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労働者への企業譲渡 労働組合のための優良実践案内 The Transmission of Enterprises to the Workers A Good Practice Guide for Trade Unions 1 はじめに (1.1) 労働組合と従業員所有 (1.2) 本案内について 2 なぜ従業員所有か? (2.1) 経済環境 (2.2) 労働組合にとっての新たな機会 3 ケーススタディ ベルギー/フィンランド/フランス/ドイツ/アイルランド マルタ/スペイン/スウェーデン/英国 4 労働組合の前進の道――優良な実践の選択 (4.1) 実践:買い取り状況への一歩一歩の案内 a) 買い取り状況へのアプローチ b) 従業員所有への手続き c) 新たな従業員所有企業 (4.2) 政策:労働組合の従業員所有へのアプローチの強化と建設 (4.3) 全国および地方政府の戦略 5 コンタクトリスト (5.1) 欧州従業員所有支援組織 (5.2) 謝辞 (5.3) 文献 1. はじめに 1.1. 労働組合と従業員所有 欧州各地で労働者は数十年間、自らがそのために働いている企業の運営と管理に携わってきた。彼らはまた、自らが所有し統制する新しい企業を創造し、自らの企業所有を民間ないし国家所有から従業員所有へと転換することを選択してきた。 協同組合およびその他の形態の従業員所有企業による従業員所有という現象は、労働組合からの複合的な回答であった。われわれは本案内において、労働組合がなぜ企業の従業員所有への転換を支持すべきか、その理由を述べ、このプロセスを促進するために労働組合が採りうる共通の手段は何かを示そうとしている。全国的・地域的レベルでの従業員買い取り(employee buy−outs)への労働組合の関与は、すべて、諸事態への直接的対応に基づくものであった。この対応戦略の結果、労働者引継ぎ(worker takeover)が、不況や政治的混乱期、ないしは民営化の波とからみあって、散発的に現れてきた。本案内は、労働者への企業譲渡が、労働組合戦略の継続的な発展の要素になりうること、またそれによって、優れた管理、雇用および再投資のモデルとして利用できるような経済の創造が促進されることを論ずる。 われわれは、本案内が、組合員の仕事が危機にさらされ、仕事を保全するために利用できる選択がほとんどないと思われるような状況に立たされたとき、労働組合活動家にとって役立つ、必要かつ時宜を得た新たな資料と見なされることを期待する。 新たな社会的経済――Coop−Syn 社会的経済は、国家管理の公共セクター機関と私的所有企業セクターの間に存在する経済である。それは第三のセクターと見なされている。社会的経済は、優れた事業実践の構成要素を結合し、他方で労働者参加/所有と社会的自覚、および進歩的理念を統合する、中間の道(middle road)と見られるようになった。社会的経済セクターは、たとえば、協同組合、共済組合および財団(foundations)から構成される。 本案内は、CECOP(欧州労働者協同組合委員会)が、IDEES asblの協力、および欧州委員会(第23総局−社会的経済部局)ならびに欧州労働組合会議の援助のもとに行った活動の一部として作成された。 新しい社会的経済に焦点を当てた広範な計画の一部として、Coop−Synは、労働組合と協同組合の関係についての優れた実践、とりわけ企業の労働者引継ぎに関わる優れた実践の収集と普及に力を入れてきた。 本案内は、従業員所有企業の創設と開発を支援する英国の組織、「従業員所有解決(Employee Ownership Solutions =ESO)」によって作成された。それは、従業員所有を支援する組織(主として労働者協同組合からの)と労働組合が、欧州各地で1996年に行った一連の諸会議を集大成するものである。第一次および第二次の資料が、数多くの組織から寄せられた(寄贈者資料を参照)。 2.なぜ従業員所有か? 2.1 経済的環境 欧州各地の労働組合は、組合員の減少および、その直接的な結果として、労働者の代表としての全般的な有効性の縮小という、共通の問題に直面している。こうした連続する諸事態への責任は経済用語や政府用語のうちに表現されうるとしても、労働組合自身も部分的にその責任を共有しなければならない。伝統的に労働組合が組織されてこなかった産業部門にほとんど食い込んでおらず、小企業部門は相対的に未組織のままにとどまって、労働組合は、労働類型や労働方法の変化に歩調を合わせることに失敗した。労働類型は、短期的契約労働を増加させ、労働方法は、重大な組織問題を残しているのである。 従業員所有の支援は、就労確保と労働条件の改善という伝統的目的を達成し、既存の組合員を保持し小企業部門に組合員を拡大しながら、新たな社会的経済において重要な戦略的役割を果たす道を提供するものである。 グローバル経済 経済活動のグローバル化の影響は、世界各地の労働組合とその組合員が痛感してきたことである。ロンドン、ニューヨーク、東京といった主要金融センターへの資本の集中、および巨額の資本を自由に移転する金融機関の能力は、新たな現象ではない。だが、われわれは生産のグローバルな移転をますます目にしつつある。そして、当該企業の主として金融を第一としたサービス活動を。一国以上の(多国籍な)設備を有する企業は、最新の情報技術をも駆使しながら国民経済間で生産を切り替えている。その実例には、欧州企業のために東南アジアにおいて行われているtext−processing活動の圧倒的な拡大、および日本所有企業の自動車生産の欧州主要国から英国への移転が含まれる。こうした活動の移転の理由としては、コスト削減と労働者に有利な法制の回避が結びついていることが挙げられよう。その影響は、仕事が転出ないし削減される国々の労働者、およびその労働組合に直ちに及んでいくのである。 それゆえ、労働者およびその労働組合にとっての挑戦課題は、多国籍的な再配置ないしリストラの可能性に直面したときに、効果的に行動することである。直接的な抵抗のキャンペーンを補完することができるのは、労働者引継ぎの可能性を駆使することである。このためには、当該企業の特徴、および親企業が移動する際に介入を図ろうとする労働者の実力についての新たな分析が必要である。明らかにこの取り組みは簡単なものではない。だが、労働組合が、(企業)閉鎖への対案が存在し、この研究に労働組合が正統な役割を果たしうることを、労働組合が受け入れることが、組合員の絶えず変化する要求に応えて労働組合が確立する新しく有効なサービスであると見なされなければならない。 政府の政策 リベラルな合意の政策(liberal consensus policies)の漸次的な終焉および介入主義的な政府の政策からの明瞭なシフトとともに、自由な市場の哲学の導入に基づいた経済政策を採用しようとする傾向が、欧州全体に広がってきた。このことは、実践的には産業の所有者およびサービスの供給者としての政府の役割の再検討を意味し、中央・地方の両レベルにおける政府機能の民営化と外部委託という観念を導き出した。欧州各地の労働組合にとって、このことが意味したのは、国家資産の民営化の導入や、その組合員の公共部門から民間部門への移動、市場と産業の規制緩和、および労働組合を犠牲にした企業の意思決定への参加がますます強調されたことである。このことに加えて、福祉の社会的基盤および政府の支出政策一般に深刻な問題が課された。これは、通貨統合の要請に応える収斂基準への対応と軌を一にするものである。フランスとドイツの双方の労働組合は、近年、これに反対する活動に取り組んできた。すべての国が英国の保守党政府と同じように活発にそうした政策を追求してきたわけではないとはいえ、この領域での政府の政策の影響は広く感じられるようになってきている。 グローバルな経済の再構築の結果とともに、政府のサービス供給政策の変化から生じた労働組合にとっての主要な問題は、公務員および地方自治体職員が担ってきた仕事を防衛することである。ドイツの公共部門労働組合は、これが組合員の圧倒的な部分が組織されている領域であるために、公共部門からの仕事の流出と、その結果としての組合員の減少を食い止めようとして、高い姿勢で行動に臨んだ。 しかしながら、大企業の戦略的行動と対照した場合、政府の政策から生じた変化が大きく違う点は、それらの政策への変更のためのより有効なキャンペーンとロビー活動が可能なことである。大企業のリストラについてと同様に、そうした政府の政策に対処する有効な道筋として残されているのが、従業員所有の検討を通じた組合員の仕事の確保である。本案内は、国家と地方政府の双方が従業員所有を支援しうる方法と、労働組合が合法的なロビー活動として考えられることについて、提案しようとするものである。 企業のリストラないし政府の政策から発生する、より直接的な転換の選択と並んで、新たな従業員所有企業の可能性が発生するその他の領域が存在する。 企業の承継 承継の事例は、家族企業の所有者の引退ないし死去に際して、その運営を続ける相続者がいない場合、ないしは、AB Hogtryckの場合のように企業の運営を希望する相続者がいない場合に、発生する。最近の研究は、欧州全体で中小企業(SMEs)の85%が家族経営および所有であることを示している。だが研究はまた、それらのわずか30%しか次の世代に引き継がれず、第三の世代に引き継がれるのはわずか10%であることを示している。これらの企業のすべては、従業員所有の潜在的候補者である。だがその決定的要因は、その労働者代表が、この機会を活かして転換という目標を追求する立場にあるかどうかである。 事業の失敗 事業の失敗が生じた時に転換の大きな機会がつくりだされることは、明白である。しかしながら、失敗の時点での事業の実際的特徴のために、その実現可能性の基本要因となるのは、転換を開始する速度である。同様に、Alvimarの事例が示しているように、企業の状態にかかわりなく、実行可能性の検討、および事業計画の適切な実施に、しかるべき考慮を払わなければならない。突進してその後の仕事を危うくし、投下資本を失う危険を冒す前に、それらの(検討)結果を待つことが望まれる。 「MEBO」現象 英国内の経験、およびその他の欧州諸国内でも増加しつつある現象が示しているのは、いわゆる経営者・従業員買い取り(Management & Employee Buyout(MEBO))を見通して経営陣が引継ぎを計画する場合には、共通して当該労働者代表の参加が正式に求められることである。こうした状況の下で、労働組合にとって重要なことは、自立的でよく情報をつかめる立場に立つこと、経営陣の中期戦略に適応するあまり、当該組合員に否定的な影響を与えるような態勢に引きこまれるのを避けることである。 2.2 労働組合にとっての新たな機会 「交渉成果(bargaining gain)」としての従業員所有 ここで論じた多くの要因が、転換につながる条件、およびそれに基づいて労働組合の立場を強める可能性を生かすことに関わっているとはいえ、労働者の権利の向上を一般的に保証する、労働組合の決定的に新しい方法として従業員所有を扱う余地が残されている。労働組合は、限定された形態の従業員所有のために交渉する可能性を、伝統的な集団交渉の一つの要素として理解すべきである。イタリア航空Al Italiaの事例では、賃上げが考えられず人員削減が検討されたときに、従業員企業持ち株の提案に基づき、労働組合との間で賃金凍結と人員削減の交渉が行われた。従業員所有は就労確保に関わるだけでなく、究極的には、労働組合が労働者の地位を支える方法を拡大するものである。 従業員所有セクターと共に活動する 従業員所有形態の振興と支援に関する重要なネットワークが、すでに欧州各地に存在する。Coop−Synは、それらの組織が一堂に会して労働組合をそうした支援ネットワークに案内しようとする上での、すぐれた方法の実例である。 同様に、欧州労働組合運動は、欧州TUC(労働組合会議)と各国労働組合連合組織を通じて、既存の労働組合ネットワークと従業員所有支援のために存在するネットワークを結びつける能力を有している。労働組合が(企業)引継ぎ状況のために専門家の助言を求め、あるいは自らの従業員所有担当幹部の配置を検討する必要がある場合、双方のグループ代表から構成される、欧州と各国、および州の「円卓」の開発が、実践的な前進方向として検討されるべきである。 労働組合は、自らの組合員組織の水準を拡大強化することを追求しなければならないことを、認めている。そうしないと、組合の規模と影響力は後退し、その直接の結果として、交渉団体としての自分自身を弱めることになるだろう。特定の主要な部門と産業が、労働組合が自らを再活性化するものと見なす場合、従業員所有に焦点を当てるという選択は、さらに多くのことを提供するものである。 労働組合組織とと組合員組織率の伝統的な類型は、労働者全体に対する労働組合組織率がきわめて高いベルギーのような国を除いて、欧州中でほぼ同じである。他方、同様のギャップが、労働組合代表が手付かずのままの部門に関して存在する。欧州全体で、約5万の社会的経済企業が存在し、およそ150万人の労働者を雇用しているが、その大部分は未組織である。これはそれ自体取り組む必要がある課題であると共に、そのことを通じて、中小企業(SMEs)で働く人びとを組織し代表するという、長期的な野心的取り組みを開始する機会を労働組合に開くものである。たとえば英国では、20人未満の企業に雇用されている者は、雇用全体のおよそ60%を占めているが、英国の労働組合は、これらの労働者のほんの一部分を代表しているにすぎない。従業員所有企業の労働者を積極的に組織することは、こうした現象に取り組む経験を集め、組合の組織水準の安定化に役立てる機会を開くものである。 従業員所有企業に存在する未組織労働者のなかに可能性を追求することとあわせて、労働組合は、何らかの段階で従業員所有に転換する企業のなかに、より確固とした地位を占める必要があるだろう。新たに創設された従業員所有は、特殊な産業ないし部門の中に労働組合をつくり始めるかけがえのない機会を提供するものである。この産業ないし部門では、企業が、他の企業が見習おうと試みるようなモデルが機能しているからである。加えて、労働組合は、そうした新しい企業の中で、自らが固有の役割を果たすことを決意する必要が出てこよう。ある場合には、組合は経営機構のなかに加わることを求められるが、他の人びとは、このことは労働組合を代表する者との区別をぼやかすだけだと論ずるだろう。 4 労働組合の道――優れた実践の採用 4.1 買い取りの成功を促進する実践的ステップ 買い取り状況へのアプローチ 1 企業閉鎖や民営化ないしは人員削減に直面したときの一つの選択肢として、従業員所有の検討を開始する。 労働組合は企業閉鎖ないし人員削減の可能性の通告に直面したとき、ふつう受動的な態度をとることが多い。われわれは、より積極的で戦略的なアプローチをとることを提案する。われわれは、労働組合がキャンペーン組織としての役割を放棄することを、必ずしも提案するものではない。だが、NEMCOやTower Collieryの事例が示すように、労働組合は、人員削減の危険を減らし、企業ないしサービスを維持する、代替的な方法を検討する用意がなければならない。 2 すばやく行動し、企業閉鎖の影響を最小化するよう保証すること。 Atefa Metalsにおいてはっきりと示されたように、労働組合による迅速な活動、ならびに従業員所有について知識を有する労働組合幹部への連絡は、即時閉鎖という状況を回避する助けとなる。 3 独立の専門的アドバイザーとの接近 われわれは本案内に、(企業)転換の可能性に直面した労働組合を援助するために存在する、欧州諸組織の連絡リストを配している。それらのサービスの料金は高いものではない。直ちに行動を。転換の事例に積極的に取り組んでいる他の労働組合に話をもちかけるのことも有益であろう。同様に、とられた選択が一種の経営陣・従業員の合同による転換である場合は、対経営陣アドバイザーが行っている助言とは別に、独立の助言を探すことが望ましい。 4 政府、企業所有者、親会社の支持を得る。 買い取られる組織からの(買い取り)提案への支持は、AB Hogtryckの場合のように、引継ぎ手続きを容易にするだけでなく、多くの実践的目的に役立つ。そのことは、資金を提供する外部金融組織からの大きな信用にもつながる。 5 転換過程の調整を実行するチームをつくりだす。 INENPRE S.C.C.Lの場合のように即時閉鎖に直面して、活動を調整するチームないし委員会を創設することは、至上命題である。そこにはすべての労働組合代表、望ましくはフルタイムの幹部が入るようにしなければならない。転換の進行につれて、弁護士、銀行家、会計士が代表組織と話し合うことが必要になる。このチームには、外部から、支援機関の専門家も加えるべきである。 6 他の利害関係者(サービス利用者、公衆、顧客)を加える。 NEDAの事例のように、転換される組織が公共サービス(機関)である場合、転換の過程に利用者を加え、その後の意思決定に彼らを統合することは、重要なステップである。再びTower Collieryの労働者引継ぎが示しているように、公衆の支持を得ることは、従業員所有の提案に相当な重みを加えることができる。 7 目的と計画について明確にする。 スペインのAlvimarに残念ながら示されているように、就労確保を企てること以外の目的を最初から持っていないと見なされる事例があった。だがこのことが、労働者の排除につながり、企業を失敗させた。企業の所有者が買い取りをリードし調整したのである。しかしVulcanizadosの事例は、買い取りの理由――この場合は経営陣の無能――を明確にし、企業が転換後、就労を確保し拡大するためにどう進むかを理解しえていることが、いかに重要かを浮き彫りにした。 8 実行可能性の検討を行う。 実行可能性の検討を行い、企業の財務の現状、および引き継ぎ後の潜在的資産を検証しなければならない。再びAlvimarは、当該労働者のために明瞭な助言がなされず、企業の現状についての研究が行われない場合、何が起きるかを示している。 従業員買い取りの過程 1 事業計画の作成 買い取り調整チームは、買い取りの目的、ならびに、買い取りがうまく機能するかどうかを明瞭にしなければならない。事業計画の段階が、このことを明瞭にするのに役立とう。専門的な援助・助言なしに、それを行うことはできない。人事、市場、価格、予算といった諸問題を考慮にいれなければならない。事業計画の過程への参画は、労働者が紙の上におけると同様に、自らの手と心の中に企業を所有することを保証する最良の道である。 2 コミュニケーション コミュニケーションと責任の明瞭な系統が、買い取り調整チームにとって、絶対不可欠なものとなることは間違いない。DITECやTower Collieryのような、大規模で複雑な転換は、外部機関がチーム内の誰と連絡すべきかを明確にし、チームが他者に進捗状況を知らせることによって、はじめて実行可能になる。チームは頭部を持ちうる一方で、それは民主的でなければならず――あなた方が新しい企業をつくりつつあることを忘れないこと――買い取りチームは民主主義と説明責任の過程を開始しなければならないのである。 3 研修 民主的経営実践の領域における研修は、明らかに重要である。だが、通常、引継ぎが労働者に対して、かつて求められたことのない義務と役割を遂行することを求めることになるという点を、明記しておかなければならない。会計や人事、マーケティングなどの研修は、労働者が新たな義務を正しく遂行できるよう保証するために、有効である。研修は転換後に始まるかもしれない。Mid West Securityの事例のように、定期的な研修計画を組み込んで、転換完成時点ですべての労働者が自らの新たな義務について明確にし確信を持てるようにすることが、きわめて重要である。 4 労働組合の立場を明確にする 買い取りチームが当該労働組合によって指導された場合においてすら、転換完成後の労働組合の役割があいまいになることが、時々ある。労働組合は、自分たちが新たな企業の経営機構にはっきりと組み入れられることを、保証しなければならない。 従業員所有企業に対する労働組合活動(労働組合主義trade unionism)の重要性を見失ってはならない。従業員所有企業において、労働組合は、以前の企業ではかつて想像できなかったやり方で、契約内容や条件を決定する機会を有し、労働者代表としてとどまるのである。 5 顧客に買い取りを説明する方法を決める AB Hogtryckのように、以前の企業の良い評判の上に、事業継続のイメージを示して信用を強めるのか、それとも、Atefa Metalのように以前の企業が明らかに悪い経営であったために、新しい企業をこれとはっきり区別しなければならないかどうかを、検討しなければならない。 6 支援的法制の活用 支援的な福祉サービス機構を持つスペインや、国家が提供する補助金を利用できるアイルランドのように、従業員所有を振興し支援するために存在するサービスを、十分に活用しなければならない。転換の経験のある人からの専門的助言や知識は、転換を決めそこに接近する上で力になるだろう。 7 柔軟であること――変化した状況を認めること 労働組合は、従業員所有企業の変化した文化のなかで、これを認めて行動しなければならない。とりわけ、彼らは今や経営機構のなかに組み入れられているのである。より高い水準の柔軟性が、集団協約の過程に対して発揮されなければならない。改善(経営のimprovement)から利益を享受する労働者が、企業を所有もしており、その改善を求められるからである。 新しい従業員所有企業 1 重要な人材の確保 新しい企業は、重要なスタッフが退職するようなことがあると、不必要な失敗をこうむることになる。とりわけ、退職するスタッフメンバーが契約やマーケティングなどに関して膨大な知識を有している場合である。同様に、従業員所有企業の経営は、特殊な技能を必要とし、これが十分にできる人間が企業のなかにいなければならない。もしそうでなければ、企業の生命は不必要な危険にさらされることになる。 2 継続的な支援 いったん確立した後も、新しい企業は、転換過程で必要とされた以上の援助とは言わないにしても、それと同様の援助を必要とする。買い取りチームは、他の形態(傘umbrella)の下で、存在をとどめ、経営委員会に対する助言能力において活動することが望まれるかもしれない。 3 契約内容と条件の長期動向を定める(Set Trends in Term & Conditions) 新企業の初期段階では、以前の賃金・労働条件と比べて大幅な改善ができるということは、ありそうもない。だが、従業員所有企業における労働組合の役割の増大と共に、企業活動のより進んだ段階では、特殊な産業ないし部門の内部で長期動向を定めるために使うことができる、契約内容と条件の改良の可能性があり、労働組合活動家がそれらの改善およびそのための契約を自覚することが保証されるのである。 4.2. 政策――従業員所有に対する労働組合のアプローチを確立強化する 労働組合は、従業員所有の意義と可能性を十分検討することを求められている。本案内は転換に直面した労働組合の力となる資料であるが、従業員所有の拡大を支援する労働組合自身の活動と切り離して、機能できるものではない。 1 政策 労働組合は、全国と州、および地域のレベルで、従業員所有を原則的に支持する構えをとるかどうか、もしとるとすれば、どのような方法でそれを実践的に支持するかを決定しなければならない。労働組合は、労働者の契約内容と条件を守る上で、従業員所有がキャンペーン行動と並ぶ一つの活動の選択であることを、受け入れなければならない。 2 支援 転換の過程は、長く複雑な過程である。労働組合と当該労働者は、次のような、実践的な形態の支援を必要とするだろう。 1) 従業員所有/転換に労働組合幹部が献身すること 2) 実行可能性の検討を実施するために労働組合が基金を提供すること 3) 成功裏の転換についての、支援的な文献や手引きの発行 3 自覚の喚起 全労働組合員の間に自覚を喚起するための十分な計画を実行し、労働組合と組合員が従業員所有という選択を自覚するようにしなければならない。先行する知識が結局は仕事と仲間を守る力になるであろう。 4 研修 労働組合は、従業員所有をめぐる諸問題を、労働組合幹部向け教育計画の主流に加えるべきである。このことが、企業閉鎖ないし人員削減に対する選択としての転換を促進することを助けるだろう。より重要なことは、これによって労働組合活動家がこうした状況に備えることが可能になることである。アイルランドでは、そうした役割をアイルランド労働組合トラストが遂行しており、労働組合団体の役割として、企業閉鎖に対処しなければならない場合に、労働組合がとるべき優れた実践を振興することが認められている。 5 従業員買い取り投資用基金の準備 労働組合は、たとえば株の購入を通じて、自らの資本を導入することにより、転換を支援することを検討すべきである。そのことは、さらに労働組合の支援の証となり、対組合員サービス提供の革新的な方法の検討を受け入れる証となるだろう。英国では、労働組合銀行統一トラスト(trade union bank Unity Trust)がESOPs(従業員持ち株企業)への資金提供のパイオニアである。だが、そうした投資に先だって、労働組合は、そうした処置に関する専門的な融資上の助言を得ておくべきである。スコットランドのBarr Head Sanitarywareでは、融資が妥当でなく、当該労働組合は企業が再構築されたときに、金融問題で苦しめられた。 4.3 全国および地方政府へのロビー活動 欧州の一定の国には、新たな従業員所有企業の創設を支援するための法制が、全国・地方の両方のレベルに存在する。たとえばイタリアでは、マルコーラ法によって特定の形態の国家融資が定められ、転換過程の推進に使えるようになっている。労働組合は、さらに、そうした支援措置を導入するよう自らの政府に働きかけることによって、従業員所有を推進することができる。 1 人員削減の発表 ドイツのDITECにおける事例のように、人員削減の実施ないしその計画についてその詳細を国家機関に報告することを雇用者に対して義務づけることが、いくつかの国で受け入れられている。こうした事前通告は、引継ぎという選択を準備し分析するための、決定的に重要ともいえる時間を提供する。こうした人員削減の詳細について発表する必要に加えて、一部の国では、企業が「社会計画(Social Plan)」を提出することをも求めている。この計画には、それらの行動の影響、および企業がどのように人員削減の戦略を実施するかが描かれる。 加えて、これらの計画は、当該労働者に発表し、それによって人員削減に対抗する方法について労働者が議論し始めることを保証しなければならない。この段階は、労働組合代表が従業員所有という選択を導入する上での、主要な機会である。 2 国家仲裁機関 マルタのMP Clothingで示されたように、仲裁国家機関は、企業が悪い経営者によって放棄ないし破産に追い込まれた場合に、決定的な役割を果たすことができる。仕事と企業を守る介入政策を採ることによって、政府は、商業活動の最悪の側面がもたらす影響を鎮静化しようとするのである。MP Clothingについては、従業員所有のために選ばれた構造の中にある欠陥や、これについての国家機関の役割に引き続き焦点が当てられているとはいえ、企業とそれに関連する就労を救済するという当初の目的は、そうした機関の価値を十分示している。 3 従業員所有に対する政府の支援 既存の協同組合開発センターと開発機関は、労働者と労働組合に対する実際的支援を政府がどのように提供できるかを、最良の形で示している。ケーススタディを通じて見たように、そうした専門組織からの助言と援助は、転換の過程に役立ちうるものであり、労働組合はできるだけ早い段階でこれを利用しアプローチしなければならない。 4 従業員買い取り融資のための政府基金 たとえばアイルランドのMid West Securityのように、国家は、転換過程の重要な段階で、限定された形態の助成金ないし融資を提供することによって、中心的な役割を果たすことができる。これが実行可能性の検討を行うための基金でしかない場合でも、転換過程を調整する人びとは、資本がないことを理由に自らの活動を停止する必要がなくなるのである。企業の財務状態を正しく評価し、会計士や弁護士を通じてこれを証明する手続きは、高い費用がかかる可能性がある。決まって買い取りチームには、資金のつてがないものである。中央ないし地方政府からの基本的な援助がなければならない。 5 福祉手当ての資本金化(Capitalisation of Welfare Benefits) スペインからのケーススタディは、国家が提供する福祉手当てを受ける権利(授権付与entitlement)を資本金にすることを通じて、買い取りへの融資が果たす重要な役割を、最も良く示している。スペイン政府が、新たな従業員所有企業の開発を助けるために失業手当を正しく使うことを、投資と見ていることは当然である。そうした仕事に携わる人びとが、納税や福祉基金への支払いなどを通じて国庫に寄与していること、手当てを受ける人びとがいないことが、明確に論じられなければならない。 6 法的構造(Legal Structure) 従業員所有企業の創設をめぐる既存の法的枠組みについては、検討が必要である。政府の承認がないために、適切な法的構造が適用できない場合があるからである。たとえばスペインでは、労働者所有企業に対して、二つの別のしかし関連した法的構造の採用を承認している。企業登録についての政府基準を充たそうとしてそれらの企業が再定義された場合には、振興・開発の支援が困難となるのである。 |