『協同の發見』2000.7 No.98 総目次

JICR.ORG通信
『協同の発見』第98号(2000年7月)掲載
手島 繁一(協同総研常任理事/法政大学)

インターネットに関する二つの「白書」

 この5月から6月にかけて、わが国のインターネットに関する「白書」が二つ相次いで発表されました。すでに新聞報道などでも大きく取り上げられているので、ご存知の方も多いと思いますが、郵政省の「通信に関する白書」(以下、「通信白書」)とインプレス社の「インターネット白書2000」(以下、「ネット白書」)です。まだ、この二つの白書を全て読んだ訳ではないのですが、さわり部分だけを紹介します。
 「通信白書」では、99年度の日本のインターネット利用人口が、2706万人、世帯普及率が19.1%と発表されています。対前年度比ではそれぞれ59.7%増、8.1ポイント増となっています。この増加の要因を「通信白書」は、NTTドコモの「iモード」などの携帯電話からのネット接続サービスの爆発的普及に求めています。
 「通信白書」で面白いのは、ネットの普及率と世帯収入の関係を調べていることです。それによれば、年収600万円以上800万円未満の所得階層の普及率が20.7%、2000万円以上では36.7%に達しているのに対し、年収400万円以下600万円未満では13.4%、400万円未満ではわずかに5.4%となっています。7月の沖縄サミットの主要議題でもある「デジタル・ディバイド」(情報格差)が日本でも広がりつつあることを裏付ける調査結果になっていることは注目すべきでしょう。
 他方、インプレス社の「ネット白書」は2000年2月時点での調査なんですが、インターネット利用者数は1937万7000人で、昨年の1508万5000人と比べて28.5%の増加と発表されています。この増加傾向は今後も継続し、2000年6月には2000万人を突破し、2000年12月には2260万人に達すると推測しています。「ネット白書」では、利用の場所別状況も調査していて、家庭のみでの利用が821万5000人(昨年は631万2000人)、家庭と勤務先・学校の両方が746万8000人(同287万5000人)、勤務先・学校のみが366万4000人(同589万8000人)、モバイル環境のみでの利用が3万人(昨年は調査せず)。家庭での利用が増えている一方で、勤務先・学校のみの利用は減っている、と結論づけています。
 さて、この二つの「白書」を比べてみると、利用者数で700万人もの差があります。新聞などではこの差が問題とされていて、調査時点の違い、調査サンプル数の違い(「通信白書」は6000人、「ネット白書」は3万5000世帯)、推計手法の違いなどの他に、政治的思惑があるとも取り沙汰されています。つまり、政府白書である「通信白書」はインターネット対策の遅れという批判を回避するために、利用者数を水増ししている、というものです。
 ことの真相は分かりませんが、いずれにしても、インターネット人口2000万人時代に突入したのは間違いありません。

■ JICR.ORGに二つ目の「子サイト」誕生

 6月22日、「菊地謙のマドリード労協連研修レポート」が「海外ワーカーズコープ情報」のセクションの中に立ち上がりました。4月に立ち上がった「シーアンドシー出版のご案内」(「JICR.ORG通信」2000年4月号参照)に続く、二つ目の「子サイト」の誕生です。
 「子サイト」というのは、JICR.ORGが「大家さん」として場所を貸し、その場所でサイト主宰者が自由に独立して作ったホームページ(サイト)のことです。
 サイト主宰者の菊地謙会員は、現在センター事業団東関東ブロックの責任者を努めていますが、3年前、日本労協連からスペインのマドリード労協連へ研修のために派遣されました。日本とマドリッドの両労協連の人事交流の第一陣であったのですが、「せっかくお金をかけて研修に行ったのだから、個人的体験に終わらせるのは勿体ない」ということで、HPでその経験を社会に公開することを思いついたわけです。
 相談を受けたわたしはもちろん、「任せなさい!」と胸を叩いたのですが、実のところかなり大変でした。菊地君は現場を持っているために直接会って打ち合わせは出来ないので、もっぱらメールに頼ったコラボレーション(共同作業)になりました。ま、この経験から、ネットを介したコラボレーションのノウハウを積むこともできましたし、自信も得ました。もう、任せて下さいです?!
 以前から表明しているように、会員の皆さんの中で、自分のホームページ(サイト)を持ちたいが、諸般の事情のためにかなわないという方のために、わがJICR.ORGが場所を提供します。また、手取り足取り指導・支援しましょう。会員が「ネット市民」としてデビューするためのインキュベーター(培養システム)の役割を担います。いつでもご相談下さい。

■ メーリングリストの活用に新しい試み

 メーリングリスト(ML)についても以前にこの通信で紹介したことがあります。インターネットの応用術の一つで、ビジネス、学術交流から同窓会、サークル、クラス、仲間同士の連絡網に至るまで、広く活用されています。一通のメールを出すだけで、それが数十人、数百人といったリスト加入者に届くわけですから、便利この上もありません。
 協同総研のメーリングリストは99年2月に立ち上がりました。現在の会員は約50名。投稿数の推移をみると、99年7月までで150通、月平均30通弱であったものが、7月以降急増してその後1年間で600通、月平均50通になっています。HP(JICR.ORG)が立ち上がったことがこの変化の要因です。HP関連の投稿が増えましたから。
 メーリングリストの運用にも新しい変化がみられます。坂林専務の発案で「研究所だよりML版」が始められました。これまでも研究所の活動情報は本誌の「研究所だより」に掲載されてきたのですが、このメディアですと、事後報告に偏りがちであり、かつまたそれも最低一ヶ月のタイムラグで届けられるという致命的な欠陥がありました。メーリングリストで配信されるようになると、必要なときに、素早くお知らせすることができ、ニュース価値が格段と高まります。なるほど新しい使い方だと思います。
 最近では藤岡惇会員(立命館大)がML上で「最近おもしろかった本を交流しませんか」と呼びかけたのきっかけにして、新しい交流が始まっています。本来MLは双方向的コミュニケーション、しかもフラットなコミュニケーションに格好のツールなのですから、その可能性を生かす使い方をどんどん開発していきましょう。また、ネット環境にある会員の方は是非お入りください。これまたインターネットの特性で、入ったからといって発言や投稿が強制されることはありません。都合が悪ければしばらくROM(Read Only Member)でいてもよいのです。

■ 「リテラシー」向上のためにも大きな一歩

 ネットリテラシーを高めるための取り組みもようやく第一歩を踏み出しました。6月23日、「第一回インターネット研究会:ホームページビルダーを使ったHPの作り方(1)」を開催しました。参加したのは、労協連、センター事業団、協同組合ASKから10人ほど。難しい理屈は抜きにして、いきなり即席LANで繋いだコンピューターの前に座ってのトレーニングです。インターネットの世界は技術革新の速度が速いだけに、継続的な学習が欠かせません。とはいっても座学だけでは限界があります。実学重視でいくべきでしょう。何事も慣れですから。できればこの種の学習会(研修会)の網の目を、労協連グループの中に縦横に張り巡らしたいと思っています。

■ この間の更新情報

 5月号では、研究所総会の準備のため「JICR.ORG通信」はお休みしました。したがって、4月号以降の「WHAT'S NEW」(新着情報)を以下にお知らせします。新しいもの順です。
(1)「市民事業を促進する協同組合としての労働者協同組合法の法案大綱(素案)」を掲載しました。5月19日の「市民研究会」での議論をふまえて、労働者協同組合法の意義とポイントを簡潔にまとめたものです。ご活用ください(7/8掲載、7/13更新)。
(2)第10回研究所総会(7月1日)が行われました。総会の模様とご承認いただいた活動報告・方針、決算・予算などを掲載しました(7/8)。
(3)7月15〜16日に、「大分のケアワークタクシーと地域おこしを訪ねる旅」を開催します。ご案内を掲載しました。7月9日が申し込みの締め切りです。ここから申し込みが出来ます(6/23、7/4追加更新)。
(4)総会・研究集会(7月1日)の会場が変更になりました。研究所新事務所ではなく、北区赤羽会館7階会議室です。ご注意下さい(6/23)。
(5)第5回理事会(5月29日)の議案書を掲載しました。総会議案書の基本を討議しました。ご覧になってご意見をお寄せ下さい(6/23)。
(6)「海外ワーカーズコープ情報」のセクションに、「菊地謙のマドリード労協連研修レポート」を新規掲載しました。日本とスペインの労働者協同組合間での人的交流の最初の経験の貴重な記録です(6/22)。
(7)研究所の第10回総会が7月1日(土)開催されます。議案書は数日内に発送する予定です。出欠のご返事を研究所まで、電話、Fax、mailなどでお寄せ下さい。また、翌日に予定していた研究集会は、総会参加者の利便を考慮して総会当日の午後に行うことにしました。近日中にHPでもご案内します(6/12)。
(8)研究所が移転しました。6月12日から新しい事務所で業務を開始します。住所は〒114-0032東京都北区中十条2-11-6、電話03-5963-5355、Fax03-5963-5366。E-mailなどネット関係の連絡先は従前通りです(6/12)。
(9)『協同の発見』5月号が発行されました。特集は「挑戦ケアワークドライバー」、「労協法制定をいまこそ(3)」です(5/30)。
(10)5月19日「労働者協同組合法制定市民研究会」が開催され、130人を超える方々の参加を頂きました。その第1報を掲載します(5/24)。

『協同の発見』98号(2000年7月)目次協同総合研究所(http://JICR.ORG)