石塚秀雄の海外ワーカーズコープ漫遊記
イギリスのインターネット・ワーカーズコープ
『仕事の発見』第35号(1999年10月)所収

1. バーチャル・コミュニテイ化

 いまやインターネット時代。イギリスでのインターネットの人口普及率は10パーセントといわれています。その中で、ニュウウェーブのワーカーズコープ方式のインターネットプロバイダーが元気で展開しています。その名は、ポプテル「Poptel」です(http://www.poptel.org.uk)。名前の由来は、「ポプ」はポプュラーの、「テル」はテレマテック(電話とコンピュータを合わせたサービス)の略をつなげたものです。これは商標名で、会社の名前そのものは「ソフト・ソリューション」と言います。首相のトニイ・ブレアもポプテルの利用会員になっています。同社はロンドン、マンチェスター、ウエスト・ヨークシャー地域において、インターネットやソフト事業を行っています。現在従業員である組合員は21名(男性13人、女性8名)です。ポプテルはイギリスのインターネットプロバイダーのトップ20社の中に数えられています。従業員1人あたりの年間売り上げは、約1億8千万円にもなっています。

 1982年にソフトウエア会社のソフト・ソリューションは従業員所有の労働者協同組合として設立されました。その後、業界の大手企業が手を付けていない隙間をねらって新しい事業展開を計画しました。名付けて「ポプテル」です。ポプテルの使命は、人々がインターネットワークを通じて、情報を得ることを容易にして大いに社会的力を発揮して貰おうということでした。ポプテルではそれを「コープ・バーチャル・コミュニテイ」と呼んでいます。

 ポプテルは1986年にはヨーロッパのGeoNetネットワークのイギリスでのホストプロバイダーになりました。この時期には、米国のインターネットプロバイダーが圧倒的に強く、イギリス国内のインターネットやE−メイルの利用者も少なかったので、ポプテルの利用者の半分は外国からでした。

 ポプテルは、1990年代始めにはマンチェスターの地域自治体との協力計画が始まって、地域の経済開発と活性化に一役買いました。ポプテルは、パソコン通信のインストラクター派遣をすることで教育訓練にも貢献しました。

 1994年以降にはインターネットへの関心と需要も急速に増大してきました。ポプテルも事業を拡大して、サービス事業を情報サービスのウエッブサイト、データーベース、電子メイルの3つのサービスを確立しました。現在は携帯電話を活用した電子メイル送信、ファックス送信の事業化を推進中です。さらに、バーチャル・トレーディングの実施と事業情報サービス化を検討中です。

 ポプテルは出発の当初から社会的な企業を目指しており、インターネットを通じて社会的な貢献の促進のために、いろいろなプロジェクトに取り組んでいます。こうした取り組みの資金は、ポプテルの共同基金出資団体としての非営利組織やコミュニテイ団体から、さらにはヨーロッパ連合(EU)の地域発展基金などからも来ています。ポプテルは「コープ・バーチャル・コミュニテイ」作りを目指して、協同組合やNPOや自治体などのホームページ作りを手がけています。

 最近では、「マインド・イン・マンチェスター」という精神治療サービスの非営利組織のホームページが開設されました。「マインド」はいわゆる協同組合法である「産業節約会社法」に基づいて1965年に設立された地域アソシエーションに登録されている慈善団体です。地域や病院での精神医療における患者の支援や相談を行っています。ホームページを通じて、マンチェスターだけではなくて、全国的な情報交換のフォーラムを開設したり、共同活動の展開を促進しています。Eメイルを通じて意見交換や、ボランティア活動をしたい人には登録紹介を行っています。http://www.poptel.org.uk/mind/

2. インターネットワークで地域起こし

 ポプテルは地域興しの活動に積極的に参加しています。マンチェスター・チャリティ・フェアはポプテルもスポンサーになっており、そのセミナーの講座では、市民活動の基金作り、雇用法開設、組織財政問題などの講座が開かれました。地域の雇用問題がなんといっても重大な関心事で、そのためにコミュニティ雇用パートナーシップという組織が98年に24団体により発足しました。これはマンチェスターの4地区にボランタリイ組織コンソーシアム(事業団)を発足させて、「ニューディル・ワーク・オポチュニテイ(新しい労働機会の創出取り組み)」というスローガンの下に、直接の仕事興し、求職支援、雇用要求活動、スタッフの派遣、基金作りなどの支援活動を行っています。

 ポプテルはさらに自らのデータベースである「インフォソース(InfoSource)」としてバム(vam)を開設しています(http://www.poptel.org.uk/vam)。バムのデータベースはマンチェスター市内の約800のボランタリイ組織やコミュニテイグループの情報や、市役所、病院、図書館とつながっています。主な項目はには次のようなものがあります。

 *相談、情報  *アルコール・薬物中毒者支援 *黒人・少数民族支援 *児童・家族支援 *地域芸術振興 *コミュニテイグループ *環境保護 *障害 *基金作り *医療・ソーシャルケア *ホームレス支援 *国際連帯 *法律 *レジャー *討論の広場 *精神医療 *性差別 *ボランタリイセクター支援 *女性 *若者

 このデータベースから「協同組合」を見てみると、その中に労働者企業協会(WFA)があります。これは教育協同組合で、コミュニテイの福利のために協同組合方式の生産、教育、文化活動を、とりわけ性差別、人種差別、障害者、高齢者、社会的弱者に関わる権利拡大のためにサービス活動を行っています。ビデオやパソコンなどのメディアを活用しながら、地域でのワークショップを開いています。また非営利コミュニテイ出版協同組合である「コモンワード」は、社会的少数派のグループの人たちのための出版企画を行っています。

 「ビジネス・イン・ザ・コミュニテイ」は非営利組織で、民間企業がコミュニテイに投資をして雇用を増やすように、コミュニテイにおける仕事起こしのための橋渡し的な役割を果たしています。職業訓練のためのボランタリイ組織もいくつかあり、「コミュニテイ・イクスチェンジ」は自治体の職業教育と連動して、パソコン、グラフィック、マーケティング、印刷などの教育を実施しています。

 「ジョブ・リンク」は、地域の失業者が定職を持てるように支援するために、いわば民間の職安的な役割を企業と求職者の間で果たします。そのために就業準備のための職業訓練や仕事をしながらの職業訓練のコースを実施しています。失業はとくに外国人や社会的弱者に集中して起きるので、こうした人々の社会的・経済的・文化的な支援を様々な組織が入り乱れてする必要が生じています。またケアやソーシャル・サービスの分野では約150団体にアクセスできます。

 こうした非営利・協同組織は、行政と協力すると同時に、行政に対する意見・監督的な役割を果たしています。

3.インターネットでの商売が活発化

 ポプテルは一般ビジネス分野を無視しているわけではありません。インターネットによる買い物や取引は増加の一方です。インターネットでの商取引きの規模は次第に大きくなっています。ポプテルは、米国のシアトルに本拠を置く、インターネットワーク本屋「アマゾン」(http://www.amazon.co.uk)と組んでおり、書籍の通信販売へのアクセスを行っています。さらにフリーネットサービスの推進などによるビジネスアクセスの活性化も進めています。

 また最近は音楽をインターネットで聞いて買うような方式が広まりつつありますが、ポプテルはCDとほとんど音質の代わらない音楽をパソコンにダウンロードできるような技術を導入しています。これまではダウンロードに長時間かかっていたものを時間を短縮しました。ただし、音楽著作権による無断コピー禁止の技術的問題がまだ解決されていないので、コピーできる音楽は承認済みのものだけで、勝手にどの音楽でも録音することはできません。しかし、当面は新譜の宣伝などには威力を発揮するもの期待されています(http://www.mp3.com)。

ポプテルの内部組織は、社長、営業部門3名、顧客サービス部門8名、財務部門2名、技術部門5名、苦情処理部門2名となっています。営業ディレクターのマルコム・コベット氏は40歳くらいの背の高い早口の人でありますが、この人はイギリスの労働者協同組合連合会(ICOM)の議長として、7月始めにラフバラーにある協同組合学園でのICOM会議で開会挨拶をしました。会議には中小企業担当大臣のM.ウィリスなどもスピーカーとして参加しました。イギリスの協同組合は現在の政府の政策や社会的経済的ニーズに対応してクリエーティブな協同組合にならなければならない、というのが会議のテーマでした。財務、教育訓練、事業発展、専門技術といった分科会が持たれました。ポプテルは専門技術分科会を主催しました。

                           


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