『協同の發見』2000.7 No.98 総目次
<コミュニティケアを担う>

「であいの家」この1年
袴田碧(神奈川県/「であいの家」)

 「であいの家」の開所式を済ませてもう随分時間が経過したような気がしますが、昨年の春まだ浅い3月31日に私達メンバーは、労協主催の2級ヘルパー講座の修了式に望んでいました。「さあ、大きな施設で働こう」「登録ヘルパーで働こう」「使われるのではなく自前の事務所で自分の納得のいく介護をしたい」「将来、自分もお世話してもらえるような介護施設を作りたい」さまざまな望みを抱いてヘルパー2級の修了証明書をいただきました。

 前年、3級受講生たちで同窓会の集まりを作っていましたので、4月初めの同窓会委員の会合で、「同窓会でヘルパー事業を本気で考えてみようか」という問題が中心議題となり、2回3回4回と会合を続けていくうちに、「地域に扱ぎして利用者の側に立った介護サービスを提供したい」‥‥共通の思いを持った者16名が残り、労協の協力を得て走りだしました。

 大きな不安を抱きながらも恐いもの知らずの無鉄砲を武器に事務所探しに奔走し、宅老所もできる規模の部屋を見つけて、机、電話、事務用品、冷蔵庫、台所用品、エアコン等備品をすべて皆が持ち寄って仕事始めに備えました。今では利用者さんから寄付していただいた折畳みベッド、テレビ、ストーブ等が整い、宅老所として機能できる準備ができています。いよいよチラシをつくるにあたって、利用料金・営業日時・ヘルパー料金を決める段階になり、利用料金はNPO団体と同程度に設定しました。挨拶廻りも済んで、6月1日の開所式には、受講中お世話になった講師、労協・高齢協の方々、事務所の所在地である戸塚汲沢地区の自治会の会長さん達、政治家と福祉施設の方々をお招きして、「であいの家」設立をアピールしました。

 翌日からは9時から5時まで輪番で電話当番をしたり、チラシ配りをしたりと、提供できる時間を進んで「であいの家」に充てました。私たちは、介護の仕事だけではなくでき得るかぎりの生活支援全般を提供することにしていましたので、6月から10月までは季節がら介護の仕事より除草、木の刈り込み、植木の水やり、ペットの世話が大きな収入源でした。

 愚痴を言うこともなく、「であいの家」を潰さないためにどんな依頼にも応じていくうちに、依頼者の信用も徐々に大きくなり、単発的に頼まれた仕事が毎週定期的な仕事に移行したり、他の利用者を紹介してくれたりと、誠実な仕事ぶりが新たな仕事につながっていくことを身をもって知りました。そうした中で、家事援助・見守り・身体介護の依頼もポツリポツリ入ってくるようになりました。

 仕事依頼の電話がかかってくるとだれもが興奮したものでした。「であいの家」は、上下関係ではなく横並びの関係を大切にしています。ですから、依頼の電話を当番の者は責任をもって処理するために、仕事に適したヘルパーに連絡をとり、了解を得ると、利用者に返事をします。各メンバーが電話当番として事務所に詰める機会があるので、当番日誌を読むと事務所の流れを把握することができます。 また月に1回のミーティングでは前月の会計報告がなされます。現在の経営内容なら電話当番の交通費を出そう、ヘルパーの時給を上げよう、皆で話し合った上で決めます。
 
 話がそれましたが、介護関連の仕事の中には排泄の処理、入浴の介助、痴呆や鬱的症状の方の扱い、利用者に合った食事作りなど経験を必要とする依頼も入ってきます。そのような仕事に初めて行くヘルパーは、不安を抱え込まないために排泄介助の場合にはビデオを見てから経験豊富なメンバーに事務所のベッドでおむつの当て方を納得いくまで指導を受け、自信をつけてから利用者宅を訪問します。障害の重い方の入浴介助する時は、家族の承諾を得てへレバー2人で対応します。その他の身体介護の仕方、利用者との人間関係の作り方、清掃の仕方にいたるまで仲間内で情報を交換し合って、利用者にとってもヘルパーにとっても最も良い方法を探します。

 利用者と付き合っていくうちには心のすれ違いを感じたり、腹の立つことを言われたりされたりします。でも、事務所に帰って仲間と話すうちに気分も落ち着いて、長く怒りや落ち込みを引きずらずに、次も笑顔で利用者の玄関を跨ぐことができます。このようにして助け合いながら事務所を運営してきましたが、電話当番や初回訪問などを無料奉仕で行い、経費の無敗使いを避けた甲斐があって最初の月から黒字経営を続けることができました。しかし介護保険が始まるにあたり、自費払いの利用者だけでは経営も行き詰まる懸念があるので、居宅サービス事業者の認可を受けて、保険と自費の2本立てで経営を安定させることに皆の意見が一致しました。

 1月4日に県の認可が下りました.やはり効果は大きく、2月になるとケアマネージャーから4月に先立ち自費での介護依頼が寄せられ始めました。その仕事が4月から保険対応に引き鯉がれ、また自費料金が安価なので自費と保険の組合せ、自費だけとさまざまな依頼が押し寄せて、立ち上げメンバーだけでは仕事をこなせない状態になりつつあります。5月・6月には新たなヘルパーに参加してもらっている現状です。新しい仲間が増えることによって「であいの家」の雰囲気も変わってくることでしょう。今までとは違った問題も生じてくるかも知れません。

 「であいの家」を開所して無我夢中の1年が過ぎました. 少しは経営の先行きも見えてきました。目先の忙しさに追われているだけでなく、将来「であいの家」をどのようにしたいのか、方向が決まった段階でそれに向けて今は何をすべきなのか、メンバー各自が真剣に考える時期が来ていると思います。 なにはともあれ、立ち上げの時に抱いた初心を心に銘記して、自分を利用者の立場において将来を見据えれば、適切な方向に進んでいけると確信しています。

7月号目次協同総合研究所(http://JICR.ORG)