『協同の發見』2000.2.3 No.94 総目次

労協法制定のためのヒアリング
 
企業組合 長野中高年雇用福祉事業団
 

 
事業所の名称 労働者協同組合ながの
事業所の所在地 長野県下全域 28職場
E-mail/URLjw2m-nyr@asahi-net.or.jp(労協ネット)
設 立 年 月 日 任意団体として1980年8月22日、上記の名称で設立
         企業組合法人設立 1986年12月20日
法 人 形 態 企業組合
代  表  者   理事長 小沢房生
組 合 員 数 240名
事  業  高 48,580万円(1998年)
所     属  日本労働者協同組合連合会地域事業団
 
 長野中高年雇用福祉事業団の活動について、専務理事の原山政幸さんからお話を伺いました。

◆歴 史

 1971年に失対の新規就労が停止されたことをきっかけとした全日自労の運動の中から誕生しました。失業者=労働者自身が管理する事業団に自治体が仕事を出す『事業団方式』が確立したことが事業団運動の起点となり、1980年8月に、失対事業に働く人々により長野中高年福祉事業団の設立にこぎつけました。
 以来、トイレ清掃、ビルメン事業、保育所の経営、県厚生農業協同組合連合会の「老健施設こまくさ」の業務、消費生協の物流業務、ドライアイス製造など多方面に事業拡大・展開をすすめ、福祉・環境の分野でも協同組合にふさわしい役割を果たせるまでになっています。
 労働者生産協同組合の重要性と協同組合間協同を作り上げる上で労協が果たす役割に熱い期待を寄せた『西暦2000年における協同組合』(レイドロウ報告*1、ICAモスクワ大会、1980年)に接し、事業団のあり方と発展方向を労働者協同組合の形態と見定め(中高年雇用福祉事業団全国連合会第7回総会、1986年)、同年10月に、現行法制度の下で労協の法形式に比較的近いと考えられた、中小企業等協同組合法によるの企業組合を当面の法人格として選択しました。
 1992年には、国際協同組合同盟(ICA)に正式加入が認められ、事業団第14回総会(1993年)で同連合会が日本労働者協同組合連合会と自らのアイデンティティーを確立したことを受けて、企業組合長野事業団も「労働者協同組合ながの」という名称と定款を承認し、任意団体として発足させました。

◆理 念


 “人と地域に役立つ失対”への転換を追求する中で、労働組合自らが自覚的な就労規律を作り、実施する、つまり、新しい雇用創出を自らの手で進めることにより失対制度を主体的に補完することが出発点でした。こういった流れからの転機は生協の物流再編(1995年)とともに訪れました。
 物流再編によって失職する組合員の生活をともに支える(「死ぬまで面倒をみよう」という全日自労の理念)ことだけではなく、地域福祉を協同で担うための組織、高齢者生活協同組合づくりに着手(1999年6月に、生協法人認可、愛称「生協かがやき」)しました。また、市民が担う福祉(コミュニティーケア)の街づくりの先頭に立とうとして、労協ながののホームヘルパー養成講座を高齢者生協、コープながの、塩尻協立病院、ワーカーズサークル「円」などとの地域連帯によって開講し、同時に大岡村の環境保全資源リサイクル養鶏事業のような地域の課題に応える活動(コミュニティーワーク)を協同で進めています。地域連帯・協同の力による福祉への取り組みは、介護保険の指定居宅介護支援事業者としての「労協ながの介護支援センター」(1999年9月)の設立となって表れています。
 現在、このような理念に沿ってあらゆる地域、あらゆる職場に福祉・環境・生活を担う労協づくりをめざしています。 

◆事業内容

  ビルメン関連を中心に仕事を拡大し、1998年度は、前年比で10%を超える4億8,580万円の事業高に到達し、高齢協の事業高を含めて、5,3億円となっています。2000年度には、清掃・厨房・送迎などの分野での事業拡大が見込まれ、また、福祉関連施設や厚生連病院などでも仕事起こしが期待されています。
 ビルメン関連では、「老健ふるさと」、「老健あららぎ」、小諸厚生総合病院などで事業拡大の成果が見られ、元請けとして信州大学工学部の清掃、社会福祉法人協立福祉会老健施設「あずみのの里」などで受注に成功しました。この分野でとくに指摘しておきたいことは、厚生省の院内清掃基準に適合した事業者に認定される医療関連サービスマークを1996年に取得し、院内感染防止のための清掃を確実に身につけて実施してきていることです。それと同時に、長野県の建築物清掃業登録Aランクとして県の入札資格を合わせ得ていることが国の委託事業(信大工学部)の落札につながりました。
 販売関連では松本協立病院や諏訪共立病院で売上が増加しています。製造業では、アレルギー性疾患の患者さん向けの除去食品への要求の高まりを受けて1986年6月に設けられた食品専門店「ころぽっくるながの」(2000年2月、閉店)や「ころぽっくる松本」で着実に製造を伸ばし、配食事業が地域に広がってきています。
 物流分野では、地域生協との協同組合間協同として幅広い連帯関係が作られています。「生活協同組合コープながの」の前身の一つである長野生活協同組合の物流業務におけるライン後方作業は1987年より受注しています。今までに、長池、笹賀、尾張部、塩尻の各物流センターのライン後方業務と配送センター仕分け整理業務などのほか、東信、篠の井の配送業務などを手掛けています。しかし、厳しい経済情勢の中で、この分野での多くの業務から撤退し、福祉・環境の分野へのシフトを進めています。
 高齢者福祉の分野では、ヘルパー、配食、清掃を核としたコミュニティー・ケアへの取り組みの準備を進め、ケアマネジャーの研修会、県介護者ネットワークの事務局、介護110番の企画など介護保健対応の準備を整えています。県知事認可の2級ヘルパー養成講座が1995年から開始されています。
 生ゴミのリサイクルに向けて、駒ヶ根市や仙台などの実践例を調査・研究し、長野市で一般廃棄物収集運搬業の資格を申請し取得しました(1999年4月1日付け)。前に述べた大岡村の養鶏事業は、高齢者協同組合による仕事起こしの一例です。

◆現状 

 1999年4月に決算書で確定されている事業高に基づくと、次のような状況になっています。
東北信事業所  事業高 186,277(千円)
 内 ビルメン事業    80,337(千円)
     緑化事業       4,686(千円)
    販売・製造事業   101,254(千円)
中南信事業所  事業高  299,530(千円)
 内 ビルメン事業    59,893(千円)
    生協提携事業    148,657(千円)
   緑化事業        581(千円)
   販売・製造事業   90,399(千円)
 事業が全体として伸びる見込みがあるものの、委託金額が据え置かれている一方で経費が増加するということもあって赤字の現場があり、現場の努力を重ねて経費の削減で対応しています。ビルメン部での作業方法の改善(新清掃方式)に努め、OJTを徹底したり、「良い仕事」を行うための作業書づくり、内部点検と定期協議などを通じて適切な作業方法の実施、水準の引き上げが図られ、また、センター事業団の取り組みについて学び、教訓を仕事に生かすようにしています。生協との毎月の定期協議によって意思疎通を活発にし、協同した事業運営を前進させることに留意しています。
 不況で委託金額の据え置きという悪条件にめげず、福祉関連では介護支援専門員の資格および社会福祉士の資格を取得する組合員や、ビルメン関連でビルクリーニング技能士資格に挑戦する仲間ありで、建築物環境衛生管理技術者資格についてもその取得をめざして内部で努力が続けられています。こういった資格は、入札や受託資格要件ともなっているので、事業拡大や経営改善にはなくてはならないものです。一般廃棄物処理業の資格の取得については先に述べたとおりです。
 わたくし達は、労協に相応しい働き方を身につけ、徹底するために、今述べた「良い仕事」の追求の一側面として、情報の共有と民主的な運営にも気を配っています。各現場でのミーティングの定例化、理事会・常任理事会の定期の開催、事業拡大と労働の質的向上に大きな役割を果たす専門部の活動といった機関・組織の民主的な運営を順守しています。多くの現場を抱える事業団にとって、情報の共有はきわめて重要なものですが、いくつかの改善の余地もあります。
 第15回通常総会議案書(採択済み)の「おわりに」の言葉を紹介します。
「これほどまでに『良い仕事』や『協同』について考え、議論し、自らが課題を受け止めて克服し、頑張り抜いて展望を開いていく企業が他にあるでしょうか。
 このこだわりこそ、人間が企業の歯車として働かされることではなく、自分が主体的にかかわって人間らしく働き、喜ばれる仕事ができた時に生きがいや達成感を感じ、そのことで事業団も発展していくことに、大きな誇りをもっているからではないでしょうか」。

◆法制化に求める事項

(1) ワーカーズコープ設立のノウハウとして 
 地域福祉事業所をはじめとして、ワーカーズコープによる市民の仕事起こしを進める上で、労協法がないので、まず、ワーカーズコープ自体が理解されず、しかも、運営のノウハウは事業団の長い歴史に照らしてあるにしても、設立のノウハウは必ずしも系統的に蓄積されて活かせるようにはなっていないこと。
 事業団だけでは法制化は難しく、様々なワーカーズコープが誕生していくことが制定への大きな力になる。頭の中のノウハウではなくて、文書として明確になっていると、こういった方法で組織づくり、仕事おこしをやろうとするところがたくさんあると思われます。
 
(2) 協同組合として管理、運営されているが、法定の「企業組合」を名乗る問題
 対外組織に話をしていけば、事業団と労協との関係がわかりにくく、また、高齢協、高齢者生協も合わせて話をする機会も多く、理解してもらうまでに多くの労力を必要としているのが現状です。
 特に困るのが、話していく分には説明できるが、書式が決まった書類では、あくまでも法人が優先されるために、「労協ながの」ではなく「事業団」としていくと、事業団の法人は「企業組合」ということになり、それは、一般に営利法人と解されるために、知らないところで評価が違った形でなされたり、誤解されたりといったことも出ていると感じられます。企業組合自体もあまり知られてはいないのですが。
 
(3) 市民組織にワーカーズコープを知っていただくために
 『協同の発見』誌でかつて紹介された「農村女性共同の館 牛牧おやきの里」(南信州地域問題研究所、鈴木文氏による寄稿)は、まさに労働者協同組合なのですが、自分たちが労協という自覚がまずなく、私たち事業団と理念が一致していながら、「仲間」意識が築けず、協力・協同の関係が結ばれてはいないのが実際で、残念です。
 ほかにもこういう例があります。飯田市にある「ケアグループかけはし」は十数年の歴史があり、当初は事業団と連係しながら、法人格は「企業組合」での取得をめざして頑張ってきました。しかし、介護保険制度に合わせて法人格が必要でNPO法人を取得しました。
 適切な法律がないばかりに、労協的に頑張ってはみたものの、有限会社などに流れていっている組織も多々ある実情です。
 
(4)協同組合間協同を前進させるために
 生協は雇用関係を排除せず、ヘルパーを雇用してもいるが、地域連帯・協同の事業としてコミュニティ・ケアを担おうとすれば、ワーカーズコープ方式による地域福祉事業所を立ち上げることがもっともふさわしいはずです。しかし、事業団にはふさわしい法律がないために、雇用関係を維持している生協との間で無用の混乱が生じる恐れもなしとはしません。
 
(5)企業組合法人は基本的には営利企業なので課税は一般企業と同じです。しかも、事業団の規模が大きくなって、形の上では大企業として扱われるまでになり、税の負担が重くのしかかってきます。厳しい条件下で理念を実現しようと頑張れば頑張る程、そうなってゆくのです。
 協同組合としての運営を行って地域に役立つ仕事おこしを進めるための資金を確保しようとしているのですが、その前に剰余の半分が税金として納められる現状では、その資金はどこから調達できるのか。地域福祉事業所づくりなど、人と地域に直接に役立つ社会的課題に実際に取り組んでいるのに、財政問題は非常に厳しい。現実に非営利組織として、こういった公共的事業を実行している実相に照らして、税制の優遇や、理念的な位置づけもしっかりしている剰余の社会的配当ともいうべき非営利協同の各種の積み立てなどを認めていただけるよう望んでいます。そのためにも労協法が是非とも必要だと理解しています。

2.3月号目次協同総合研究所(http://jicr.org)