
組織の規模は様々です。事業をしっかりやろうとするところから、趣味的なレベルに留まるところまで、かなり幅があります。意識の点でも違います。この運動を始めた第1世代は、ワーカーズ運動へのこだわりをかなり持っています。それに対して若い人の意識は少し違ってきているように思います。例えば、当時は全てが平等でしたが、何もかもが平等でいいというのは、事業の発展にとって逆に障害になってきています。ワーカーズ運動にとって譲れない点とは何なのか、根源的な問題を議論する必要もあります。最近大妻女子大学の方が調査をされたのですが、第1世代は学卒者が多いのに対して、若くなるとその率が下がっています。理念的なことへの共感から働くことへ主眼をおいての参加が増えていることを示す数字かもしれません。
 
◆事業種目

 主な事業が三つあり、それぞれ代表者会議で、様々な問題を話し合い、情報交換を行っています。
 食の事業に関連するワーカーズ・コレクティブは15です。何れも食材にこだわりをもって、冷凍食品や化学調味料を使わず「安全安心」な食づくりに取り組んでいます。仕出し弁当や惣菜をつくるところが多いのですが、高齢者や障害者が地域の中で安心して暮らしてゆくためのサポート事業として、自らの食事業を位置づけているところもあります。一番大きい団体は「企業組合ワーカーズ・コレクティブ凡(ぼん)」です。事業高は1億2千万円弱で、組合員は13名、出資金は2097万円です。事業種目は弁当、惣菜の販売のほか、イチゴ、にんじん、ブルーベリーなど6種類のジャム製造を行い、生活クラブ生協の共同購入の商品としても販売されています。ここは新工場の建設のために2,000万円の借入も行いました。社会保険への加入もできています。主力は50歳以上の第1世代で、若い人が少ないのは問題ですが、経営的には頑張っているところだと思っています。
 「企業組合ワーカーズ・コレクティブ昼の会・惣(そう)」は99年に特別養護老人ホームの給食事業を世田谷区から委託されています。狛江市にある「企業組合ワーカーズ・コレクティブ クイーンズ」は97年12月からデイサービスを利用する高齢者の昼食を市から委託されています。自治体との関係は今後も重要で、広げていきたいところです。
 パン・クッキー製造部門のワーカーズ・コレクティブですが、9カ所あります。このうち企業組合は2つです。1987年に保谷市にできた「企業組合ワーカーズ・コレクティブぐれいぷ」が『まるごと白書〜恐いもの知らずで起業した10年』を出版しています。「創立メンバーはまずお金を借りることの苦労から始まったのですが、新しいことへ挑戦する意気込みがあり、希望に燃え、ほとんどしろうとの女性たちが、店舗経営と製パンの技術(国産小麦、天然酵母)の両輪を手に、学びつつ話し合いつつ少しずつ自分たちのものにしてきました。なにしろこの両輪、まったく前例のない道を造るわけです。常になにかしら問題がおき、その解決のために1つずつ話し合ったことを規則化し、マニュアル化し、また、そのマニュアルを見直し作り直しつつ、今日にいたっています」。記録によれば初期の必要資金は1,700万円、これを出資金300万と借金で賄いスタートしています。現在のメンバーは13人、売上高3,818万円、出資総額は401万円となっています。
生活クラブ生協の戸別配送を委託されている轍(わだち)が、11あります。そのうち法人化されているのは二つで、何れも企業組合です。全体で180人ぐらいいます。私のいるのは「企業組合ワーカーズ・コレクティブ轍・大泉」で、メンバーは20人です。良く「100万の壁」と言われますが、ここでは「生計が立てられること」が組織目標になっているので、2名を除いて全員この壁は越えています。結構若い人が働いています。仕事は配送だけではなくセンターの運営にも及んでいます。生活クラブの中で、このワーカーズの活動はしっかり位置づけられているので、この部分だけを委託されているという発想にはなっていません。生活クラブ全体の供給高を伸ばすことにも責任を持っています。また、私たちが地域で持っている情報が非常に重要になってきています。
その他では、宅配部門と言っていますが、例えば国産大豆100%の豆腐や自然食品などをカタログで販売をしているワーカーズや洋服のリフォームや仕立てに取組むワーカーズ、編集企画デザインなどに取組むワーカーズ、保育のワーカーズなど様々です。しかし、何れもその規模は小さなものに留まっています。
 福祉事業のワーカーズ・コレクティブが都内でも33団体ありますが、これらは「アビリティクラブたすけあい」略称ACTという特定非営利活動法人と事業提携しています。

◆法制化運動

 法制化運動という点では労災問題で苦労しています。
同じ「轍(わだち)」ですが、池袋の労基署と太田の労基署で違う結果でています。「指揮命令の下で仕事が行われている場合に労働災害を認定する」ということで、一方では労災が認められ、一方が否定されるという結果になりました。また、代表者は加入できないといわれています。労災をカバーするほどの給与ではないにも関わらずです。釈然としない点です。雇われないで働くことを当たり前のこととして受け入れる労働者保護法である必要があると思います。「ワーカーズ・コレクティブ法で認められた法人で働く人は、代表者を含めて全員労働者だ。労働者として労災の適用が認められる。社会保険にも入れる。」そんな必要があると思います(注)
最初にも言いましたように、法制化は最終的な目標です。しかし、正直なところ、法人化問題は切実な問題として理事会は議論になりません。というのは、事業規模が小さなところが多いということが反映していると思います。現状では事業をしっかりしたものにすることと、法律を求める運動を同時にできるだけの力量がありません。それでも法案を議論することで、「自分たちはどういう存在なのか」「ワーカーズ・コレクティブって何なのか」それを確認する手段の一つになっていると思っています。
ワーカーズ・コレクティブは個人企業ではなく社会的な存在ですから、その事業を継続させていくためにも、しっかりした法人にすることは必要なのですが、残念ながら、法人格がないと困るとか、そんな感じの意識ではありません。
先ほどの融資も、みなし法人で借りることができる仕組みを準備してしまったことが、法人の必要性を感じさせなくなっている原因かもしれません。借りた仲間は無限責任となっているのですが、そういったことも余り真剣には考えていないようです。600万円であれば何とか返せる範囲だということもあります。しかし、法人であれば一応有限責任ということになるので、そんなことも本当は考えて欲しいことです。企業組合認可をとろうとした時にいろんな問題が見えてくる。そこで始めて事業と言うものの厳しさを感じる人もいます。とにかく事業を大きくしようという発想がなければ法人格を求めないというのが現状です。
ワーカーズ・コレクティブ法については、責任の所在が曖昧ではないのかという疑問があります。また、出資配当が全く認められないというのもどんなものなのでしょうか。20万円出す人と1,000万円出す人が同じで納得がいくのでしょうか。出資額に大きな差があるのも問題ではありますが。

◆今後の課題

 私たちは、地域に必要とされている仕事を生活クラブの運動とも一緒になって広げていくことが必要だと思っています。そのためにワーカーズ・コレクティブの果たす役割もますます大きくなると思っています。いま、長期計画を作っていますが、地域社会の中でワーカーズ・コレクティブという働き方は絶対に有効だという確信を持っています。
最初にも言ったように、外への働きかけをもっと強める必要があると思います。ワーカーズ・コレクティブという働き方が、事業を地域でおこそうという人たちの選択肢の一つに当たり前のように入る、そういった状況を作りたいと思います。地域の中でもっと沢山のワーカーズ・コレクティブが生れるように。
 組織は非常に弱いのですが、法制化運動ということにW.N.Jなどを通じて活動をはじめている事実もあります。これまでの経過からゆけば、協同総研の方には他の協同組合組織、農協や生協、とくに私たちとの関係の深い生活クラブ生協にも呼びかけて頂きながら、一緒に取組める道を考えていただけたら良いと思っています。

集者注】ここで言われている「ワーカーズ・コレクティブ法」とは、労協法案とは別にワーカーズ・コレクティブ・ネットワーク・ジャパン(W.N.J.)が、1997年に発表した「ワーカーズ・コレクティブ法案要綱」と、これを1999年11月に一部修正した同「第二次案」のことを指している。
  ワー・コレ法の法制化運動は、現在のところでは労協法の法制化とは別の形で進められている。ワー・コレとワーカーズ・コープ(労協)とでは成り立ちや形態に差異がある一方、ICAの協同組合アイデンティティーに立脚するなど一致点もあるので、W.N.J.からは、過日のNPO法のための「シーズ:市民活動を支える制度をつくる会」のような共通の検討の場を設けては、という提案も出されている(『協同の発見』No.91、1999年11月、42ページ)。

2.3月号目次協同総合研究所(http://jicr.org)