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特集 協同労働と21世紀の協同 - 協同労働の理論と思想を深めよう
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介護保険の時代に
本物の介護・福祉の拠点を 田中羊子(生活協同組合東京高齢協)
現在、高齢協と労協で福祉事業所を立ち上げることを主な仕事にしています。その活動を通じて、労働者協同組合が新しい段階に入ったことを強く実感しています。私は労協に入って、13、4年経つのですが、ずっと委託事業の現場の仕事をしてきました。その頃と比較して、自分の仕事がずい分変わったと思います。特に96年に高齢協を設立してからです。地域を回って、懇談会を何回も何回も開いてきました。地域の人に協同組合を話し、一緒に高齢者協同組合を作りましょうと呼びかけます。こういった地域の人と一緒になって立ち上げるという経験は始めてのことでした。実は、この頃参加してきた人と地域でどんな仕事を作れば良いのかいろいろ話し合ったんですが、どうもわからない。仕事おこしになってゆかない。何か堂々巡りといった議論の連続でした。この時、まず取り組むことにしたのがヘルパー講座でした。これで重たくなっていた組織の中に風穴を開けることができるんじゃないと。色々議論はあったのですが、とにかくやることにしました。ヘルパーの養成は地域で求められていることだし、仕事おこしにつなげることができると考えたわけです。97年の夏ごろのことです。
この講座を通じて、30代、40代、50代の方がどんどん参加してこられました。その中から東京では17箇所の地域福祉事業所を作ってきました。現在は、さらに6箇所から7箇所で立ち上げの準備をしています。 高齢者協同組合の設立から人々の生活に出会い、地域を結んだ仕事おこしに労働者協同組合が取り組むようになったということで、これには本当に大きな変化を感じています。同じことをセンター事業団のこの3月から4月の変化を見ても感じます。これまでの事業は17億2,800万円でした。この既存の事業のところでは厳しさがありますが、地域福祉に関係する事業で、いま広がっている可能性をすべて拾い上げてみると、担い手となる主体さえちゃんと組織することができれば、仕事はいくらでも拡大することができると思います。事業規模では13億から14億がみこめるところに来ています。東京の労協の歴史は20年ぐらいになりますが、それだけかけて作ってきた実績にこの福祉関連の事業が1,2年で追いつこうとしています。そういった勢いになっています。実は4月になって事業がはじまるまで本当のところは予想がつかなかったのですが、3月から4月を比較してみると、通常で2倍から3倍、少ないところでも1.5倍にはなっています。 介護保険以前は、有償ボランティアのような働き方のところがほとんどです。このときの経営は極めて危なっかしいもので、どこまで続けられるかというところもあったのですが、いまは、何とか経営基盤というか、見通しを持てるところにきたかなと実感できている段階です。 次に地域福祉事業所の立ち上げの流れについて三つ報告しておきたいと思います。 一つは高齢者協同組合や労協が実施するヘルパー講座の受講生を中心とするする仕事おこしの流れです。受講生に「市民自身の手で地域に必要とされている仕事をおこそう」と講座を通じて呼びかけています。そういった中から受講生自身がワーカーズコープを作る流れです。今までに都内の26自治体でヘルパー講座を実施してきました。この中から17箇所で地域福祉事業所が生まれています。昨年の12月から3月にかけて都内をずっと回りました。そして、仕事おこしの提起をしてきました。高齢協や労協が仕事を準備するからやろうではなく、仕事おこしの主体はあなたたち自身だと。「やろう」と意思を固めるまでは時間がかかりますが。一旦意思を固めるとそこからが早い。この意思を固めることへのオルグ活動が最も大切です。ヘルパー講座の受講をちょうど人生のターニングポイントにする人が多いように感じています。子育てが終わったりしてこれからの人生どう生きるか考えるところで講座を受講している人が多いということかもしれません。 これまでのことを凝縮してハンドブックを作りました。うまくいったこと、失敗したこと、聞かれてもうまく説明できなかったことなど、すべて盛り込みました。これを一冊読めば、誰でも地域福祉事業所がつくれるというものにしています。このハンドブックを活用して都内全域に地域福祉事業所を広げてゆきたいと思っています。 二つめは、委託事業で働く組合員が地域と出会って福祉事業所をつくるという流れです。全ての労協現場で取組まれているわけではありませんが、とてもうれしかったことがあります。三多摩でプールの保安業務にフリーターの若者がついています。私はアルバイトみたいな働き方に労協が取り組む必要はないと思っていました。この中で働いていた若者が、福祉に関心をもっていて、土曜・日曜のヘルパー講座の後、受講生に労協での仕事おこしを語りかけるんです。拙い話ですけど聞かせます。その中で八王子と府中で仕事おこしがはじまっています。Mちゃんという子がいて、結婚して子育てで悩み、福祉ということに関心をもって、自分でもやりたいと思うようになる。ヘルパー講座を3級1回。2級を2回開いて、仕事おこしに挑戦しました。10人が修了してから「ワーカーズコープあおぞら」というのをつくりました。府中ではM君という若者が、とてもギャンブル好きですが、生まれ育った府中で福祉の仕事を広げたいと活動しています。若い子は「自分がやりたいこと」と「今やっていること」が結ばれることで、ものすごい力を発揮し始めます。そういった活動がはじまっています。 三つめの特徴は、民間で働くヘルパーが労働者協同組合に合流してくる流れです。墨田区の例ですが、家政婦紹介所で働いていた人が7人、300万円のお金をつくってワーカーズコープを作りました。2月の半ばに出会って、約一ヵ月半で公的介護保険に間に合うように準備し、これまでに1,000時間のケアを達成しました。毎月200万円の売上げを上げています。同じようは流れが、目黒でも起こっています。最大手の民間企業で働く人たちだったのですが、40歳が契約社員の上限で、どんなに頑張っても後は使い捨てということになってしまう。それならいっそ自分たちで仕事をした方が良い。実はこの人たちのケアが良いということで、利用者の方から2DKのアパートが提供されています。集まる場所が最初からあるんです。ミニデイのようなことも可能になっていますが、こういった人たちが労協でケアワークをやろうとしています。介護者ネットワークでつながってきた人たちです。こういった人たちは介護の仕事には自信を持っている。自分たちでやりたいという意識はあるんだけど、事業とか経営ということになると、全然自信がない。このところをバックアップして欲しいと思っているんです。 自治体とのネットワーク ヘルパー講座の委託が20自治体に広がっています。江戸川区では200人のケアマネージャー受講生の講座と、現役のケアマネージャーのためのフォローアップ研修の年間講座を受注しました。世田谷区では小学校の空き地に建てた建物が高齢者協同組合に無償貸与され、デイサービスセンター、在宅介護センター、配食サービス、さらに地域の福祉NPOを支援する仕事を年間6,700万円でやることになりました。これは来年3月がオープンです。緊急雇用対策特別交付金を使った事業がようやく足立区で実り、7月2日からミニデイがオープンします。自治体も基盤整備はしたいが、民間と組んでやることには躊躇がある。しかし、高齢協やワーカーズコープなら非営利性もはっきりしているし、事業をフォローする仕組みもしっかりしていると、自治体からの信頼も本物になりはじめているようです。 地域での多様なネットワーク さらに、新しい流れが生まれつつあります。本物の介護福祉の拠点づくりへつなげることができるかもしれないと思っています。これまで福祉とは無縁だったような業種の方々から、ヘルパー講座の委託や共催の話がくるようになりました。「赤帽」「浴場組合」「土建」「タクシー会社」「ホテル」などの事業に関係する方々からです。あらゆる産業が、福祉というテーマと結ぶことで、自らの事業の存続を考えているんだということを実感します。これら、地元で仕事を営む様々な人々と協力することで、人々の必要とするニーズに応えることができる「生活総合産業」とつなげることができるのではないかと思っています。 二つめにお話したかったことは、これらの活動を通じて見えてきたことです。「見えかけてきたこと」と言った方が適当かもしれません。 最初はケアワーカーに主権のある働き方ということです。コムスンで1,600人のリストラが行われています。それらの新聞記事を読んでいると、一方的に閉鎖が言渡され、それまでの自分たちの努力や成果が一顧だにされていない様子がわかります。自分たちでやればよっぽど良い介護ができる、という風に記事の最後にまとめられているものもあります。労協であれば、事務所を手放し、経費を切り詰め、人件費を削り、とにかくその事業を残そうとします。これなど労協の対極にある働き方だと思います。 今、地域福祉事業所のヒヤリングを行っています。練馬の「それいゆ」は、ヘルパー講座の受講生だけで立ち上げた事業所です。ベテランのコーディネーターがいて、その方が、このヘルパー集団を「質が高くて積極的に取り組むところだ」と高く評価してくれています。そもそもヘルパー講座を通じて絆を深め、互い支えあって勉強するという関係が出来上がっています。単なる寄せ集めの集団とは違います。介護保険の面倒な計算や、請求事務、利用者への請求書など、みんなで分担してこなしています。それぞれの実践記録はベテランのコーディネーターが、毎回目を通して赤で様々なアドバイスを書き込んでいます。それらの中から、欠席者のいないケース検討会を毎月行い、レベルの向上に努めています。 次に、経営の見通しが見えたということです。4月以前は減価率で100%のあたりをうろうろする経営実態でした。4、5月の実績では4〜500時間のところで80%という数字になってきています。人件費率は65%でやりきろうというのが、東京の各地域福祉事業所の共通認識になっています。 実は、私たちと合流するかどうかの分かれ道がこの経営問題です。私は20%は共通費用として残そうとう提起をとにかくしています。経費はできる限り削って、一部を次の仕事おこしの基金として残す。その社会連帯的な意義と必要性を認めるかどうかが問題だと思います。幸いなことに、今のところ、これがネックになってダメだったという経験をしていません。経営に対する不安がみんなにあるからだと思います。資金としては、約3カ月分が必要です。今はケアワーカーがすべてを準備する水準にはなっていません。この点はひとつの問題点です。また、この事業が軌道に乗った段階で、ちゃんと経営をしてゆくことができるのか。しっかりした指標をつくって示してゆく必要があると思っています。 三つめは、協同組合の良さや強みが事業所の運営に生かされ始めているということです。まだまだ端緒的ですが、利用者家族との協同や元気な高齢者をますます元気にする活動がはじまっています。国立市で、不登校の若者たちも参加するヘルパー講座を始めます。フリースクールの関係者を含めて秋口開催の予定です。若者たちの地域での活躍の場や仕事の場を提供します。利用者との会話を大事にすることで、出張美容やマッサージ、剪定の仕事やベビーシッターなど色々な仕事を頼まれます。こうした介護にとどまらない仕事が生まれています。サマーキャンプや花見、旅行といった企画には、利用者や家族が一同に会することができたりするし、元気な高齢者が活躍する場にもなっています。ヘルパーはひとりでばらばらになっていることが多いのですが、こういったイベントを通じて互いの絆が生まれるし、元気な高齢者がますます元気になる場でもあります。 町田では小菅さんというベテランのケアワーカーが、ヘルパーとしての仕事を後輩に譲り、自らは「サクラハウス」というたまり場を作って、いろんな講座を連日開き、元気な高齢者が集まっています。先日この町田事業所の5周年をお祝いしました。理念に賛同した元利用者の家族の方が、町田のヘルパーになっておられました。足立でも、コミュニティセンターを作って、単なる措置での入居施設ではなく、いろんな企画のできる多目的な施設として利用しようという、介護保険の目的に特化しないという高齢協の提案を、行政が受け入れてくれました。元気な高齢者がこの動きに非常に張りきっています。 最後に今後に向けての問題意識を四つあげます。 1. ヘルパー講座を本格的な仕事おこしのための講座にする。商店街など地域に必要とされている仕事をになう人と最初から結びながら、生活総合産業を展望するようにする。 2.ケアワーカーの専門集団を作り上げると同時に、コミュニティを耕して、利用者、家族、元気な高齢者などとネットワークする活動を本格化させたい。 3.墨田や目黒でのケアワーカーの出会いのように、民間企業で働くことへの不信が広がっている。介護者ネットワークを本格的な活動にしてゆきたい。 4.ケアワーカーズコープの設立支援機能を労協として本格的なものにする。イギリスにあるICOMのケア協同組合の報告書を読んで、労働の質の保証ということから、財政基盤の確立まで、日本でも設立支援の取組みを本格的なもにしてゆかないといけないと感じました。この介護の取組みは、仕事おこしが市民に開かれる第一段目になるとおもいます。 協同総研の研究者の皆さんにも是非地域福祉事業所の調査をして頂き、一緒にこの事業を広げることをお願いしたいと思います。 |