研究所たよりWEB版(115)
2004年1月23日
菊地 謙(協同総研事務局長)
●厚生労働省 雇用創出企画会議
昨年5月に厚生労働省政策統括官付労働政策担当参事官室(長い!!)が主催する「雇用創出企画会議」の第1次報告書が発表されました。研究所のWebサイトにもリンクを貼ったので、ご覧になった方もいると思います。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/05/h0521-4.html
この中では新たな雇用が期待できる分野として「コミュニティ・ビジネス」を取り上げ、福祉・教育・文化・環境保護などの分野で90万人の雇用(新規創出としては60万人)が見込めるとしています。
中でも注目をしたのは、その担い手としてNPO法人や株式会社などと並んで労働者協同組合を挙げている点です。報告書の中では現在のコミュニティ・ビジネス(C・B)の担い手は約6万人、うちNPOが3万人で協同組合等が3万人としていますので、労協やワーコレの「雇用」を無視できないもの、と見ていることは事実でしょう。
報告書の発表後も会議は開催されているのですが、昨日(1/22)の15年度第4回会議で、当研究所の富沢賢治副理事長(聖学院大教授)が報告をすると聞き、傍聴に行きました。(会議は公開で、申し込めば誰でも傍聴できます。)
富沢先生は、第1議題「諸外国におけるソシアル・エコノミーの実情」の中で、「民間非営利セクターにおける就労機会の創出―EUの事例」ということで約25分の報告をされました。EUでの社会的経済の概念と政策、そして事例としてスペインのモンドラゴンとイタリアの社会的協同組合について説明した後、「民間非営利セクターの就労(雇う雇われるでない働き方)に関する法整備」「民間非営利セクター(法制化市民会議)からの提言の検討」の必要性を提言されました。
次に、神戸商科大の加藤恵正教授がイギリスのコミュニティ・ビジネスについての報告を行い、ソシアル・エンタープライズという概念を用いながら雇用に関わる政策について説明をされました。
その後、各委員から両者への質問で、富沢先生には「法整備」について具体的な中身をが聞かれ、法制化市民会議のパンフや法案要綱を配り、宗教団体による救貧対策から政府の福祉政策となり、自立化支援に移って行くのは各国の歴史の中でも一般的であるとして、自立支援としての法制化の重要性を説明されました。
ここで、富沢・加藤氏は退席されました。
第2議題は、2月初旬にC・Bに関わる10,000団体(うちワーコレを含むNPO7,000、会社等3,000)と、各団体3名ずつで30,000人の働き方に関するアンケート調査をするということで、委託された三菱総研の案をもとに議論をしていました。団体アンケートが30問(枝問を入れると50問くらい)、個人アンケートが23問(同40問くらい)ということで、質問項目も多く、事業収入からスタッフの数、就業形態、報酬(その決め方)、運営方針など多岐に渡っています。
回収率がどのくらいになるのか不安視する声もありましたが、現在全国で13,000余り認証されているNPO団体のうち、かなりの割合で調査票が送られるでしょうから、「NPOの働き方」という面では、興味深いデータが得られるのではないかと思います。ただ、ワーカーズについては、ワーカーズコレクティブ・ネットワーク・ジャパンの冊子に記載されている団体を対象とするとのことなので、サンプルのとり方に偏りが出るのでは?と心配になりました。
以上で、13時から15時まで約2時間の会議が終わりました。最後に少しだけ感想を。
富沢先生が社会的経済の担い手として、EUでは「協同労働の協同組合」が位置づけられ、成果を上げているということを報告して下さったのは、大きな意義があると思います。法制化運動にとって大きな追い風となることを期待します。ただ、どれほどの人が”協同の思想”にまで理解を深めてくれたかはわかりません。印象かもしれませんが、討議内容を聞く限り、C・Bの促進は「社会的目的を持った企業家」を増やすというイメージで捉えられているように思えます。
加藤先生が質問に答えて、「80年代のサッチャー改革の中で”結果として”C・Bが生まれてきた。」「サッチャーはC・Bは”安上がりの福祉”と考えていたが、労働党もそれをわかっていながら、あえてコミュニティがビジネスをするという新しいコンセプトに乗った。」と発言されていました。報告の冒頭では「日本は1980年代以前のイギリスの状況になってきた。」とも言われています。
良くも悪くも社会的経済やC・Bというものが、政府の中でストレートに取り上げられるのは、日本の社会がそれだけ構造的に変化してきたということなのでしょう。この会議が厚労省の政策にどの程度影響を及ぼすのかわかりませんが、歴史的な必然として、市民社会の自立的な活動を視野に入れた政策を取り入れざるを得ないところにきているのは確かだと思います。
次回は未定ですが、厚労省のWebサイトで公開されますので、ご興味のある方はぜひどうぞ。
※04/01/22 平成15年度第4回雇用創出企画会議議事録