『協同の發見』2000.5 No.96 総目次
海外事情&海外報告1

イタリア・イギリス訪問記



松岡 喬 (東京都/ASK設立委員会)

 調査のため3名を派遣しました。派遣の目的は7月以降に予定している協同組合ASKの事業として考えている (1) 海外の協同組合・社会的事業の現場に一定期間実習生を派遣できる可能性を探る(2) 学びとふれあいを求める短期海外旅行の訪問先の検討の2点が主なものです。このレポートではイタリア最大級のレストランチェーンを経営する協同組合について、ついでイギリスの中間支援組織(inter medially)について報告します。


イタリアの大規模協同組合  CAMST(カムスト)
・Ms. Antonella Pasquariello─ Direttore Relazioni esterne & immagione

 古都ボローニアには大きなフェアー会場があります。日本で言えば「幕張メッセ」というところでしょうか。それは前日に訪問したレーガ・エミリアロマーニア(ここはレーガ=イタリア協同組合連合のエミリアロマーニア支部というよりローマと並んで本部という位置付けらしく、丹下健三氏設計の巨大な建物を有しています)の隣に立地しています。レーガの渉外担当マルセロ コメリーニ(Marcello Comelini)氏はここエミリアロマーニアの協同組合の現状について「組織の統合による規模の増大により協同組合の取扱高、雇用がともに増大している」として「このことはヨーロッパ経済の全体的状況から見ても一定の評価を得られるものと思う」と述べていました。また一方では「社会的弱者のためのサービス協同組合も次々設立されている」とコメントしました。そしてコメリーニさんは現在伸びているサービス部門の代表格ということでこのカムスト(CAMST)を紹介してくれました。
 そのフェアー会場でもカムストは三つの形態の飲食店を経営しています。「レストラン」「セルフサービス食堂」「バール」です。会場の奥の静かな場所にある本格的なイタリアン・レストランで食事をしながら渉外・広報を担当するパスカレッロさんに以下のお話を伺いました。
1.200事業所、5,500人、年間売上7,000億リラ(約500億円)、イタリア最大級のレストランチェーンである。
2.イタリア北部の諸州に展開し、業態はレストラン、バール、セルフサービス(カフェテリア)、大型店(ハイパーマート)のレストラン、給食施設など。エミリアロマーニア州内の事業所は全体の60%である。ほかにD.D.という店舗ブランドを持つ。
3.協同組合としての利点というのは商売上はほとんどない。市場での競合に勝つための戦略を常に考えている。カムスト(CAMST)という名称についてもそれに知名度があるということで、変える必要がないということである。
4.組合員のためには専用のオフィスを持って対応している。CAMSTが組合員に提供できる最大のものは「安定性のある仕事」である。
5.労働条件については労働組合の全協同組合ASK設立委員会は3月5日から12日までイタリア・イギリスに協同組合および社会的事業の国契約によって範囲が決まっているが、独自の上乗せはありうる。特に料理人などの技能者にはこれを適用しない。協同組合として労働基本法は必ず守っている。
6.利益の一部(5%をめど)は社会予算を組んで社会に還元している。

 規模でもマーケティングを含めた中身の問題でも、競争に勝つということを現実に実現している組織の幹部である、彼女の自信にあふれた話し振りには圧倒されました。同時に組合員のことについては専門スタッフを配して意見の吸い上げ等をおこない、また社会還元についても継続的に予算化をしています。イタリアの協同組合運動の中心地ならではの活動とは言え「協同組合の底力」を見た思いでした。
 イタリアでは通訳として佐藤三子さんにお世話になりました。


イギリスの中間支援組織
DTA(Development Trust Association)
・Mr. John Seageant─Policy & Research Director
・Ms. Nina Massaric─Assistant Administrator

 コミュニティ事業を中心に展開するディベロプメント・トラストの全国的な中間支援組織の本部で、ロンドンの郊外パディントンにあります。そこで私たちは以下のような説明を受けました。
1.Development trust は1970年にはじめて設立され、1995年にDTAが設立された。年々組織数が拡大し現在はイングランドとウェールズに200近い組織がある。現在8ヵ所の地方組織を持ちスタッフを置いている。
2.DTの多くは3〜4人で運営されており、分野は地場産業の復興、コミュニティビジネスが主となっている。
3.DTAは(1)現有組織への支援(2)新しいDTの立ち上げ支援(3)ロビー活動やメディア対策を主な仕事にしている。本部専従者は19人、そのうち地方組織に8人が常駐している。
4.DTを直接的にフォローする法律はないので、会社法による法人格取得が一般的である。イギリスのCharity Law の改正によって Charity Organization の取得が容易になったため、その適用を受けている事業所が半分くらいある。
5.財政についてはEUとイギリス政府、地方自治体からの援助、基金からの寄付が主なもので、短期的には「宝くじ」の基金を借り入れることもある。
6.都市コミュニティ再生の立場からの事業については大企業からの出資を含めた協力を得ることもある。そのことで専門性も増してくる。社会のDTに対する認知度もまだまだではあるが徐々に上がってきている

 この2年間で組織数は倍増し、事務所や事務局も大きく伸びてさらに新事務所に移転する構想もあるということで、ひとことでいえば元気のある組織でした。これは時代の流れが大きく影響していると思われます。ひとつはチャリティ資格の取得が容易になった点、もうひとつはEUを始め行政の援助の活発化です。そしてコミュニティ・ビジネスによる地域再生という考え方が定着しつつあるということも大きな要因です。またこの組織はすぐれたホームページも持っています。
www.dta.org.uk



ICOMに加盟する協同組合開発組織
CDA(Co-operative Development Agency)
・Jon McColl─ Co-op Development Business Adviser
  Tower Hamlets CDA

 ロンドンの下町タワーハムレット区にある、ICOM ( Industry Common Ownership Movement :イギリスの労働者協同組合・労働者所有企業の全国組織)系の中間支援組織です。ロンドンではすべての区に支部を持っています。説明は以下のとおりです。
1. ロンドンの下町、タワーハムレット区における協同組合支援組織(CDA)として15年の歴史を持つ。傘下の協同組合は25ヵ所、事業所の規模は2人から20人。出版、リサイクル、保育所、緑化、清掃などの分野があり、信用金庫も運営している。
2. 組織は10人の理事による理事会が運営しており、職員は現在4名である。理事長の グレッグ コーヘン(Greg Cohen) は「ロンドン再生委員会」の副理事長である。資金面での最大のスポンサーはEUの都市再生委員会である。国や地方行政からの援助もある。
3. このCDA傘下の協同組合の多くは法的には「有限会社」として法人格を持ち、チャリティの認定を受けているところもある。
4. ASKの実習生派遣についての趣旨は大いに理解できる。実際このCDAは過去にアイルランドからの研修生を期間6週間、3人単位で5年間にわたって受け入れたことがある。
5. 実際に受け入れるのは各単協だがCDAタワーハムレットとして調査、連絡を開始する。
(1)傘下の協同組合に打診する (2)ロンドンの他地区のCDAに打診する (3)ICOMのネットワークを通じて呼びかける。
 CDAのこのところの伸張もまた政策面の影響が強いようです。今回は実際にCDAの支援を受けながら活動している労働者協同組合を訪問してきました。その一つは「俳優紹介のエージェント」という日本ではあまり見られない業態の協同組合でした。ICOMに加盟している労働者協同組合とその支援組織はDATと比較すると理念という面での結びつきが強いようです。「共同出資」や「協同労働」という言葉が多く使われていました。またCDAは「実習生受け入れ」に関するASKの要望についても前向きな姿勢を示しました。
 いずれにせよイギリスでも協同セクターによる仕事おこしは近年にない活況を呈しているといってよいでしょう。そこには法整備の問題、行政の経済的支援といった政策面の影響は色濃くみられますが、イギリス社会の伝統的な「協同意識」といったものがここに開花しつつあるということを感じました。
 イギリスでは日本出身のトミコ・モーリーさんという女性が、元ICOMのチャーリー・カッテルさんの呼びかけに答えて、協力を申し出てくださって、訪問先との調整と通訳業務をしていただきました。カッテルさんへの依頼を含めて多くの助言、協力をいただいた協同総研にお礼を申し上げます。またDTAに関する資料を提供いただいた細内信孝さんにも感謝いたします。

『協同の発見』96号(2000年5月)目次協同総合研究所(http://JICR.ORG)