『協同の發見』2002.1 No.115 目次

ILO勧告127号
発展途上国の経済的、社会的開発における
協同組合の役割に関する勧告

(1966)
 

訳 大谷 正夫(協同総合研究所顧問)

 国際労働機関(International Labour Organization)はILO理事会(International Labour Office)の理事会(Governing Body)の招集により、ジュネーブにおいて、1966年6月1日に第50回総会(General Conference)を開催し、第4議題の「発展途上国の経済的、社会的開発における協同組合の役割に関する提案」を採択し、これらを勧告とすることを決定し1966年6月21日に以下の勧告を採択した。 これは「協同組合(発展途上国)勧告」(1966)、と呼称することができる。

1、適用範囲

1.この勧告は、生活協同組合(consumer)、土地改良協同組合(land improvement)、農業生産および加工協同組合(agricultural productive & processing)、農村購買協同組合(rural supply)、販売農業協同組合(agricultural marketing)、漁業協同組合(fishery)、サービス協同組合(service)、手工業協同組合(handicraft)、労働者生産協同組合(workers’productive)、労働契約協同組合(labour contracting)、貯蓄および信用協同組合(thrift & credit)、協同組合銀行(bank)、住宅協同組合(housing)、運輸協同組合(transport)、保険協同組合(insurance)、保健協同組合(health)をふくむすべてのカテゴリーの協同組合に適用される。

2、協同組合政策の目的

2.協同組合の設立とその発展は、開発途上国の経済的、社会的および文化的開発と人間の向上にとっての重要な手段の一つであるとみなされるべきである。
3.協同組合は特に、以下の手段として、設立され発展させられるべきである。
(a)限られた資源と機会の下で、人々の経済的、社会的および文化的境遇を改善し、彼らのイニシアティブの発揮を奨励する
(b)節約を奨励し、高利を無くし、健全な信用利用により、個人的、国家的資本財源を増加させる
(c)経済活動の民主的コントロールと剰余の公平な分配に関する政策を強化することにより経済に貢献する
(d)資源の十分な利用、例えば農地改革や土地開拓のシステムの実施を通じ新しい生産地域を実現し、地域の原材料を加工する近代的産業を広く各地に発展させ、国民総所得、輸出収益および雇用を増加させる。
(e)住宅の分野、そして適切な場合、健康や教育そしてコミュニケーションの分野において社会的状況を改善し、社会的サービスを補強する。
(f)組合員の全般的、そして技術的知識の向上を支援する。

4、発展途上国の政府は、協同組合の独立性に影響を与えることなく、経済、財政、技術、法制その他の局面において協同組合が支援と鼓舞を受けられる政策を策定し実施すべきである。

5、(1)そのような政策を入念に仕上げるにあたり、当該国の経済的、社会的状況、活用できる 資源や協同組合の開発に果たし得る役割が留意されなければならない。
(2)協同組合の基本的特質と両立する限り、その政策は開発計画のなかに統合されるべきで ある。

6、政策は常に見直しをされ、社会的、経済的ニーズの変化や技術的進歩に適合するものでなければならない。

7、現存する協同組合は、政策の策定と、可能ならばその実施に協力させられるべきである。

8、協同組合運動は、政策の策定と、必要ならばその実施について、共通の目的をもつ団体と協同を追求することが奨励されなければならない。
9、(1)当該政府は、国家経済計画や他の一般的経済措置の策定にあたり、そのような計画や措 置が、少なくとも協同組合に影響を及ぼしかねないものであるならば、他の企業と同じような立 場で、協同組合を参加させるべきである。それが協同組合の基本的性格と両立する限り、そ のような計画と措置に協同組合は参加させられるべきである。
(2)本勧告のパラグラフ7および9の(1)に述べた目的のために、協同組合の連合会は地域、 地方および全国レベルにおいて、その会員を代表する権利が付与されるべきである。

3、協同組合に関する政策の実施方法

A 法制

10、現存する協同組合との協議をふくめ、あらゆる適切な手段がとられるべきである。
(a)例えば課税やライセンスやクォーターの割り当てに関連した差別により、または協同組合の特別な性格や運営上の特別ルールの考慮を怠り、協同組合の発展を不当に制限することになる法規中の条項を見つけ出し、削除していくこと。
(b)そのような条項が、将来的にも法規に含まれることを避けること。
(c)協同組合の特別な状況に則し、財政に関する法規を適合させること。

11、協同組合の設立とその運営に関し、そして他の形の企業と同等の条件で活動できる権利の擁護に関し、特に法規が必要である。
その法規は、可能な限りすべてのカテゴリーの協同組合に適用されるべきである。

12、(1)そのような法律と条例には、いかなる場合でも以下の事柄に関する条項がふくまれなけ ればならない。
(a)協同組合の基本的性格を表現する定義や記述、すなわち、協同組合は人々の結合体であり、共通の目的を達成するために自主的に協同し、民主的に管理される組織をつくり、必要な資本を公平に分担し、事業のリスクと成果を公正に分け合い、組合員が積極的に参加をする組織である。
(b)協同組合の目的の記述、設立と登記の手続き、定款類の改正、解散。
(c)組合員の諸要件。出資金最高限度、必要なら加入時の出資金払込みの比率と全額払込みまでの期間、組合員の権利と義務、そしてそれらが定款中に詳しく記載されること。
(d)管理、マネージメント、そして内部監査の方法と、それらを所管する機関の設置の手続きとその機能。
(e)協同組合という名称の保護
(f)外部監査、協同組合の指導、法律および条例の施行の機関。
(2)そのような法規に定める手続き、特に登記の手続きは、協同組合の設立と発展を阻害し ないよう、出来る限り平易で実務的なものでなければならない。

13、協同組合に関する法令は、協同組合が連合することを認めなければならない。

B 教育と訓練 

14、発展途上国の人々の間に、協同組合の原則、方法、可能性と限界についての知識を、できる限り広く普及する手段が取られねばならない。

15、協同組合についての適切な教育が、協同組合学校、カレッジ、他の専門センターのみならず、以下の教育機関においてもなされるべきである。
(a)大学および高等教育センター
(b)教員養成カレッジ
(c)農業学校、 他の職業訓練施設、 労働者教育センター
(d)中学校
(e)小学校

16、(1)協同組合の原則と方法の実践的経験を促進する観点から、学校やカレッジにおける学生 協同組合の設立と運営が促進されなければならない。
(2)同様に、労働者の組織、手工芸者の団体による協同組合の促進計画の実行にさいして、  奨励と支援がなさなければならない。

17、先ず地方レベルにおいて、協同組合の原則、方法、可能性を成年者に知らせるための措置がとられるべきである。
18、教育の媒体として、テキスト、講義、セミナー、学習 ・ 討議グループ、移動教師、協同組合事業への案内訪問、新聞、フィルム、ラジオ ・ テレビ、その他のマスコミが十分に活用されるべきで、各国の特殊条件に見合って活用されねばならない。

19、(1)将来、役員そしてスタッフ、アドバイザーや広報担当になる人々、必要ならばそれらの 現職の人々に、適切な技術訓練と協同組合の原則と方法についての教育の措置がとられねば ならない。
(2)現存する施設が不適切な場合、そのような訓練を行う専門のカレッジや学校が設置され、 その国の条件に見合った教材を使用し、訓練が専門の教師や協同組合運動のリーダーたちに よって行われなければならない。
 専門施設が設置されない場合、通信教育か、簿記、経営、商業学校などにおいて特別コー スが設けられるべきである。
(3)実践的訓練の特別プログラムの活用は、協同組合組合員の教育、そして基礎的および、  さらに進んだ訓練に寄与する方法の一つでなくてはならない。
 このようなプログラムは、地方の文化状況と、読み書きと基礎的算数の知識を広めるニー ズを考慮したものでなければならない。

C 協同組合への援助

財政援助

20、(1)協同組合が活動を開始した時、またはその成長や転換にあたり財政的困難に遭遇した場 合、外部からの財政援助が与えられなければならない。
(2)そのような援助は、協同組合の独立性や利益に反する如何なる義務も課してはならない。  それらは組合員のイニシアティブと努力に代替するものではなく、むしろそれを鼓舞するよ う設計されなくてはならない。

21、(1)そのような援助は、貸し付けまたは信用保証のかたちでなされるべきである。
(2)補助金および減税、免税の措置を、特に以下の財政援助の場合にとることができる。
(a) 広報、プロモーション、 教育のキャンペーン
(b) 公益のために明確にされたタスク

22、そのような援助が協同組合運動からなされない場合、必要ならば私的団体から、でき得れば、国や他の公的機関によりなされるべきである。 その援助は、資源の重複と分散を避けるよう調整されねばならない。

23、(1)補助金、減免税、特にその援助の用途と金額は、その国の法令に記載さ れた条件に従い、貸し付けと信用保証の条件は各ケース毎に決定される。
(2)所管する当局は援助の使途、そして貸し付けの場合はその返済について、適切に監督す ることを保証しなければならない。

24、(1)公的、半公的ソースからの財政援助は、全国協同組合銀行、またはそれが存在しない場 合は、援助の使用と必要ならばその返済に責任のもてる他の協同組合中央機関のチャネルを 通すべきである。そのような組織の存在しないところでは、援助は個々の協同組合に直接行 うことができる。
(2)本勧告のパラグラフ20の(2)を条件として、私的団体からの財政支援は、個別の協同組 合に直接行うことができる。

管理上の援助

25、マネージメントと管理は、最初から組合員および組合員から選ばれた人々の責任であることが基本であるが、所管する当局は適切な場合と、通常は最初の期間に限って
(a)協同組合が適切なスタッフを得て、報酬を支払うことを支援する。
(b)指導と助言を与え得る協同組合人を配置する。

26、(1)通常、協同組合はマネージメントや管理そして技術的事項について、協同組合の自治  と、組合員、その機関およびスタッフの責任を尊重し、指導と助言を得ることができる。
(2)そのような指導と助言は、協同組合連合会または所管する当局によりなされることが望 ましい。

D 実施のための監督と責任

27、(1)協同組合は、その設立の目的に沿い、法律に合致した活動を続けることを保持するため の監督に従わなければならない。
(2)監督は、むしろ協同組合の連合会または所管する当局の責任である。

28、協同組合連合会に加盟する協同組合の会計監査は連合会の責任である。
連合会のような組織が存在しないか、連合会がそのようなサービスを提供できない場合には、所管する当局または有資格の独立した団体が、その職務を引き受けなくてはならない。

29、本勧告のパラグラフ27および28に関する方法は、以下のように計画され、実施されるべきである。
(a)協同組合の良きマネージメントと管理を保証し
(b)第三者を保護し
(c)実践とミスの批判的検討を通じ、協同組合の役員、 スタッフの教育と訓練を完成させる機会を提供する。

30、(1)協同組合を促進し、役員およびスタッフに協同組合教育を行い、訓練し、その組織と運 営に支援を与える機能は、首尾一貫したものとするために一つの中央団体でなされることが 望ましい。
(2)、これらの機能の実施は、 協同組合連合会の責任であることが望ましい。 そのような 組織が存在しない場合、所管する当局または、適切であるならば有資格の団体がその職務を 引き受けなくてはならない。

31、(1)本勧告のパラグラフ30に関する機能は、可能な限り、専任の仕事として行われるべき である。
(2)それらは、そのような機能の実施について特に訓練を受けた人々により行われなくては ならない。 その訓練は専門施設、または適切ならば本勧告のパラグラフ19に関連する学校 やカレッジの特別コースにより行われるべきである。

32、所管する当局は、国民経済における協同組合の活動や発展についてのレポートと統計を、年に一度収集し出版すべきである。

33、協同組合の連合会や他の現存組織が、調査、経験や出版物の交換のニーズに適切に応じられない場合、可能ならば全国を、または幾つかの地方をサービスする特別な組織を設立するべきである。

4 国際協力

34、(1)加盟国は可能な限り、発展途上国の協同組合に援助と激励を行う上で協力しなくてはな らない。
 (2)そのような協力は以下のように期待される。
(a)発展途上国間において。
(b)特定の地域内の国、 特に地域機構が存在するのであればその枠内の国の間において。
(c)協同組合運動の古い歴史をもつ国と発展途上国の間において。
(3)適切な場合、そのような協力のため、全国協同組合組織の援助が期待され、国際的努力 の調整のため、国際協同組合組織や他の関係ある国際団体を活用すべきである。
(4)協力は以下の方法で行われるべきである。
(a)発展途上国の協同組合にたいし、可能ならば政府間あるいは非政府間の異なる機関をふくめて調整されたプログラムのもとでの、技術援助の拡大をすること。
(b)立法を支援し、協同についての教育を支援し、協同組合の役員や適格なスタッフを支援するため、情報、テキスト、視聴覚用または類似の資材を準備し、供給すること。
(c)資格ある人材の交流。
(d)奨学金の授与。
(e)国際セミナーや討議グループの組織。
(f)商品やサービスの協同組合間での交換。
(g)発展途上国の協同組合運動の構造、運営方法、問題点についての系統的な調査をはじめ ること。

5 特殊な問題の処理における協同組合の役割の特別規定

35、ある特殊な状況下では、協同組合は開発途上国の特殊な問題を担う特別な役割を持っていることが認められるべきである。

36、農地改革の成功的実施や受益者の生活改善に、各種の協同組合が活用されうることを明示した提案を、本勧告の付属書に提示する。

付属書

1、全般的な経済的社会的進歩の促進の手段として、農村人口を直接に開発プロセスに組み入れる手段としての重要性の観点から、そして教育的、文化的価値の観点から、協同組合は農地改革のプログラムにおいて決定的な役割をもつものとみなされるべきである。

2、農地改革の方法の計画と準備において、農村の人々の問題点と利害関係にアクセスする手段として、協同組合が活用されるべきである。 そしてさらに農民の間の情報のチャネルとして、その改革の目的や原則、方法を理解させるためのサービスを行う。

3、農地改革の各種パターンや局面に適合した、適切な形態の協同組合の開発に特別な注意が払われなければならない。 それらの協同組合は、耕作者に彼らの土地の効率的かつ生産性のある稼働を実現させ、組合員の最大で可能なイニシアティブと参加を引き出さなければならない。

4、適当と判断されれば、自由意志による適切な協同組合土地利用は奨励されるべきである。この形態は共通のサービスと農作業の組織から、土地、労働、設備の完全なプール制によるものまで含まれる。

5、適当であれば、零細な所有の土地を、自由意志により協同組合を通じて統合することは奨励されるべきである。

6、所有権の移転や大土地の分割が予想される方法がとられる場合には、所有と耕作の協同組合システムの受益者による組織に、然るべき考慮が払われねばならない。

7、土地開拓計画に関連して、特に開墾、土地改良、協同のサービス、開拓者の協同農作業に関して協同組合の設立が考慮されねばならない。

8、貯蓄信用協同組合と協同組合銀行の発達が、農地改革の受益者や他の小農の間に、以下の目的のために奨励されるべきである。
(a)耕作者が農具や、農業に必要な他のものを購入するためのローンを提供するため。
(b)耕作者が節約し、資本を蓄積するのを奨励し支援するため。
(C)通常、既存の信用組織にアクセスができない雇用労働者をふくめ農業家族に前貸しをし、節約を促進するため。
(d)特別な政府の融資計画について、貸し付けを受益者まで効率的なチャネルを通じ、そのローンの使用と、その期限通りの償還について適切な管理を行い、その実施を促進するため。

9、購買、販売、あるいは多目的協同組合が、以下の目的のため奨励されるべきである。
(a)良品質の農業必需品を有利な条件で協同仕入れし、供給するため。
(b)すべてのカテゴリーの農業労働者に、基礎的生活必需品を供給するため。
(c)農作物の協同の貯蔵、加工、販売を行うため。

10、農業機械の協同使用、電化、家畜の飼育、獣医の手当、ペストのコントロール、潅漑施設、穀物および家畜保険などのサービスを農民に行う協同組合の発達が奨励されなければならない。

11、土地をもたない農業労働者の雇用機会、労働条件、そして収入を改善するために、彼らが労働契約協同組合を自発的に組織するのを支援する必要がある。

12、土地改革が進行中のエリア内での、それぞれの地区の農業協同組合は、経済的に有利である場合には、彼らの活動を結びつけるよう奨励されるべきである。

13、農家組合員を、常時またはパートとして非農業雇用(例えば手工業、家庭または小製造業)し、 消費物資の適切な分配を行い、国が必ずしも提供しない社会サービス (例えば保険、 健康、教育、文化、レクリエーションや運輸など)を提供する、他のタイプの協同組合の奨励と発展が十分考慮されなければならない。

14、農地改革に関連して、協同組合の方法、可能性と限界性についての情報の交流と普及があらゆる手段により図られなければならない。 それにより得られた経験は、ほぼ全ての国々で役に立つことになろう。
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