『協同の發見』2000.8 No.99 総目次
コミュニティ・ケアをになう(2)

「高齢協」からケア・ワーカーズコープ
「ゆとり」をたちあげて

田村洋子生活協同組合北海道高齢協おたる後志地域センター代表、
ヘルパーステーション・ケアワーカーズコープ「ゆとり」相談員

 「蟹工船」の小説でしられる"小林多喜ニ"の文学碑がある小樽の三角山の眼下にヘルパーステーション・ケアワーカーズコープ「ゆとり」の事務所があります。高齢協の組合員さんから別室<トイレ・台所付>を低額でかりています。場所的には小樽駅のすぐ近くなので交通の便も非常によくて、集まりやすいところでもあります。
 北海道高齢協が1996年に設立されました。小樽の街は人口が減りつづけ、現在の人口は15万3000人です。高齢化率は23%で、繁華街は特に減少が激しく、いわゆるドーナツ化現象に見舞われています。せり上がった坂道に高齢者が多く住んでおり、もし何かあった時にはどうしようかという不安もあります。設立時には、高齢協の理念である、「寝たきりにしない、させない」という言葉に共鳴し、「もしそうなったらどうするのか」「どんな介護で高齢者の生活を支援していくのか」「質のよい介護とは」と皆で話し合い、ヘルパー2級講座も同時に開きました。何もわからないので、労働者協同組合の「ヘルパー活動の手引き」を実行委員会で何度も読み合いながら、北海道高齢協の援助の下ですすめてきました。そこでは初めから高齢協と仕事おこし、労協をつくっていくことを呼びかけました。講座修了生で高齢協の介護チームを作る以前は、困っている組合員宅へ介護にゆき、点から線へと広げて行きました。
 約1年後、介護保険の導入がいよいよきまり、「組合員相互の助け合い」をより発展させ、地域にもっと眼をむけ、誰かに雇われるのではなく、自ら必要な資金を出資し、経営に参加して働くというケア・ワーカーズコープをめざすことになりました。
 不況の街、小樽市で自分たちの仕事を自らつくりだし、ケアの専門技術を通して、高齢者、障害者と共に、あづましく生活できるようになりたいという思いからでした。
 すでに旭川の「いちい」、釧路の「わたすげ」が先輩として活躍していたので、学びあっていく材料にはこと欠きませんでした。ヘルパー2級養成講座の第1期生(同窓会名は「つつじ」)から生まれたヘルパー集団が、組合員の2級資格者を含めて5人でケアの仕事を始めました。
 同じ地域の利用者宅には、毎日の生活の中で何度も訪ねたり、その家の前を通る時には、安全確認なども行っていましたので、「高齢協のヘルパーはすぐきてくれる」と利用者さんからは大変喜ばれました。また、在宅介護支援センター(所長はヘルパー講座の常連講師)から、ケアの仕事が依頼されるようになり、人工透析の患者さんや寝たきりの人、重い糖尿病をわずらった方など、専門的知識も必要な利用者さんばかりで、ヘルパーたちも勉強しながらケアを続けました。
 「女は度胸」と「笑顔」でやれば何とかなるといいながら、12月10日ヘルパーステーション「ゆとり」のたちあげとなったのです。北海道高齢協で初めてのステーションだときいておどろきました。そんなことまで考えておらず、びっくりです。介護保険の下で指定業者となるためにも生協法人格をとろうと、みんなで賛同署名を集め、地域懇談会をやり続けてきたからです。そういった意味では、高齢協を生みだした労協と最初から共にやってきたというのが実感です。高齢者協同組合の「おたる後志地域センター」の運営委員会では、高齢協の8つの目標の中の、「労協を育てていく」ということは、理論的にわからなくても実感としてつかんでいたと言えます。現在もその立場でやっています。
 「ゆとり」を立ち上げる時には、組合員さんの中から、主任になって欲しい人をえらび(薄給で参加)、ステーションの名前も、みんなで相談して「ケア・ワーカズコープゆとり」と決めました。常勤5人、非常勤5人、ボランテア10人で開所することになり、市民の方の参加を含めて30人が「おしるこ」で開所式を祝いました。その当時はまだ出資の話などはありませんでした。
 介護保険施行後は、各所の支援事業所からケアの依頼も入り、自分達の地域の中からもケアの利用者をみつけてきました。真冬の間に何回も地域の老人の実態を知ろうと組をつくってお訪ねし、介護保険の内容が良く知られていないということをつかむことができました。
 「ゆとり」では、ミーテイングの他、毎月ケース検討会を開き、「質の高い介護」をめざしています。また、各ヘルパーも様々な研究会に入って、他の職種の人たちともつながっています。
 7月は20軒ほどのケアで、介護保険以前は1年間で1200時間だったのが、この3ヶ月でもうそれを超えています。
 まだまだ規模の小さい「ゆとり」ですが、利用者からは「本当の娘みたいにかわいい」とか「一生懸命でいいネ」といわれたり、「よく勉強しているネ」ともいわれたりするので、メンバーは誇りをもって働いています。
 介護保険で目算が狂った営利企業は撤退したところもありますが、地域の方々からは、介護保険でお世話になれば、結局お金がかかるので、ケアプランづくりを最初から頼まないと語る老人もいるといわれました。「介護保険は何のためにあるの、年寄りからお金を取らなくたっていいのに」という声は切実です。「利用料がもっと安ければいい」という声も多く聞かれます。
 反面、介護保険でお金はかかるが「ヘルパーさんがくるので家族との会話が多くなって家族関係が良くなった」「表情が豊かになった」「寝てばかりいたのが、表の空気を吸い、デイサービスもいくようになった」等々、うれしい話もケアの現場から聞こえてきました。
 介護保険をもっと豊かなものにしていくことと、ミニデイ(地域で2ヶ所め)を含めた地域福祉事業所づくりに着手しようと高齢協では話し合っています。「ケア・ワーカーズコープゆとり」では、労働者協同組合という仕組みをもっとつかみ、北海道労協に加盟していく予定です。
 労働者協同組合と高齢者協同組合がそれぞれ自主性をもちながら協同し、地域福祉を実豊かにしてゆこうというのが小樽での現在です。
 課題はまだまだありますが、「労働者協同組合とは?」を実践的にじっくり腰をすえてやっていこうと確認しあっています。
高齢者協同組合の組合員などの推移 地域センター 
1998年4月以前 12人 代表理事  田村洋子(社会福祉主事)
設立時       25人 運営委員10人
現在        220人 「ゆとり」
地域懇談会    30回 代表  主任ヘルパー 本間誠二(介護福祉士)
常勤 4人、非常勤 7人、ボランテイア 20人

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