研究所たよりWEB版(19)

2000年9月1日

執筆:坂林哲雄(協同総研専務理事)

7月26日に行われた「協同集会」の実行委員会の模様をお伝えします。
石見さんのロバートソン氏の紹介を含めて、全ての文責は坂林個人にあります。


第2回 協同集会実行委員会 99.8.26(研究所)

− ジェイムス ロバートソン氏について   石見尚(日本ルネッサンス研究所)

 ロバートソン氏は、現在はロンドン郊外に住み農園と講演著作活動を行っている。奥さんと二人で、「ターニングポント2000」という小冊子をだし、オルタナティブ派の文献の紹介をおこなっている。大学はオックスフォードで、マクミラン政権(労働党)のブレインの一人として、政府の政策作りに携わった経歴を持っている。
彼の活動で一貫しているの現実を動かす政策づくりに関与してきたことである。その中で、常に民衆運動とのつながりをもってきたことである。労働党政権が終わった後、独立して、銀行業界の中でコンサルタントなどの仕事をしてきたが、1970年代にはいり、オペックの力が強まり、石油などの経済に依存する社会に暗雲が垂れ込めると、これまでの経済のあり方に強く疑問を持つようになる。

 1984年にイギリスのシューマッハ系の学者が集まった。そこでは、今後世界の経済をG7の首脳会議だけに任せてはおけない、民衆からの提案型の活動が必要だとして、TOES(もうひとつの経済サミット)をつくる。ロンドンのサミットの時に、一大集会をひらき、これからの経済について提案を行った。この時の理論的支柱の一人がジェームスロバートソン氏である。「生命系の経済学」(御茶ノ水)が出版されている。これが当時のシューマッハ系の経済学者の集大成である。この中でロバートソンは、資本主義にかわる新しい経済学“聖オルタナティブ”を発表する。これからの資本主義社会の発展方向は今までとは違い、二つに別れる。一つは技術革新をやりながら成長を維持するこれまでの延長であり、これが一つの主流である。そしてこれとは対抗的に、今まで見落としてきた経済が復活する。それは地域経済の原理であり、これが復活する。其の際、特に労働に着目したことがポイントとなる。言い換えれば、雇用労働以外に雇われない労働があるということだ。自分自身のための労働、オウンワークである。これが見直され登場してくると予想し、重要なファクターになるに違いないと考えた。これまでの市場価値では計れない価値が生まれてくるということで、お金で換算できないものである。例えば家事労働、地下経済。これが吹き出してくるだろうと予想した。ここに彼のフレームワークがある。資本は自分自身を統制できなくなるだろう。資本主義自身が変遷する。独占資本主義、金融資本主義が自己変革してくる。この一方でローカルエコノミーがふくらんでくる。これが彼の経済理論の出発点となっている。

 このテーマを80年代90年代にわたって深めてきている。88年に出版された「未来の労働」の中で、労働に着目している。人間労働がもっと強くなってくるということ。もう一つは、男性中心の社会であったのが資本主義自身の発展の中で女性の進出 が始まると予想している。これをいっているのが特徴。これまでのジェンダー思想とはことなり、資本主義自身が技術発展の中で、女性労働の進出が必然化すると予言している。結果はそのとおりになった。

 彼の考え方は、白黒をつけないという考えだ。資本の論理で進むのと人間化の中ですすむのと、両方がある。互いに影響しあいながら社会が進んでゆく。これはひとつの弁証法である。

  「21世紀の経済システム展望」では、地域経済を質的に違ったものとして理論化する必要があることを述べている。この中で重要な指摘は、労働本来の価値に目覚めた労働とこれを成り立たせていく財政政策の提言を行っている。

  セイフティーネットをもっと強める。税金を吸い上げるのではなく。基礎所得として還元してゆくことを提案している。これによって、自分のためや地域社会のための働きがもっと増えてくるという。

  彼は金融分野に強い。貨幣に強い。バブル経済にメスをいれている。信用膨張ではなく、労働の価値そのものを見直すということを通じた「貨幣論」の見直しである。

 国の通貨とは違った地域通貨やマイクロクレジットの重要性を指摘している。これまでの商業金融とは違うものを提案している。中央銀行中心の経済の本質的問題点を追及しており、この本のあと、「情報化時代の貨幣」とういう共著も出している。ここ では、現在の体制で行っている金融、信用膨張を導くものを本来の貨幣政策に戻すことを提案しているが、銀行業務のなかで上がる利益がどの程度のものかも計算している。地域経済と主要金融政策の間でどうコントロールし、社会の仕組みを変えてゆくのか。地域経済と地球規模での経済の関係を常に見ながら政策提起を行っている。

 現在の社会の矛盾を民衆の側から提案し、変えてゆく思想家としてはもっとも有力な人物だと評価している。ヨーロッパでは非常に著名な人である。EU委員会の中でも発言しているし、多くの政府関係者が耳を傾けている。日本の中では経済はまだ一般的にケインズ主義で考えられている。しかし、新しい経済思想がヨーロッパで広がっている。日本でも多くの人が気づき初めて活動をはじめている。

 その中で、ロバートソン氏を日本の労協が招待できたことは、非常に大きな意義がある。労働者協同組合の活動を実際の現場を含めて触れてもらうことが必要だろう。

質問(坂林):基礎所得?
 基礎所得を年金や健康保険を含めて、政府が直接支払うというもの。税の基礎控除ではなくて、分配するという考え。現在でも条件不利地域に住む人に行っているのと同じような考え方だと思われる。イギリスの場合、固定資産税の中に土地に対する税金がない。土地に対して課税を行って財源とするといっている。それによって所得税、法人税をなくす。所得にかかる税金をなくし、資産にたいする税金に変える。アイランドが実施するということだが、どうなったか聞いていない。国の財政基盤を考える際に、経済成長を前提とする考えを改めるということ。つまり共有財産に考え方を変えてゆく。

意見(菅野)

 基礎所得など最先端の学説で日本の中で言っている人はいない。ギャップがあり、このまま伝えられると集会としては難しい。こちらの運動を丁寧に伝える必要がある。

質問(菅野):邦訳されているものは?
  「未来の仕事」剄草書房 「21世紀の経済システム展望」日経評論以外では、法政大学の杉岡セキオさんの論文翻訳あると聞いている。「生命系の経済学」の中でも書いている。

二 協同集会の枠組み
   1)実行委員会
    各ワーカーズコレクティブ キュービック、クリーンエネルギーフォーラム
    その他、分科会参加者を含めて、市民事業に関心をもつ人には随時呼びかける
   2)後援 協賛をお願いする団体 (別紙一覧)
     *依頼文を準備して「協賛・後援」をお願いする。
     *9月中に協賛等団体を固めて宣伝物に掲載する。

三 企画内容
<全体会>
  ロバートソン氏の後援の他、寺島実郎氏にも講演を依頼する。
 典型報告は複数準備しリレートークという手法を今回も採用する。
<分科会> 
@ ロバートソン氏を囲んで21世紀の協同を語る
A ケアワークを考える 〜専門性と労働者性の確立へ向けて〜
   ケアワークドライバーを展望する(特別分科会)
B 福祉のまちづくり 
C 豊かな高齢者・障害者社会を展望して 〜主体者の運動をどう育てるか〜
D 青年たちの仕事おこし 〜コミュニティに関わって〜
E 労協法ワークショップ
F 働く者の協同組合をはどうつくられるか
G 山と森を守る労働をつくる
H文化とコミュニティ
*農業問題は関係者に相談―――結論持ち越し
*企画責任者-----@石見A〜C田中羊D佐藤洋作E菅野F岡安G依頼
<その他>
  ポスターセッション ビデオ上映室(日本と世界の労協) 書籍販売

四 その他 
1) 集会の名称 「いま『協同』を拓く2000全国集会」 略称「協同集会」
2) 集会のサブタイトルと呼びかけ文
  これまでの協同集会の集約でもあり「拓く」というこれからの展望を持つものである集会と言う意味で、これまでの歴史に触れること。
 大規模開発型の公共政策が見直されることや企業の中での雇用創出一辺倒の政策が機能しなくなっていることと、市民の主体的な仕事おこしの取り組むである市民事業、コミュニティビジネスの支援こそ求められている公共政策であることを示すこと。
 事務局で至急作成すること
3) 事務局を設置
 事務局を協同総研に置く。
4) その他
 学芸大学学長に歓迎の挨拶を依頼
   寺島氏へ至急要請する


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