『協同の發見』2000.8 No.99 総目次
巻頭言

労協法制定に向け市民会議の結成を

大内力(日本労協連法制推進本部長、東京大学名誉教授)
 今日の集会の主旨は、労働者協同組合法制定推進のための市民会議を結成して、運動を強めていこうということでございます。ご承知の通りここ2〜3年私どもは労働者協同組合法を作りたいという運動をはじめ、役所へ行ったり政治家の皆さんにお願いしたりいろいろやってまいりましたが、残念ながらことは順調に進みませんで、未だに先行きのめどがついているわけではありません。
 しかしながら、今一つの転機を迎えていると感じております。この前の総選挙で政府が変わった、我々からすればあまり代わり映えしませんが、それでも新しくなりました。また来年はいよいよ省庁の再編が始まりますが、これまでこの問題に関係する労働省、厚生省、農水省などの役所と話をしましても、どの役所も何となく腰が引けており、あまり積極的に動こうとしないで、押しつけ合ったり、たらい回しにするということでことが進みませんでした。しかし、来年から新しい省庁が、出発して何かをやり出すとなれば、それが一つのきっかけになって、我々の要求を貫いていく上でやや有利な条件ができると思います。
 さらに来年は参議院議員選挙がありますが、新聞などは、自民党が大敗して今の政府与党は崩壊する、そこで新しい政治の流れができて来るという見方が有力です。これも我々にとっては追い風というかチャンスでして、新しい風が流れ始めたときをねらって大いに運動を進めながら目的に到達するところへ持っていきたいと考えます。そこで運動の勢力を結集して市民の間に我々の声を浸透させ、運動を大いに盛り上げながら、客観的な情勢の変化をうまく掴んで運動を成功させていきたいと考えているわけです。
 5月に第1回の市民会議を企画し、今日その第2回目の準備会を持ちました。市民の皆さんのお力をお借りしこの運動を盛り上げていく上でご協力をお願いしたいと考えてのことです。後からいろいろご提案をいたしますので忌憚のないご意見をいただきたいと思います。むろんこれは狭い意味の労働者協同組合だけの運動ではなくワーカーズコープ、ワーカーズコレクティブ、その他同じ様な志を持っている諸団体が、大同小異と申しますが、細かいところの違いにこだわらず、なるべく共通のところで力を合わせ、運動を強くするために、フランクに議論をして共通点のところで強い絆を作っていくことを志していきたいというのが本旨であります。我々は一つの主張に固執して是非それを押し通そうという自我意識を持っているわけではありません。なるべく広く皆さんの意見を結集したいと考えております。こういう主旨で是非積極的にご意見を出していただき、積極的に運動に参加していただきたいということをお願いいたします。
 今日はこのあと足立区から坂田福祉部長においでいただき、地域福祉事業のネットワークということでお話しいただきます。広い意味でのワーカーズコープを法制化し社会的に正式に認められた存在にして、できるだけ自由に活動できるようにし、また行政とも手を結び、地域社会とも協力して住み良い世の中を作っていく。というのがわれわれの願いです。とくに高齢者問題が大きくなり、介護保険が実施されて以来、地域の協同の力によって高齢者問題にいろいろな形で対処しなければ高齢者の生活の安定は決してできないということがますます明らかになってきています。介護保険から外されてしまった方も含めて高齢者の生活の安定を図り、高齢者たちが楽しく生き動ける間は精一杯働き、生きていて良かったとしみじみ感じながら静かにあの世に行けるような社会を作っていくためには、企業が金儲けのための介護事業をしたり、あるいは行政だけが独走して施設を作って提供したりすればことは片づくということではありません。やはり地域に住む人―高齢者を中心に若い人が加わって地域の人が力を合わせて自分たちでいろいろな仕事を考え、その中でそれぞれの人が自分の持っている能力・知恵・財力を生かしていくような組織を作っていく。それを通じて多くの人に働きがいが感じられる仕事の場を与えていく。こういうことなしには高齢社会に対応する地域活動はあり得ないでしょう。足立区は東京の中ではこういう地域社会づくりに先駆的な取組をされており、東京高齢協も足立区と手を結びいろいろお手伝いして仕事を進めております。そういう意味で、今日は足立区の地域社会づくりの取り組みのお話を伺うことにしました。これも一つの試みですが、こういう試みを足立区から始め都全体に広め、全国へと展開してまいりませんと21世紀が住み良い社会にはなりません。
 21世紀は今までとは違った人間の生き方、働き方が求められる時代だと思います。端的に言ってしまえば、企業に金儲けをさせるために働く、働く人は他人の命令に従ってお金を儲けるためだけに働く、時には過労死に至るまで働かせられる。こういう働き方の中に生きがいを見いだしていくという時代はもう終わりです。もっと自分たちが持っている本当の能力、人間的な力、人間的な善意を生かしながら人々が手を握り社会をますます良くし、全ての人が楽しく生活できるような世の中を作っていく、そのためにどういう生き方・働き方をするか、どういう仕事場を作っていくかが大きな課題となっています。
 我々の運動は21世紀を展望する大きな歴史を担う運動でなければならないと考えています。志は大きいが力はまだ小さい。できればその力を少しずつ強くして志に合うような力を備えていきたいと考えています。どうか皆さんもそういうおつもりで力を合わせて、この運動をもり立てていただきたいとお願いして、ご挨拶に代えさせていただきます。

8月号目次協同総合研究所(http://JICR.ORG)