『協同の發見』2000.5 No.96 総目次
連合会だより

富田孝好(日本労協連・事務局長)

 「父は僕が中学2年に突然亡くなった。それまで生きていることが、自分に父親がいることが当然だったのに。家に帰って、大好きなカレーがあったら、お腹いっぱい食べて、いつも通りに姉とテレビを見てた。本当にいつも通りだった。そしたら電話が鳴った。母からだった。『びっくりしないでね』と何度も言っていた。でも気にもせず『なに?』と普通に聞き返した。そしたら『お父さん亡くなったの』と言われた。」これは、最近まとめられた「自殺って言えない―自死で遺された子ども・妻の文集―」に綴られている文章です。あしなが育英会が編集し出版されたものです。この文集には14編の思いが綴られています。そして、この文集の、<おわりに>では「作文を読んでいて、何とも重い。辛い。息苦しくなってくる。自分史を聞いていて、その子の顔がもう見られなくなる。もういいよ、言わなくても……。」との書き出しで、育英会・玉井会長の言葉が書きしるされています。そして、会長は「 さいごに言いたい。遺児への心のケアの大切さは当然だが、行政や社会が『自殺(自死)』の激増を防止するためになにをなすべきか、……昨日まで会社主義でモーレツに仕事をしていた団塊の世代が、IT(情報技術)革命で「今日からいらないよ」と言われたらどうなるか。相互扶助の日本社会にアングロサクソン流の弱肉強食の論理が急に入ってきたら、潤いも何もない殺伐とした職場になり、心優しい人びとは排除されていく。グローバリゼーションの前には仕方ないことなのか。」と述べています。副田金城学院大学教授の推計では、今、自死遺児は約10万人から12万人にのぼると報告されています。長引く不況やリストラの中で、このような現実がおきているのだということ改めて実感しました。そして、子供たちへ心から頑張れとエールを送ります。
 5月に入り、第21回定期全国総会の準備も議案討議と各加盟組織での新年度事業計画・実行予算の確定という段階へと進んできました。連合会・総会議案は、「仕事おこし新時代―協同労働によるコミュニティをベースとした生活総合産業の創造―」を基調とし、この1年間総括と新年度方針・第3次中期計画(2001年4月〜2004年3月)等を提案しています。これから6月4日〜5日の総会まで全国で活発に討議されます。

 労協法制定運動は、これまでの到達点の上に、より広い推進母体への発展をめざして、新たな局面を迎えています。冒頭にも紹介したように深刻な事態が続いている雇用・失業情勢の中で、「コミュニティ・ビジネス」という言葉に示されるように、福祉・環境・まちづくりなどの面から、働く人々、市民自身の仕事おこしが広がってきています。これを支援する政策の1つとして労協法の期待が高まっています。5月19日に明治大学・リバティタワーにて、「労協法制定のための市民研究会」を開催します。広く「協同労働の協同組合」に関わる法律を求める団体・個人に集っていただき、意見交換と運動の発展の原動力になっていただくことをお願いし、より広い推進母体である「労協法制定推進市民会議」の結成へ向かうものです。一日も早い法制定の実現めざし頑張りたいと思います。

 新緑の五月の風を感じながら……。


『協同の発見』96号(2000年5月)目次協同総合研究所(http://JICR.ORG)