ICA理事会は2年前に、本千年紀大会の全体テーマを「組合員制に新たな価値を――次の千年紀への協同の挑戦」と決定しました。これは、世界中の協同組合運動が直面している主要な趨勢と挑戦課題を注意深く考慮した上での決定でした。
組合員を中心に据えること(the centrality
of membership)は、言うまでもなく、協同組合の独自性(co-operative
difference)の核心をなすものです。協同組合は、その組合員によって管理(controlled
by their members)され、その組合員のために運営(operated for their members)される点が、際立った特徴です。国際的に有名なライファイゼン原則は、この点においてきわめて明快であり、自助(self-help)、自己統治(self-administration)および自己責任(self-responsibility)を掲げています。
とはいえ、周知のように、簡潔な信条ほど、しばしば最も実現困難なものです。私たちはみな、協同組合員制(cooperative-membership)という関係の中に、きっと個別具体的な問題の事例を見出すことができると思います。しかし私たちはここカナダに集まっているのですから、有名なカナダの協同組合人、アレックス・レイドロウが、『西暦2000年の協同組合』と題したその古典的報告の中で述べざるをえなかった点について、触れさせていただきましょう。
1980年のICA大会のために用意されたこの文書の中で彼は、協同組合の業績にマイナスに作用している11の問題領域を取り出しました。それは、次のようです。
* 組合員の主体的関与(The commitment of members)
* 民主的参加(Democratic participation)
* 教育の欠落(the neglect of education)
* メッセージの伝達(Communicating the message)
* 協同組合のイメージ(The Image of co-operatives)
* 素人とテクノクラート(Laymen and technocrats)
* 国民的課題の重視(Relevance of national
problems)
* 協同組合と貧困層(Co-operatives and the
poor)
*雇用者としての協同組合(The co-operatives
as employer)
* セクターの連帯(Sectoral solidarity)
*国際開発への態度(Attitude to international
development)
これら11の課題うち、最初の6つは、組合員制(membership)の問題に直接関わるものです。西暦2000年を迎える今、1980年の諸課題はあまり変わらなかった、とさえ結論づけられるかも知れません。
組合員制の問題は、最近のICA協同組合原則改訂においても、重要な検討課題でした。イアン・マクファーソンがマンチェスターでの1995年ICA大会に報告したように、原則の一つ一つが、組合員(members)を最も念頭において述べられ、あるいは書き直されています。これらの原則を見直してみれば、彼の主張したことは明らかです。
◆原則
協同組合原則は、協同組合がその価値を実践に移す指針である。
第1原則:自発的で開かれた組合員制(Voluntary and Open Membership)
協同組合は、自発的組織であり、そのサービスを用いることができ、組合員としての責任を進んで受け入れる、すべての個人に開かれている。ジェンダー的、社会的、人種的、政治的、ないしは宗教的差別があってはならない。
第2原則:民主的組合員管理(Democratic Membership Control)
協同組合は、その全組合員(membership)によって管理される民主的組織であり、組合員は政策の策定と意思決定に積極的に参加する。選出され代表者の役割を務める男女は、全組合員(membership)への説明責任を負う。第一次協同組合では、組合員(members)は平等の投票権(一組合員一票one member,one vote)を有し、他のレベルの協同組合も、民主的様式によって組織される。
第3原則:組合員の経済的参加(Member Economic Participation)
各組合員(Members)は、自らの協同組合の資本に公正に参加し、これを民主的に管理する。資本の少なくとも一部は、通常、協同組合の共同所有である。各組合員(members)は、組合員資格(membership)の条件として払い込んだ資本に基づいて報酬を受け取る場合にも、通常、その報酬は制限される。組合員(members)は、剰余を次の目的のいずれか、あるいはすべてのために配分する。すなわち、可能なら少なくともその一部を不分割として、準備金を積立て、自らの協同組合を発展させること。協同組合との取引に応じて各組合員(members)に利益を還元すること。組合員が全体として(membership)承認したその他の活動を支援すること、である。
第4原則:自治と独立(Autonomy and Independence)
協同組合は、その組合員(their members)によって管理される、自治的な自助組織である。政府を含む他の組織と協定を結び、あるいは外部の財源から資本を調達する場合、協同組合は、その組合員(their members)による民主的管理を保障し、協同組合の自治を保持することを条件として、それらを行う。
第5原則:教育、研修および情報(Education,Training and Information)
協同組合は、その組合員(members)、被選出代表者、経営者、従業員のそれぞれに対して教育と研修の機会を提供し、彼らが協同組合の発展に有効に貢献できるようにする。協同組合は、青年や世論の指導者をはじめ、一般公衆に対して、協同組合の特性と便益を知らせる。
第6原則:協同組合間協同(Co-operations among Co-operatives)
協同組合は、各組合員(members)に最も有効に役立ち、協同組合運動を強めるために、地域、全国、大陸州、および国際的なそれぞれの機構を通じて協働する。
第7原則:コミュニティへの関与(Concern for Community)
協同組合は、その組合員(their members)が承認した政策を通じて、自らのコミュニティの持続可能な発展のために活動する。
以上から、イアン・マクファーソンは、語彙が乏しくて、どこでも組合員だ、と結論づける人がいるかも知れません。もちろん、組合員制(membership)という概念が、協同組合が行う、あるいは行うべきすべてのことにとって、いかに中心的な位置を占めているかを強調することが、真意であります。
本日の大会全体会の背景にある考え方は、したがって、世界中の協同組合が自らの原則を実践に移すために現実に行っていることを見ることこそ、有益であるだろうというものです。そうして見てみると、実際に多くの進歩が達成されつつあります。本日示されるケーススタディにおいても、興味深いことは、それらがみな、巨大な成功した協同組合運動から出されていることです。このことは、協同組合原則と事業的成功はつながっているという理論を裏付けるものです。
本日の報告者はそれぞれ、組合員制への新たな価値付けという問題を、異なる視角から論じます。
* グラハム・メルモスGraham Melmothは、ここの聴衆のみなさんにはご紹介の必要がないでしょう。1995年から1997年までICA会長であった彼は、欧州最大の消費者協同組合である、英国卸売り協同組合連合会CWSの取締役会長です。CWSは、彼の指導の下に、「組合員制を意味あるものにする(Making membership meaningful)」新しくイメージ豊かな計画を採り入れています。
* この問題の議論にとって、きわめて重要なジェンダー的視点を明確にするために、バンクーバー・シティ・クレジットユニオン(バンシティ)議長のコロ・スタンバーグCoro Standbergをお招きしました。バンシティはカナダ最大の信用協同組合であるだけでなく、数年前にカナダ最初の倫理的投資基金を導入した、最も革新的な信用協同組合の一つと見られています。
* 合衆国の協同組合の状況において、最も際立った特徴の一つは、多数の新しい種類の協同組合が、近年設立され、新たな組合員のニーズに応えていることです。ワシントンにある全国協同組合事業協会の会長で最高経営責任者のポール・ヘイゼンPaul Hazenに、この報告を行っていただきます。
* 協同組合は自らの独自性を売り出し、それを実践しなければなりません。ステファニア・マルコーネStefania Marconeには、イタリアの協同組合がこの分野で行っていること、行ったことを示していただきます。彼女は、イタリアの協同組合ナショナルセンターであるレガコープの国際部長で、ICA理事です。
* 最後に、ここケベックのデジャルダン連合会理事の、スザンヌ・メゾヌーブ−ブノワSuzanne Maisonnuve−Benoitには、人民金庫が、営業エリアのコミュニティの成員に対して付加的な利益を提供する上で、どのような活動を行っているかを述べていただきます。この社会的バランスシートは、デジャルダン年次報告の重要な部分を常に形成しています。
お集まりのみなさん、以上が本日午後の予定です。本日午後に行われる報告は、ICAのウェブ・サイトに載せられますので、参加者のみなさんは帰国されてからそれらを引き出せることを付け加えなければなりません。
◆解 説
前号(第92号、1999年12月号)に、ICAケベック大会の資料を若干掲載しました。本号では、大会全体会の討議の開催にあたっての、ソーダーソンICA専務の発言を紹介させていただきます。ソーダーソン発言は、大会がどのようなモチーフのもとに開かれたのかを示すもです。
■大会のタイトルについて
まず大会のタイトル「ADDING VALUE TO MEMBERSHIP:A
COOPERATIVE CHALLENGE FOR THE NEW MILLENIUM」についてです。
拙訳では「組合員制に新たな価値を――新千年紀への協同(組合)の挑戦」としました。とくに問題となるのは、membershipをどうとらえ、Adding
value to membershipをどう解釈するかです。
membershipは、『ロングマン英英辞典』によれば、「組合員(会員)の地位(status)」「組合員(会員)全体(総体)」で、訳者としては、「組合員であること」「組合員たること」「組合員というあり方」「組合員制」というように解釈しました。そして、この「組合員というあり方」「組合員制」に対して、新千年紀を迎えるいま、現代的な意義を付与して、グローバルな「協同組合発展の第二の波」をつくりだすという趣旨であると、「Adding
value to membership 」をとらえました。
この解釈は、前号掲載の大会報告の内容と、今回のソーダーソン専務発言に照らしても、大きく間違っていないと思われます。協同組合が(組合に入ってくれた)組合員に「付加価値」をどう提供するか、という議論ではなく(もしそうだとすれば、「協同組合」とmembershipたる「組合員」は乖離し、協同組合=与える側、組合員=与えられる側となってしまいます。また、「付加価値」はValue
Addedです)、出資し、運営に参画し、共通の要求と願いを自ら実現する「組合員というあり方」に「(新たな)価値を与える」というものであると考えます。
■レイドロウ報告の問題意識
ソーダーソン専務は、1980年ICAモスクワ大会での『レイドロウ報告』を引きながら、membershipこそが「協同組合の独自性の核心」をなすものであると、大会テーマを解題しています。
ソーダーソン専務が、レイドロウ報告がmembershipについて言及したとされている部分を、協同組合学会訳編・日本経済評論社版『西暦2000年における協同組合[レイドロウ報告]』で見てみます(一部訳語を変更)。
第1は「組合員の主体的関与」の弱まりです。「共通の要求の実現を目指す人びと」である組合員自身が、「団結して共に行動することに主体的に関与する」ことは、「協同組合の基礎」であり、その弱まりは、協同組合の基礎が掘り崩されていることだというものです。
第2は、「組合員の民主的参加」です。総会をはじめとする参加の低下が民主的管理を空洞化しつつある事態に対して、「大規模組合における分権化のメカニズムの導入」や、参加を呼び起こす運動課題の設定が示唆されています。
第3に、「教育の欠落」です。「協同組合とは何か、なぜ生まれたのか」が「新しい世代の組合員」に伝えられないとすれば、協同組合が組合員のものとは実感されなくなるのは当然である、と警鐘が鳴らされます(レイドロウ博士は、「人は自分が理解しないものを、自分のものとは思わない」というゲーテの言葉を引いています)。
第4の「メッセージの伝達」、第5の「協同組合のイメージ」は、社会に協同組合の理念と活動を伝える「協同組合人」の課題として提示されています。
第6の「素人と専門家」は、「組合員によって選ばれた素人集団(理事会)」と「理事会によって任命されたマネージャーと職員」の「二つの異なったグループ」が共に「指導者集団」を構成している点に、協同組合の優れた特徴を認めるとともに、その成功のためには相互の信頼と、責任のバランス・区分が必要であるにもかかわらず、専門家支配の強まりの中で「協同組合民主主義の最も大事な管理機構」が崩壊することを懸念し、「素人指導者たち」が「意味のある方法で役割を果たす能力」に期待を寄せています。
以上、組合員が主体的に協同組合活動に関与し、参加によって民主的に協同組合を管理し、学習を通じて協同組合の主体として成長し、協同のメッセージとイメージを社会に伝達し、組合員統制と専門的経営能力を統合すること――一言でいえば民衆の 「エンパワーメント」(主体形成)の装置としての協同組合のあり方が、membershipに関わる重要な事項として取り上げられていたことを確認することができます。
■新千年紀を前にした実践的検証
ソーダーソン専務は、レイドロウ博士が示した協同組合運動の弱点が、残念ながらまだ克服されたと言えないことを認めます。
しかし、その克服の問題意識が、ICAにおけるこの20年間の討議と世界の協同組合運動の実践に一貫して継承されてきたことも、また専務の発言から明らかです。
それが、一方では、1995年ICAマンチェスターにおいて結実した「協同組合のアイデンティティに関する声明」(新原則)です。
そして何よりも、世界中の協同組合が行ってきた「原則を実践に移す」取り組みの蓄積です。大会は、「巨大な成功した協同組合運動」のこの面における進展をケーススタディとして学びあう場となりました。「協同組合原則と事業的成功はつながっている」――まさにこの確認の上に、新千年紀の「協同の挑戦」が、世界の各地で力強く始まっているのです。