研究所たよりWEB版(30)

2000年11月9日

執筆:坂林哲雄(協同総研専務理事)

11月5日(日)の朝日新聞の社説ご覧になりましたか。
「世紀を築く(40)協同の思想」と労協法含めて大きく紹介されています。以下に全文を掲載します。


第5回協同集会実行委員会
11月18日(土)午後1時30分から4時
電通生協会館(駒込駅から徒歩5分)
協同集会のページ http://kyodo-net.roukyou.gr.jp


ロバートソン報告事前検討会
11月18日(土)午後4時から7時
電通生協会館(駒込駅から徒歩5分)
協同集会のページ http://kyodo-net.roukyou.gr.jp


■世紀を築く(40)協同の思想(2000年11月5日朝日新聞社説)

  経済の第三の担い手に 
  ちばコープは組合員数34万人、千葉県全域で事業を行う生活協同組合である。初秋の1日、この組織の地域代表らが集まり体験を深め合う「全体地域交流会」が、四街道市で開かれた。

  最初に舞台に立ったのは、子どもの自転車安全教室を2年続けた千葉東地区の組合員たちだ。交通が激しい国道が近くにあり、子どもたちが危ない。母親の声が、生協の配達員を通じて警察や学校を動かし、手作りの安全教室開催にたどりつく。そんな経過が語られ、200人近い参加者の拍手がわいた。

  ●腐敗を生んだ拡大主義

  商品やサービスに限らず、組合員の声をくまなく聴き、もらさずこたえる。これが、ちばコープの基本だ。

  声の伝達役は「ひとことカード」。共同購入の配達員が集めるカードは年間4万枚にもなる。これを一つ一つ読み、答えを出す。組合員と生協職員の間に生まれた共感が、自転車安全教室の催しや、新しい商品となる。

  介護保険の導入に合わせて、今年からホームヘルパー事業も始めた。いずれも「地域で共に生きるくらしづくり」のビジョンを事業化したものだ。

  1970年代からめざましい拡大を遂げた生協はいま、試練のときを迎えている。

  組合員が「班」を組み、「産直」などの食料品を共同で購入する。それが同時に、安全な食べ物を求める消費者運動にもなる。そんなふうに発展してきたが、共同購入が頭打ちになって、店舗事業の拡大に走り出したころからおかしくなった(注
(1))。

  大手流通資本と同じ土俵で競り合い、勝ち抜くのは難しい。90年代半ばから、経営難で解散する生協が続出した。同時に、粉飾決算や経営私物化といった経営の腐敗も表面化した。営利を求めず、1人1票で決定に参加できる組織が、効率と最大利潤を追求する株式会社のやり方を追った結果だった。

  いま生協の内外には、自己改革を求める声が渦巻いている。ちばコープの活動は、その答えの一つで、「協同」の原点に戻ろうという動きだといえよう。

  消費や流通を基本活動とする生協とは別に、その協同理念を生産活動で実現しようとする組織が、労働者協同組合(ワーカーズコープ)だ。いわば生協の労働版である。

  労働者や市民がみずから出資して事業をおこす一方、そこで働くとともに経営に当たるワーカーズコープの歴史は、日本ではまだ浅い。企業のリストラと大量失業時代が、その出番をつくった。

  当初は、自治体が発注する公園緑化や建物のメンテナンスが仕事の中心だった。5年前に、失業した中高年の自立をめざす高齢者協同組合づくりが始まり、弾みがついた。28都道府県で2万人が組織されており、ヘルパーなど福祉事業やパソコン教室、葬祭事業、別荘管理などを広く手掛けている。

  ●新しい雇用の受け皿にも

  悩みは、生協が消費者保護の見地から法律の裏付けがあるのに対し、ワーカーズコープには法的保証も税の優遇措置もないことだ。このため日本労働者協同組合連合会は、2年前から法制定を求める運動を始めた。

  永戸祐三理事長は「地域経済の再生には、市民の自発的な活動が大事で、協同労働こそがふさわしい。土建型の公共事業に代わって、地域に新しい形の雇用をもたらすだろう」と意義を強調する。

  大企業とは違うから、雇用力にも支払える給料にも限度はある。それでも、働きがいを求めて集まってくる人はいるはずだ。

  一口に協同組合というが、生協、労協のほかに農協、中小企業協同組合、信用組合などのさまざまな種類がある。英国で発祥以来150年余りたち、その存在感が薄れてきた組織も少なくない。

  私たちはここで、改めて協同組合の役割となすべき仕事を、根本から見直すべきではないだろうか。経済のグローバル化が、ともすれば大量失業や環境汚染、地域経済の破壊などを生む中で、「人間の顔をした経済社会」が模索されているからである。

  そうした声にこたえようと、世界93カ国、7億3000万人が加盟する国際協同組合同盟(ICA)は、5年前に、協同組合の価値を実践に移すための7つの指針を打ち出している(注(2))。

  市場原理を大切にして、民間企業にできるだけ任せるか。市場の失敗や限界を考え、国の役割を重視するか。ありうべき経済社会を構想するとき、「市場か政府か」をめぐる論議はつきない。

  その間に、「協同」の思想を置いてみたらどうだろう。ささやかでも、第三の担い手として育てられないか。

       ◇            ◇

  ・注(1)

  生協には各地にある地域生協のほか、大学生協、職域生協などがあり、商品販売を中心に事業を展開している。組合員数は約2100万人。共同購入の班は平均5世帯弱で構成する。

  ・注(2)

  7つの指針は「自発的で開かれた組合員制」「組合員による民主的管理」「資本を公平に拠出し管理するなど組合員の経済的参加」「自治と自立」「教育、訓練、広報」「各種の協同組合どうしが協同して運動を強める」「コミュニティーの持続可能な発展のための活動」。


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