『協同の發見』2000.2.3 No.94 総目次

労協法制定のためのヒアリング
 
 (企)ワーカーズコープ・キュービック
 

 
事業所の名称 (企)ワーカーズコープ・キュービック
事業所の所在地 横浜市港北区新横浜2-5-11
電  話/FAXTEL 045-472-7912/FAX 045-472-8457
設 立 年 月 日 1990 年3月 法人認可1999年11月
法 人 形 態 企業組合
代  表  者理事長 村山節子
組 合 員 数 138人 
事  業  高 15,200万円(1998年度)
出  資  金  634万円(1998年度) 
 

 
 キュービックの活動について、村山節子理事長内井専務理事にお話を伺いました。
 
キュービックの成立ち
 
 キュービックの設立は、コープかながわの理事や行政区の役員経験者が培った経験や知識を生かすこと、生協に関わって仕事をしたいという組合員に活動の場を提供することが動機でした。設立趣意書には「私たちは『もうひとつの働き方』の可能性を求めて、働く者の手で組合を所有し、自ら管理し、生産サービス・労働を通じて働く場を確保するために労働者協同組合を設立することになりました。(中略)私たちは自らの社会参加の要求を満たすと同時に、これまで培ってきた技能や経験を生かした労働として、正しい知識や情報を伝えるために必要な仕事、また、生活全体の質的向上や文化の創造を目指すための事業を進めていきます」と書かれています。
 
◆メンバーの概要
 
 現在の就労者は組合員が138人と若干アルバイトもいるので150人ぐらいになっています。全部女性です。年齢は40歳から75歳ぐらいまで。多いのはやはり団塊の世代です。高齢の方は洋服の仕立て直しやズボンの裾上げのような仕事をされています。30代の方にも就労意欲はあると思いますが、子育てに追われている。その手が離れる40代からキュービックで働くということだと思います。最初の内は生協の役員経験者が理事になっていたのですが、最近はそういった経験者ばかりではありません。10人の理事のうち6人は未経験者です。新しい理事が育つということも組織にとっては必要なことだと思っています。理事会は毎月2回開いています。
 
◆事業の種類
 
 事業は現在6部門に分かれています。食事の事業が一番大きな部門で、事業高の半分以上になっています。4カ所ありますが、この生協ビルの4階の食堂がキュービックに委託されています。28人の人が働いています。97年に相模原にある社会福祉法人で自閉症児の通所施設である「風の谷」の昼食づくりの仕事を受託しました。働いているのは5人ぐらいです。平塚でJAからの委託で食堂「麦畑」をまかせてもらっています。ここは7人です。96年には泉区で高齢者の配食サービスをはじめました。最初は独自にやろうとして出資を募って500万円集めました。はじめようとしていた段階で生協が泉区でこの事業をはじめるということになり、私たちも生協が福祉事業に取組むべきだと思っていたので、この仕事を受託することになりました。昼と夜の2食で、年中無休でがんばっています。食事はコープかながわの組合員さん以外へも届けています。生協の施設を使っているんですから、本来は生協の組合員さんに利用して欲しいと思っています。だから員外利用という感じがあります。このキュービックをつくったのは、「生協をもっと強くしたい」という気持ちでしたし、組合員さんにお役に立ちたいという思いでしたから。でも、利用する人は皆さん生協でつくったものが運ばれてくることはご存知ですから、生協の良さを広げることになると思っています。もうひとつ、グループリビング「CoCo湘南台」という高齢者の方々が協同でつくった住宅があるのですが、ここの昼夜の食事を鍋ごともっていって配膳をしています。研究会から中にはいっていきました。惣菜もつくって生協の店舗に卸しています。働いているのは15人です。
 自分たちの独自事業でリサイクルショップも経営し、コープ赤松店の中にお店を出しています。もう1店は田園都市線宮崎台で神奈川県経済連の施設の中にあります。茅ヶ崎と川崎です。
 「エニ」というセクションがあります。一種の人材派遣のような仕事です。低公害車の会社をいくつかの生協が出資して作っていますが、その事務をさせてもらっています。生協にかかってくる組合員さんから電話を受け、もしもしコープといいますが、これも委託されています。「ゆきげ」と言っていますが、葬祭の学習会の講師をキュービックでやっています。葬儀当日のお手伝いもしています。これは県内25の生協が、96年に一緒に作ったコープ総合葬祭事業に伴って生れたものです。行政区委員会が42、地域委員会が600以上ありますが、そこに出かけていって説明を行います。電話をかけて委員会で説明聞きませんかとやっています。そういった意味では、学習会という仕事の場を自分たちで創り出しているんです。25の生協には医療生協も入っています。チョット葬儀を話題にするのははばかられんですが、それでも「やらせて」って電話しています。年間200から300カ所ぐらいに出かけています。「これは私たちが作った商品ですよ」とやると、職員がやるよりも利用してもらえます。利用者、消費者の立場で語るのはちがうのでしょうね。私たちが理事のときに無添加のコープ商品を開発して、自分たちで売り歩きました。みんなが手弁当で担っていた時代でした。組合員のニーズをくみ上げて、それを商品にする。そして自ら売るという考え方です。しかし、今は時代が違う。それを今は仕事としてやれるようになった。これ以外に、ふれあい共済の講師もやっています。やり方は「ゆきげ」と同じです。ゆきげは雪が解けるという意味ですが、ここには50人ぐらいがいます。
 もう一部門野菜の販売をしています。これは余った共同購入の野菜の販売ですが、売上はJAから借りている畑があるのですが、そこへボランティアで行く方の交通費にしています。ここでできた野菜は、本部食堂と泉区の高齢者給食に使われています。
 他の生協も勉強にくることがあります。全国会議もありましたが、「やりたいけどできない」と言っておられました。「組合員がそんな関係でかかわるというの信じられない」って言うんです。わたしたちは、原点で無添加商品を作ってきた。自分たちで普及してきた。商品運動は組合員の仕事というのは当たり前といった気持ちでいます。いまはそれが事業でできる。
 他に、パソコン入力の仕事や職員とパートの体力測定の仕事もやっています。健康管理の一部で、研修を受けたものが補助員で測定するんです。しかし、これに限定されていない。いろんな仕事が生協から依頼されます。例えば5万通のダイレクトメールとか。
 仕事の采配は理事がやっています。メンバーはそれぞれ主にどんな仕事をするかで登録されています。担当する理事がいて、それぞれコーディネーターがいます。その人たちが電話を掛け合って配置が決まるという仕組みです。
 個別配送の仕事はやっていません。コープかながわでは配送をする個人と契約を行っています。私たちに依頼があったのですが、個人車両の問題とかあって難しいと考えて断りました。それぞれの方々にワーカーズをつくって欲しかったのですが、核になってまとめる人がいないとワーカーズはつくれません。集まった人に外からワーカーズになれといっても無理ですね。
 キュービックが共同購入と関わるのは、夜の電話受けです。フリーダイヤルで注文を受けています。毎日6時から9時まで、いつも9時半ごろになります。
 
◆経営の状況
 
 経営的にはどうにかやっているというところです。初年度の事業高は978万円、現在は15,200万ですから、順調に仕事が拡大され、35人ぐらいから150人ぐらいが働けるまでになっています。今のところ全員840円という一律の報酬です。責任によって手当てはあります。当初100万円問題があったのですが、そんなことにこだわっていると仕事が回らなくなる。そこで夫の扶養から外れる135万円以上働く人には、呼び方が変かもしれませんが「自立支援手当」つまり国保や年金分に相当する金額を支払うことにしました。6人ぐらいの人がそうなっています。実は、扶養家族でいるほうが経済的には得です。夫の家族手当がなくなるし。「おまえだけが苦労してなんで働かなくちゃならないんだ。」この夫の説得が大変なんです。「損得じゃないんだ」ということを理解してもらうのがほんと大変です。何とか説得して数人がこのレベルにきているという感じです。
 昨年12月の総労働時間は8,430時間です。平均は56時間ですが、相当ばらつきがあります。年収の最高額は250万円ぐらいです。就労配当を実施しています。時間当たり15円が98年度の実績でした。みなし法人の時代はちゃんと積立ができていません。決算書にある出資金は、コープかながわに出しています。これは食堂で働く人が個人で組合員になって、生協から食材を仕入れていて、その利用割戻し分を団体出資のような形でここに扱っています。個人に割り戻す類のものでもないので。
 
企業組合法人の認可
 
 昨年11月に企業組合の認可を受けました。変えるのに1年間学習会をやってきました。労災問題が一番大きな理由です。しかし、企業組合になった今も雇用関係は認めていませんから労災問題は未解決。つい先日仕事中に火傷があった、労災病院に駆け込んだが、結局だめだった。
「あなた達の考えじゃだめだ」
「雇用契約を結べば良いじゃないか」
「ワーカーズコレクティブの皆さんは理事会が雇うとかやってますよ。」
「事業主負担もありますよ。払えますか。」
 メンバーの中には雇用関係を結んで欲しいという人もいたが、理事会で決断ができなかった。「雇用関係は形式的には結ぶ、だけど本当は違うんだ」というのはしんどい。教育的にも良くない。これまでみんなで一緒に共同で経営する、運営するのだと言ってきたのに、形式だけでも簡単には変えることができません。雇用関係を結べば、分配金でなく、賃金になってしまう。パート感覚ではたらいてもらっちゃこまるが、パート感覚になってしまう。結局、今は損害保険会社との保険契約でカバーしています。
 この労災問題では根が深い。怪我をすると夫(家族)が文句を言っていくる。「働いていて、怪我して、何で労災じゃないんだ」と。家族の了解が得られない。メンバーの方も家族にしっかり説明ができていない。普通の勤めしか知らなければこの関係を理解するのは難しい。
 源泉税はやっています。税務署は「雇われていない」ことは問題にしません。税金が入ればいいという対応です。
 みなし法人の場合は、代表者が全部負わなくちゃならないから、大変でなり手がいない。法人化で少しは変わるかもしれないと期待しています。
 メンバーやとくに理事の中では法人化は重みがあります。「これでもっとしっかりしなくっちゃ」という意識になっているし、世間の見る目が違ってきている。やはり法人には信頼感があります。企業組合にしてよかったと思っています。
 法人格というのは、コープかながわとの契約関係では問題にならないのですが、社会福祉法人「風の谷」との契約では、2年以内に法人格を取得するというのが条件で契約してもらいました。JAも同じです。今はそんなに大きな契約でないからいいのですが、この事業を継続してやっていこうとすると、法人格があって、そこが契約の主体になっているということは、どうしても必要なことだと思っています。
 企業組合法人では、経理の監査しか規定がない。協同組合にとっては組織監査も必要だと思います。しかし、その規定がない。また、目的が事業だけに限られています。協同組合であれば、メンバーの教育などもあるのに、そこが規定されていません。営利目的というのも明確になっています。
 認可を受けるに当たっては、中央会から雛型どおりの定款であることを求められました。「とにかく認可が下りるまではそうしてください」ということです。しかし、「非営利」だけは譲らないでがんばりました。
 企業として継続していくのに積立金が必要です。これまではできていませんが、今後は行うつもりです。出資金の額は、企業組合になって、5口5万円ということにしました。138人の全員が支払いました。一番多い人で40万円ぐらいです。
 「理事長と専務は月給じゃないといけない」と言われました。私たちはこれまで時間で仕事をして稼いでいました。どういう仕事をして何時間働いたかがはっきりしていたんですが、固定給になると、ただ座っていても給与がでるという風に見られてしまいます。これが嫌だったことです。
 
◆法制問題
 
 法制問題については、とくに活動方針をもっていません。そういった運動が具体化するなら一緒にやってゆきたいと思っています。内容的には、税法の優遇は是非必要だと思っています。他の協同組合に認められている程度のもので。社会保険も必要です。私たちのような働き方にも適用されるものであって欲しいと思います。
 現在の企業組合には、「従事分量配当」は損金として認められません。みなし法人の時も給与として分配していました。
 
◆労働組合との関係
 
パート労組がありますが、「あなた達がいるからパートの賃金が上がらない」とか「雇われていない人は労働者といわないの」とか、かなり厳しい言われ方をしました。最初はしょっちゅう言われました。現在でも基本的にこの関係は変わっていません。それでも私たちのやっている仕事は認めていると思います。住み分けというのか、パートさんたちは、100万円の範囲で働いていますから、年末なんかになると欠勤が増える。そこはキュービックがカバーしている。ちょっと変だと思いますが、メンバーも「良いんじゃない」と言っているので、仕事はしています。生協が仕事が回らなくて困っているのに放ってもおけませんから。突然のトラブルにもパートさんでは対応不能です。本来の仕事があるから。しかし、パートさんには脅威でしょうね。そのうち仕事全部取られちゃうんじゃないかと。リタイアする職員やパートが相談にくることがあります。「一緒にやれないかしら」と、自分たちで仲間をつくって独自に旗揚げするのは、本当に大変なことです。だから中々広がらないんです。
 
◆その他の問題
 
 生協からの委託金額は、当時のパート賃金の平均で割り出しました。ボーナスや福利厚生費を勘案して。現在の生協の経営状態を見ていると、値上げはとても言い出せない。また、働く側のメンバーを見るとばらつきがあります。女性の社会参加ということがあったし、イエス・ノーがしっかり言える存在に育って欲しいということあり、生協の仕事を通じて学習もしている。だからパートさんと比較すると、仕事によっては自信がない部分があります。仕事によってはもっとやれるものもありますが、大方はパートさんの方が早い。職種の代行的な仕事で馴れていない仕事がキュービックに回ってくるからなんですが。
 コープかながわに関係しているワーカーズコープで連絡会を作っています。LANというのが機関紙です。新しくできるワーカーズは家事援助が多いようです。
 

2.3月号目次 協同総合研究所(http://jicr.org)