研究所たよりWEB版(21)

2000年9月15日

執筆:坂林哲雄(協同総研専務理事)

協同集会の事務局を研究所に設置。事務所の中がずい分慌しくなってきた。
「協同集会ニュース」のFAXで2号まで出した。集会までには50号ぐらいまで出したいと事務局では考えている。
このML参加者の中で欲しいという方は、FAX番号を返信してください。

先日、富山の中央通のことをMLで流しました。資料を見ながら、3000字ほどの原稿にまとめましたので、関心のある方はお読みください。なお、この活動は「協同集会」の中でも報告されます


◆◆お知らせ◆◆━◆◆━◆◆━◆◆━◆◆━◆◆
第3回協同集会実行委員会
9月28日(木)午後2時〜5時
東京学芸大学 むさしの第2ホール 2階食堂
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ミニ・チャレンジショップ「フリークポケット」
坂林哲雄(協同総合研究所)


富山市中央通商店街
富山市にある中央通商栄会(協同組合)の「ミニ・チャレンジショップ」の話を伺いながら、イタリアの社会的協同組合で聞いた「スピンオフ」を思い出していた。ひとつの協同組合から次々に新しい協同組合が生まれる。つまり、内部で人材を育てて外
に排出するということだ。このミニ・チャレンジショップの名前は「フリークポケット」。中央通商店街の東の外れにある2階建が全国注視の場所である。この建物の中に2坪で仕切った12のミニショップ(現在10)が入居して、小物やアクセサリー、衣
類などが所狭しとディスプレイされている。土日は500人を超える若者が押しかける。3年が経過して、ここを足場に28人の若者が富山の商店街の中に自らの店を構えて商売をはじめた。1000に3つと言われるベンチャーに浮かれ、新産業の育成だと
ばかりに税金を無駄使いしていることと比較すると、この商店街が為しえたことのすごさが一層あざやかに見えてくる。

きっかけ
きっかけは中央通商栄会の関係者が旅行で訪れた香港の町にあった。ひとつの建物に2、3坪の個性豊かなミニショップが多数入居し、アジア的魅力を持った楽しさがある。ちょうど商栄会でも空き店舗の対策に頭を悩ませ、テナント料を低くするため に、ひとつの店舗を区切って貸すことを考えていた時だった。96年12月の商栄会事業部会では、「空き店舗を中央通商栄会で借り受け、2,3坪に区切り、商売を始めたいと思っている人を県内外から広く募集する。契約期限を決め、安い建物賃借料 で実際に商売をしながらノウハウを勉強できる実験店舗として、経営上のアドバイス、セミナーなども開催しながら、中央通りにも若い新しい力が加わることで、お互いに相乗効果を得ることを試みる」という意見がまとめられた。香港視察の後に、97年4月に計画を推進する「ミニ・チャレンジショップ運営協議会」が、富山市商工労務課の職員を含めて発足した。
顧客ターゲットは「趣味にお金を使う年代層」「(商店街の)東口に来る極端に少ない年代層」に絞られた。つまり若者である。入居募集に対して、全国から四三名の応募があり、書類選考、面接選考で最初の一二名が決定した。入居条件は、「月額賃料1万円(最初の3月は無料)、共益費1万円、資金・保証金なし、入居期間は1年とする」というものだった。
因みに商品の仕入れを除けば、この中央通商栄会で10坪程度の店を借りるのに、保証金や改修費で500万ぐらいは必要になる。この「フリークポケット」では、それがゼロ。商品にもよるが初期の資金は100万ぐらいで始める人が多いのではないか
ということだった。

オープン
オープンは97年の7月5日(土)。これまでに現在の10人を含めて45人がこのミニ・チャレンジショップに入居している。そのうち29人(1人準備中)がこの町で出店している。
この3年間を商栄会では次のように総括している。「『フリークポケット』がオープンして3年経過、この3年間(平成9年4月1日から平成12年7月6日)で富山市の負担金(一〇五四五千円)、協同組合中央通商栄会mp負担金(一五四二一千円)を投入したが、事業の実施効果として、次のことが挙げられる。
(1)『フリークポケット』卒業生が商店街や隣接地で独立開業したことで、空き店舗が減少した。
(2)既存の商店街にみられない新しい業種が登場した。これらの店では、出店者の個性やこだわり、新しい感性が商品に反映しており、新しい顧客の獲得に繋がった。
(3)アメリカやベトナムへの直接買い付けのほか、ネットワークを通じたインターネットによる買い付けなど、若い出店者の独自のネットワークづくりとバイタリティーあふれた行動力は、新鮮な商品、旬の商品の発掘、価格の安さに繋がり、周辺の小売業者にも刺激を与えている。
(4)若い小売店経営志望者が意外に多いことが確認でき、新しい出店者の発掘が可能になった。
(5)『フリークポケット』周辺の歩行者通行量が前年比20%アップし、賑わい創出に寄与した。」

成功のポイント
ミニ・チャレンジショップ協議会会長の沢井さんは「行政や商工会議所の主導ではうまくゆかいのではないか」と「民間からの発想と運営」を強調している。富山市の職員が協議会のメンバーとなっているが、補助金との関係でアドバイスに徹していたよ
うだ。
客観的な条件を除けば、成功したのは、「民間の発想と運営」に尽きるのかもしれない。言葉を変えれば、沢井さんたち商店主の、この町で生きる「闘い」であり「努力」であり「意地」だったのではないかと思う。
応募してこのミニ・チャレンジショップに出店する人は、全員が素人で、職を転々とする人や、アルバイトでつなぐフリーターといった人も多い。沢井さんたちはオープンまでに「週一回程度の全員の顔合わせを行い、個別の相談」を繰り返している。
「富山警察署の防犯セミナー」「商店街経営者によるアドバイスセミナー」なども実施している。そして、もっとも大切だったと思うのは、出店後もちょくちょく「フリークポケット」へ出かけて、店の様子や一人一人の商売の状態を尋ね、アドバイスなどを行っていることだ。オープンする前は気にもならなかったようなことが、次から次へ噴出してくる。そんな様々な問題に、地元の商店主たちが一々生きたアドバイスし、素人を育てていったのである。現実にぶつかってみれば、「座学」も厭わず「ラッピングの方法」「接客のいろは」「顧客名簿の管理」「簿記」「資金繰り」「税金」「銀行との付き合い」など、経営上の様々なノウハウを、脱落者もなく吸収していったという。「自分に身になると分かれば、真剣に聞きますよ」と沢井さんはいう。「個別の商品知識はそれぞれのノウハウだが、何を売りたいかを聞けば、それなりにアドバイスはできる。」「要はやる気があるかないかを見て決めます。」「フリークポケット」へ出店する人を選ぶ基準は「やる気」だ。売れそうなアイデアを持っているからで選ぶのではない。

未来へ
このフリークポケットの経営は2000年7月6日から、富山市と企業で作った第3セクター富山町づくり会社(TMO)に移管された。この3年の間、商栄会から「フリークポケット」の経営のために千五百万円の持ち出しがあった。彼らを育て、商店街を元気にするために支出されたお金である。しかし、この支出は協同組合にとって「員外利用」と解釈されかねないもので、毎年の総会で問題とされた。「うちの商売と若いものは関係ない」という商店主の意見もある。沢井さんも「呉服屋」を営み、目の前の「フリークポケット」に若者があふれても、自らの売上には関係がいないのだが、民主的組合運営の難しさがにじむ。
うがった見方かもしれないが、沢井さんたちを突き動かし、是が非でも成功させなければと導いたものは、案外こういった内部の批判だったのではないだろうか。「フリークポケット」の運営は引き続き沢井さんたちに委ねられるという。経営責任なき運営が次にどうなるのか。「フリ−クポケット」には次の課題が求めているように思える。そして、第2の「フリ−クポケット」が、こんどは熟年世代を対象に構想されている。


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