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労協法制定のために
生協法人・東京高齢協がつくる地域福祉事業所
生協法人 東京高齢協の地域福祉事業所
事業所の名称 町田地域センター
事業所の名称 世田谷ケアサポート陽だまり
事業所の名称 国立ふぁみりーさぽーと
事業所の名称 足立地域福祉事業所
事業所の名称 練馬地域センター「ヘルパーステーションそれいゆ」
事業所の名称 中野・新宿地域福祉事業所(居宅介護支援)
事業所の名称 大田地域福祉事業所(居宅介護支援)
1.首都東京における介護保険を巡る事態の混乱
介護保険制度の実施まで1カ月。東京では、利用者・行政・事業者ともに混乱と不安がいっそう広がっている。
一つは、認定通知が届いたものの、利用者の大半の人が何十社もの事業者のリストの中からどこを選んでよいのかわからず戸惑っている事態が起こっている。ある自治体では、3月1日時点で認定結果が出た3,800件のうち、ケアプラン作成依頼が1,700件しか届け出がなされておらず、急遽、居宅介護支援事業者に、電話による“暫定的”ケアプランづくりを行うよう指導がなされている。
二つめは、ケアプラン作成を居宅介護支援事業者に依頼しても、事業者側の体制が整っていないため、利用者がたらい回しにされる事態が進んでいることである。ある自治体の事業者説明会で行政から『ケアプランの作成を断っている事業者が出てきているが、このような事態が続くようであれば事業者指定を取り消すという対応も考えざるを得ない』と事業者に注意を促す場面もあった。
三つめは、施設入所はもちろんのこと、デイやショートステイなどのサービスが地域によっては絶対的に不足しているため、認定がなされても新規にサービスを利用できる目処がほとんど立たない状況があることである。
総じて、(1)利用者・市民に対する介護保険制度の周知徹底不足、(2)介護サービス量の圧倒的な不足、(3)直前になって制度が変更、修正していく状況、(4)介護報の枠内では居宅介護支援事業が成立しないことから起こっている事態、(5)国保連への管理給付・請求実務の細目が直前に確定する事態。これらの矛盾が一挙に吹き出した中、介護保険は出発する。
しかし、こうした事態の中でも東京高齢協の顧問である、竹内孝仁先生(日本医科大学リハビリテーション科教授)は、先日私たちにこう話をしてくれた。『西暦2000年は、人も社会も歴史的な大きな変化が始まる年だ。目先のことではなく、“都市文明を市民の手に取り戻す”運動として介護保険にもあたろう。全国的にそうした市民の全ての力を糾合して進めるのが高齢協だと思う。まずは、50年先を見据えた根本戦略会議を近く持とう。」と。
現在、私たち東京高齢協は試行錯誤を繰り返しながらも、生活と地域を結んだ“生活総合事業”を展望して「地域福祉事業所」づくりに取り組んでいる。
2.東京高齢協がつくる地域福祉の今
◆ある「地域センター」の「仕事おこしの会」の中から
『最初からきちんと説明してくれればわかったのに・・・』『今から準備しても介護保険には間に合わないし・・・』2月×日(土)、とある東京高齢協の地域センターの「地域福祉事業所づくりに向けた仕事おこしの会」の中での組合員の発言である。参加者の多くはヘルパー講座の修了生であり、中には以前からの組合員の方もいる。
現在、東京高齢協の主催するヘルパー養成講座は、豊島・文京、台東、北、東久留米、町田、足立、葛飾、板橋、世田谷、江東、新宿、中野、練馬、立川、調布、府中、武蔵野・三鷹、八王子、国立の19カ所・21の地域(他に、労協センター事業団主催により、大田、墨田、稲城の3地域)で開催されており、現在までに約2,500名の修了生を生み出してきた。いずれの講座も、初日に「オリエンテーションと自己紹介」、半ば過ぎの「仕事おこし講座」から最終日の「特別講義」にかけて修了生に「地域福祉事業所」づくりを呼びかけている。講座終了後、修了生たちにに呼びかけ「仕事おこしの会」を発足し、地域センターの方々と一緒に打ち合わせを開始していく。地域によってはトントン拍子に準備が進む場合もあるが、たいていは行きつ戻りつの紆余曲折を経過し、上記のような意見・発言が出てくる。
『いつまで経っても本部の人たちから、何の指示もない。私たちはどうして良いのかわからない。どうして指示を出してくれないか』と詰め寄られることもある。私たちは、『地域の中で生活している皆さんが、この地域をどうしたいかが大切なことであり、その思いなしには何も前には進まない。
主体的に仕事や活動を作り出していく構えが大切ではないか。東京高齢協は事業としてヘルパー講座を各地で開催できる基盤ができたばかりで、その成果は自治体からのさまざまな事業委託という形で目に見え始めてきた。これから本格的な事業を開始することができるし、していきたいとも考えている。昨年3月に取得した生協法人の取得は、地域に何にもないところからヘルパー講座を繰り返し、繰り返し開催してきた成果。その成果がようやく実り始めている。仕事おこしの主体はあくまでも皆さんであり、私たちはその決意と意志に最大限応えていきたいと思う』と応える。たいてい、こういったやり取りが何回か続き、宅老所やミニデイの見学会、食事会などが取り組まれ、“仕事おこし”に向けた本格的な準備が始まっていく。
◆着実に広がる自治体・市民からの共感と期待
―ヘルパー講座がもたらしたもの―
東京高齢協は、他の高齢協と同様「寝たきりにならない、しない」「元気な高齢者がもっと元気に」を合い言葉に、ヘルパー養成講座を開催。生協法人を昨年3月に取得してからは講座開催数も拡大し、自治体や市民からの期待と共感を受ける中、行政からの事業委託、商店街振興会など地域との提携が広がりつつある。
これらの成果は、地域の中で組合員の方々が地域や市民のために、ヘルパー講座を繰り返し、繰り返し開催してきた成果である。あるとき、組合員の方が自治体窓口に講座開催の協力要請に行ったところ『これまで高齢者は利用者としてサービスを受けるだけの存在だと思っていた。みなさんのような高齢者の方が自らが講座を開催するようなことを私たちは大変歓迎したい。ぜひとも応援したい』と言われ、まだ講座を開催していない他の自治体からも『高齢協やそれを支えている労協が講座をやるのなら、営利目的ではなく地域の中に立派なヘルパーを育ててくれるので安心してまかせられる』と言われたこともある(この自治体からは、委託事業として訪問介護事業が決まり、ヘルパーステーション開設へと結びつき、「緊急地域雇用特別交付金」を活用した講座の委託も早々と決定している)。
◆自治体からの委託状況一覧
@「緊急地域雇用特別交付金」による事業 委託
*ヘルパー養成講座:
足立(2級年間5回/フォローアップ講習年間6回)、墨田(2級2回夜間講座/2年)町田(2級1回)、世田谷(2級1回)、国立(2級1回)、稲城(2級2回、3級1回)、奥多摩(2級1回)ほか、いくつかの自治体から話が来ている。
*ミニデイサービス:足立
A「介護予防・生活支援事業」による事業 委託
*生活支援型ホームヘルプ事業:
東久留米、新宿ほか、いくつかの自治体から話が来ている。
Bその他自治体からの委託
*ある区から、在宅介護支援センターとデ イサービス事業の委託が内定(2001年1 月開始予定)
◆ヘルパー養成講座、地域福祉事業所の開設に向けた取り組み
@ヘルパー養成講座の実績
ヘルパー養成講座は都内19カ所(21地域)で2級、3級合わせて約2,500人を養成、講師は地域密着型で400名を超え、実習受け入れ施設は100を数えている。現在、未開催地域を洗い出し、全ての地域で開催していくための方策を検討中。
A地域福祉事業所
地域福祉事業所の開設は、ヘルパーステーションを中心に、ミニデイ(宅老所)や居宅介護支援事業などに広がりつつある。それぞれの事業所は、“ワーカーズコープ”による運営を目指し、事業計画をもとに出資や増資にも取り組んでいる。
B事業所の立上げに向けて準備を進めている地域
[新宿]2月修了生らと仕事おこしの会を発足。「新浪漫亭」という居酒屋の2階をヘルパー講座の会場として運営している。[中野]仕事おこしの会をヘルパー講座修了生8名ほかで発足。自治体からの委託として「介護保険申請窓口業務」を数人で分担しながら実施。[葛飾]講座修了生の事業所立ち上げメンバーと一緒に、拠点10カ所づくりに向けた計画を進行中。[江東]2級講座修了生とともに、ミニデイ企画を準備中。[台東]仕事おこしに向けた会を10名で発足。[大田]ヘルパー講座実行委員会を結成。仕事おこしの会の発足に向けた準備を開始。[府中]10名の修了生の参加で高齢者を孤独にさせない拠点をつくりたいとの思いから、ミニデイサービスの準備開始に向けた作業チームが発足。鍼灸院経営の1人が場所の一角を提供することとなり、ヘルパーステーション開設に向けた検討を開始。[武蔵野]今年度、市の「テンミリオンハウス」委託を逃したが、次年度委託に向けて準備を開始している。[東久留米]「介護予防・生活支援事業」の「生活支援型ヘルプサービス」の事業委託が決定。現在、8名の参加でヘルパーステーション開設に向けて準備開始。[多摩]府中のヘルパー講座修了生が自宅を拠点に、地域センターづくりに。5月開講に向けてヘルパー講座準備中。ミニコミ誌の多摩新聞社が是非とも協力したいと高齢協を訪れている。[八王子]講座修了生と一緒に事業所立ち上げに向けた準備が始まる。
立上げ準備中の地域で共通している課題は、拠点(場所)とケア・コーディネータの確保である。
3.「介護者ネットワーク」と、その取り組みの中から見えたもの
東京高齢協ほか、3者の呼びかけにより昨年7月に「首都圏介護者ネットワーク」(代表:一番ヶ瀬康子・長崎純真大学教授)を、首都圏東京を中心に所属や職種を超えて千葉、埼玉、神奈川の各県からケアワーカー、ケアマネジャーが200名参加して発足、8カ月を経過した。
@情報の交換と交流、Aケアワーカーの社会的地位向上・待遇改善、B教育と研修、C仕事おこし支援、D共済制度発足を目的に掲げ、厚生省への要請、地域懇談会(交流会)や全体集会などを重ねる中で、ケアワーカーの多くから、さまざまな声が寄せられている。その多くは、「ヘルパーを人間として大切に扱ってほしい」という内容であった。ある社協のヘルパーは、「在宅介護の時間が1時間のコマ切れになった。上からは“件数をこなせ”と言われ、1件やっていくらの悲しい現実。私たちは人間を対象に仕事をしている。物を扱っている訳ではない。」と語り、また、家政婦紹介所で働く方からは「会議や研修が一度も開かれない。利用者の方と接するときは楽しいが、事業所に行くと貧しい気持ちがする。同じ利用者を受け持っていても、ヘルパーの名前はわかるが、顔も見たことがない」と語る。コマ切れ介護(と労働)、ヘルパーの分断や孤立、給与や仕事量の不透明さなどの、労働環境の中で、不安が広がっている。
また、同時期に立ち上げた「ケアマネジャー・ネットワーク」は所属と地域を越えて200名の方からのアクセスがあり、“公平・公正で利用者本位のケアマネジメント”をテーマに、月1回の自主研修会や情報交換・交流に取り組んできている。
「介護者ネットワーク」や「ケアマネジャー・ネットワーク」は、現場と格闘しながら利用者本位の介護の有り様を真剣に考えているケアマネジャーやケアワーカーとの出会いの場になっており、私たち自身、この取り組みの中から学ぶことが多い。さらには、高齢協の地域福祉の考えに賛同し、地域福祉事業所の立上げに合流する人たちも出始めている。
4.介護保険の時代に――3年後を見据えた本物の地域福祉事業の実践を目指して
介護保険の実施を踏まえて、私たちも4月以降のサービス提供の人的体制、煩雑な実務対応等、その準備に追われている。しかし、こういう時期だからこそ、当面10年は未定形のまま揺れながら進むであろう介護保険に振り回されるのではなく、改めて私たちが何のために「地域福祉事業所」づくりに取り組むのか、その基本を鮮明に描きながら介護保険と向き合って行きたいと思う。そのためにも、
(1)ヘルパー講座等を通じて、地域の必要に応えることを自らやろうという人たちと広く出会い、「地域福祉事業所」を地域の市民の出資と参加で開設していく。
(2)介護保険に対応しながら、介護保険の取り組みを焦点に、生活と地域に出会い、それにとどまらない子育てや環境、まちづくりのテーマとも結んで、地域コミュニティの再生を図っていく。
(3)「地域福祉事業所」を、市民の自立的な流れを社会全体に大きく広げていく結節点として位置づけ、近い将来“生活総合支援センター”としてその内実をつくりあげていく。
高齢協の組合員数は、もう少しで2,000人を突破する。2000年度の事業目標は3億3,000万円。
今年1年はヘルパー講座を全ての区・市で開催していくための手だてを確立し、3年後にはその実が結実し、地域と生活に根をはった本物の「地域福祉事業所」が確かな存在感を持って、都内の主要地域に展開される事態をつくり出していければと考えている。
先の「理事・地域代表合宿」では、各地域センターの活動を柱に、「地域福祉マップ」づくりや訪問活動、「食事会」や「ミニデイ」などの行事や企画、戸別訪問活動、また「声かけコール」や「誕生カード」、「高齢協ニュース」の手渡し、「組合員マップ」づくりなど、地域に根付いたさまざまな取り組みも合わせて進めていこうと確認したところである。
(田嶋 康利・東京都/東京高齢協)
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