『協同の發見』2002.3No.117
『協同の發見』目次
新・協同人に聞く
(有)つばさ流通
北島大蔵さん

 有限会社つばさ流通は、1985年に運輸一般労組で交流のあった仲間10人が共同出資でつくった事業体である。形式的には代表者個人による全額出資の形をとったが、実態的には共同出資の事業と言っていい。生協からの委託配送、無農薬・有機野菜の配送、引越しなどを中心に事業を行っている。7年前からは区の福祉部を通じて、障害者や高齢者の引越し業務を引き受けている。今回は東京都足立区にあるつばさ流通を訪ね、創立メンバーの一人で現在、副社長である北島大蔵さんにお話を伺った。
(編集部)


つばさ流通をつくったころ

――つばさ流通をつくった経緯についてお聞きします。
 会社をつくってちょうど17年です。その前に働いていた会社で労働組合をつくったのですが、当時は全自運(全国自動車運輸労働組合)だったから、労働組合ができればやくざや労務屋なんかが入ってきて労働争議になったんです。
――北島さんはそれ以前は何をしておられたのですか?
 競輪選手になろうと思っていました。ところが試験に落車して肩の靭帯を切ってしまったので、最終的にはあきらめました。それで24歳の時、運送会社に入ったんです。
その会社で1年くらいしたらその中で労働組合が出来た。ちょうど石油ショックも重なって、経営が厳しくなっていったんです。ただ、仕事は信頼されていて、労働争議後の約10年は蜜月時代でした。社長が2代目になって、人は悪くないんですがご多分に漏れず働かない。それで会社が傾いてきて、労働組合は会社をたて直そうとして、ボーナスカットや高速を使わないなどさまざまな提案をして、仕事を取ってきたりもしたんですが、ある程度きたところで会社が「あなた方とは一緒にやらない」と。で、すったもんだして、さぁ裁判をやろうかとなった時、「会社はやっぱり資産も金もないし、自分たちでやろう」となったんです。それにはやはり「わらび座」の協同労働の見本があって、それから芝田進午さんの協同の労働ということを知って、それで現社長の小西さんが中心になって自分たちで会社をつくりあげていこうと。
それにはまず、資本金が必要だと。車も必要だ。通常の労働争議というのは解決して和解してから、車を譲渡してもらったり土地を分けてもらったりして、会社主導で全部をおぜん立てをして「お前らこれで出来るならやってみろ」という形なんです。でも、まず10年経つと、雲散霧消するか、あっても組合幹部は経営に没頭する。労働組合は組合の意識が薄れ、組合活動は薄れていく。でもわれわれは、ひも付きなしの自前で、自分たちで立ち上げようと始めたんです。今は運送免許の規制緩和で3カ月くらいで取れるんですが、当時は陸運免許を取得するのに2年くらいかかった。初めは仕事がなくて、東京生協の牛乳配達なんかをやりながら、いろんな仕事をやりました。それこそ付加価値があまりない仕事と記憶にあります。
 その頃、俺は結婚したからね。36歳の末頃。だから、大変でしたよ(笑)。死に物狂いでしたね、人には言えないくらいね。ただ、人一倍からだが丈夫だから、朝一番の野菜の配達で6時ごろ帰ってきて、シャワー浴びて、それから生協のバスの運転。生産者の方から食事を出されて、つい食べてしまって帰りが眠くて(笑)。で、帰ってきてまた赤旗の号外配ったりして。そんなことをやってました。
――生協の仕事なども?
 生協の組合員を生産者のところまで運ぶバスの運転をやってました。芋掘りなんかした時は子供がベタベタに車を汚すんで、帰社するとバスをきれいに掃除して。最初に大学生協の仕事をもらった時も、「どうしたら業務拡大が出来るのか」と考えました。朝9時からの仕事を8時頃到着し、職員や下請けの会社の人が出勤する前に(絶対に人のいないところで)配送センターに散らかっているダンボールを片付けた。その内、生協の部内会議で話題になり「つばさ流通の北島さん」という名が知れて信頼が高まり、新しい仕事が増えていったんです。何もお金がなくても、仕事は売り込める。それに、綺麗だったら気持ちがいいじゃない。

出世がないからね

 競輪だって弱い選手しか集まらない競輪場はいつまでたってもスター選手が生まれないように、いい仕事をやろうとすると、レベルの高い人間が集まってこないとうまくいかない。取手競輪場みたいに強い選手が集まってくると切磋琢磨される。
 まあ、17年間やってきて思うのは、運送業というのは社会の底辺ということです。何か事件が起こると必ず「トラック運転手」とか「元トラック運転手」とか出てくる。トラック運転手というのは100万人くらいいると言われていて、労働人口で一番多いんじゃないかとも言われている。免許証があれば仕事が出来る。もちろん本当のプロもいますよ。だけど、束縛されたくないという人も多い。大手の運送業者の中には新卒で採用するところもあるけれど、ほとんどの会社は中小零細だから、そこに来る人は中学・高校・大学を卒業して、転々としてトラックの運転手になるんです。子供の将来の夢で「トラック運転手」というのはあるけど、実際はトラック運転手の社会的地位は低い。でも人のいい奴は多いよね。出世がないから。出世がある職場っていうのはやっぱり陰湿になったり、嫌な奴がいたり。でも出世がないからね、せいぜい運送会社では配車係。
――つばさでも主任とか課長とかないんですか?
 名前だけ。名刺だけ(笑)。

運送業界の現状

 これからは、荷主が最後に絞るのは運送会社。でももうカラ雑巾で絞るところなんてない。だから、これ以上運賃が下がったら経営者はだれもやりたくない。規制緩和で毎年500社やめて、1000社増えるんですよ。もう、そろそろ飽和状態ですけど。そんな中で、益々運賃が下がれば労賃は下がる。
――働いている人は、出来高払いなんですか?
 うちは月給。ただ月給プラス休日出勤したり残業したりするのは個々人の自由。だから、金を取るか、時間を取るか、で一切残業しない人もいる。特に引越し業を重視している当社は3月の繁忙期は稼ぎ時で、ここで余計に稼がなければならないから、ちょっと頑張ってやってくれれば他の人も助かるんだけど、一切やらない人もいる。ただ、そういう人も普段の仕事はきちっとやっている。まわりはどう思っても、本人は辞めると言わないから、やっぱり居心地がいいんだろうね。やっぱりそういう意味ではよその会社と違う自由がある。他の会社は自由にさせているようで縛りがあるから。
――一般的に運転手の仕事は何歳くらいまでやるんですか?
 うちでは、最高58歳。珍しいですよ。普通は日通でもどこでも40過ぎたら大体ね、なかなか肉体的にきつくなってくる。都会の場合は仕事が沢山あるから、うまく切り替えられる人はその会社の中の肉体労働以外の仕事をやる。でもそれは僅かであとは自分の選択でタクシーの運転手になったり、生コンとか海上コンテナの仕事とかね。要するにハンドルだけ握る仕事に移っていく。だから、我々みたいな引越しを中心にやっているようなところでは、大体40過ぎたら自分の進路を体の衰えで変えていくんですよ。
――引越しの仕事をやるようになったのはいつからなんですか?
 会社作って3年くらいしてから。だからもう14〜15年やっている。前に勤めていた会社の時も引越しはやっていたんだけど、普通の会社は絶対、運賃や配車、仕事のやり方なんか一切運転手に教えない。教えたら独立されちゃいますから。
――じゃあ、見積りとかは社長しかできない?
 そう、営業の人間とか。中には集金も運転手にはさせないところだってある。
まあ、俺自身が人間が好きだから、客商売も好きで、からだ動かすのも好きだったから、若い連中も必然的にやらざるを得なくなるよね。まだじじぃに負けたくない、って。だから、今もみんな倉庫の隅でベンチプレスなんてやってるよ。俺はもう全然上がらなくなっちゃったけど。そういう率先垂範というのは必要だし、それが出来る奴がどれだけ作れるか、そういう連中が集まったら組織というのは大きくなるんです。
――仕事は、どうやって拡大しているんですか?営業の方がいるんですか?
 いません。見積りは大体運転手にやらせています。運転手に見積りさせるのなんてうちくらいだからね。ふつうは出来ない。みんなほとんど営業マン。運送会社の営業マンなんて、他産業に比べたら大したことないんだけども。
でもこれからは病院関連などでいろいろな仕事が出てくる。例えば今後福祉タクシーもやろうと思っているけど、福祉タクシーで利益を上げようと思ってはいない。その仕事をする中で「これだけのいい仕事をしてくれる」という評価になれば、つばさの引越しも利用してくれる。まあ、いろんな細かい仕事をやっていくことで付加価値を高める。この業界では二言目には「付加価値のある仕事を求めなければならない」なんて言うけど、みんなわかってない。なぜなら、労働者に払うものを払ってなくて付加価値なんて生まれないんです。例えばいいアニメや映画には必ずいいスタッフが集まっている。
――その場合、いいスタッフはどうやって集めるんですか?
 聞いて来るんですよ。友達なんかに。
――求人誌に出したりはするんですか?
 何回か出したけど、ほとんどダメ。悪いけど。とりあえず失敗は3回までは許してやるけど。その辺の見極めは難しいけどね。事業が大きくなったら人は必要だし。でも、つばさ流通という面白い会社で俺も働きたいという人でないとね。例えば引越しの作業に行ったときなどの会話、これが出来るかどうかを見るんです。
――経営の話などはされるんですか?
 最近は職場集会とかはあまりやらないけど、営業会議なんかはこの頃やりますね。「もうちょっと打って出よう」とか「いい仕事とは何か」とか。ただ、営業となると才能だからね。だから、それぞれの能力に応じて仕事をつくってやる。
――今、社員やアルバイトの数は?
社員は15人、あとはアルバイト。大体1日30人くらいが働いているかな。引越しが多い時はもっと来るけれど。車両は現在30台です。
 最近は新しい仕事もやり始めていて、例えば出版社の発送の仕事などもやっています。これはもう運送の仕事じゃないよね。よく総合物流とかいうけど、本当に何でも出来ないと。そうすると、いわゆる総務的な仕事を出来る奴も必要になる。
――以前、確かNPOから不登校の青年を受け入れているとお聞きしましたが。
 今、大学生協の配送の仕事をやってるけど、真面目にやってるよ。契約社員にならないか?って声を掛けてる。
――知り合いなどから頼まれて「働かせてくれないか」ということもあるんですか?
ありますよ。使えない奴は「使えません」と言うけど。権利至上主義の奴とか、ぶきっちょな奴とか。仲間に溶け込めない奴とか。この前も一人、頼まれて働いてもらったけど、いかんせん人の言うことを聞かない。どこか欠落している。仕事の出来る奴なら少々欠点がある人でも引き受けますが。

つばさでの働き方

 いま、運送業はメタメタだからね。まず、ディーゼル規制がある。平成6年以前の車は平成15年10月でもう乗れないんですよ。今までの自動車メーカー、燃料メーカーの怠惰でこうなってきたんですよ。でも車を買い換えるのには莫大な金がかかる。石原都知事の言うことにも一理はあるんだけど、他県から来る車はどうやって防ぐの?45人のGメンがいて、とか言ってるけど、現実的に無理では?。うちもだからもう、6台はLP車に切り替えてきている。
――結構な設備投資ですね。
 いま、運送業は儲からない。更に東京都のディーゼル規制がある。エンドユーザーの団体であるトラック協会も本気で言わない。石原都知事は、世界の趨勢である環境問題を前面に立て、窮状にある運送業界の実態を理解しようとせず規制を推進しようとしている。だけど都民の生活は運送屋がなければ成り立たない。だったら、税金の中からちゃんと補助が必要なんだけど。
――つばさへの評判というか、一度やった仕事への評価が高いと聞いていますが。
 うちの引越しは、全部リピートと紹介。そう言っても誰も信用しないけど。物流関係の業界紙の人も最初は信用しなかった。うちは安い金額ではやらないし、下請けにも出さないんです。他の業者を入れるときも、必ず一緒にやる。うちのお客さんをよそには任せられないし、いい仕事をすれば必ず又仕事が来る。
――業者間で仕事が来ることもあるんですか?
 あります。絶大なる信頼がある。団地やマンションで一斉入居の時なんかあるでしょう。よそはみんな責任感も愛社精神もない人間がやってるところで、うちの人間がとっととっとと仕事をする。よその業者はみんな見に来ますよ。それで、仕事が来る、嘘じゃない。
――特に個人の家の引越しは、一軒一軒状況が違うわけですから、それに対応するのはなかなか大変な能力じゃないかと思うんですが。
 引越しは、素人でもできます。魚をおろすのだって素人もできる。でも料理人がやると綺麗におろして、綺麗に盛り付けられる。これはやっぱり腕だし、才能だし、手順なんです。
――会社への愛着や居心地みたいなものは経営参加の部分と関係あるんでしょうか?
 うん、だってみんな出資してるからね。社員になるには200万
1)の出資金。
――それは積み立てで?
 積み立ててもいいし、1回で払ってもいい。で、辞める時には何回かに分割して返還する。
――この会社で働き始める人に、「社員になる人は200万の出資を」という話をするんですか?
 します。中には、「おまえは騙されてるんだ、そんな会社が世の中にあるわけない」なんて言われるやつもいるけど。そう思うよね(笑)。みんなで自主的に自由にやるというのは、やっぱりなかなか理解されないけどね。
――配当はあるんですか?
 この頃はありません。以前はあったけど。
――有限会社なわけですから、協同組合のような出資金ではないと思いますが。
 社員からの借り入れ金ということにしてあります。今後もう少し社員を組織していこうと思ったら、200万円という出資金を見直さなければならないかもしれないと思っています。
――でも、逆に言えばその200万円が強さですからね。
 契約社員もいるし、フリーターもいるし。一杯いるんだよ。大学出ても就職難でずっとうちでアルバイトして、「社員にならないか」っては言うんだけど。
――細かい話ですが、出資金の200万払い終わった時点で、社員になるんですか?
 いや、払い出した時点で。途中で辞めたらそれは返します。

労働者の企業が生き残るには

 やっぱりこうやって労働者の企業として17年間やってきたというのは、ひとつのあかしだと思う。そのあかしを証明するのは、労働の質だと思う。だから、うちは相手の条件に従ってやるような仕事はやってない。
――自主生産とか自主再建とか、70年代とかには沢山あったのが大抵もう潰れてしまった、という話も聞きます。つばさ流通は会社の争議を経て始まったわけですが、やっぱりひとつのやり方として、自分たちで会社をおこすというやり方はあると思うのですが、続けられるところが少ないのはどうしてなんでしょう?
 まず質。質っていうのは労働者が切磋琢磨して作り上げていくもので、いいものは絶対残る。質がないから潰れる。うちは会社が出来て以来、一度も人身事故がない。だから、保険の料率も最低ランクです。
あとは理念。会社の理念をきちんと持っているか。スワンベーカリーの記事を読んだけど、障害者も生活できるだけの賃金を求めていくことをきちんとやるような企業は、社会的な支持を受けて仕事も確保できるし社会に対しての還元もできる。「質」と「やさしさ」は、どっちもタダですよ。一生懸命頑張れば質もよくなる。人間が本当にやさしくするのは簡単じゃないですか。「おはようございます」って言えばいい。
――お話を聞いていると、介護や福祉の仕事と通じるところもある。
 介護タクシーや福祉タクシーというのは、あまり芳しい話は聞かない。大手の先行投資的なところもあるようです。そこにボランティア精神も何もない人たちが入ってくれば、結果は歴然です。利用者から求められる介護タクシーというのを考えなければ。
――直接の介護分野でなくても、お年よりの一人暮らしの家の片付けとかも沢山ありますよね。
 あるセミナーで、運送会社の社長さんが講師でした。便利屋的発想で介護分野への進出を述べておりましたが、引越しが儲からないからといっていろいろそういう分野をやろうとしている。でも、引越しがまともに出来なくて、そういう周辺的な仕事ができるわけがない。練習しないスポーツ選手は絶対強くならないのと同じで、努力しなければ商売も成功しない。それを忘れたらダメ。
――北島さんの話を伺ってると、日本の企業が忘れているものを考えさせられます。
 マクドナルドやセブンイレブンが繁盛するのがおかしいんだよ(笑)。
――そういう意味では日本人のライフスタイルも変わってきてしまってますからね。例えばコンビニの仕事なんかも沢山あるんでしょう?
 うちはやらない。やってるのは新規参入の業者。俺は大層なことはいえないけど、やっぱり働き者に共感するね。
――今日はお忙しい中、どうもありがとうございました。


1) 200万円の根拠はトラック1台相当額。

■(有)つばさ流通
 〒121-0053東京都足立区佐野2-2-21
 最寄駅 JR常磐線亀有駅
 電話03-3605-2835 FAX03-3605-2856

■北島 大蔵(きたじま だいぞう)
1949年東京都足立区生まれ。
24歳より運送業界に入り、現在(有)つばさ流通副社長。
【趣味】スキンダイビング(素もぐり)、自転車競技(ロードレース)、山芋掘り(自然薯)、山菜とり。妻・娘2人との4人暮らし。

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