『協同の發見』2000.7 No.98 総目次

【記念講演】


「創造力の条件」−マイクロビジネスの時代−
加藤敏春(通産省サービス産業課長)
 労働者協同組合のことは個人的に関心を持っております。今日は個人としてマイクロビジネスやエコマネーということを考えておりますので、その一端をお話しいたします。
 なぜそういう発想で共感を覚えたかといいますと、21世紀を迎えようとしている社会の中で、働くサイドからの視点、社会における評価というものが日本社会に欠けていると常に感じておりました。働く者と生活する者、働く者という形でマイクロビジネスを、生活する者としてまさしく生活者が作るお金ということでエコマネーということを言わせていただいています。両者は私の中で有機的につながっています。
 マイクロビジネスというのは企業規模に関連させた概念で使っているわけではありません。マイクロの究極の個人、個人がこれからは事業主体になる時代、個人が組織形態を選び取っていく時代、ある時は会社であったり、ある時は組合であったり、会社も大企業かどうか、あくまで個人が組織形態を選び取るという気持ちも込めてマイクロと言っています。

「プレゼンのアウトライン」

■今なぜマイクロビジネスか?
■日本における創業とマイクロビジネス
■マイクロビジネスからエコマネーの世界へ

 この3点を中心にお話しし、エコマネーに繋げさせていただければと思っております。

■今なぜマイクロビジネスか?

 92〜95年までサンフランシスコの経済担当領事として赴任したことがあり、シリコンバレーでベンチャービジネスの人たちと付き合ったり、ベンチャーが現実に何を考えているのかをつぶさに見る機会がありました。
 日本より5〜10年くらい先、日本は今ようやく本当らしきベンチャーが出てきましたが、私がシリコンバレーに行ったときはちょうどジムクラークがネットワークスケープを立ち上げる、マーク&リーセンをイリノイから呼び寄せてネットケープを立ち上げ、日本に進出したいということでジェトロの対日進出のプログラムを紹介したこともあります。今、検索エンジンのヤフーがありますが、ヤフーを作った一人ジェリーヤング・中国系米人ですがスタンフォードの博士課程の大学院生で、スニーカーとジーパンとTシャツのちょっとさえないお兄さんがなぜか日本企業を紹介してくれと言ってきました。彼の奥さんは日本人でお付き合いがありましたからジェリーヤングと交流しベンチャーとはこういうものかと思いました。
 逸話を一つだけ紹介しますと、私がジェリーヤングに睡眠時間を聞いたら、土日も含めて平均3時間だと申します。お前はどうして3時間しか寝ないでそういうことができるのかと聞きますと、インターネットにかける自分の夢があるんだと、インターネットをみんなが使いこなせるようにしたい。夢をかけるためには3時間でももつんだ。もちろんお金儲けもしたい気持ちもあったと思いますが、彼の話はうそではありませんでした。
 ほんとうに情熱をもってみんなが使えるインターネットにならなくてはいけないと、実はこれはシリコンバレーに脈々とある精神、パソコンも大型コンピュータの対抗文化ということで、大げさに言うと人民のためのコンピュータを作りたいと夢見た人物がパソコンを作り始めたわけで、ジェリーヤングもある意味で体現してベンチャーの世界を切り開いた、私はそこにベンチャーの原点を見たような気がしました。

「従来の起業論は大丈夫か?」

 95年に日本に帰りましたが当時日本は第3次ベンチャーブームでそれ以降、起業家とは何かを考える機会がありましたが、この創業力の条件を考え総括したとき「従来の起業論は大丈夫か?」と思いました。ハイリスク、ハイリターンのみを起業の時追いかけてきている。業種的にいえば、ソフトウェアーであり、コンピュータであり、インターネットであり、担い手は20〜30代の男性の若者がベンチャーだというイメージが日本にはありました。
 どうも違う。シリコンバレーでも非常に重層的で、そんな狭い世界だけをアントレプレナー(ベンチャービジネスという言葉は和製英語)と言っているわけではない。何かちょっと違うというのが一つ。

「経営管理は?」

 最近NGOのマネジメントと叫ばれるようになりましたが、ベンチャーとか新しい起業家は経営管理を身につけなければならないと。日本の場合ベンチャーとはアイディアとお金さえあればできるんだという短絡した話に結びつけていったような気がしました。

「明日の技術を追いかけるのか?」

 あえてプロボカティブに言わせていただきますが、どうも日本人は発想が貧困になってしまった。今のコンピュータ、インターネットだけの世界を追う限りにおいて、ビジネスモデル特許など同じ土俵でやる限り日本が本当に生活者が求めているサービスを提供できるアントレプレナーができるとは思えない。
 明日の技術といっているのはコンピュータ、インターネット、ソフトウェア、それと結びついたファイナンシャルテクノロジーを指していますが、私は日本は明後日を追いかけなければいけないと思います。
 明後日というのは、5つの分野のサービスです。サービスというのは従来の意味ではなく、ハードとソフトとコンテンツが一体となってネットワークを通じて提供されるものをサービスと呼んでいます。サービスの5つの分野とは、健康・教育・環境・安全・文化についてのサービスが提供されるということで、我々生活者が一番求めているのではないか。明日の技術とは単にコンポーネント、その手段を提供しているに過ぎないではない。日本人はもっと明後日を追いかけるか、先を見越してアントレプレナーの世界を議論しなければいけないのではないか。

「ワークスタイルは?」

 アントレプレナーの働き方の問題とは表裏一体なのでこの問題を忘れてはいけないと思います。抽象的な言い方ですが、従来働くということがレイバー=苦役だったとすれば、工業社会の中ではレイバーを時間単位で売って賃金を稼いでいた。今出現している新しいSOHOとか自立型自営業の流れは自己実現を図る色彩を持ってきた。それをワークと言いますが、ワークを越えて楽しみ=プレイという考え方で高齢者の方もむしろ楽しみとして業を起こしたいんだという方々が増えていると思います。女性もそうですし、ジェリーヤングもプレイとして自分の夢を実現するためにやりました。レイバーからワークへ、ワークからプレイへという感覚で人間働けないものかと、そういう起業論を展開したいというのが私の希望です。
 従来のベンチャービジネスはちょっと偏った起業論ではないかと思っています。

■米の動向とマイクロビジネス

「情報化の進展とSOHOTの登場」

 私はあえてSOHOにTをつけたのですが、アメリカではパートタイマーも含めて、S(スモール)O(オフィス)H(ホーム)O(オフィス)T(テレワーカー)で大企業に雇われているが比較的自立性の高い人たちをテレワーカーと呼んでいますが、4700万人の人たちがこういう形態で働いていて、アメリカの労働力人口の1/3の規模まで達しています。
 アメリカ経済を語るときにニューヨーク株式市場の話とか、情報通信、金融の話が語られますが、働き方、働く人の構成がこんなに大きく変わっている。SOHOと呼びならされているアメリカ型の自営業というか新規アントレプレナーのような人たちが出てきていることはあまり語られない。それは構造変化が80年代末から90年にかけて起こりました。

「能力開発“コミュニティ・カレッジ”と“逆SOHO”人材派遣業」

 コミュニティ・カレッジは日本的なものではなく、大学に付置されて独立採算で運用されます。ビジネスプランまで書けるようにするということで経理やカウンセリングまであわせてやり、できる限り自立型の人が出てくるような実践型の教育を行い、期間も6ヶ月、1年となっています。能力開発のスキームも起こしています。

「管理経済→起業家経済→起業家社会」

 日本はまだ管理経済の段階にあるのだろうと思いますが、起業家経済まで行き、さらにワークスタイルまで意識した起業家社会まで行くということがあると思いました。
 欧州を見ますとイギリスとドイツ・フランスは様相が違って、イギリス型の第3の道はある意味で日本型第3の道を選ばなくてはいけないのではと考えてみました。
 イギリスは別の理念を進み始めた。ドイツ・フランスはうまくいっていない。じゃ日本はどうすればいいか。

■日本における創業とマイクロビジネス

 OECD諸国で開業率が低下し自営業の数が減っているのは唯一日本だけです。開業率と廃業率の逆転が起こっていると言われ、その中身を見ますと会社形態をとっているものは開業率が廃業率を上回っていますが、個人の開業ベースで見ますと圧倒的に個人の廃業率が開業率を上回っている、このことのために開廃業率の逆転現象が日本で起こってきている。日本は先ほど管理経済の社会だと申しましたが、個人がダイナミックに活躍しこれから情報化社会、高齢化社会、或いは環境問題が叫ばれる中でビジネスチャンスが出来上がる状態でも、ビジネスチャンスを掴みきれないでいるのが日本の姿ではないかと思います。

「サービス業こそ宝庫」「求められるソリューションの提供」

 先ほどの健康・教育・環境・安全・文化の五つの分野でサービスを提供してもらうことを求めているのではないか。明後日の思考でいかないとビジネスチャンスを生かすことにはならないのではないか。その中でコミュニティビジネスということも言っています。

「NPOの将来は?」

 日本の場合NPOの方と個人的な付き合いがありますが、議論が対立するのは、NPOの活動家でまじめに考えておられればおられるほど具体的な支援策をもっと早く出して欲しいと思う点です。特に税制とか融資などの要望があります。私は個人の立場として、真剣にNPOの今後を考えるときにお金のことよりもっと人材育成とか、中央に偏している現状、地方にマネジメントのできるNPOの人材を展開するということの方をむしろ考えていくべきではないかと思います。お金の必要性は否定しませんが、人材+仕事、仕事が回っていくようなスキームを作っていく方がいいというのがいつも議論のポイントになります。

「中小企業基本法改正とマイクロビジネス」

 昨年12月に36年ぶりに中小企業基本法が改正されました。中小企業基本法が成立した経過を調べますと、かなりGHQの意思が入った形でスタートし、だんだん二重構造論が出てきて、弱者救済論が出てきて、日本的な展開をしたのが中小企業基本法の世界だったのではないかと思います。36年間やってきてこれを一挙に断ち切って新しい中小企業政策として転換したのが昨年の中小企業基本法改正、そういう意味で思想的にも政策のメニューとしても思い切った転換をしております。
 従来どちらかというと新規開業策というのはベンチャービジネスを意識して作ったメニューが多かったのですが、今回、コミュニティビジネスにも使えるように新規開業支援策を充実させています。思想だけでなくメニューとしても転換をしたのですが、その中にマイクロビジネス、個人主導型の事業、もちろん個人でやり続ける場合もあります。個人がネットワークを組んでやる場合、個人が組織を選び取ってある時は会社であったり組合であったりNPOであったり、あるいは柔軟に切り替えていく必要があると思います。

■大企業もマイクロビジネス化へ

 「創業力の条件」を書いて以降、欧米でも一人企業が究極の企業の在り方だということが最近いわれ始めていると気がつきました。これから大企業は場所貸しをする存在になっていく、実際は働く人がそれを選んでいく。ビジネスの基本単位は上のコンソーシアムとなっていますが、大企業の場合はタスクフォースというチーム編成でビジネスをやっていく。例えばソニーという大企業は、それに場所を貸していたり、情報ネットワークを貸していたり、福利厚生をやっている。タスクフォースのチームはビジネスの独立採算で責任を負って、収益もタスクフォース単位で計算され、むしろショバ代を企業に払う関係になってきている。
 その究極の在り方をシリコンバレーでもヒューレットパッカードがいち早くやり始めました。インディビジャアルカンパニー、一人企業と言われているようです。マイクロビジネスといっても、新しいメニューを私なりに提案しました。

■創業とNPO

 ジョイントベンチャーシリコンバレーというNPOや情報の関係ではスマートバレーインクというNPOが一つの基盤となって、個々のプロジェクトごと、例えば教育にインターネットを活用するときは一つのチーム編成のプロジェクトが起こる。電商取引をする時はそのプロジェクトチームが起こる。基盤となるのは事業推進型のNPOで、92年に立ち上がってきました。 事業推進型のNPOが極めて有効に機能しダイナミックに個人の起業を支援するのをつぶさに見て、自分のNPOのイメージが一新されたように思いました。
 もちろんボランティア型のNPOもあります。ただこちらのジョイントベンチャーシリコンバレーとかスマートバレーインクは事業推進するために作るNPOで、ボランティア型のものはネットディというシリコンバレーの小中学校の全ての教室にインターネットを引くという活動で、それに必要な光ファイバーを引くために1日8000人の人たちが無償でやる。NPOといっても多種多様です。
 私は事業推進のNPOというところでビジネスで個人企業を支援するNPOを見てまいりました。やはり、創業とNPOも密接な関係があると思いました。
 現在のマサチューセッツ州はもともとはカンパニーでした。個人が基本単位で民政はタウンミーティング。個人から離れた組織でサービスを提供する機関として作ったのがマサチューセッツ・ベイ・カンパニーで、カンパニーの長をガバナーと言った。今のガバナーは州知事です。マサチューセッツ・ベイ・カンパニーの会社の定款・規約をコンシュティテューション、これは現在のマサチューセッツの憲法となっています。
 個人と個人を離れた組織というところから言いますと、相手はガバメントであってもカンパニーであってももともと生まれは同質ということを知りまして、個人の自立を考えることは近代の初歩に戻ったのだと思います。

■マイクロビジネスからエコマネーの世界へ

 金融監督庁設立準備室に出向していたときに、住専・北拓・山一・長銀・日債銀に流れる不良債権処理の問題、その中にありながら金融ビッグバンをやっていかなくてはいけない流れ、さらに国際金融の世界は97年夏からアジア通貨危機が起こって、さらにそれが伝播して最終的には98年9月にLTCMの破綻というところで、世界の資本主義が破綻直前のところまでいったのをつぶさに見て、お金そのものの在り方を見直さなければいけないと当事者として実感しました。お金の使い方を間違えたのではないかと。

「エコマネーとは?」

 マネーとあえて言っていますが貨幣経済とボランティア経済を対比して、ボランティア経済で使うお金と考えています。学問的には右図(資料右ページ)の左は市場交換のもの、右は互酬のものと対比するのが正しいと思いますが、一般向けに書いています。例えば介護保険の対象にならないような心のケアサービス、あるいは環境などで市民がグランドワークに参加するような、市民がゴミのリサイクル活動に自分の労働を提供するような活動、あるいはボランティアサービスをやったときラーニングセンターにエコマネーを持っていくとインターネットを教えてもらえるというような活動、相対でお金の取引に互酬という形で価値の多様性を認める。
 私が互酬と言っているのは相対で交換価値ではなくて使用価値を決めて、使用価値を一物一価で決めるのではなくあるゆらぎ、サービス提供する人と高齢者のお話相手になってあげる少女の思いやり、それを受けたおばあちゃんの感謝の気持ちが伝わって価格設定できるようにこれは事後に決める。相対で事後、提供した人の満足度と受けた人の感謝の気持ちを現してありがとうという形でお金が渡る。
 北海道の栗山町で今年2月に始まっている例では、看護学校に行っている女学生が独居老人の話し相手を1時間した。通常で言えばおばあちゃんから女学生がエコマネーを受け取る。しかし、女学生はおばあちゃんにエコマネーをさしあげた。この女学生はおばあちゃんの話し相手になっている中で、栗山の昔話、生活の知恵を教えてもらって自分の方から感謝の気持ちを現したくなったという実話です。これは市場交換の世界では実現できない。私はこれをインターネットを使ってやり得るようにしたい。

「エコマネーシステムの概念図」

 我々の使っているマネーも、貝から希少金属になり、紙になり、電子マネーで01(ゼロイチ)情報になってきた。貨幣は情報そのものでインターネットで取引や価格決定が瞬時にできます。この概念図はプロトタイプができていますが、サーバーの中に必要とするサービスのデータベースがあります。図の右の方に提供できるサービスのデータベースがあり、それぞれインターネットを使って右の人は何ができるか、左の人は誰か助けてくれないかということでネットワーク上でマッチングしていく。先ほど言いましたように、相対で且つ使用価値を事後に決める。最終的には個人の収支帳にカウントしていくという考え方です。
 世界では今、地域通貨というのが出てきていますが、私のエコマネーは他とちょっと違っていまず。一番大きな点は、エコマネーは進化するお金だと言っています。我々のホームページを見ていただきたいのですが、エコマネーのマニュアルもオープンにしてエコマネーを経験した方に書き込んでいただけるようになっています。我々はバージョン0.0を4月21日にインターネット上でオープンしましたが、通常の地域通貨ですとマニュアルどうりにやってくれということですが、我々はリナックスの考え方でユーザの人がお金を進化させる。自分たちはこうやったというマニュアルを書き込んでいただき、進化のプロセスをインターネット上に作ったということです。
 2番目には、市場交換とは接続しない。例えばボランティアサービスをしてもらったエコマネーは商店街で物を買えるということはさせていません。させると市場交換の原理を互酬の世界に呼び込む形になって、かえってボランティアの方々の活動のダイナミズムをそぐのではないかということです。いろいろ議論のあるポイントだろうと思います。
 3番目は、日本でいうふれあい切符とか他の地域通貨は請求権的なものが発生する形になっています。例えば自分がサービスを提供すると何年後かに介護が必要になったときにサービスが受けられるという、これは市場交換貨幣経済が反映される形になっていますが、私が立っているエコマネーは1年間で振り出しに戻る。栗山の場合は皆さんで2万エコマネーをもらった形で始まって1年したら2万にもどしてやっていく、やっていく過程の中では縦の時系列の対応ではなくて横の関係です。
 サービスメニューを多様化してサービスを流通してコミュニティの信頼度を高めていこうと考えています。日本で互助の考え方がなくなっているのではないかということで、沖縄にも昔あった“結い”の考え方、結いの中でどういう価値決めをしていたか日本人の知恵に学ぼうということで、他の地域通貨ではない、日本人が歴史と文化の中で培ってきた知恵を私なりの成果も入れたつもりです。そういったものがエコマネーです。

「エコマネーを推進または計画している団体一覧」

 正確なものはホームページに載せています。実際にお金が出ているのが9地域、検討中も含めて30くらいになっています。私が考えましたのは3年前ですが2年ほどは動きがなく、昨年の今頃から動きが出てきて注目されるようになりました。

「組織」

 私が代表を務めていますエコマネー・ネットワークの組織図および事業内容を書いたものです。

「皆さんの参加をお待ちしています!!」

 ホームページの最初の方は、市民起業家ということについてで、個人としても市民起業家を目指したいということで作ったものですがかなり古くなりました。
 下は、エコマネー・ネットワークで、最近かなり充実させています。書き込みできる生きたマニュアル、リナックスのように進化していくエコマネーを体現していますからご覧いただければありがたいと思います。

7月号目次協同総合研究所(http://JICR.ORG)