『協同の發見』2000.2.3 No.94 総目次

労協法制定のために
 
福岡県高齢者福祉生活協同組合
 

事業所の名称 福岡県高齢者福祉生活協同組合
事業所の所在地 福岡市博多区博多駅前2-15-5 駅前2丁目ビル5F
電話092-481-5411 FAX092-441-8281
代  表  者  理事長 石田静男
設 立 年 月 日 1999年5月24日
法 人 形 態 生協法人
組 合 員 数 1,368名
事 業 収 入 7,000万円(1999年度)
所     属  日本労働者協同組合連合会
 

 
福岡県高齢者福祉生協が誕生しました
 

 
 昨年の10月、「百済の里を訪ねて」という旅が宮崎県南郷町に1泊2日でありました。主催した福岡県自治体研究所の宮下さんから誘われ、宮崎県はふるさとでありながら、南郷町には一度も行ったことがなく、ふるさとを少しでも知りたいという思いと、この際自治体研究所の皆さんに誕生したばかりの高齢者福祉生協を知っていただく機会にしたいという勝手な願いから参加しました。
 往復のバスの中の交流会と旅館での宴会の席で、高齢者福祉生協の紹介をさせていただきましたが、宴会での話はよく覚えておりません。だからその時話したことを原稿にして、自治体研究所の機関紙に掲載するという宮下さんとの約束も記憶にありませんでした(老人力のせいで最近飲んだ時のことはほとんど覚えていません)。宮下さんから原稿の催促の手紙をいただき大変恐縮しながら書き始めています。
 この旅行の直前に、西福岡社会保険事務所管轄の栄養士さんたちから「ふくしの心をまなぶ」ということで1時間30分講演を頼まれ、その時話した事をバスの中で紹介しました。

◆福祉とは愛

 講演の依頼を受けて常日ごろ何気なく使っている「ふくし」という言葉も改まって「ふくしの心とは」と問われると考えざるを得ません。『広辞苑』には、「幸福。公的扶助による生活の安定、充足。」と書いてありました。しかし私は福祉とは愛であると思いました。
 父と母が愛し合って私が生まれ、生まれてからは父の愛、母の愛によって育てられ、小学校からの学生生活は友情という名の愛によって支えられ、働くようになってからは働く者同士の愛、特に私は敗戦の翌年から炭坑で働き、一瞬の油断、不注意が仲間の命を奪うという苛酷な坑内労働でしたから働く仲間としての連帯、働く者同士の仲間意識はとりわけ強いものがありました。
 こうしたさまざまな愛によって人間は始めて人間らしく生きる事が出来ます。
 然し私がその事に気がついたのは事業団運動に参加してからでした。

◆出発点は憎しみ

 宮崎県の霧島山ろくで貧乏小作人の次男として生まれた私は、偶然敗戦の直後幸徳秋水の『社会主義神髄』を読み、地主制度の不合理に気がつきました。私が最初に始めた社会運動は、「地主制度反対、土地は働く小作人へ」という土地解放運動でした。地主制度に対する小作人としての憎しみが私の活動の原動力でした。だがこうした活動は、親類はもとより両親にも反対され、私は農民としてでなく労働者として一生働く道を選び、叔父が働いていた粕屋郡篠栗町の高田炭坑で働くことにしました。
 半年ほどして落盤事故があり、3人の仲間が何十トンという岩に押し潰され亡くなりました。
 労働者の命をまもる保安を軽視し、金儲けのために働く者の命まで奪う資本家のやり方と、それに抗議する炭坑労働者のストやデモを弾圧するアメリカ占領軍にたいする憎しみが私を活動に駆り立てるすべてでした。

◆仲間の孤独死から老人給食 事業開始

 昭和53年、失対事業で働いていた76歳の仲間が孤独死するという事がありました。
 当時日本も高齢者社会が問題になり始め、全日自労も「死ぬまで仲間に責任を負う」と高らかに宣言し、私もそのうちのひとりでした。その矢先の仲間の孤独死でした。幸いその日は一週間分の賃金支払日で仲間が届けに行き、その日に孤独死がわかり家族に連絡する事ができましたが、賃金支払日でなかったら発見が数日遅れたのではと思いました。その対策に悩んでいた時、『読売新聞』に春日市の社会福祉協議会の老人給食事業が大きく報道されました。早速事業団の仲間と視察に行き、高齢者の孤独をなくすには、1年365日、昼と夜の食事を届けることによって対話し、安否を確認できる老人給食事業が最善の方法であると確信し、昭和54年から粕屋郡中南部五カ町の一人暮らし二人暮らしの高齢者、炊事の困難な障害者を対象に老人給食事業を始めました。
 今から思えば、これが私の活動の原動力が憎しみから愛に変わった転機でした。

◆福岡県高齢者協同組合の創

 1995年10月、県内の事業団が中心になって福岡県高齢者協同組合が創立されました。
 その時私たちが掲げた事業の三本柱は次の三つでした。
1.人と地域が必要とし、高齢者にふさわしい仕事を協同の力でおこす
2.寝たきりにならない、させないを合言葉に寝たきりゼロ、ボケゼロの地域づくり
3.元気で長生きの源、食は日本の大地で生産される無農薬・有機農業から
 人と地域が必要とし、高齢者にふさわしい仕事は農業と福祉の分野にあるというのが私の持論でした。理事長代行として、ふくし生協が設立されるまで私がもっとも力をいれたのは農の分野でした。

◆日本の大地で生産された 食糧で元気で長生き

 20年前から始めた老人給食は、最初はひとりぼっちの高齢者をなくしたいという思いからで、給食に使う野菜も化学肥料と農薬づけでしたが、熊本の菊池養生園の竹熊先生の養生説法や『土からの医療』などの本で、本来命の源であるべき食が農薬と化学肥料万能の農業によって逆に命を脅かす存在になっていることを教えられました。現在一町八反歩の休耕田を借りて無農薬・有機農法で日本農業再生の一翼を担う意気込みで百姓をしています。有機肥料は市販のたい肥、EM菌によるボカシなどいろいろ試行錯誤してきましたが、今では竹やぶから採集した土着微生物で、もみ殻と米ぬかを発酵させたボカシ以外は一切使っていません。おかげで野菜に自然の旨味があります。
 厚生省が安全性の確認されていない遺伝子組み換えの大豆や菜種の輸入を許可したのを契機に、大豆、菜種の栽培に取り組み、自家製の大豆で豆腐と味噌を作り、老人給食に使うだけでなく、ひゃくさい豆腐、味噌として野菜などと共に高齢者ふくし生協の組合員に宅配しています。
 

◆自然卵養鶏法に挑戦

 遺伝子組み換えのトウモロコシが鶏の飼料として輸入されている可能性があります。岐阜県の中島さんの「自然卵養鶏法」の本を参考に輸入飼料に頼らない純国産の餌による養鶏を始めました。製材所から購入したのこ屑と米ぬかを混ぜ土着微生物で発酵させたボカシを主食として、本で紹介されていた鶏の餌として岐阜県農事試験場が開発したかぼちゃを作りました。平和親善という名のかぼちゃでした。しかし、鶏の食生活まで欧米化されているのか輸入飼料でないとあまり卵は生みません。穀類不足が原因と思われるので今年は麦を植えました。この麦を食べたら良質の卵をたくさん産むと期待しています。

◆福岡県高齢者ふくし生協が めざすもの

  元気な高齢者が
     元気でない高齢者を支え、
  元気な高齢者がますます
     元気になるまちづくり
 
 4月から介護保険が始まります。この構想が発表された時、福岡県高齢者協同組合は欠陥だらけの介護保険法であっても、非営利、協同の組織が事業に全面的に参加することによって「保険あって介護なし」という事態にならないようにすることを決意しました。
 そのためには、任意団体である高齢者協同組合を生協法人にすることが必要でした。昨年3月、福岡県高齢者福祉生活協同組合創立総会を開催し、さっそく県に認可申請をして、4月12日に認可されました。
 医療と福祉は人間の命に直接かかわる事業です。命にかかわる事業に営利を目的とした企業の参加は認めるべきではありません。しかし、介護保険は民間企業に全面的な参入を認め、逆に国や自治体は介護事業から撤退する動きを見せています。

◆2000人のホームヘルパーを養成

 高齢者ふくし生協は県内11カ所で、2級、3級のヘルパー講座を開講し、1,000人の人が講座を終了しました。2000年度には緊急地域雇用対策特別交付金を活用し、自治体から委託を受けてヘルパー講座を開講します。私たちの合言葉は「元気な高齢者はみんなヘルパーになろう」です。
 呼びかけにこたえて浮羽町では80歳の高齢者が3級のヘルパー講座を終了されました。
 元気な高齢者が元気でない高齢者の介護や生活支援をすることによって、元気な高齢者はますます元気になり、元気でない高齢者も元気な高齢者に励まされ、健康をとりもどし、寝たきりゼロ、痴呆ゼロの地域づくりが私たちの願いです。しかし営利企業は、寝たきりゼロ、痴呆ゼロの地域では金儲けができないので、ふくし生協のように、高齢者の自立を目的とした介護はしません。営利企業の本性は寝たきりのままの高齢者ができるだけ多い事を必要としているからです。
 ふくし生協は現在県内6カ所にヘルパーステーションを開設していますが、少なくとも一つの自治体に最低一つのヘルパーステーションを作ることが目標です。
 

◆ポストの数ほど日帰り介護 センター宅老所づくり

 失業対事業が始まった初期、全日自労は現場の託児所づくりから、自治体に対し「ポストの数ほど保育所を」という運動を展開しました。粕屋郡では「ポストの数ほど日帰り介護センター(宅老所)を作る会」を結成し、宅老所を作る運動をしています。高齢者が自転車や歩いて行ける所に、自宅のように一日のんびりと語り合い、時には散歩し、趣味も生かせる宅老所があれば、ひとりぽっちの高齢者をなくすことができます。
 福岡県高齢者ふくし生協粕屋事業所は、現在すでに事業をしている、粕屋郡老人給食センター、有機農産物生産・供給センター、ヘルパーステーション「ぬくもり」に加えて、4月から訪問看護ステーション「みどり」と3カ所の日帰り介護センター(宅老所)を開設する予定です。
(竹森 幸男)
 
 
※福岡県自治体問題研究所が発行する機関誌『福岡の暮らしと自治』(2000年2月15日/第266号)に掲載された竹森幸男氏・福岡県高齢者福祉生活協同組合副理事長の文章を許可を得て転載しました。

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