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年頭の挨拶
Welfare and Well-being
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中川雄一郎(協同総合研究所理事長) | ||
協同総合研究所にとって昨年は大いに有益な年でした。特に、アマーティア・セン教授とのインタビューは、研究所の期待をはるかに超える成果をもたらしました。セン教授は、労働、雇用、失業、高齢社会などについて示唆に富んだいくつかのヒントを私たちに与えてくれました。とりわけ、私たちは「福祉」のコンセプトを広く理解することの意味を改めて考えさせられました。このことは、労働者協同組合運動の「幅と奥行き」を広げていく契機になる、と思われます。
ところで、1980年代に入ると多くのヨーロッパ諸国ではリセッションと失業が大きな問題となり、「福祉」を公共政策として支えてきた経済的、社会的体制が不確実、不安定になりました。その状態は1990年代になるともっと深刻になり、今や「福祉国家体制の破産」が当然のように喧伝され、その代わりに、新自由主義、新保守主義による「市場原理主義」が経済と社会の指針であるかのように示されています。しかし、この市場原理主義も本質的には経済成長論であり、高齢者や障害者の介護(ケア)も、私たちがスーパーマーケットで生活財を購買するのと同じように、「介護サービスの販売と購買」によってなされるべきだ、と迫っています。だが、市場原理主義では人間的な介護サービスがほとんど不可能であることも今でははっきりしています。そこで、私たちとしては「福祉」のコンセプトを的確にそして人間的に捉えていくことが緊要になってきています。
セン教授は「福祉」をWell-beingという用語で表現します。もちろん、Welfareという用語を用いて「福祉」を現わすこともあります。しかし彼は、「市場原理主義」が前提とする「専ら自己の利益しか考えない」人間像を批判し、人間の多様性に基づいた平等、公正を主張して、「人がどのような生き方を選べるか」という「人びとの暮らしぶり」あるいは「生活の質」を向上させるものこそ福祉である、と論じています。「市場原理主義」が排除する自然環境も当然福祉の一部に入れるし、雇用創出や仕事おこしもそうです。要するに、Well-beingの中に Welfareが包み込まれることになります。
そこで、労働者協同組合が「福祉」を論じ、例えば高齢者介護を事業として展開する際に、「福祉」とは「人びとの暮らしぶり」というコンセプトであることを常に理解しておけば、事業に関わる組合員の「動機付け」はより明確になるわけです。
協同総研は、このような「福祉」のコンセプトに基づいた研究を通して、労協やセンター事業団の組織と事業について指針を示していくつもりです。今年も会員の皆様方のご協力をお願いいたします。
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