石塚秀雄の海外ワーカーズコープ漫遊記
カナダの労働者協同組合
『仕事の発見』第21号(1997年5月)所収



1.レイドロウ氏のふるさと 

 カナダは、世界の協同組合運動のあり方について大きなインパクトを与えた報告書を書いたレイドロウ氏の国です。カナダという言葉は「出会いの場所」という意味だそうです。人口約3千万人。英語を主として話す人1700万人、フランス語を話す人700万人、その他ドイツ語など多くの言語が話されている多民族国家です。宗教で一番多いのはカトリックで1300万人います。とくに人口約800万にが住んでいるケベック州は約7割がフランス系で、分離独立志向の強いところであり、1995年の10月に分離の是非を問う住民投票をしましたが、僅差で分離派は負けました。ケベック州にはデジャルダン・グループという信用協同組合を中心とした協同組合グループが活動していることでも知られています。
 
労働者協同組合は、カナダの中央部に位置するサスカチュワン州、南東部のハリファックスを中心とするノバスコチア地方、またケベック州などで盛んです。近年、医療協同組合、保育協同組合、失業克服、よい仕事作りのための協同組合増加しつつあります。
 カナダ労働者協同組合連合会では労働者協同組合を次のように定義しています。
  「労働者協同組合にはいろいろな会社形態や組織構造があります。会社形態としては協同組合、民間会社、非営利組織を含みますが、いずれも労働者組合員が組織をコントロールし、定款で1人1票を明記しています。つまり決定権は組合員を基礎にしており、株式や出資金にもとづくものではありません。」(1995)
  
 ケベック州には労働者協同組合が約140、労働者数6000名の規模であります。そのうち農業製品・森林分野には約50あるので、残りの90ほどが各産業やサービス業ということになります。また、1980年代後半から、新しい動きとして株主労働者協同組合というものが30ほど作られています。これはアメリカなどのESOP(従業員持ち株会社)やスペインのSAL(労働者株式会社)から構想を得たものです。労働者が民間企業の株式のできれば過半数を持って、運営委員会に労働者が入り、1人1票原則で協同組合化しようとするものです。労働者の株式取得については、産業省や協同組合振興機関(SDC)が10年以内返済で貸付を行っています。また労働組合もこの動きを支援しています。
 
 カナダの労働運動と協同組合の関係は愛憎入り交じったものがあります。同じルーツをもっているがためです。オンタリオ・連帯投資基金は労働組合が資金提供をしています。オンタリオ労働者協同組合連合会のジョン・ブロワー氏によれば「この基金は労働者協同組合の資金調達問題解決に大いに貢献」しています。財政困難に陥った民間会社を買収するケースが増えており、協同組合や労働組合で構成している「オンタリオ連帯」組織がこれらの基金の配分を行なっています。
 
2.政府の労働者協同組合支援体制

 カナダ政府の協同組合発展プログラムからは協同組合に対する投資助成金がでます。これは協同組合発展基金CDFという慈善組織を通じておこなっています。ノバスコチアのカナダ労働者協同組合連合会は1994年には1万カナダドルの助成金を受けています。この基金は海外の協同組合運動にも提供されています。
  1995年の調査によれば、カナダ人の6割は、市民団体や財団が非営利組織を財政的に支援すべきだと考えています。また4割は政府と民間企業が非営利組織を支援する責任があると考えています。
 1994年の秋に、カナダ政府関係者とカナダの協同組合関係者や個人事業主などが米国のボストンにある米国ICA産業協同組合連合会を訪れて、労働現場での民主主義の新しい発展方法についてどのようにしているかの意見交換をおこないました。
 協同組合を含めた、従業員所有性企業やコミュニティ型企業を作り出すことが重要であり、従業員による漸進的な企業買収という方法が注目されています。労働者が経営管理していくためには、専門家による理事会へのアドバイスと従業員に対する職業訓練プログラムが不可欠となっています。
 
 カナダの信用組合と人民金庫は中小企業に融資を積極的に行なっています。中小企業の81パーセントがそうした融資を受けていると言われています。また信用組合連合会は、「倫理基金」会社を設立して、協同組合の社会的役割と組合員制度を強調した事業活動を支援しています。1994年にはその基金資産は約37億カナダドルとなっています。
 「倫理基金」の原則は次のようなものです。
  ・ 職員と従業員のとの労使関係を良好なものにする。
  ・ 事業と環境について、外国を含めて、機会平等を促進する。
  ・ 煙草による収入を減らす。
  ・ 市民に役立つ仕事とサービスを行なう。
  ・ 原発エネルギー利用を減らす。
  ・ 政府による環境規則を守る。

3.労働者協同組合にはこんなものが

ハリファックスに1995年5月にできたダルハウジイ小学校は、カナダ初の小学校協同組合です。理事会は、3名の教職員と4名の父母により構成される新しい混合型協同組合で、ステークホルダー(利害当事者型)協同組合と呼ばれています。生徒は、授業料として3,700カナダドルを支払い、父母は500カナダドルを出資します。父母出資分は生徒が卒業すると払い戻しされます。

  アルゴマ・スチール製造会社は1901年創設以来、従業員6,000名のカナダでは第三位の鉄鋼メーカーですが、1992年6月に破産し売り出しにでたときに、従業員が買収して、協同組合になりました。現在ではカナダ最大の労働者協同組合と成っています。
  ハリファックスからケントビルの間約100キロを通勤する人のために、キングス通勤協同組合が毎日バス旅客輸送のサービスをしています。
 木が豊富なカナダには大工協同組合があります。またモントリオールでは印刷会社で大量解雇に直面して労働者協同組合に転換したケースもあります。家庭介護や保育の事業で女性労働者協同組合があこちにできています。これは社会や共同体のニーズに応えたいわば社会的協同組合といえます。 
ノバスコチア地方には約100の労働者協同組合があります。いずれも小規模なものです。魚の養殖、家具、森林、小売業、温室栽培、建設、ゴミ運搬などの業種があります。その平均的な労働者協同組合像は平均組合員数4人、もっとも多い組合員を抱える協同組合で17人です。
 たとば、1988に設立されたある鱒魚養殖協同組合を例にとると、組合員数は5人で、そのうち3人は労働者、一人は郡自治体経済発展局(CED)、そしてもう一人は民間企業です。つまり、法人も組合員になっている混合型の協同組合です。政府・自治体の地域政策による支援と資金調達の問題をこのような方法で克服しているといえます。
 この協同組合は、政府の養殖場を労働者が買収する形でスタートしました。当初は、給料遅配などで苦しみましたが、遺伝子テクノロジーを導入することで5年で、鱒の体重を倍増することに成功しました。しかし、魚市場は依然として厳しい競争下にあります。養殖は通常4年サイクルとなっていますが、よい遺伝子卵の確保が重要であり交配、養殖による病気発生予防はコンピュータによって決定管理しています。
 自治体当局は、協同組合の定款づくりや組合員教育を積極的に支援する建て前ですが、実際は手続きの煩雑、長期化が問題になってるようです。資金の調達方法は、自己出資が中心ですが、そのほかには、自治体、銀行、労働組合などからの貸付を期待しています。しかし、この協同組合の場合、銀行などが自分たちを非営利組織で、変わり者がやっていると思ってあまり貸付に乗り気でないので困っているという状況も生まれています。一般に、外部資金を積極的に導入したいと考えている労働者協同組合は全体の3分の1位のようです。多くの労働者協同組合は、地方自治体やNGOなどは労働者協同組合に対して無理解だと考えて、また外部の干渉を受けずになによりも自主的で公平な内部運営を確保したいという気持ちが強いようです。

                           


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