■速報■
アマルティア・セン教授と永戸・日本労協連理事長の対談が実現
失業の克服と福祉社会の創造に果たす労協の役割に大きな期待

 ノーベル経済学賞を受賞した、アマルティア・セン教授(英国ケンブリッジ大学・トリニティー・カレッジ学長)と日本労協連・永戸理事長との対談が、十月十七日、トリニティー・カレッジの学長室で行われました。これは、『労協新聞』(日本労協連機関紙)・松沢編集長の要請によって実現したもので、協同総研の中川理事長、菅野主任研究員が準備段階から加わり、当日も同席しました。

 セン教授は、「個人の多様性が全面的に開花し、個人と個人が豊かに結びつく社会」こそ経済発展の目標であるという、ヒューマニズムにつらぬかれた経済学をつくりあげた研究者。イタリアの協同組合運動も研究され「協同の原理」を高く評価されるとともに、失業や高齢者福祉の問題にも活発な発言をされています。日本の労働者協同組合に強い関心を示され、今回の対談につながりました。

 イギリスでは珍しいという秋晴れの中、「町全体が大学」ともいうようなケンブリッジを訪れ、約束の午後三時半、私たちは学長室の戸をたたきました。セン教授自ら私たちを迎え入れ、ニュートンの時代から使われていたという学長室の時計の来歴を教えられ、コーヒーも入れて下さいました。
サセックス大学大学院の鈴木一人さんの達者な通訳によって、対談は一時間半ほど行われました。セン教授は、終始おだやかな中にも力強く、次のように語られました。

 まず失業の増大に対して「労働と協同という二つの重要な要素を組み合わせる、労働者協同組合の提案」を高く評価し、「経営と労働の壁を崩していく」ことに労協の意義を認められるとともに、「失業の解決のためには、政府や企業の責任と結び付けた総合的な取組み」や「日本社会がつちかってきた労働における協同的な関係や教育の成果の継承」をアドバイスされました。

 また高齢者問題については、「孤立した生活を強いられる欧米型社会」に対して、家族介護が持つ「市場を通さない人間と人間の関係を大事にする側面」を女性差別・年齢差別の克服とあわせて見るべきことを指摘。「働く能力と意志のある高齢者の仕事おこし」「高齢者をはじめとする様々な人びとの社会参加の促進」が労協の重要な役割とされました。

 最後に「広い意味での経済全体の協同を考えることによって、労協の創造的役割が広がっていくのではないか」と結ばれました。

対談の時間はあっという間に過ぎてしまった、というのが実感です。今後、いくつかの追加的な質問にも答えていただき、対談の全文は『労協新聞』(日本労協連機関紙)新年号に掲載されることになります。
(1999/10/28:菅野 正純)

 11月11日、「セン教授との会見写真集」を作成・掲載しました。主に菅野さんが撮影した8枚の写真からなっています。セン教授と永戸さん、中川さんとの対談の模様はもちろん、ケンブリッジ大学の風景や、イングランド中部の秋の雰囲気も味わえます。ここをクリックしてご覧ください

協同総合研究所(JICRORG)セン教授への事前質問文書