資料5ステファニア・マルコーネ(イタリア・レガコープ)
      Stefania Marcone, Legacoop, Italy

 「協同組合の違いをマーケティングする」

 
 
 この数十年間、マーケティングとはどういうことか、それは実際にはどういう意味を持つか、ということを定義しようとする試みには事欠きませんでした。したがって、最近の協同組合マーケティング戦略と定義についての理論的な議論には、あえて立ち入りません。私の報告の焦点を、異なる部門における協同組合の違い(独自性)を強調するいくつかの具体的事例に当て、消費者協同組合と社会的協同組合に関わるケーススタディを述べることとします。その問題に入る前に、協同組合を他の種類の企業と違ったものにするものは何かということについて、私たちが若干考えていることを、みなさんと共有したいと思います。
 
 みなさんも覚えておられるかもしれませんが、1980年モスクワでのICA大会のために準備された報告『西暦2000年における協同組合』のなかで、レイドロウ氏は、「経済的に効率的であるだけでなく、社会的にも影響力ある協同組合が、新しい世代に最も大きく訴えることだろう」と述べ、事業実績と社会的・相互扶助的目的との良好なバランスをとる必要性を強調しました。
 
 何よりも、協同組合は事業体であり、そうである以上、自らの企業的成功を保証する、最も適切な戦略と政策の実行を通じて、市場で競争することができなければなりません。けれども、経済活動と社会的目的の統合が、他の会社と比べた場合に、協同組合の使命を格段に広く、複雑にし、協同組合の一般的な期待水準を高める、根本的な要因です。
 
 それゆえ、この仮定に立てば、協同組合が行うべきより良いマーケティングとは、その使命、原則および価値と強く結びつき、事業のアイデンティティを公衆に明瞭かつ簡潔に理解してもらうことのできるマーケティングだということになります。
 
 しかしながら、この分野においても民間企業が私たちとますます競合を強める世界にあって、このことは容易ではありません。このことは私たちに二つの課題を課します。すなわち、私たちが自らの価値によりこだわり、それを日々の活動の中で確認することです。この基礎の上に、協同組合の違いを打ち出すマーケティングを確立することができるのです。
 
 時に、協同組合のなかでも社会的目的を付加価値をもたらすものというよりも重荷と考えて、これにほとんど優先順位を置かない試みもあります。そして、このアプローチをとって成功した組合も、世界中には数多くあります。けれども、私たち自身の経験によれば、長期的には、次のように言うことができます。すなわち、民間企業との同一化の危険を超えて、協同組合のライフサイクルの困難な段階に入ると、常に私たちの根と私たちの違い(独自性)の再発見があること。そして、交換が単なる商業的交換でなく、価値とその他の要因(革新、品質など)が結びついた交換であることを私たちが伝えられたとき、このことが多くの協同組合が深い危機を克服するのに役立ったということです。
 
 すぐれたマーケティングは、変革と自らを賭ける強い意志に基づくものです。それは、現在の私たちにつながるそれらの価値のなかに再び強さを見出し、それらを新たに高めながら、私たちのマーケティング政策において適用しようとするものです。
 
 より効果的になるためには、競争相手を徹底的に分析し、彼らの強さを理解しなければならないことを、私たちは知っています。しかし私たちは、次の事実をも深く自覚しておかなければなりません。すなわち、私たちは象牙の塔に住んでいるのではなく、私たちの特徴が他者によっても参考にされ、彼ら自身の目的のために利用される可能性がある、という点です。
 
 事実、小売部門での多くの実例が示したように、私たちの遺伝子のプールに書きこまれた価値(健康な生産物、高い品質基準、消費者保護など)は、民間企業によっても実践されています。高水準の競争力のために、私たちは民間セクターの最も成功した事例に取り組み、製品革新戦略や、品質政策のたえざる発展、そして私たちの付加価値を示すことのできる明快で強力なマーケティング戦略を発展させなければなりません。
 
 あらゆる経済部門で優良企業になるという目標は、私たちが市民の必要(ニーズ)を理解し解釈できるとき達成されます。
 
 企業的観点からは、次のように要約することができます。すなわち、私たち協同組合の一般的なマーケティング戦略の焦点は、私たちの固有のブランドの確立や、高品質の生産物のモニタリング、健康な生産や加工の標準化、製品やサービスの革新、「最優秀クラス」での基準づくりに当てられる、と。
 
 これらが多くのイタリアの協同組合にとっての共生(win win) の戦略であるとすれば、私はこれに加えて、「社会的マーケティング」とも呼ぶことのできるもう一つのタイプのマーケティングについても強調したいと思います。これは、組合員や市民、およびコミュニティとの関係を拡大し、より良い社会の確立に貢献するためのものです。
 
 この混合によって、協同組合は市場において基準となるパートナーとして認められてきたし、いまも認められているのです。社会的な自覚のある市民・利用者は、経済活動のなかでも協同の使命という目標を追求することができる企業として、協同組合を見ているのです。
 
 協同組合人やコミュニティ、および将来の世代のために経済的・社会的役割を遂行するということは、協同組合が一人ひとりの個人に価値を与えるということを意味します。このことから、組合員を協同組合の核心に、個人を事業の心臓部に、そして市民を協同組合システムの社会的責任の中心に、それぞれ据えることは、当然のことと思われます。
 
 人びとを尊重することや、社会的な重要課題に対して主体的に関与すること、将来世代に対する今日の活動の影響に関心を持つことは、協同組合を社会的コミュニケーションの主要な担い手の一つとします。そしてこの社会的コミュニケーションこそが、協同組合の違いをマーケティングする戦略の鍵となる要因なのです。
 
 私の国では、いくつかの協同組合部門が現在、人びとの関心に応える取り組みを行っています。例えば、住宅協同組合は、次のような活動に取り組んでいます。都市の復旧、特別のカテゴリーの利用者(高齢者、学生、移民)向けの住宅開発計画の発展、あるいは「生命建築(bio−architecture)」などの新たな領域です。生命建築とは、エコロジー的に持続可能な資材を使い、建物の環境的影響に配慮する建設協同組合の活動です。農業協同組合は、健康や高品質(食の安全性)など、組合員たることの存在理由に立ち帰って、一般公衆への伝達と同時に組合員の態度をモニターする恒常的な監視所の創設を通じて、組合員との関係を強化しています。
 
 けれども、協同組合の違いをマーケティングする最も興味深い事例のいくつかは、小売部門と社会的ケア協同組合に見出すことができます。
 
 消費者協同組合に関しては、マーケティング戦略の焦点は、独自性とアイデンティティの明確な要因を強調することに当てられています。コープ(イタリアの消費者協同組合の通称)を「彼/彼女を質的量的観点から保護するために生まれた自覚的な消費者」の組織として位置付けることが決められました。イメージ戦略は付加価値をもたらす主要な特徴として、独自性に焦点を当てて、全面的なアイデンティティを創造することを狙うものです。この目標を達成するために、経済活動と社会政策およびイメージの各面において一貫している必要があります。こうした理由から、採用された指針は、グループの文化から始めて、消費者と協同組合をつなげる価値体系とキー・シンボルについて指摘しました。それはキーとなる価値であり、システム全体の基準であって、すべての活動、ついでコミュニケーションがそれをめぐって行われるべきものです。
 
 同時に、コープは、コープを目に見えるようにする上でなお重要な役割を果たしていた要素を、再検討する段階から始めました。新しい生活および消費者のスタイルに向けた商品の組み合わせや、サービスの改善、品質保証を強化した製品の供給などです。コミュニケーションと宣伝キャンペーンが、これらを基礎に開始されました。
 
 今からお目にかけるコマーシャルスポットTは、協同組合の違いを打ち出す協同組合マーケティングの一例です。
 
 ここからさらに、次のような活動を通じて、コープは社会的意義あるコミュニケーションに関与するようになりました。
 
*社会問題に人びとが敏感になることを狙ったコミュニケーション活動(環境保護、倫理的課題など)
*消費者教育:たとえば、学校と店舗の両方での、若い顧客に向けた取り組み。他の国の伝統や文化に関する知識の振興をめざす活動など
*人間的・連帯的性格の活動や、社会進歩をめざす活動に対する援助
 
 いくつかの例を挙げれば、コープは次のことを支援してきました。
 
――「権利財団(Right Foundation)」。エイズに関する欧州最大の遺伝子研究所の一つを設立することに貢献している、遺伝子・人間治療研究所
――イタリア重複硬化症協会
――国連難民高等委員会のプロジェクトに対する「再統合」援助。旧ユーゴスラビアでの戦争によって離散した家族の再会を図るもの。
――ラテンアメリカ、アフリカでの開発と公正貿易に対する協力計画
 
 おそらく、こうした関与は、コミュニケーション戦略を立案し、協同の使命の根本にある、連合の精神や連帯、一人ひとりの個人に対する価値を実現する上で、最善の方法でしょう。この領域では、コープのほかに、イタリアの他の多くの協同組合部門が、全国レベル・国際レベルの緊急事態や社会的に重要なプロジェクトに参画しています。
 
 それゆえ私たちは、消費者協同組合が記録したますます多くの成功は、現代化、革新、および社会的マーケティングである、と要約することができます。これらの要因によって、コープは組合員と事業高を伸ばすことができました(今日、組合員は約400万人、従業員3万6,000人、事業高は85億6,500万ドルに達します)。

◆社会的ケア協同組合のマーケ ティング

 協同組合の違いをマーケティングするもう一つの興味深い方法は、社会的ケア協同組合の取り組みです。ご存知のように、これらの企業は、コミュニティと一人一人の個人(主として高齢者およびより不利な立場にいる人びと)に対する社会サービスの供給、ならびに障害者の労働市場への統合に取り組むものです。この部門は、最もダイナミックな部門の一つで、二つのナショナルセンター組織(Confcooperativeとレガコープ)によって強力に支えられています。二つのナショナルセンターはアプローチは違っても、類似の革新的な経験を発展させています。この部門の設立・強化の最初の段階の後、イタリアでは70年代に始まった最初の経験が認められ、ようやく1991年に法律によって規制されるようになり(今日では4,600以上の社会的企業があります)、いま彼らはコミュニケーションとマーケティングの作業を開始しつつあります。
 
 マーケティングに関しては、この種の事業は二つの主要課題に直面しています。
 
*自分たちが誰であり、何をするものであるかを伝えること
*公衆の障害に関する理解を変え、排除の原因をなくすことに努めること。この理由は、感情の深層にあるものです。
 
  したがって、真の統合過程を達成するためには(それによってサービスと雇用を発展させるためには)、文化的な変革をもたらすような伝統的コミュニケーションによって活動することが必要です。これが最近始まった「イメージ」プロジェクトの意味です。これはイタリアにおけるこの種の最初のプロジェクトで、EUの共同融資を受け、さまざまな州の4つの社会的協同組合事業連合が参画しています。

◆プロジェクト「イメージ」

 「イメージ」プロジェクトは、社会的・職業的な統合を促進する具体的な手段を、受益者に提供しようとするものです。
 
 「イメージ」という用語を選んだのは、本プロジェクトの根底にある理論的根拠に注意を向けるためです。すなわち、
 
 イメージを通じて行われるコミュニケーションは、私たちが可能な文化的変革と職業的見通しを試し検証しながら、障害を持った人びとの仕事を創造する具体的な機会に転化することのできる領域です。
 
1) 文化的変革の必要:他の人びと のまなざし
 
 障害の価値体系のなかへの――メディアのイメージを通じた――受け入れられ方は、痛みや悲しみに関して、すなわち、現在の苦しみと他者のまなざしによって引き起こされる苦しみに関して、一般にコミュニケーションがどの程度まで伝わるかに焦点を当てています。
 
 周辺化のメカニズムを防ぐことは、常にコミュニケーションの課題です。こうした統合過程をさらに前進させるには、新しい要約的な形のコミュニケーションが研究されなければなりません。それは深い感情や行動様式との関係を持つことができるものです。
 
2)社会的協同組合とそのイメージの普及
 
 このことを念頭において、私たちは社会的協同組合が直面する市場活動にも注意を向けなければなりません。
 
 最近数年間に、就労支援協同組合は伝統的な市場のパターンから出発することはできない、という自覚が成長してきています。
 
 これは、これらの団体が依存の文化やその結果、すなわち、援助や安楽な地位(feather−bedding)から自らを解放したと言っているのも同然です。
 
 生産の質と量が増大しました。
 
 だが、これらの努力は、完成しておらず、今やそれらの努力は企業のコミュニケーションやマーケティングの側面に焦点を当てなければなりません。このことは上記の理由を考えれば理解できるところです。統合協同組合の開発の全段階を通じて、マーケティングの大部分の過程は援助の手を貸すために製品を買うというインセンティブに基づいていたことを思い起こせば十分です。
 
 今日、完全統合と対等な出発点(イコール・フッティング)に到達するための努力は、生産、マーケティングおよび販売の各側面の重要性を完全に取り戻すという目標を設定しなければなりません。
 
3)統一的要素:市場領域でのサービス機関の創造と、社会的コミュニケーションの専門家ネットワークの運営
 
 これまで述べてきた要件は、社会的なコミュニケーションとマーケティングの分野で活動し、障害者のための新たな仕事を創造できる解決策を見つけ出す必要を示唆しています。
 
 社会的コミュニケーションの問題で活動し、営利企業と非営利企業に対するマーケティングサービスと、州・全国レベルの大企業に対する報道・オーディオビジュアル批評のサービスを提供することのできる、全国的代理店の創設は、それゆえ、「イメージ」プロジェクトの統一的目標です。
 
 プロジェクトのさまざまなステップは、次のように要約できます。
 
*コミュニケーションを通じて社会・雇用レベルで障害を持った人びとの統合を促進すること――インパクト。アプローチを用いた、気づきのキャンペーン
*社会的コミュニケーションと障害に関するイメージの問題についての国境を超えた活動交流の促進
*ボトムアップのアプローチを通じた社会的需要の複雑な用件を満たすことのできる、さまざまな能力と熟練を向上させ、参加させていく、地域パートナーシップ・ネットワークの構築
*教室での講座だけでなく地域での活動としても訓練のあり方を工夫し、これを「地域に広がる工房」へと変えていくこと
*プロジェクトの直接利用者を再び真の主人公にしていくこと。社会的コミュニケーション、すなわち、障害者についての新しいイメージと変革の価値を理解し、設計し、実行し、直接に管理することを通じて。
 
 したがってプロジェクトから期待される結果は、次の通りです。
 
*障害者を受け入れ、包容する水準を向上させること
*直接的・間接的な就労機会を拡大すること
*これらの企業の強化を図る組織モデルとマーケティングを開発すること
*完全統合を促進するために、恒常的な「社会的な鋭敏化(social sensitization)」の機構を創造すること。完全統合を教育過程における重点要素として
*マーケティングとコミュニケーションの領域でサービス・助言を提供でき、全国レベルで活動する代理機関として、「社会的コミュニケーション研究所(Laboratory)」を創設すること。これは、社会的協同組合のシステム戦略を支え、それによって製品やサービスのマーケティングを促進することを目的とするものです
*欧州レベルにおいても、社会的協同組合の製品とサービスのために、市場研究と流通ネットワークの探究を進めること

 ◆結論

 私は、私たちの考えに基づいて、さまざまな部門と多様な枠組みにおいて、協同組合の違いと、それをマーケティングするために選ばれたいくつかの方法を特徴づけるものは何か、という点を強調してきました。周知のように、私たちの努力の焦点をどこに向けるかという点での共通の特徴は、広い意味で顧客の満足にたえずより多くの注意を向けていくことにあるでしょう。私たちにとって、顧客満足とは純粋なビジネスないしは単純なコミュニケーション・キャンペーンではありません。本来的な性格からいって、私たちはこのための特殊な使命を持っています。私たちの歴史は、人びとの必要と願いに最も良い形で応えることに基礎を置いているのです。しかし私たちはそのことを、適切な手段を使って実践し、計画し、点検するよう求められています。中でも、他の多くの手段と同様に、「社会的バランスシート」が有益となるでしょう。それは、私たちの違いを示す革新的で積極的な解決策を見出す不断の探究がもたらすものなのです。