研究所たよりWEB版(20)
2000年9月11日
執筆:坂林哲雄(協同総研専務理事)
9月3日〜4日と、民科法律部会の経済法に関係する研究者、院生の合宿に参加しました。
このレポートはその際、訪問した下郷農協で、末国参事に話していただいたメモです。阿部誠先生のレポート(所報8月号)には含まれない内容もあるので、ご一読いただければと思います。
なお、民科関係者へも同様のレポートを配信しています。私の理解不足で間違った理解があればご指摘ください。文責はすべて坂林個人にあります。
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第3回協同集会実行委員会
9月28日(木)午後2時〜5時
東京学芸大学 むさしの第2ホール 2階食堂
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2000.9.5 下郷農協
山間の町、四方を囲む山並みは美しい緑とともに岩肌が露出し、特有の景色を楽しませてくれる。
概要説明をして頂いたのは、参事の末国さん。前回の協同総研の調査でもお世話になっている。会議室で「耶馬溪牛乳」を頂きながら、説明に聞き入った。
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場所的には、福岡県との県境に接し、福岡の天気のほうが良くあたる地域である。現在の人口は5900人。毎年人口は100人減っている。過去は最高では11500から600人が住んでいた。
農協の大規模合併について
農協は全国的に合併が進んでいる。かつては4万ぐらいあったものが、現在では、どうでしょうか2500ぐらいになっているんじゃないでしょうか。大分では59あった農協が23農協になっています。最終的には11か12になる予定です。合併の推進年度は今年で終了します。今年までに何と合併をしないと、今後は助成などないかもしれないと脅されています。大分の場合は、最終的には17か18になりそうです。
下郷は合併に反対するだろうということで、県北部の合併推進委員長に、下郷の組合長が担ぎ出されています。
合併は、農協の生き残り政策として取り組まれているのですが、農家の収益を守るのかというと、そうではなく、かなり外れた政策をとっています。北部でも7つの農協が合併しました。中津、豊田、耶馬渓・・・・と、マンモス農協ができています。
近隣の山国町は林業が中心です。農家のおかれた位置が違うので、本部のある中津の意向ではうまくゆかない。周辺は全部支所あつかいになる。重要な問題になると中津まで出てお伺いを立てないといけません。これなど非常に不便な事態です。
合併は事務も含めて簡素化することになりますから、当然リストラが促進されます。
農家が作った制裁物を販売することをしないよいうになったので。今での米までを組合員自身が売るような事態になっています。
下郷農協は、この耶馬溪の地にあるのですが、そんな合併が進められており、今では他の地域からの組合員が増えるようなことなっています。
うち下郷農協は、昔からの名前で、JAも名乗っていません。
結局合併した農協の事業は、信用と共済などの金融が中心です。農家はつぶれても農協は残るという政策です。現在の市場価格を前提にすると、2割を農協の手数料とすると、農家の手取りはわずかです。農業生産物の市場は崩壊しています。そのうち、卸という機能は完全消えてしまいます。
JA単協の合併を促進して、県段階の組織をなくして全国と直結という政策がとられていますが、合併しない農協はどうなるのか?
合併促進を進めているのか県であり、農協中央会です。補助金と一体ですから。合併を拒否すれば。農家への助成事業には制約をうけることになります。
購買事業はどうか?
下郷農協の場合は、系統を通じて買うという原則はありません。段ボールなど普通経済連一本で買うというのがありますが、下郷の基準は値段です。安いほうを買う。系統は無視にちかいです。農家に負担がかかるようなことはできません。結局はそこが考え方の音本です。
牛肉の自由化で、外国の農畜産物が入ってくるようになると、何を売ってもだめです。生産意欲が沸くような価格になっていない。まったく首をかしげる価格です。下郷農協では、農家の所得保証をしています。農家がだめになる農協は、結局農協もだめというふうに直結します。
自己資本率4%未満の農協は信用事業をさせないようにしようとしています。下郷農協の中では「総合農協」ではなく、「専門農協」として生き残る道を検討し始めました。農協の強みは生協と違い、信用事業があることです。これが足腰を作ったのです。だからこれができなくなると大変です。預金の3分の1は内部運用していましたので、これを金利を払って借りることになれば大変です。
普通の農協は運用ができないで、系統にゆだねるが、下郷は運用している。生産に直結するものは貸しますが、そうでないものには貸しません。農家が負担しても返せるように考えることが必要です。県下の農協全体で140億円の不良債権があります。下郷にはない。生産に結びつかないと貸さないという方向性を打ち出した時は反発がありました。とにかく返済をきちんとできるようにすることが大切で、月をこすことは認めません。これが農家の負担をかけないことにつながっています。金利も最低です。
酪農は厳しいが、やめるにやめられない農家が非常に多い。県下では。
合併の場合は、自己資本率も目をつぶるが。身売りを考えるところもある。
不良債権を抱えるところの支援のために85億を積み立て、その運用益で5億円ぐらいあった。一つの農協で3億もとっていたところあるが、不良債権を持たない下郷にはなし。
23年6月7日にできる。下郷農協と耶馬溪農協の前進の第一農協の二つができた(名称が正確か不安?)。金持ちの農協と貧乏人の農協です。地主の支配意識が強い集落でしたから、貧乏人の農協を潰すために第一農協が作られたようなものです。
炭、米、麦が生産物です。かまげ?という台地があり、長野から若者が集団で入植してきました。第一農協や行政などは相手にしない。結局下郷農協が彼らの相談にのり、彼らの生産する牛乳が経済事業を始めるきっかけになりました。下郷農協では牛乳を瓶詰めし、北九州への販売をはじめます。牛乳だけ運ぶのではなく、その中にぜんまい、いもなどを産品として消費者に届けるということをやりました。産直の原点が消費者との交流につながっています。
損益を度外視した内容でやっていました。今は1時間ぐらいで行けますが、当時は3時間もかかります。1本10円の牛乳を運んでも高が知れています。漬物、ベーコンなど加工事業に着手しました。キュウリのもろみづけが爆発的に売れた時代です。
下郷の特徴は、「農薬つかわない」「化学肥料使わない」といったもので、有吉佐和子の「複合汚染」がベストセラーになった頃です。下郷の農産加工品が消費者のなかで受け入れてゆきました。毎年30%40%の売上増という具合でした。
下郷農協では5つの生協と25の消費者団体と間で(産直)取引を行っていまます。
中には、一箇所で1.7億ぐらいの組織もあります。
良いときは産直だけで、15〜6億円の売り上げがありました。現在は7〜8億円です。生協が伸びていった時期で、農家の生活を守るためには消費者の組織を作ってゆくことが大切だということで、生協運動に深くかかわってゆくようになります。北九州市民生協、久留米生協、福岡生協、佐賀市民生協の設立に関わりました。消費者を見つけ組織化する。品物をストックする冷蔵庫を貸したりしました。東都生協の物流センターへも投資しています。淀川市民生協、城北生協などの支援も行いました。
ほとんどの農家は市場流通の中に生産物を流します。しかし、市場は農家の生産の努力を無理してきました。市場はものの価値で判断しません。下郷農協は価格保証をしていますが、値段は「積み上げ方式」で決めます。あくまでも市場価値ではありません。市場の評価では農家の生活は守れません。系統とはまったく逆のことをやっています。関係は非常にぎくしゃくしています。水と油です。減反もしません。行政ともギクシャクです。
集落でけんかもあります。行政や系統の指導に反発して、多品種少量生産です。機械化をしない。家族農業が中心です。大規模化は危険と裏腹です。できるだけ小規模少量多品種です。そして、加工品には化学調味料、添加物を使わない。現在の農産品は180種類230品目です。
生協との取引増やせない状況です。生協からの依頼があっても野菜や米足りないので、「応じることができない状況です。一種の契約栽培です。米も3000俵位しか採れません。反発してますから、減反も一切していません。できたものは売ります。
売るもがないくらい順調ということはありません。個別品目ではえのきだけ、牛乳、和牛、お茶はもう少し、取引を伸ばしたいと思っています。農家の高齢化で生産力が落ちてきています。それも原因で取引先を増やせない。産直事業が落ち込んでいる。
消費者の生活環境が著しく変化。個人班も出てきている。共働き。
あそこは下郷だからということで取引が成立している。コープ大分、愛媛有機農産生協、消費者団体のことでは、全部で1200班ぐらいある。そこに職員が毎回配達に行っています。
組合員の全預金総額は27億くらいです。そのうち7〜8億が貸し付けです。借金のない農家はないのですが、返せないような負担になる借金はさせない。計画的にする。
総売上は約23億円。 購買事業が4から5億円、販売事業は14億円です。
若い人たち後継者は?
専業農家は外人部隊で、昔からの農家はすべて兼業です。牛乳は全部入植者。よそから入った人が支えています。米は昔からの農家が取組んでいるが、複合的にやらないと成り立たない。60戸340組合員、酪農組合員は後継者が育っている。米農家は後継者難。新規にはじめたいという人がいれば、その都度話を聞いている。村の中には農に関する「哲学者」も多く、下郷の農業を教え育てるという環境は十二分に整っている。但し、就農支援を積極にはしていない。もし、新たに入植をしてくれるのであれば、はと麦、ブロイラー?をやってくれると良い。
全国の農協では
綾町農協が「下郷に追いつけ追い越せ」と似た取り組みをしているが、違う。価格保証をしていない。観光農業としては、参考になる。農と商業をうまく結びつける必要があると思っている。玉川農協とも方向がすこし違っている。
作る人が買う人、買う人が作る人になってゆかないと、だめだろうと思っている。
西土佐村では、農協と行政で価格保証を行っているが、下郷の「積み上げ方式」とは別。
市場で金額は決めない。
農法にはこだわりを持っているから、農薬も制限がある。組合員が農薬を買うにははんこが要る。また、養鶏では3000羽以上を認めていない。3000羽までなら管理が行き届く。これを超えると不可能。何か問題が起これば倒産、夜逃げは必至というところに追い込まれる。そんな農業を下郷は進めない。近代農業では消費者が望むものは作り出すことができない。
340戸 499名の組合員
職員は114〜5人いる。店舗を除けば90名位。内正規職員は60名、臨時職員は30名である。パートタイムもいるということだったが、数は不明。職員のうちの7割が農協の組合員でもある。
牛乳センター見学(施設はこれ以外に「惣菜センター」「茸センター」「製茶」「診療所」などがある)
ここの牛乳は、酪農組合員11人から毎日2回回収している。日量は、7.2トン。その日のうちに時間をおかずに牛乳として出荷される。
国の政策は一県一牛乳センターを県酪農組合にまとめさせるのが方向だ。
その政策推進の中で倒産する牛乳センターには、退職金などの補助まで行うとなっている。1県1センターでは、いろんな牛乳がまざり、誰が何を作ったのはわからなくなる。そういう牛乳であってはならない。飲んでくれる人の顔が見えれば自然とまじめに生産に励み、良い牛乳を生み出すこともできる。
最新の設備は、約2000万かけて、ハセップを取得。維持に毎年600万の経費もかかる。職員は10人。築4年目である。