『協同の發見』2002.1 No.115 目次

インフォーマル・セクター
彼らは誰なのか?1
 

訳:玄幡真美(日本労働者協同組合連合会国際部)


インフォーマル・セクターは、異なる特徴をもつ非常に異質で、包含的な生産ユニットであり、雇用関係、生産協定の多くの異なるタイプのもとで就業、生産している労働者、生産者、使用者といった人々と同様、その経済活動も広い範囲に行きわたっている。

インフォーマル・セクターの異質性の故に、このセクターの多様性の形態、概念、統計的定義は人が期待するように明確にはなっていない。

国際的統計定義:
1993年1月第15回労働統計国際会議(ICLS)で採用されたインフォーマル・セクターにおける雇用統計に関する決議では、インフォーマル・セクターを次のような生産ユニットや労働関係で構成される、と見なしている。それは、「典型的に労働と資本の間に僅か全く区分がなく、レベルが非常に低く、かつ小規模で運営されており、その労働関係は、正式保証がある契約的取り決めというより、多くが臨時雇用、血縁関係、個人的社会関係をベースにしている」。更にそうしたユニットは、固定資産や他の可変資本ユニットに属するのではなく所有者に属し、ユニットは業務処理の保障や契約ができない、代表としての責任を負わない、生産や資本財への支出はしばしば家計的目的と区別がつかない、といった「家内企業的性格」を持っている。国連の国民経済計算(改訂版4)2による定義・分類によれば、統計目的のため結論としてインフォーマル・セクターを「生産ユニットのグループ」としている。そのユニットは、家内企業かそれと同等、家族所有の未法人企業として家計部門 (household sector) のパートに入っている。家計部門内でインフォーマル・セクターは、1)自営業者(own-account workers)、もしくは同じか他世帯メンバーとのパートナーシップによって所有し経営される「インフォーマル自営企業」で、それは時折、補助的家族従業者や従業者が働いているかもしれないが、しかし継続的なベースで従業者を雇用していない。(2)1人、もしくは同じか他世帯メンバーとのパートナーシップがあり、継続的に一人かそれ以上の従業者を雇い、使用者自身によって所有経営されている「インフォーマルな使用者による企業」である。

調査における運営上の定義―実際の状況:
例えば、ILO1990−1995年ラテンアメリカインフォーマル・セクター調査では実際上、インフォーマル・セクターの雇用を次のような構成として定義している。すべての自営業者(ただし、管理にかかわる従業員、専門家、技術者を除く)、無給の家族従業者、使用者、5人か10人以下の企業で働く従事者。有給家事労働者3は除外している。インフォーマル・セクターの規模を決定する世帯・指定調査の代替的指標組み合わせは(例えば、企業の雇用サイズ、無給雇用、付加的的基準として登記の有無)、地域や国家毎に変化する。インフォーマル・セクターユニットや労働者の定義が進捗しているにもかかわらず、統計データは現実の実態よりまだ低い段階に留まっている。例えば、労働力やインフォーマル・セクター調査は、決まって個人の第1次的な職業をカウントするが、これはインフォーマル・セクターでの第2次的就業を明らかに除外する。問題が多いのは、家内労働者 (home workers)である。彼らが自営業者としてもインフォーマルかフォーマルな使用者の労働者としても考慮されない場合、彼らはインフォーマル・セクター労働者としてカウントされないだけでなく、指定調査上においてもカウントされない。

分析のユニットとして何をするべきか?
ICLSや多くのインフォーマル・セクター調査で採用された定義は、方法・分析ユニットとして生産ユニットや企業に焦点をあてている。数多い研究者、社会科学者により提案されたオータナティブな方法では、分析ユニットとして労働者か仕事の内容に視点をあてている。非公式性は、企業の経営構造だけでなく雇用契約・条件に規定される。事例をあげると、企業がフォーマル・セクターに属することによって雇用契約、登録・申請なしに労働者が雇われる。こうしてその労働者は、インフォーマル・セクターに属することになる。企業、家族企業、家内労働者をより小なくするための外部発注、下請けサービス・生産という広範な方策が、一般的に雇用の「インフォーマル化」を促進する。

インフォーマル・セクターのある見解:
1999年インフォーマル・セクターのILO/ICFTU国際シンポジウムで、インフォーマル労働力として以下の3カテゴリーグループが提案された。(a)ごく少数の賃金労働者を雇い、徒弟人があるかなしかの零細企業所有使用者。(b)1人企業を所有・経営する自営業者で、無給労働者(通常家族メンバー、徒弟人)の助けがあるか、1人だけで働いている。(c)零細企業における賃金労働者、無給の家族従業者、徒弟人、臨時労働者、家内労働者、有給の奉公人などを含む有給・無給の従属的労働者。

多くの他の様相や外観:
分析ユニットが使われる度にインフォーマル・セクターで多くのバリエーションが見出される。例えば、市場や生産との関連によって自営業者は互いに区別される。独立的小店主、露天商は街頭商人と比べられ、車両所有の三輪、乗客用自転車運転手は、車両借用者と比較される。大部分のインフォーマル・セクター生産ユニットは、生存のための必要に動機づけられ、収入、生産、技能、技術、資本、残りの経済活動との弱い連携などその低さの程度によって規定される実態的活動ベースから成っている。しかし、それはまた一般的な成長や仕事の可能性、国内外における組織され、脚光を浴びた市場とのリンクなど近代的、かつダイナミックな部分も合わせもつ。

諸統計:入手できるデータをベースにした傾向
都市インフォーマル・セクター:1990年代ラテンアメリカで起業第1走者は都市インフォーマル・セクターであった。新規の10の仕事中平均6が零細企業、自営業者、対家庭サービス業によって創られた。当該地域のインフォーマル・セクター雇用成長率は年間3.9パーセント、一方、フォーマル・セクターのそれはたった2.1パーセントにすぎない。アフリカの都市インフォーマル雇用は、都市労働力の61パーセントを吸引すると推定される。このセクターは、1990年代この地域で93パーセント以上の全付加的労働を生み出すと算定されている。1997年の財政危機以前、アジアのインフォーマル・セクターは、新工業諸国(10パーセント以下)とバングラディシュのような国(インフォーマル・セクター雇用65パーセントと推定)との間で相違しているが、一般的に都市労働力の40から50パーセント吸収すると概算されていた。

非農業的活動におけるインフォーマル・セクター、地方―都市:
自己雇用労働者(self-employed workers)4、多くが自営業か無給の家族従業者であるが、都市・地方のインフォーマル・セクターの主要な構成要素と考えられる。1980年代と90年代の間、世界の全地域で非農業自営業者の数が増大している。90年代、自営業と家族従業者はアフリカの全非農業的労働のほとんど3分の2、南アジア2分の1、中東3分の1、ラテンアメリカと東アジアでは4分の1を占める。ヨーロッパの前統制経済国家での自己雇用の劇的増大は、その経済移行プロセスを示している。1990年代、ポーランドの自営業は全雇用者中4分の1、ルーマニア5分の1、チェコ・リパブリックやハンガリー、スロバキアで10分の1を占めている。

ジェンダーの重要性
都市インフォーマル・セクターで男性が支配的な国は数少ない。インフォーマル・セクター雇用では、女性の割合が非常に高く一般的に60から80%を占めると推計されている。しかし、入手できる統計で反映されるより女性の数は最多いだろう。彼女らの多くが無給の家族手伝人や家族従業者で、その結果、簡単に数字上の空白状況に陥る。生産的であるが無給労働はしばしば家事労働と識別されない。女性自身が自己を労働者と見なしていない場合も多い。インフォーマルでフレキシブルな雇用協定の元で、家族企業・ホームベース労働へ生産、サービスを下請化させるという広く普及している方策は、公式的な生産システム下で女性によるホームベース労働をより一層促進させる。一方フォーマル・セクターの男性と比べ、女性の場合低・無熟練技能労働、低賃金業務、低次元で終わる市場といった狭い範囲の活動や職業に集中する傾向がある。(その典型的的事例としてフードプロセッシング、縫製、対家庭サービスが挙げられる)。更に、女性はインフォーマル・セクターの従業者・生産者が直面する資産、市場、サービス、法的枠組みに関する束縛から、追加的にジェンダーによる特別な障害に直面する(例えば、それらは契約を取り交わす場合の制約、不安定な土地・財産権、家事育児への責任などである)。

出典:
ILO Key Indicators of the Labour Market (KILM) 1999; ILO Panorama Laboral 99 ILO, World Labour Report 1997-98; statistics compiled by Jacques Charmes for POLDEV, 1998




(訳注)
1 ここでは、「インフォーマル・セクターとは何なのか」、という設問の仕方ではなく、「彼らは誰なのか」という設問となっている。本文にもある通り、インフォーマル・セクターの定義、働く人々も多種多様にわたっており、そこでどういう人々がこのセクターを構成するのか、ということが問題だからであろう。職種の訳は、『国際労働経済統計年鑑』(Yearbook of labour Statistics, 57th Issue, 1998. 財団法人日本ILO協会)の分類に該当する場合ほぼそれに従ったが、その中で網羅されていないときなどは、個人の判断で翻訳した。

2 System of National Accounts (SNA). 改訂版4は1993年の刊行である。

3 ここではhome workersなどと区別するため家事労働者としたが、召使や奉公人などと考えられる。

4 own-account workers と区別するため、self-employed workersを自己雇用労働者とした。


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