『協同の發見』2000.2.3 No.94 総目次

労協法制定のために
 
しなやかなワーカーズコープ
――エ践――
 

事業所の名称 ワーカーズコープ エコテック
事業所の所在地 川崎市中原区上丸子天神町386金子ビル1F
電  話/FAX TEL 044-722-9543 FAX o44-722-9544
E-mail/URL  JDS02448@nifty.ne.jp    http//www.spice.or.jp./〜solar/
設 立 年 月 日 1997年10月
法 人 形 態 ワーカーズ・コープ(株式会社を併用)
事  業  高  30,000万円
組 合 員 数 7名
資  本  金  1,000万円

 1997年12月は世界にとっても日本にとっても、そしてエコテックにとっても転機であった。京都で開かれた「地球温暖化防止京都会議」(COP3)は、世界の国々が集まり「地球の気候変動枠組み条約」が締結された。世界の最重要課題として地球環境問題が取り上げられ、その取り決めの大枠と目標が定められたことは画期的なことであった。日本も温室効果ガスの削減目標を6%と世界に約束し、その後の国内の政治経済を決める大きな枠となった。
 この国際会議は、NGOの役割が大きかった。その果たす姿が日本の一般の人たちばかりでなく、NGOの人々に計り知れない衝撃を与えた。
 市民抜きに世界の政治経済が決められないこと、NGOの責任の大きさも同時に強く要求され、これまでの運動と大きく違った国内の環境運動の盛り上がりと広がりにつながった。
 エコテックもこのCOP3には積極的に参加した。10日を超える会期中エコテックの全員が参集し、NGOのまとめとなった気候フォーラムに運営委員を出し、本会議と平行して開催したNGOの幾つかのイベントを中心的に担った。
 COP3の会場でエコテックの紹介として配布した『エコテック ナウ―ECOTECH NOW』は英訳文も併記し、事業内容を紹介しながら次のようなメッセージを伝えた(少々生堅い文章は国際会議での興奮と不慣れなところが出たのだろう)。
 「市民主体(CITIZEN INICIATIVE)が現代から未来にかけてのキーワードになっています。従来の行政主導や大企業主導のあり方では、血のかよった地域社会にはなり得ないことがはっきりしました。特に環境問題では、市民が自らイメージし、責任を持ち、行動することなしには、地球そのものが成り立たなくなりました。
 環境ビジネスがもてはやされますが“カンキョー”という時流と、儲け話から環境製品や環境サービスに乗り出す向きが多い中で、エコテックは明確に、それとは逆方向からの、使う側・生活する側・社会的矛盾を指摘する側から『環境NGOビジネス』としてとらえます。
 社会的に有用で価値のあるもの、持続的で共生のできる“モノ”を供給することで働く喜びを得たいと願っています。そして単に“モノ”の供給だけでなく、市民生活におけるライフスタイルの変革にまで、手の届く関係を作りたいと考えています。
 行政セクター、企業セクターに重複する様に市民セクターが市民事業として関わっており、これからますますその領域が拡大してゆかざるを得ません。その市民事業(マイクロエンタープライズ)の中で、私たちはワーカーズコープの形態を選択、肩肘を張らず身の丈にあったことを一つ一つ積み上げています。だから、事業体であると共に、NGOであり、NPOでもあるのです。
 その中身は、働く者だけが「出資者」“株主”、「出資者だけが働ける」“会社”です。エコテックには雇用者も被雇用者もいません。ここに働く者が共同所有者であり、協同経営者であり、協同労働者である「労働者協同組合」です。
 この中で新しい働き方を進め、これまでの利潤第一の会社一元論でなく、多元的経済社会(市場経済の枠の外にある価値を含んだもの)を志向しています。
 自立的生産を可能にする高度な技術を持ち、同時に作り手から使い手までネットワーク(エコネット)を形成しています。自ら仕事を興すことによって、新しい職を産み続ける「使命共同体」であり、「従来型でない労働」のスタイルをとっています。
 利潤動機でなく、ミッション(使命)を共有する人々が自ら社会的有用労働の担い手として“仕事おこし”の新しい仕組みを作りだしています」。
 このメッセージは世界の人々に発したものだが、同時に自分たち自身にも自覚するように発したものでもある。COP3は環境問題がどのように市場経済と密接につながりながら、これまでの旧態然とした手法でない理念とそれにもまして「事業方法」を要求されていることをエコテックのメンバーは学んだ。わざわざ3年前のことを紹介するのは、エコテックの現状を知る入口になるからであり、現在の市場経済の中に置かれている企業の亜流としてのワーカーズでなく、環境問題を解決するために重要な役割を果たすあり方ややり方をこのCOP3の中から体で会得したからである。

■エコテックは何を創っているのか 

 現在行っている事業内容一覧を以下に示す。
A 自然エネルギー関連コンサルタント
  ・コンサルタント、設計、施工、メンテナンス
  ・セミナー、講習会
B 環境測定事業
  ・簡易型大気汚染(NO)測定器:エコアナライザー
  ・放射線検知器
  ・太陽光発電・風力発電用測定システム
C 環境関連機器
  ・廃食油石けん製造機:エコサボン
  ・業務用生ゴミ処理機(現状では紹介のみ) 
  ・合併浄化槽
D 自然エネルギー関連機器
  ・太陽光発電システム(全国で200件を超える設置実績)
  ・風力発電機システム(小型の分野ではシステム全体を設計施工できるところが少なくコテックの存在は大きい)
  ・小型水力発電機システム
  ・バイオガスプラントシステム
  ・小型太陽光発電セット:エコライトミニ
  ・太陽電池グッズ:充電器、教育キット、ホビー
  ・太陽電池、コントローラー、インバーターなどの部品
  ・ソーラーファンシステム:床下換気、屋根裏換気
  ・真空式ソーラー温水器(高性能温水器のこの分野でもエコテックは実績を残している。)
  ・雨水利用システム

■参加型を重視して 

 COP3の中で特に「国際自然エネルギー発電所長会議」は関西オフィスのメンバーを中心にエコテックが企画実行を全面的に行った。エコテックの事業である自然エネルギー設置事業がそのまま国際レベルまでつながりながら、その設置者(ユーザー)や部材供給者(メーカー)や第三者的助言者(研究者)そして自治体関係者などが参集して地球環境問題の中で最も大きな影響を及ぼすエネルギー問題で討議交流することとなった。
 エコテックの事業運営でこのような参加型は意識的に進められている。きっかけはエコテックの初期の事業であったドラム式洗濯機の開発の中から学んだことからである。大衆社会を出現させた大量生産・大量消費・大量廃棄システムが地球環境を危うくさせていることは明白になった。更にその生産様式の中で作り手と使い手の間に深い溝があり、いくら環境に良いことをと作り手が考えても自己満足以上のものは作れない仕組みに陥っている。これを乗り越える手法として参加型は必然である。ともすれば使い方まで考えることは煩わしいと嫌悪されがちだが、作り手と使い手が双方向で互いを理解するだけでなく、市場経済的にも安定的関係を作りやすい。これからのエコビジネスの事業のコツと言ってもいいだろう。
 具体例として東京江戸川市民立共同発電所の建設はいい例であろう。それは江戸川の足温ネット(「足元から地球温暖化を考える市民ネット・江戸川」)が受け皿となって、太陽光発電パネルを昔の「瓦寄進」と同じように1口5,000円の『太陽かわら寄進』を集め、エコテックがお寺の屋根に設置して地域でエネルギーを自給していく試みである。同時に不足する資金調達は草の根金融として活躍している未来バンクがあたり、「自然エネルギー推進市民フォーラム(REPP)」の資金補助を受けるなど、まさに市民事業としてやりきっている。遠かったエネルギーがいよいよ自分たちで作ったエネルギーによって手の届くものとなっていく。

■パートナーシップとしてのコラボレーション 

 ワーカーズを志向する者たちはともすれば同好の士で徒党を組みがちであるが、それだけでは時間がたつと組織の活性化が失われてゆく。既成社会へのプロテストとして生まれてきた過程の必然と言ってしまえばそれまでだが、エコテックでは意識的に多様性と共にコラボレーションというパートナーシップでネットワークの幅を広げている。
 例えば反原発NGOと原発推進電力会社とはこれまで敵同士としてお互いに忌み嫌ってきた。しかし硬直した関係からはなにも生まれないばかりか危険性が大きく溜まる結果になっている。近年の原発にまつわる事故や不祥事はその現れである。
 大型公共事業を巡る争いやモータリゼーションから引き起こされる公害など対立の鋭さは時を重ねるだけ厳しくなっている。これを乗り越えて、対立の中で進行する地球環境問題に対処するために、対立軸のある者同士が『テーマを限定的に、しかし非制度的に協働作業をする』というコラボレーション手法が国内の現実社会で試行されている。
 環境NGOの「自然エネルギー推進市民フォーラム」がエコテックも関わって自然エネルギーを普及させるというテーマで電力会社と協働で太陽光発電補助事業を行っている。日和見主義と言われかねない面も持っているためその防御としても市民事業での運営にこだわっている。

■エコテックのネットワーク 

 エコテックは現在アルバイトを入れて9名で構成している。規模を大きくしようとは思っていない。組織の巨大化を求める時代ではない。物心両面の地域循環型社会を目指すにも、地球の自然との共生を考えるにも、またワーカズの個々人が自律し主体的に働けるためにも、組織は小規模でありたいし、手の届く範囲でいい。
 エコテックには三つのネットワークの層がある。下図にあるとおりに第一層のネットワークとして、中心に「内部ネットワーク」がある。エコテックには全国に四つのオフィスがあり、これが内部ネットワークをなしている。(勿論一つ一つのオフィス内部のネットワークもあるが)
 その周囲に「エコネット」という第二のネットワーク層がある。エコネットの設立趣旨の中に
 「……エコネットはワーカーズコープエコテックとの連携を通して、本来の豊かさにつながる生き方、働き方、暮らし方を自治する人とのネットワークを各地で広げ、地球温暖化問題を始めとするさまざまな環境破壊に対する有効な手だてを、私たちの「道具」を通して共に作り上げるものです……」
 エコネットに参加しているの各者は自律しているのでエコテックの代理店でないが、エコネットのネットワーク事務はエコテックが行っている。エコテックの内部ネットワークが充実した活動をしないと直ぐに「エコネット」は意気消沈してしまう。逆にエコネットによってエコテックが生かされている。
 第三のネットワーク層は外部ネットワークとしてエコテックと関係性を持っている。それはNGO組織だったり、環境を配慮した企業であったり、全国にまたがっている。特に参加型の関係もあエコテックのメンバーが各組織の役員を引き受けるなど何らかの関わりを持ったり、エコテックの各オフィスが環境NGOの事務所を引き受けているものもある。その数は40に近い。

■エコテックのファジー理論

 エコテックはワーカーズコープを名乗っているので「一人一票性」の原則は持っている。理念や原則を大事にすると共に、一つの概念では救えないものが必ず内包されている。白黒に区別できないものも結構ある。そんな時は“いい加減さ”でやり過ごしている。これも立派な理論である。明確に割り切れない「揺らぎ」のような問題が数多く存在する。
 役割分担、賃金査定、個人能力差、共同性への協調、相性、生活感覚、仕事感覚、合意の度合い、緊急性との兼ね合い、情報伝達の方向性と同時性……
 ワーカーズを遂行するうえでこれらのどれもが単純ではない。官僚主義に陥らずに、拝金主義に走らず、ぶら下がり待望者を作らずやっていくのにファジー理論がいる。社内の中の階級制がない分、この考え方は大事である。

■エコテックの自然エネルギー事業の実績

◆太陽光発電
 「ベランダで太陽光発電」という太陽光パネル1枚を利用した小さなシステムから10kw規模の大型システムまで、全国に設置してきた。設計・施設メンテナンスにエコテック色を出し系統連系といわれるものだけですでに200件を超えた。その中から毎月発電データが150件以上寄せられている。その合計は一大発電所となっている。
◆太陽熱温水器
 自然エネルギーの中で最も効率が良く、直接利用できる温水器はもっと評価されるべきだ。朝日ソーラー事件はエコテックの事業を再評価させる結果となった。買い換え時にはこれまでより性能の良い真空管方式が好評である。
◆風力発電
 100w〜5kwまでのクラスを中心に設計施工メンテナンスを行っている。今、日本ではエコテックのように小型風力発電システム全体を自作設計できるところは少ない。
◆雨水利用システム
 電気化されることがないシステムだが、自然の循環を上手に利用する点では大事なシステムであり、家庭や事務所で広く施行されるようになった。

■エコテックと市民活動

 エコテックは、NGO環境監視ネットワークの事務局として、活動を支えている。

発 足
 「大気汚染に苦しんで行政に持ち込んでも取り合ってくれない」「子どもたちの環境教育に取り入れたい」「森林保護の運動をしているけれど…」などなど。
  日本は、大気汚染の常時測定局は数が少ない上にデータの情報公開は遅れている。情報公開を求めながら、一方、自分たちでデータを集約していくことの重要性から、エコテックの設立と同時に1994年に発足した。

定着と広がり 発足して6年目。個人で、グループで、生協で、学校で、行政でと測定運動が蓄積され、また一斉測定運動として、横浜・川崎・相模原・練馬・寄居・仙台・名古屋などで定着してきている。
  高速道路と大気汚染を考える会、山岳連盟、高速道路建設に反対する保育園の父母会や地域住民の会などの他に、新たに水環境・オゾン・フロンなどを考える環境団体にもつながりができた。
 定期測定をしている会員の中から本が出版された。

◆詩人・羽生槙子著
 『横浜の空気365日』
 『横浜の空気365日U』
測定法の評価 エコテックで開発製造したNOなどを測定するエコ・アナライザーによる測定は、WHO(世界保健機構)でも簡易測定法として優れていると認めた勧告文が出された。環境庁や自治体へも簡易測定法の普及を申し入れている。

■エコテックの情報発信

 エコテックの通信物はさまざまなネットワークをつないでいる。

◆『SUN SUN エナジー』
 太陽光発電を設置した方、自然エネルギーに関心のある方に向けて、設置した方々の感想やその後の状況・自然エネルギーに関する情報・発電データ・エコテック情報などを掲載している。

◆『エコネットニュース』
 「エコネット」の会員と事業に関心のある方に向けて、会員紹介・エコテックの取り組み状況・商品紹介など掲載している。

◆『NGO環境監視ネットワーク にゅーす』
 前掲の大気汚染測定のネットワークの会員に向けて大気汚染に関する情報・会員からのデータ・大気汚染測定の取り組み紹介などを掲載している。

■エコテックが関わった出版物 

 1)『太陽光発電系統連系最前線』自然エネルギー事業協同組合レエクスタ編、パワー社 (1995.6)
2)『誰でも出来るベランダ太陽光発電』自然エネルギー推進市民フォーラム編、合同出版(1999.10)
3)『ナチュラルハウスを造ろう―環境と健康を考えた住まい作りガイド―』白馬社(1998.3)
4)『街全体が森になるといいな―自然住宅からはじめる至福生活―』北斗出版(1999.12)
5)『労働者の対案戦略運動―社会的有用生産物を求めて―』緑風出版(1995.5)
6)『地球の未来は明るい―ボランティア&市民活動徹底ガイド―』ダイヤモンド社(1995.7)
7)『自治体エネルギー政策ハンドブック』自治労(1997.12)
8)『自然な生き方と出会う』サンマーク出版
9)『光と風と森が拓く未来―自然エネルギー促進法―』かもがわ出版(1999.4)
10)『原発天国のホントとウソ』日本みらい探検隊編、プラネット出版(1999.11)
(都筑 建エコテック代表)

2.3月号目次協同総合研究所(http://jicr.org)