特 集          
 
       
――協同の仕事おこしの選択をすべての市民に――
 
 

特集にあたって
 
「仕事おこし新時代」に求められる労協法
 

 
               菅野 正純(協同総合研究所)
 

◆失業と「社会的排除」に立ち向か う世界の協同組合運動

「リストラ」の名を借りた有無を言わさぬ首切りや、中小企業の経営困難を背景として、日本中で年間3万人を超える人びとが自ら命を絶っていると報じられたのは、昨年夏のことでした。この2月17日に経済企画庁がまとめた「国民生活選好度調査」は、「15歳以上の49.8%が失業の不安を抱えながら生活している」ことを明らかにしました。働くことと人生設計の見通しの不透明は、ボディーブローのように、日本の社会にじわじわと効いてくることでしょう。
 ノーベル賞受賞経済学者アマルティア・セン教授は、失業が、たんなる所得の減少だけでなく、失業者から自由を奪い、彼らを社会的に排除し、技能を陳腐化させ、心に傷を負わせ(「青年の失業はとりわけ高い代価を支払わされることになる」)、健康を損ない短命に追いこみ、働く意欲そのものを挫き、人間関係と家族生活を失わせ、女性や少数民族への差別を拡大し、ひいては社会を敵視し良識をあざ笑う人間を生み出すなど、人間と社会を根底からむしばむ「害悪」であることを強調しています。
こうした中で、いま世界の多くの人びとが、ワーカーズコープ方式によって働きがいある、人と地域に役立つ仕事おこしに挑戦し、自立や人間としての誇り、人と人とのつながり=コミュニティ再生への道を踏み出しはじめています。
 欧州では、労働者協同組合と、そこから発展した「社会的協同組合」(福祉・教育などの社会サービスの供給やハンディのある人びとに対する就労支援の協同組合)、倒産・リストラに対して組織された「労働者参加企業」の合計6万企業、150万労働者が「欧州労協連」に結集し、EU、各国政府や自治体と結んで、活発に事業を展開しています。
 昨年夏、カナダのケベックで開かれたlCA(国際協同組合同盟)の大会も、人間を排除する資本のグローバル化に対して、「新らしい千年紀」を、産業革命時代の協同組合の勃興に匹敵する、「協同組合発展の第二の波」の中で迎えることを誓い合いました。
 これに応えて国連は、各国政府に対する協同組合促進の法制・政策ガイドラインを採択し、lLOも、「協同組合促進に関する新たな国際基準」づくりの討議に入っています。

◆「協同労働の協同組合」の法制化 がひらく新しい可能性

 日本においても、高齢者ケアや子どもの育ち、安全で質の高い食べものや環境など、いのちとくらしに直結する問題を出発点に、足元から自分たちの労働を見直し、仕事をつくりだしていく、「仕事おこし新時代」が始まっていることが実感されます。
高齢期のケアを一つとっても、「寝たきり・寝かせきり」ではなく、「座って食事をし、座って排泄をし、座って風呂に入る」当たり前の生活を誰もが望むようになるのは、必然の流れです。何気ない近所の助け合いや見守りをベースにケアが専門労働として尊重される「コミュニティ・ケア」が本流となり、そこから現代の仕事おこしが、食や住、移送、まちづくり、商店街の再生など、人びとのくらしを総合的に支える「福祉のまちづくり」にまで発展していくことは確実です。
 私たち日本労協連は、「労働者協同組合法」=「協同労働の協同組合」の法制化を求めて、第一次案を自ら作成して要請を進めてきました。「働く人びと自身が主体となって、人と地域が必要とする仕事を『発見』し、協同で出資し、経営責任を分かち合って仕事をおこす」この労協法は、「仕事おこし新時代」を生きる多くの人びとに共有されていくものと、確信しています。
 労協法の提案は、第1に、「協同労働」と、それにもとづく協同経営・協同事業という選択肢を、希望するすべての人に保証することです。
「協同労働」とは、働く人びと同士の協同、その生産物やサービスを利用する人びととの協同、コミュニティ全体の協同を含んだ、新しい働き方です。この選択肢が社会的に保証されるなら、失業やリストラに直面した人びとや、働きがいのある仕事を求める人びとが、営利企業に雇われて働く以外ないという思い込みから解放されて、新しい仕事おこしに挑戦し始めることでしょう。
 労協法の提案の第2は、狭い組合員だけの利益ではなく、コミュニティ全体の利益を考え、その中で組合員の必要や願いを実現していく、21世紀型の開かれた協同組合の制度化です。欧州の「社会的協同組合」「コミュニティ協同組合」と同じ方向です。
具体的には、現在の組合員と地域の人びとの双方に対して、「就労創出」「学習・研修」「福祉・共済」の機会を提供することで、そのために、組織構成の面でも、必要な場合には、利用者や地域住民も組合員となる「複合協同組合」が選択できる内容を提案しています。「就労=起業支援」は、これから労協の大切な使命になっていくでしょう。
 労協法の提案の第3は、上記の目的のために、協同労働と事業の中から積立金を拠出することを制度的に保証することで、課税控除の要請とセットになっています。自分たちの成果を仕事おこしと教育・福祉に生かす、「働く人びと・市民による公共性」の提案であると考えています。市民の自立を支援する新しい財政・政策の考え方に立って、労協法をぜひ制定していただくよう、心からお願いするものです。

協同総合研究所(http://jicr.org)