研究所たよりWEB版(37)

2001年1月25日

執筆:坂林哲雄(協同総研専務理事)

福岡のメディスからメールが届きました。
運賃を取らずに福祉タクシーで営業をしたことを理由に「業務停止」の処分が下されたようです。
詳らかでない部分もありますが、木原さんの原文のまま転載させていただきます。


はじめまして
協同総合研究所

メディス広報部の木原と申します。
突然お手紙を差し上げる失礼をお許しください。
関心の無い方には、一方的に情報をお送りしたことに深くお詫び申し上げ削除していただき、この無礼をご容赦くだされば幸いに存じます。

介護事業所の自家輸送、ボランティア輸送は、運輸省によって、「違法行為」として罰せられることになりました。

介護事業所が、「食事」などに施設の人を連れていったり、有償ボランティアを頼んだりするのは、今後は刑罰の対象となることでしょう。 いや、実際、陸運局は、そう述べました。

平成13年1月5日の朝日新聞全国版に「運輸省と厚生省が介護タクシーの乗車中も、介護と認める」という見解が載りました。次の日、NHKでも、同様のニュースがながれましたが、あれは.................。

 福岡県の介護タクシー、ケアタクシーを考案し、実施している(株)メディスでは、平成12年4月より要介護認定を受けた人のみですが、30分間210円(利用者負担金)のサービスをおこなっています。平成12年の12月は、利用者数約700名、12月の利用件数は5000回にのぼりました。

 運輸省は平成12年9月頃より「タクシー料金を別に利用者から取るよう」と、メディスに申し渡してきました。メディスはこれを断わり、「利用者はこれでいい、と言い、メディスも採算に合うのでこれでいい。」といってきました。
 
利用者数に対し、メディスは14台しか車を持ちませんので、車が不足してきます。
タクシーは他の業種と違い、出店も、車の増車も認められません。そこで、メディスと兄弟会社である「遠賀タクシー」から車を譲り受けることにし、出願しました。通常は、すぐに許可がおりますが、メディスにたいしては、未だにおりません。

 福岡県の福祉課に「介護タクシーを頼もうと思うが」と、あるケアマネージャーが問い合わせをしたところ、「貴方の所属する介護会社でやったらどうか」という返事でした。で、会社の乗用車を使うことにしました。メディスは介護事業所の認可も受けていますから。

しかし、平成13年1月16日、運輸局がやってきて冒頭の理由で、メディスを『業務停止』にすることを申し渡しました。「タクシー代を取れ」「移送はすべてタクシー会社にのみ、させる。介護関係会社の参入は一切認めない」「タクシー代を取らなければ、他のタクシー会社がかわいそう。」とも、いっていました。

 昨日の雪、多くの透析に行かれる利用者の為、また、病院にどうしても行かなければならない利用者の為、欲得ではなく、もう、一生懸命ドライバー達も会社も、やりました。

かかるタクシー料金に「死のうと思っていた」と、ある利用者から言われたこともあります。「どうぞ、このまま続けて」と、手を合わせられたこともあります。最近は「他にもケアタクシーはあるけど、貴方のとこに乗りたい」と言われるようになりました。

外出は、当然の生活の一部です。
買い物に行く、病院に行く、デイケアから帰る、銀行に行く。福祉バスの乗り場までいけない人、重い荷物が持てない人、足がふらつく人。

 使用目的に規制はありますが、利用者はのびのびとしています。
今まで行けなかった歯医者、眼科。
要介護認定料金の他にも、実費を払って北海道や海外にも行っています。

「要介護認定者だけが使って、不公平だ」そう、運輸局から言われたこともあります。
利用者、すなわち、私達、介護保険納税者は、メディスの利用者には、そういった「むやみに使う」方はいません。
 リハビリ、透析、月に数回の通院、10年ぶりに行くと言われる方の買い物付き添い。重度の方も大勢います。

 必要以上に金を取らない「メディスはめざわり」メディスだけがいい目をみている。業務エリアを超えて、メディスがどんどん入ってきている。
しかし、実際には、エリア外には2台か3台しかいません。

そうなのでしょうか。来週、正式に「業務停止命令」がきます。
 福岡の片田舎にある、地図にも載らない、14台しか車のない小さなタクシー会社です。
イミダスをお持ちの皆様。「介護タクシー」の項目をひいてみて下さい。

 介護移送の問題を抱えたまま、21世紀へと日本は来てしまいました。
私は、これができたとき、自分の老後を明るく感じました。
一人暮らしの私が、病気になった時、私は独りで病院に行ける。
買い物をする時、銀行に行く時、私は、独りで行ける。

 厚生省と運輸省は結局、金のほしい誰かの代弁者になるのでしょうか。
それとも、国民の代弁者になるのでしょうか。

 毎日、新しいお客さまが10名ほど入ってきています。
遠くの病院から、介護会社から、市から町から、依頼がきています。
このメディスのケアタクシーの「安さ」「安全さ」「優しさ」「楽しさ」をなくし、「金もうけ」の手段に変えていくのでしょうか。

今いらっしゃるお客さまをどうするのでしょうか。
これからのお客さまをどうするのでしょうか。
それを決めるのは、他でもない、私達、国民の独り独りだと思います。

 メディスのみならず、全国にある、数カ所の「ケアタクシー」と呼べるケアタクシーの会社はなくなるでしょう。ボランティア輸送も禁止されるでしょう。介護会社や施設の自家輸送もなくなります。

全部が、『違法行為』ですから。

長い文面とおつき合い下さってありがとうございます。
有償ボランティアや介護事業所の移送介護などを含めた移動介護は、現実には必要なものとして社会に存在しています。

 今回はそれらに変わる代案もなしに、ただただ「ダメダメ」ということを運輸局はいってきました。

私達生きるものは、全員が年を取り、病気もし、ケガもし、誰かの介護を受けて生活をしています。ボランティアをしている人、受けている人、介護事業所で働いている人、その、利用者、皆にこのことは関係があるのではと思い、メールをだすことにいたしました。

読んで下さってありがとうございました。

      株式会社 メディス   広報部 木原

       mail: studio@fine.ocn.ne.jp
               url: http://www.pachira.ne.jp/medix/

(転載、以上)


 『モンドラゴン協同組合企業から何をまなぶか』
 日 時 : 2月3日(土)午後1時30分〜4時30分
 場 所 : 協総合研究所



「これからの福祉と地域づくり……社会福祉基礎構造改革をめぐって……」
報告 佐藤進(埼玉県立大学保健医療福祉学部社会福祉学科)
日時 2月21日(水)午後3時〜5時
場所 ラパスホール(大塚/労働会館7階)


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