『協同の發見』1999.9 No.89 目次

公平な社会の創造/協同組合の貢献
 ――日本労働者協同組合連合会20周年に寄せる報告――

チャーリー・カッテル(ICOM、ICOFの政策相談員/新イギリス協同組合法の協同執筆者)
翻訳: 坂林哲雄(協同総合研究所)


◇チャーリー・カッテル氏 プロフィール◇
 18歳の時に印刷協同組合の創立に参加、9年間そこで働いた後、協同組合の開発担当者としての仕事をするために移籍。その後ICOM(労働者協同組合と協同組合開発期間の全国連合組織)に採用され、10年間をそこで過ごす。ICOMでは法律と組織問題を専門とし、協同組合連合や社会的介護協同組合などを含む新しい形の協同組合の開発にも責任を負った。「協同組合と市民事業の法的枠組みへのガイド」を含むいくつかの著作があり、また、慈善団体や非営利組織の法律、経営問題に関する多くのガイドも執筆している。1991年から96年までUKCC(イギリス協同組合協議会)にも勤め、新協同組合法の作成を行った。
 現在は、コンサルタントとして労働者協同組合の開発と促進のためにICOMとの契約で働いている。


第1章  イギリスにおける労働者協同組合の承認と支援

(a)労働者協同組合の性質
(b)法的地位
(c)労働者協同組合に対する援助
(d)公共政策
(e)共同所有と不分割積立金


1(a)労働者協同組合の性質

 協同組合運動について語る時、多くの人は、生協やまたおそらく農協を頭に浮かべるが、労働者協同組合については考慮の外であろう。このことは、意外に思われるかもしれないが、日本でもイギリスでもあてはまることなのである。
 というのは、西ヨーロッパ諸国の生協運動が19世紀から20世紀にかけて始まった時、その運動は労働者の経済状態を改善することや労働者の生活の文化的側面を向上するという目標をもって始められたからである。有害な食品や製品から消費者を守ったり、消費者の権利養護を促すというために1960年代に始まった日本の運動とは、その起源を異にしているのである(1 )。
 初期のイギリス協同組合の活動家は、労働運動や労働組合から反対されながらも、労働者所有制や労働者管理を奨励した。事実、イギリス協同組合連合会と国際協同組合同盟(ICA)の双方とも当初から職場の従業員を、組織を通して労働者の利益をはかっていくという主要な目的をもって設立されている。しかし、生協はその驚くべき数の力と財政力によって、またたく間に支配的な存在になっていった(2)。
 しかしながら、過去20年の間、イギリスにおいては、革新と成長のもっとも大きな能力を示したのは労働者協同組合であったし、現に多くの新しい発展がこのセクターに集まってきている。
 労働者協同組合は、ICAによって確定された協同組合原則によれば、その従業員によって所有され、民主的に管理された企業である。すべての従業員は組合員になることができ、一組合員一票の原則で管理されている。その主要な目的は、組合員に持続可能で報酬のある就労の場を提供することである。
 労働者協同組合の組合員資格は通常報酬を受取る従業員に限られるが、場合によってはボランティアにも認められている。
 従業員と提供されるサービスの利用者、場合によっては地域社会の代表を含めるステイクホルダー(あるいは混合型)協同組合という理念は、イギリスにおいては比較的新しく、現在はほんの少数の例があるだけである。それらのうちの一つはグリニッジ・レジャー協同組合である。ロンドンのグリニッジでレジャー・サービス(スイミングプールや体育館)の運営を行っている協同組合である。この協同組合は、従業員所有協同組合であるが、他の関係者も理事会に入っている。理事会の構成は、従業員11名、施設利用者2名、地方自治体の代表者2名、働組合代表1名と専務理事である。

1(b)法的地位

 「産業および節約組合法」と呼ばれる協同組合の一般法がある。これは非常に古風なタイトルで、何を想定しているのか誰にも正確にはわからない。事実、この法律に準拠して登記され得る協同組合には次の二つの異なるタイプがある。すなわち、協同組合と地域社会の利益のための協同組合(コミュニティ)とであって、後者は博愛的なサービスを提供する非営利組織であり、典型的な例は貧困者のために住宅づくりをしている協同組合である。
 「産業および節約組合法」は、本来的には生協のために作られているが、他のタイプの協同組合によっても利用されている。1981年まで、全ての労働者協同組合は産業および節約組合法に準拠して登記し、それ以後は、多くの、特に比較的小規模な企業は、それに代わって、会社法を利用するようになった。この方が産業および節約組合法に準拠した登記よりもずっと費用がかからず、また早いからというのが主な理由である。しかしながら、会社法で登記された協同組合は、事業体としてより強固になった段階で、産業および節約組合法に切り替えることができる。これには、総会での決議と書類の記入、手数料の支払いが必要となるだけである。
 20年ぐらい前迄は産業および節約組合法による協同組合は、株式会社と比較して低い税率の事業税を支払っていたが、この差はもうなくなっている。

1(c)労働者協同組合に対する援助

 イギリスの労働者協同組合運動は民間セクターから成長した。事業主のある小さなグループが、彼らと従業員の間の関係を不公平だと考え改め、その企業を民主的な従業員所有制に転換し始めた。この運動は、(スコットベーダーの)アーネスト・ベーダーがリードしたのであるが、彼は、彼の理想を促すために、「民主的産業統合協会」(デミントリィ)と呼ばれる組織を設立することにより、彼に続く人々を励まそうと試みた。1971年、この組織は産業共同所有運動(ICOM)とその名称を改めた。
ICOMの最初の仕事の一つは、労働者協同組合のモデル・ルールを作成することであった(すなわち、模範定款である)。労働者協同組合の明確な法的独自性の欠如は、労働者協同組合を促進するのに大きな障害となっていた。比較的初期の労働者協同組合は、法的な研究に多くの時間とお金を費やして、適切な法律上の組織構造を確認しようと試みてきた。ICOMが産業および節約組合法に準拠した登記のためのモデル・ルールを作成したことで、新しい労働者協同組合は速やかにしかも安価に登記ができるようになった。モデル・ルールによる登記サービスは、今日でもICOMの主要な活動として続けられている。
 その2年後に、スコット・ベーダーの贈り物であるが、新しい事業と事業拡大のための融資を行う産業共同所有基金(ICOF)を創設した。
 このような努力のどれ一つも、公的基金からの援助を受けなかった。ICOMとICOFは、従業員所有制に関心があったので、主に消費者の所有制に関心を払った協同組合連合会とはあまり接触がなかった。そのため、ICOMとICOFは、国家と主流の協同組合運動とは別個に発展をした。
 事態が変化したのは、地方自治体が失業と戦うことに積極的になった1970年代中葉のことであった。地方自治体は、地域の雇用を創出する新しい事業開発を援助しようとした。かくして、多くの地方自治体は、「労働者協同組合はこの目的達成に適した手段を提供する」との確信を得たのである。
 何故なら、
 第1に、労働者協同組合は、地方的に所有され、コミュニティの内部において利益と仕事を生みだしかつ維持しているからであり、
 第2に、労働者協同組合は、民主的に管理され、社会正義と機会均等の原則を実践しているからであり、
 第3に、労働者協同組合は、危険と報酬を他者と分かち合うのであるから、さもなければ雇われないで働くことや事業を始めようと考えなかったような人たちに起業への道を提供するからであり、
 第4に、労働者協同組合は、短期間な金融利得を稼ごうとする、遠くにいる株主に支配を受けないからであり、
 第5に、労働者協同組合は、採算の取れる目的と社会的目的を結び合わせながら競争市場で機能するからであり、
 第6に、労働者協同組合は、多くの雇用創出計画と異なり、公的助成の継続を求めないからである。

 その結果として、イギリス中の地方自治体は、協同組合開発機関(CDAs)を設立したのである。この機関は、協同組合を選択肢に加えるよう奨励し、また新しい協同組合事業を始めようと望む人たちのグループを支援するためにスタッフを採用した。活動を始めた多くの機関は、新しい労働者協同組合に創業資金を融資する独自の貸付基金を保有していた。
 同時に、労働者協同組合への援助の高まりは、生協運動の中に関心を引きつけることになった。例えば、ある人は、CDAsの経営委員会の委員を務めることによって労働者協同組合に参加するようになった。CDAsが労働者協同組合のもっとも有力な促進者になるにつれて、主流の協同組合セクターとの関係も徐々に親密になっていった。

1(d)公共政策

 1970年代末の労働党政権もまた労働者協同組合の価値を理解し、三つの主要な立法を成立させた。
 1976年に成立した産業共同所有法は、ICOMとICOFのために公的基金を提供し、法律によって始めて労働者協同組合を定義した。しかしながら、この所有法は、新しい登記を規定していなかったために、労働者協同組合は依然として産業および節約組合法か会社法に準拠して登記をしなければならなかった。ICOMは、協同組合開発のために5年間で10万ポンド(1860万円)を受取り、またICOFは労働者協同組合に投資するための会社貸付基金として25万ポンド(4,650万円)を受取った。
 1978年に成立した都市貧困地域(Inner Urban Areas Act)法は、貧しい都市地域に対して特別な財政援助を定めた。この条例によって、指定された貧民救済地域のどこにでも新しく労働者協同組合を設立する場合は、上限1,000ポンド(186,000円)が補助されることになった。この補助は、登記、広告それに事務用品のような基本的な創業費用に十分に役立つものであった。
 1978年にはまた、労働党政府は全国協同組合開発機関(NCDA)を設立した。名目上は独立していたが、NCDAの理事はすべて政府によって任命されていた。NCDAの付託事項は、すべての形態の協同組合を促進することであったが、政府の優先順位が雇用創出だったので、NCDAはその努力を労働者協同組合に集中した。NCDAは一般的に成功したとは考えられていない。協同組合運動の信頼と支援の獲得に失敗したからだ。いつもICOMと紛争が絶えず、いくつかの大きなプロジェクトは恥ずべき失敗だった。
 1980年代を通じて、労働者協同組合が利用できる沢山の支援があり、(主に地方のCDAsを通じて)十分な公的資金が開発、訓練、投資のために利用できた。その結果、労働者協同組合の数が劇的に増加し、1975年の12から1980年代の終わりには1,500を超えていた(3)。
 1979年に成立した保守党政権は、協同組合に関心を持たなかった。そのためNCDAへの資金継続は別にして、協同組合開発の大部分の支援は地方CDAsからもたらされた。産業共同所有法からICOMへの資金提供は、その法律の期限である1981年において見直されず、打ち切られた。1990年政府はNCDAを閉鎖。そして都市貧困地域法も期限切れとなった。さらに地方自治体の支出に対する厳しい規制は、多くの地方CDAsの閉鎖となった。
 協同組合運動それ自身は、徐々に統合に向かっていった。1991年にすべての協同組合が一緒になり、イギリス協同組合協議会(UKCC)が設立された。これは偉大な成功で、セクター間の相互理解が一層促進された。生協の中には協同組合の発展や地方CDAsのために、協同組合間の協同或いは地方自治体に代わって、資金的支援を行っているところもある。
 重要な変化は地域開発機関(RDAs)が創られたことである。これは今年に入ってから始められている。イギリスを9つの地方に分けて、経済発展と支援のための全国とヨーロッパの基金の重要な部分の管理をRDAsが行っている(ウェールズ、スコットランド、北部アイルランドはそれ自身の機関である)。イギリス協同組合協議会は、各地域においてすべての協同組合と協同組合支援組織が協同するように、地方協同組合協議会(RCCS)の設立によって迅速に対応しはじめている。この協議会は各地域の協同組合運動のために統一した見解を示して、地域開発機関に影響を及ぼすことが可能である。
 労働党政権が2年前に選ばれ、協同組合に対して大きな関心を示している。労働産業省の大臣、ミッシェル・ウィル氏はラフバラで開かれたICOM/ICOFの会議で演説を行った。大臣がICOM/ICOFの活動に参加するのは20年間で初めてのことである。
 つまり、政治的環境は、1979年から1997年の保守党政府の頃と比べて、これからの数年はもっと理解しあえるものになると思われる。
 イギリス協同組合協議会の重要な課題のひとつは、新しい協同組合法だ。既にお気づきのように、産業および節約組合法の、一般にはなんだかわからない名前とその規定は、あまりに古すぎる。新しい現代の協同組合法は、協同組合に対してより明確な法的位置づけを規定している。それが通れば本質的なものとなる。
 私は協同組合法の草案を作成する小委員会のメンバーになる特権が与えられている。この新協同組合法に、労働者協同組合の必要としていることを、確実に盛り込ませるのが私の仕事だ。

1(e)共同所有と不分割積立金

 新協同組合法の目的の一つは、「コモンオーナーシップ」とよばれる原則を始めてイギリスの法律に導入することである。これには少し説明が要るだろう。
 最初から、イギリスの労働者協同組合の大多数はコモンオーナーシップと呼ばれる制度を採用している。この意味は、仮にその協同組合がまだ支払い能力があるにも関わらず解散するとき、その財産は組合員に分配できず、他のコモンオーナーシップの企業やそのセンター組織としてのICOMやICOFに譲らねばならないということだ。この財産はこれまで組合員の間で分配されてこなかった利益をあらわしている。
 コモンオーナーシップ事業を閉鎖するまで組合員に対する資産的利益は存在しないものとして、協同組合に事業を続けることをうながしている。そして、働いているある一つの世代が過去の世代の労働から不正に利することができないことを明確にしている。生産協同組合づくりの初期の試みは、結局失敗だった。組合員がその事業の資産を分けるために事業を解散するようそそのかされたからだ。多くの継続できる力のあった事業がこの方法で失われた。そして、地域社会から仕事や福祉、サービスを奪ってしまった。
 コモンオーナーシップの原則はもしかするとイギリスの労働者協同組合運動の独特のものかもしれないが、多くの国々で協同組合は不分割積立金(たとえば、組合員で分けることができない再投資のための利益)を積み立てることを求められている。同様に、利益のある割合を社会や教育目的の基金へ積み立てることがある。たとえば、「現在のスペイン協同組合法は、組合員や従業員の関心の向上のための教育基金や、社会環境のための基金へ、生み出された利益からお金を積むことを義務づけている」(4)。典型的な例はスペインのバルセロナ地域の協同組合法である。少なくと利益の20%を不分割積立金に、そして10%を協同組合の促進と訓練のための基金へ積み立てなければならない。
 社会目的に利用される保証付のお金の積立てが準備される間、これらの積立金は協同組合が過度に組合員に利益を分配することを防いでいる。過度の分配は財政的な弱点になるだろう。日本労協連と協同総研で作成した法案の中に、個々の協同組合に対して利益の一部を就労創出、教育、福祉、そして開発のために積み立てることを求める同様の規定が含まれている。このような積立基金の存在は、労働者協同組合を他の事業形態から区別する最も重要な性質の一つである。積立金は、地域社会が協同組合の商業活動から利益を得ることを保証し、さらにその協同組合の追求する他の社会目的までを確かなものにしている。
 この重要な協同組合の特質は、適切な規定を含んだ法律によって保護されねばならない。イギリスにおいて、コモンオーナーシップの原則は、まだ法律によって保証されてはいない。それは労働者協同組合の定款の中に規定されている。しかし、将来の組合員が定款の規定を変更することは可能である(まれではあるが)。これが新法にその原則を含めたい理由である。私は労協連と協同総研が日本の新しい労働者協同組合法に、不分割基金の原則を置くことに成功することを願っている。


第2章  公正な社会へむけて労働者協同組合の貢献

 労働者協同組合は社会目的に経済目的を統合した事業である。私たちは協同組合が特別な役割を担う五つの分野を認めることができるだろう。
(a) 就労創出
(b) 公共サービスの提供
(c) 社会福祉
(d) 社会的排除に対する闘い
(e) 激しくなる競争

2(a)就労創出

 失業に対する闘いはさまざまな方法が模索されてきた。いくつかは成功を納めている。イギリスにおいて、一般的な解決方法は日本の企業に新しい工場建設をお願いすることだ。
 しかし、ほとんどの就労創出計画は大きな弱点を抱えている。失業者や地域社会が、仕事おこしのやり方、失業中堪えなければならない期間の長さ、その仕事の質に自ら関わることができないことだ。厳しい市場社会の中で、協同組合づくりは、この重要な要素に深く関わる機会を地域に提供している。
 私たちは、労働者協同組合の中で生み出される仕事の有利さを次のようにまとめることができる。
1. 労働者協同組合は、生活費を稼ぐ方法に人々自身を関わらせることができる。その事業は、投資家や株主のためにではなく、主に働く人の利益のために営まれる。
2. 労働者協同組合は、その従業員が所有し管理することを通じて、確固とした仕事の場の確保を行う。利益追求や「合理化」のために閉鎖や移転を行うようなことはない。
3. 労働者協同組合は、組合員に合った仕事を組織する。例えば、労働時間や育児が両親のために準備される。これは労働市場の中で不利益を被っている人々に対して労働の機会を広げることになる。また、従業員の成長や訓練に強く関わることにもなる。
4. 従業員が事業の所有者なので、その商品やサービスの高い質や仕事の満足感の高まりを通じて、仕事に強い誇りが生まれる。

 イギリスにおける労働者協同組合の就労創出の経験は、二つの異なるタイプを認めることができる。

地域レベルの協同組合づくり
 これは、地域の人々を経済的な機会と結び、このチャンスを生かしてもらうための必要な訓練や助言、支援を行うことで、人々と一緒に仕事おこしに取組むものだ。このタイプの開発は、しばしば労働市場の中の不利益を被る人々に向けられている。長期の失業者、障害をもった人、過去に罪を犯した人など。ある面ではこの種の協同組合開発は、反貧困や地域開発戦略と共に又はその一部として営まれている。これらの場合、協同組合で事業を始める人を直ぐに支援することにはならないようだ。つまり、彼らは先ず他のタイプの地域活動に関わり、訓練を受けた後に、自ら事業を始めることを紹介される。
 地域レベルの仕事おこしの協同組合は、零細で資金的にも弱く、最初の数年間は多くの支援を必要としている。

産業レベルの協同組合づくり
 このタイプは、倒産に直面した会社の救済や、過剰とされた労働者自らが協同組合を始めることの支援に関係している。以前に勤めていた稼働中の事業を買収することで、協同組合を生み出す場合もあるだろう。このタイプの開発に求められる技術は、地域レベルの仕事で求められたものとはかなり異なっている。この分野を開拓する人は、労働組合、企業家、地方自治体との交渉と、事業の見通しとそのリスクをすばやく厳正に評価する能力が必要である。
 通常、このタイプの協同組合は、地域レベルの協同組合より強くて大きいが、資本の増強が求められている。

2(b)公共サービスの提供

 先進国では公共サービスの提供の方法に大きな変化が起こっている。一般的に、この変化は、公共機関による直接提供の縮小と、それに代わって外部の機関や組織のサービス提供が拡大されることに関係している。 
 副総理のジョン・プレスコットは労働党政権の公共サービスの将来構想を発表した。「サービスを計画し運営することを行ってきた古いモデルの議会には未来がない。そこでは人々が望むサービスを提供することがなかったし、今日においてもそうすることはできない」(5)。
 政府は、公共機関による最高のサービス提供の保証と、質とコスト、効果、効率、公正な機会を検討することを目的に、公共サービスの新しい評価方法と提供方法の導入を行っている。これは、直接のサービス提供と民間及びボランティアセクターとの共同を含めた複合的な提供の仕組を通じて達成される。
 協同組合のサービス提供は革新的で魅力のある対案を提示している。協同組合は組合員を基礎にした事業であり、民主的参加と平等な機会、社会的正義といった原則に基いている。従業員所有の協同組合は、民間セクターの事業力と社会目的が統合され、外部化された公共サービスの提供のために非常に適した方法である。
 イギリスでは、従業員所有の協同組合による公共サービスの提供、特に公共施設の運営や高齢者、障害者への介護サービスにおいて、沢山の成功例が既に存在する。これらの例はすべての当事者に役立つことを示している。
 労働者協同組合では、事業の所有者が日々利用者と連絡を取り合っている人でもある。そのため、事業は伝統的な企業に比べて遥かに公共サービスの理念に対して強い関心を保っているようだ。
 ところで、労働者協同組合は、投資家に導かれた事業が利益の極大化を求めるのに比べて、雇用の水準や標準の維持に高い優先順位を与えている。この優先順位は、全体の雇用水準だけでなく、訓練の機会や保育園の施設、その他の福利厚生の中にも反映している。
 政府の白書も、従業員の参加が公共サービスの質に貢献していることを認識している。「政府は、将来、コミュニティに提供されるサービスの向上に、その労働者が全面的に関わる姿を見たいと思っている」。労働者協同組合はこの目的を達成する究極のモデルである。

2(c)社会福祉

 協同組合の構造とその理念は、健康や介護目的に良く合致する。そのため基本的に生活の質を向上させ、傷つき易い人々を保護している。そのため、社会福祉は労働者協同組合が活躍する分野である。イギリスでは、いくつかの典型的な社会福祉協同組合を見ることができる。

コミュニティ・ケア協同組合
 ほとんどが高齢者と障害者に対して、医療以外のサービス提供を行っている。例えば、掃除、洗濯、着替えの手伝い、話相手になることなど。そんな協同組合が、前のセクションで示したように、引続く公共サービスの外部化を主な理由として、すごい速さで増え続けている。
 介護協同組合は労働者所有だが、個々のケアプランの作成にあたって、利用者を関わらせなければならない。協同組合それ自身の経営に利用者を関わらせる試みは、そんなに成功しているとは言えない。なぜなら、利用者は常に高齢で弱々しく、家から離れられないからだ。そこで、利用者の縁者やエイジコンサーンのような組織に積極的に関わってもらうことを含めて、多様な試みが代わりに行われている。
 コミュニティケア協同組合の多数は、住んでいるところで介護を提供している。それは、高齢者や障害者の家庭でケアが提供されるということだ。ケアは地方自治体の社会福祉サービス部門との契約、或いは直接利用者との契約で提供される。どちらか一つのやり方で運営することはまれで、その割合には大きな開きがあるが、大部分は複合的な契約方法をとっている。
 介護者は、一般に時間を基礎に報酬を受け取り、それぞれ適した時間で働く。そのため、一方でフルタイムがあり、他方で毎週1〜2時間しか働かない人もいる。
 この協同組合によって提供される介護が、ほとんど在宅で行われるの対して、僅かにデイケア施設の提供も行われている。典型的なのは、高齢者、虚弱者、学習不能症の人が指導を受けて一日過ごしたり、食事をとったり、余暇や学習活動に参加する中央集会所である。
 今日まで、私は、利用者がそこで一生過ごすような居住施設を提供する協同組合の存在は考えられなかったが、いくつかがこの可能性に挑戦している。ここでの主要な障害は、巨額の資金が必要なことだ。

社会的雇用協同組合
 しばしば「協同組合の特別の必要性」について語られるのは、そこが、ハンディキャップをもった人、または精神病を克服しようとする人に、仕事や訓練の機会を提供する自ら運営を行う民主的な事業だということだ。
 身体障害をもった人は事業を始める際により以上の支援が必要である。しかし、一般的には、協同組合の設立や運営は、障害のない人の場合と違いはない。
 もっと問題なのは、精神障害や学習障害をもった人々がいる場合だ。ここには法律的な問題がある。もし彼らが自己の問題、特にお金や財産について処理する能力がないと判断された場合は、同時に事業を営むこともできないと考えられる。たとえ個人的な状態がそうでなかったとしても、精神障害や学習障害を抱えた人が事業を営めば、問題が生じることが常に予想できる。この問題はお金を作ろうとする段階でおこる。銀行などの投資家は、その種の事業に投資することは極めて危険だと考えるだろう。或いは、債務超過の場合、怒った債権者は「彼らの権利では事業を営んではならなかった」とこの要素を論争に使おうとするかもしれない。
 これらの困難を避け、組合員を守るために、ICOMは社会的雇用協同組合のために、次のような内容を備えた定款を作っている。
 2種類の組合員が存在する労働者組合員と支援者組合員(助言者、親戚、ケアワークの専門家)。
 少なくと経営委員会の半数は支援者組合員で、特に財政の責任者は支援者組合員が勤めることをルールに明記する。
 総会での投票は、組合員の種類に関わらず一人一票を基礎に行われる。
 労働者組合員だけが利益からの配当を受け取る。
 債務超過でない解散の場合、残余財産を組合員で分けることはできず、同様の事業、またはそのような事業を奨励するためのセンター基金に譲渡しなければならない。これは前に述べた「コモンオーナーシップ」の原則である。

保育協同組合

 協同組合の構造は地域に根づく保育の枠組みに適することを証明している。二つの典型モデルがある。一つは労働者によって所有管理され、他方は親や保護者によって所有管理される生協型である。どのタイプを選ぶかは協同組合を作る動機によっている。保育の専門家のグループは技術の実践と仕事おこしを目的に前者の協同組合を設立しようとし、家族のグループは質の高い保育を受けようと後者の協同組合を選択するようだ。
 ICOMで協同組合の登録を調べると、ほぼ同数が設立されている。

女性の権利擁護
 家庭内暴力から避難する女性と子どものために臨時宿泊施設や助言、相談に応じる重要な社会施設である。不幸なことにイギリスでは良くある施設だ。おそらく、このような重圧の大きい職場では、相互扶助が本来的に必要であるために、施設の多くは、スタッフとボランティアの協同組合で運営されている。

2(d)社会的排除との闘争

 市民が当然享受しなければならない普通の社会的、経済的、政治的、文化的な関係から切り離された個人の状況を説明する言葉が、「社会的排除」である。政府は社会的排除という概念(Social Exclusion Unit)を確立した。そして、失業、貧しい技術、低所得、貧困な住宅、高い犯罪率、不健康、家庭崩壊のような問題を被った個人や地域に発生する問題を短く表現して、「社会的排除」ということばを使っている(6)。
 社会的排除への取組はイギリス政府の主要な課題である。1997年トニー・ブレア首相は「誰かを非難することはもはや十分ではない。これは、私たちが一緒になって解決すべき問題だ。我々の排除に対する行動は、我々の価値とイギリス国民の価値を反映している。仕事の見通しもなく、貧困に陥った家族、犯罪にくじかれた地域を背負った子供たちを見ることは我々の価値に対する挑戦だ。これは同情心だけではなく、セルフインタレスト(利己心)でもある。仮に私たちが持てる力量をこの問題のコストを負担することから防止することに移すことができるなら、全ての人に利益になるだろう」。
 ところで、ICAのアイデンティティに関する声明では、「協同組合は自助、自己責任、民主主義、平等、公正ならびに連帯という価値に自らの基礎を置く。設立者たちの伝統に従って、協同組合の組合員たちは、正直、公開、社会的責任ならびに他者への配慮という倫理的価値を確信する」。
 次のことが、この文脈にそって注目される。
 労働者協同組合は、人々が自らのコミュニティを改善する手段に直接関わる方法を提供している。労働者協同組合づくりと支援はその地域の人々による共同行動を必要とし、地域のネットワークとその結びつきを強くする。
 他のコミュニティに基礎付けられた活動と異なり、協同組合は事業と社会的目的をともなった具体的な活動である。優れた事業への参加は、個々人の自信と自己イメージに大いに役立つことになる。
 多くの労働者協同組合は相対的に労働集約的で、高いレベルの技術(ホームケアや環境改善)を必要としていない。したがって、高い失業と社会的不利益の状態に応じて適当な就労の場を提供できる。
 協同組合は、私的セクターよって受入れられない低い収益性のレベルでも運営することができる。財政的に持続する限り、その組合員に就労の場を提供できる。過度の利益を追求する必要はない。そのため、民間事業主が不十分な利益を理由に廃業する地域サービスを持続することが可能である。
 これが理由で、社会的排除への闘争に対する労働者協同組合の貢献に関心が高まっている。

2(e)激しくなる競争

 ここまで労働者協同組合が個人や社会にもたらす利益について述べてきた。しかし、協同組合が事業的に成功した場合に、その利益が達成されるというのは、自明のことだ。つまり、労働者協同組合は、社会目的と同時に経済目的においても成功できることを確かなものにする必要がある。
 イギリス政府は最近「競争白書」を作成した。その中で事業を成功させる要素を探っているのだが、労働者協同組合は、成功のための多くの要素を実証している。

「競争白書」から
 「現代の成功を納めている企業は、既に従業員との関係で協同組合的手法を採用して競争的有利さを引き出している。それは、労働者の技術と知識が明かにしている」。
 「公正と信頼の原則に基いた文化の柔軟性が、創造的労働者と事業の成功のために良い条件を生み出している」。
 これらの特徴は、労働者が所有し完全に管理している事業では、論理的に導かれる結論である。
1.労働者協同組合の経営担当者は、究極的に労働者組合員に責任をおっているが、夢と信頼を分かち合う雰囲気の中で創造的でしっかりしたリーダーシップを発揮することができる。
2.従業員がその企業を所有しているので、製品やサービスの高い質を導き、満足を高めることで、彼らはその仕事に大いに誇りを持っている。
3.労働者協同組合では従業員の訓練に対する投資効果が高い結果として、従業員間の技術水準の向上が、自動的に全員の利益につながっている。
4.長期戦略は、日々の活動を基礎に事業を営む人々によって作成される。その結果、市場の条件、顧客の希望、過程、資材、技術の変化にすばやく対応して達成可能な目標を導くことができる。
 なぜなら、このような性格は協同組合の構造に埋め込まれているからだ。人事管理において変化があっても、これは維持され、変化や希釈化の影響を受けることはない。

「競争白書」から
 「可能な限り多くの人が、老若男女や人種あるいは住む場所に関わらず、技術を身につけ、事業をおこし、営み、成長させるための支援を受けるべきである」。
 報酬と同様に事業を営む問題を他者と分かち合うことで、協同組合は自営という形式に適した候補者として自分を考えることがない人々の間に、仕事をおこす機会を提供している。
 優れた事例を社会的雇用協同組合で見ることができる。特に障害をもった人々に対して訓練と雇用の機会を提供している。例えば、ブリストルにあるクリーニング協同組合「クリーンスウィープ」の組合員は、学習不能症の人たちだ。1995年以来、過去において従属した人生を予想していた人々に、本物の雇用と能力の獲得の機会を与えつづけている(7)。

「競争白書」から
 「私たちは市場をもっと開放するのと同様にそれを現代化しなければならない。人々に似た市場は、新しい技術と働くことの新しい方法を受入れなければならない」。
 政府は、電子的な取引の世界で最高の環境の提供を保証すると言質を与えている。小さい会社は電子取引に従事しようとすると厳しい障害に直面する。協同組合セクターは電子取引を申請するチャンスと問題の両方をよく理解している。ICOMは協同組合がこの機会をもっとも有利に展開できる方法を積極的に探っている。
 協同組合は新しい技術を使うことに積極的なだけでなく、それを提供することも行っている。例えば、労働者協同組合のポプテルは、イギリスのインターネット企業の上位20社にランクされている。10年以上の間、地方自治体、労働組合を含む非営利組織と小さな企業にインターネットサービスを提供する先頭にいる。今年4月、134万人を組織するイギリス最大の労働組合ユニソンと一緒に非営利フリーネットサービスを開始した。

「競争白書」から
 「統一仕様の事業方法の供給やネットワーク、集団を含めたある範囲の関係は、企業の間の知識や技術革新の共有に決定的な役割を果たしている」。
 協同組合の場合、個々の組合は広い家族の一員で、事業の協力関係は普通に行われている。そして他の協同組合の成功を望んでいる。つまり、普通の小企業より多くの相互支援を利用できる。例えば、数十の労働者協同組合が在宅ケアサービスを行っている。その中のサウス・シュロープシア・ホームケアは介護者の記録や利用可能なスケジュール、利用者の介護計画などを記録する質の高いコンピュータソフトを開発中であるが、このソフトウェアは他の協同組合でも利用できるようになるだろう。

「競争白書」から
 「地域への責任やその経済、社会、環境への関心が評価をつくり上げている」。
 多くの伝統的企業にとって、地域への責任は、特別に選択されるものである。しかし、協同組合は、その地域に固く根ざしており、社会の豊かさへのはっきりした責任がある。協同組合の第7原則は「協同組合は、その組合員が承認した政策を通じて、コミュニティの持続可能な発展のために活動する」と述べている。
 従業員所有者は地域の所有者であり、地域の安定性を高く評価している。彼らは地域の仕組を尊重し、生活の質の向上に既得権をもつだろう。さらに、労働者協同組合は、短い間の利益獲得に基礎をおき他へ移動する企業とは最も似通っていない。協同組合は地域の中で仕事と福祉の創造と維持に努めている。


まとめ    未来につづく道

 協同組合のモデルは、消費者の保護と利益にとって最も広く利用されているのだが、私はこれまで労働者協同組合が仕事をおこし、社会構造の維持に果たす価値ある役割について述べてきた。
 しかし、理解のない環境の中で、労働者協同組合が作られ発展するのは容易なことではない。労働者協同組合に社会福祉や公正な社会づくりを担う能力があることが明かになっている国では、法的財政的に労働者協同組合を支援する仕組みが存在する。
 イギリスは、良く言っても中立的な仕組だということができる。労働者協同組合の発展を励ますことも挫くこともない。つまり、労働者協同組合はまだその能力を全面的に実現していない。そこで、労働者協同組合のために公共政策の中に変化を導入する仕事が、私たちにはまだ残されている。
 日本の労働者協同組合の仲間が、他の企業に対して法的に平等な位置付けを得るために求めている法律の制定に必ずや成功することを願っている。完全な法的認知は、労働者協同組合の効果的促進にとって核心である。そのような変化のみが、日本の未来社会にとって利益をもたらすことができる。



1)「生協」「日本における消費者協同組合の包括的分析」野村秀和編集.大月書店(1993)
2)「国際協同組合運動」ジョンストン バーチャル著 マンチェスター大学出版(1997)
3)日本と比べて労働者協同組合の数は明らかに多いのだが、これに関わる労働者の数はそんなに多くはない。イギリスの労働者協同組合は日本とは違った枠組みである。それぞれの協同組合はひとつの事業活動のみを基礎にしている。印刷、保育、洗濯、情報技術、建築、食品加工、石炭採掘、編集、エンジニアなど実に様々だ。これらの多くの事業は非常に小さく、協同組合の組合員資格は、その事業が生み出す仕事の数に制限されている。つまり、三、四人だけの時もある。ほんのわずかの協同組合が50人以上の従業員組合員を抱えている。
仮に事業に失敗したり、主要な契約を失ったりすれば、通常その協同組合は解散するだろう。その場合組合員たちは移動して新たな協同組合を作ったりする。つまり、毎年いくつかの協同組合が消え、新たな協同組合が生まれるという新陳代謝が繰り返されている。
4)「スペインの協同組合と組合員の関係:手続き、原則、実践」イグアル&ゴミス著「世界の協同組合企業」(1999)から プランケット財団
5)政府の白書から「現代の地方自治体---住民とのつながり」(1998)
6)社会的排除の概念を説明するリーフレットから(1997)
7)クリーン スウィープ協同組合の短い紹介のために、拙稿「イギリスにおける協同組合と福祉の新展開」(協同の発見No81.1999)を参照


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